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「見えない難病」SLEと働く|女性に多い原因不明の病気と、仕事・治療の両立戦略

この記事の内容
1. はじめに|「見えない難病」SLEがキャリアにもたらす壁

問題提起: 全身性エリテマトーデス(SLE)は、「つらさが外見から分かりにくい」ため、職場での理解を得るのが非常に難しく、これが離職につながりやすい深刻な現状があります。SLEは膠原病の一種で、自己免疫疾患であり、後天性かつ原因不明の難病に指定されています。症状は日によって、あるいは時間帯によって大きく変動する「波」が特徴です。
記事の結論: この見えない難病と共にキャリアを継続するためには、SLEの特性を正しく理解し、「過労を避けるための戦略的かつ柔軟な合理的配慮」こそが、長期就労の鍵となります。
この配慮は、単なる優遇ではなく、社員の能力を最大限に引き出すための土台となるのです。
2. SLEの基礎知識:誰に、なぜ起こるのか?
全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus: SLE)は、その難解な名称から誤解されがちですが、適切に理解することが、働く社員への支援の第一歩です。
SLEの主な原因と発症傾向
SLEは、自己免疫疾患の中でも代表的な難病の一つです。
- 原因と発症: SLEは後天性であり、その根本的な原因は不明です。しかし、遺伝的要因と環境要因(紫外線、ウイルス感染、過度なストレス、特定の薬剤など)が複合的に関与し、免疫システムが暴走することで発症すると考えられています。つまり、発症を完全に予防する明確な方法はいまだ確立されていません。
- 性別・年齢: 発症には明らかな偏りがあり、患者の約9割が女性であり、特に20代~40代という働き盛りの世代に発症のピークが見られます。この事実は、企業側が女性社員のキャリア継続支援を考える上で、特に重要です。
症状の多様性:「全身性」が意味するもの
SLEの最大の特徴は、病名にある「全身性」が示す通り、症状が体中のあらゆる臓器に及び、その症状に激しい「波」があることです。
- 「症状の多様性」: 症状は、皮膚(紅斑)、関節(痛みや腫れ)、そして腎臓、肺、脳といった内臓にも及びます。ある日は皮膚の症状が強く、別の日には強い関節痛で起き上がれないなど、症状が移動したり、日によって重さが違ったりします。
- 「症状に波がある」ことの深刻さ: 「昨日と今日で体調が劇的に違う」というこの「波」こそが、就労において最大の壁となります。外見が元気な日があるため、「やる気を出せばできるはず」という誤解を生みやすい一方、突然の強い倦怠感や脳機能の低下(集中力・記憶力の低下)に見舞われることがあります。企業は、この見えない「波」を前提とした、柔軟な勤務体制を構築する必要があります。
3. 就労への影響:「体調の波」と「疲労」のリアル(当事者インタビュー)

全身性エリテマトーデス(SLE)を持つ当事者は、外見からは分からない「見えない疲労」と闘いながら仕事を続けています。
当事者の声:仕事中に感じる「見えない疲労」
インタビュアー: 外見は元気に見える日が多いSLEですが、仕事中に感じる「見えない疲労」とはどのようなものですか?
Aさんの声: 「SLEの一番つらいところは、強い倦怠感が急に襲ってくることです。外見は元気に見えても、内側では常に慢性的な炎症が起きています。この疲労は、睡眠や通常の休憩だけでは回復しません。集中力の糸がプツンと切れたり、突然関節が痛み出したりと、『頑張りたいのに体が動かない』という無力感との闘いです。」
職場で生まれる誤解とSOSのサイン
SLEの「症状の波」は、職場で深刻な誤解を生み、当事者をさらに追い詰めます。
- 課題: 「今日は調子が悪い」と言い出しにくいため、本人は「サボり」と誤解されることを恐れて無理をしてしまいがちです。
- 内容: 体調不良を隠して働き続けた結果、症状が急激に悪化し、結果的に長期休職に至った経験を持つ当事者は少なくありません。この「自己否定の心理」と「職場の無理解」が、病状悪化の悪循環を生んでいます。
- 企業の視点: 企業側がこのSOSのサイン(例:急に発言が減る、遅刻が増える)を「体調の波」として理解し、休むことを促す配慮こそが、再発を防ぐための生命線となります。
4. 企業に求める合理的配慮:リスクマネジメントとしての対応
全身性エリテマトーデス(SLE)を持つ社員への合理的配慮は、単なる善意ではなく、社員の体調悪化による休職・離職という最大のリスクを未然に防ぐための、重要な経営戦略です。
必須の配慮1:疲労を蓄積させない「時間調整」
SLEの特性である「体調の波」と「強い倦怠感」に対応するためには、時間の柔軟性が最も有効な武器となります。
- 通勤ストレスの回避(フレキシブルな出勤): フレックスタイム制度や時差出勤を柔軟に適用することが、症状の悪化を防ぐ最も重要な配慮です。朝の満員電車での人混みや騒音は、SLE患者にとって大きなストレスとなり、業務開始前に体力を消耗させます。出勤時間を1時間遅らせるだけで、この「業務開始前の疲労」を大幅に軽減できます。
- 残業の原則禁止: 残業の制限は、症状の悪化を防ぐための生命線です。SLEの治療薬(ステロイドなど)は、服用によって疲労がたまりやすい状態を作り出します。納期前の追い込みによる残業は、再発のトリガー(引き金)となり得るため、管理職は、残業を避けられるよう業務量を調整する責任があります。
必須の配慮2:「休息環境」と「情報保障」
休息環境の確保は、午後の生産性維持に直結します。
- 良質な休息環境の確保: SLEの強い倦怠感や関節の痛みは、席に座ったままでは回復できません。仮眠スペース(横になれる場所)の確保(例:保健室、空き会議室に簡易ベッドやリクライニングチェアの設置)は、午後の業務の生産性回復に直結します。15分程度の短い仮眠でも、脳と体への血流を回復させる効果があります。
- 通院・治療のための特別休暇: SLEは慢性疾患であり、定期的な通院や、急な症状悪化による治療が不可欠です。年次有給休暇とは別の「病気休暇制度」や「積立有給制度」を提供することで、社員は有給を使い切る不安なく治療に専念できます。これは、「会社が治療の継続を理解している」という強いメッセージとなり、社員の企業へのロイヤリティを高めます。
5. 障害者手帳とキャリアの選択

SLEという難病は、その進行度によって、公的支援の有無や就労のあり方が大きく変わります。手帳の取得基準を知り、戦略的に自己管理を行うことが、キャリアの継続を支えます。
SLEと障害者手帳の関連性
SLEの診断を受けただけでは、原則として障害者手帳(身体障害者手帳)の交付対象とはなりません。手帳は、病気そのものの診断名ではなく、病気が引き起こした「永続的な機能障害の程度」によって判断されます。
- 交付対象となる条件: SLEは全身の臓器を攻撃する自己免疫疾患であるため、病気の進行により特定の臓器に重度の機能障害が残った場合に交付対象となります。
- 腎機能障害: 腎炎が進行し、腎機能が著しく低下し、透析が必要になった場合。
- 関節機能障害: 関節炎が進行し、関節の変形や可動域が制限され、日常生活や動作に大きな支障が出た場合。
- 呼吸器機能障害: 肺が線維化するなど、呼吸機能に重度の制限が生じた場合。
安定就労のための自己管理戦略
手帳の有無にかかわらず、SLEを持つ社員の長期就労を可能にするのは、「症状の波」を制御する自己管理能力です。
- セルフモニタリングの重要性: 自身の症状の波を客観的に記録(セルフモニタリング)し、悪化する前に上司に相談する主体的な情報開示が最も重要です。「体温や疲労度、睡眠時間」を記録し、「倦怠感が3日続いたら業務量を減らす」といった具体的な自己対処ルールを確立することが、再燃(症状の再発・悪化)を防ぎます。
- 「休む」を戦略化: 症状の「波」は予測困難なため、「体調の良し悪し」を感情論ではなく、「今日は8割の力で作業します」といった具体的なペースに変換して上司に伝えるノウハウが必要です。これにより、企業側も安心して業務調整を行うことができます。
6. まとめ|SLEへの理解が、企業の信頼を高める
全身性エリテマトーデス(SLE)という「見えない難病」を抱える社員の支援は、単なる法令遵守ではありません。それは、企業の「リスクマネジメント」と「優秀な人材への投資」に直結する戦略です。
記事の要約:柔軟な配慮が長期定着の鍵
SLEは、「症状の波」があるため、従来の固定的な勤務体系では、社員の能力を発揮させられず、再燃(再発・悪化)リスクを高めてしまいます。しかし、本稿で解説した通り、適切な配慮と理解があれば、長期就労は十分に可能です。
読者へのメッセージ:未来の成長への賢明な投資
企業の人事・管理職の皆様へ
- 「見えない困難」を理解する投資: 社員の「強い倦怠感」や「午前の不調」といった見えない困難を、「サボり」と誤解せず、医学的な特性として理解してください。この理解こそが、社員の企業へのロイヤリティ(信頼)を高める最大の要因となります。
- 柔軟な働き方を提案する勇気: フレックスタイム、残業制限、そして仮眠スペースの確保といった柔軟な働き方を積極的に提案してください。これは、コストではなく、社員の能力を最大限に引き出し、突然の休職・離職という巨大なリスクを防ぐ、最も賢明な投資です。
SLEへの理解と柔軟な対応は、優秀な人材の確保と定着につながる、未来の成長への確かな一歩となります。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







