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【リスク徹底解説】障害者手帳の優遇は?バイク・自転車通勤で知っておくべき企業のルール

この記事の内容
1. はじめに|通勤手段の選択は「合理的配慮」である
障害特性により、満員電車などの公共交通機関の利用が困難な社員が多い現状があります。通勤時の疲労やストレスは、日中の業務効率を著しく下げ、結果的に離職につながる最大の要因となり得ます。
問題提起: 通勤手段の選択は、単なる個人の都合ではなく、長期的な定着率と体調管理に大きく影響する企業の重要課題です。
記事の結論: 自動車、バイク、自転車といった多様な通勤手段は、個別の状況に応じた合理的配慮であり、企業はリスク管理と社員の利便性を両立させるためのルールを整備すべきです。
2. なぜ「公共交通機関以外」の通勤が必要なのか?

公共交通機関の利用は一般的ですが、障害を持つ社員にとって、それは単なる移動手段ではなく、業務の生産性を削る「バリア」となり得ます。企業は、通勤の困難さを「個人の都合」ではなく、「長期就労を阻む要因」として捉える必要があります。
課題:移動困難者が直面する物理的・精神的負担
公共交通機関の利用は、障害特性を持つ社員の心身に深刻な負担を与えます。
- 身体的な疲労蓄積: 身体障害(下肢機能障害、内部障害など)を持つ方にとって、ラッシュ時の長時間の立ちっぱなし、駅構内の階段やエレベーター待ち、そして移動機器(車いすなど)の操作は、業務開始前の「見えない疲労」となります。この疲労が午後の生産性を著しく低下させる隠れたコストとなります。
- 精神障害によるパニックリスク: 精神障害(パニック障害、広場恐怖症など)を持つ方にとって、満員電車の密閉された空間や予期せぬ遅延は、極度の不安やパニック発作の引き金(トリガー)となります。これにより、安定した出勤自体が難しくなります。
- 聴覚障害による緊急時の情報不足: 聴覚障害を持つ方にとって、運行情報や緊急時の警報、駅員からの指示といった重要な聴覚情報が入ってこないことが大きなリスクとなります。これは「安全配慮義務」の観点から見ても、企業が無視できない課題です。
3. 自動車・原付・バイク通勤のルールと現実
公共交通機関の利用が難しい障害を持つ方にとって、自動車やバイクでの通勤は理想的ですが、企業側はリスク管理の観点から慎重な判断を下します。
企業側の判断基準:なぜ企業は「バイク・原付」に慎重なのか?
自動車通勤が許可されていても、バイクや原付(原動機付自転車)の通勤は不許可となるケースが多いのが現状です。これは、企業が負う安全配慮義務に関わるリスクが大きいためです。
- 危険性が高い: バイクや原付は、自動車に比べて事故率が高く、怪我の程度が重くなる傾向があります。企業は通勤途上の事故リスク(労災リスク)を懸念し、従業員の安全を最優先するために禁止する判断を下します。
- インフラの未整備: 駐輪場の整備がない、あるいは屋外でセキュリティに問題があるといった理由から、盗難や破損のリスクも考慮されます。企業は、自転車や自動車用の駐車場しか想定していない場合が多いです(企業の判断が優先)。
障害者手帳の優遇措置の有無
自動車の購入時には大きな税制優遇がありますが、バイクや原付にはその優遇が適用されない現実があります。
- 自動車税・環境性能割(旧・取得税)は免除・減免の対象となるため、車の購入費用や維持費は軽減されます。
- バイク・原付の購入・維持費に関しては、優遇が少ないという現実があります。
- 軽自動車税や軽自動車税(種別割)についても、特定の身体障害(主に下肢・体幹・内部)を対象に減免制度がありますが、自動車ほどの広範な優遇ではありません。
- 排気量が小さく、元々の税負担が軽いため、公的な支援制度が設けられていないケースが多いです。
結論: 自動車の優遇制度を期待してバイクや原付を購入する前に、お住まいの自治体と企業の通勤規定を必ず確認する必要があります。
4. 自転車通勤の是非と、企業が整備すべき3つの条件

自宅から就業場所が近い障害を持つ社員にとって、自転車通勤は公共交通機関の負担を避けるための合理的な選択肢です。しかし、企業側は「安全管理」の観点から慎重な判断を下します。
自転車通勤は許可されるのか?(一般的な企業の傾向)
企業が自転車通勤に消極的になるのは、リスク管理が最大の理由です。
- 内容: 企業は原則としてリスク(事故、通勤災害、保険)を理由に消極的ですが、特に近年では、社員の健康増進や通勤の負担軽減(合理的配慮)のため、申請・許可制で認めるケースが増えています。しかし、企業は駐輪場がない、あるいは事故時のリスク対応が面倒という理由から、許可せり得ない場合もあります。
- 法的側面: 許可する際、企業は「通勤手当を支給しない」という判断をすることが多いですが、通勤災害(労災)は適用されるため、事故時の対応ルールを明確にしておく必要があります。
企業が「許可」するために必要な3つの条件
企業が自転車通勤を許可し、かつリスクを最小限に抑えるためには、以下の3つの条件整備が不可欠です。
- 条件1:駐輪場の確保と安全な場所の提供: 盗難防止のため、屋根付きの駐輪場や施錠可能なスペースを確保することが重要です。社員に安心して通勤手段を選んでもらうための、最低限の物理的配慮です。
- 条件2:保険加入の義務化: TSマーク保険や個人賠償責任保険への加入を社員に義務付けましょう。自転車事故は高額な賠償責任を負う可能性があるため、企業側は社員に対し、保険加入の証明書の提出を求めるべきです。
- 条件3:企業側のリスク開示とルール: 企業は、事故時の対応ルール(労災申請の流れ、警察への連絡義務など)を明確にした「自転車通勤規定」を作成し、社員に周知することが大切です。これにより、事故時の混乱を防ぎ、社員の安全管理意識を高めます。
5. 制度の活用:障害者手帳がもたらす経済的なメリット
障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳)は、単に障害を証明するだけでなく、自動車の購入や維持に関わる経済的負担を大幅に軽減するための公的な「優遇パスポート」となります。
自動車税・軽自動車税の減免
この制度は、自動車を保有する上で最も大きな経済的メリットの一つです。
- 内容: 障害者手帳の等級や障害の内容に応じて、自動車税(都道府県税)や軽自動車税(市町村税)が免除または減免される仕組みです。この制度は、毎年課税される維持費の負担を直接的に軽減します。
- 適用条件: 原則として、障害者ご本人または生計を同一にするご家族が所有し、障害者ご本人が運転または移動のために使用する車両が一台限り対象となります。
- 注意点: 免除される税額の上限は自治体によって異なり、また、所得制限が設けられている場合もあります。申請は、お住まいの地域を管轄する税事務所で行う必要があります。
改造費用の補助(障害福祉サービス) 🔧
身体障害を持つ方が安全に運転するために必要な車両の改造費用についても、公的な補助制度が活用できます。
- 内容: 身体障害者が運転しやすいよう、ハンドルやブレーキ、アクセルなどを手動で操作できる装置に改造する際など、自動車を改造する際の費用補助が、障害福祉サービス(日常生活用具給付等事業など)として受けられます。
- 補助の仕組み: この制度は、市町村が窓口となり、費用の一部(原則1割負担)を補助します。例えば、手動運転装置の取り付けや、座席の回転・昇降装置の設置などが対象となります。
- 重要性: この補助金を活用することで、市販の自動車を個別の障害特性に合わせた安全な仕様にカスタマイズすることが、費用の心配なく可能となります。
6. 企業と当事者が協議すべき「通勤戦略」

通勤手段の選択は、単なる個人の利便性の問題ではなく、社員の安全配慮義務と企業の事業リスクに関わる重大な戦略です。企業と当事者が、「リスクの軽減」という共通の目標を持って協議することが不可欠です。
当事者(社員)の責任:リスクの「見える化」と自己防衛
企業に通勤手段の変更を求める際、社員は「自己の安全管理」を徹底し、その努力を企業に示す必要があります。これが、企業のリスク不安を解消する最大の武器となります。
- 「自己の安全管理」の徹底: 企業に通勤手段の変更を求める際、「自己の安全管理」と「保険加入」を徹底していることを示し、企業のリスクを軽減する姿勢が重要です。
- 保険加入の証明: 特に自転車やバイク通勤を希望する場合、TSマーク保険や個人賠償責任保険に加入していることを証明し、「万が一の事故に対する責任を自分で負う」というプロ意識を示すことが不可欠です。
- 体調管理の報告: 身体的な制約を持つ社員は、通勤が困難な日のためにフレックスタイム制度や在宅勤務を活用するルールを事前に決めておき、その報告を徹底することで、企業に「自己管理ができている」という信頼を与えます。
人事の役割:リスクヘッジとしての制度設計
人事部門は、柔軟な通勤手段を「コスト」ではなく「戦略的投資」として捉え直す必要があります。
- 戦略的投資の理解: 柔軟な通勤手段を許可することが、社員の疲労軽減と定着率向上に繋がる戦略的投資であることを理解する。通勤ストレスが減ることで、社員の体力が業務に集中し、午後の生産性が向上するという、明確なビジネスメリットがあります。
- 「通勤ルールの明確化」: 企業は、バイク・自転車通勤を許可する場合、駐輪場の確保、保険加入の義務付け、事故時の報告ルートを明確にした「通勤規定」を整備する責任があります。これにより、事故時の混乱を防ぎ、企業側の安全配慮義務を履行する仕組みを構築できます。
7. まとめ|「疲れない通勤」への投資が未来を創る
記事の要約:バリア解消は「生産性」への戦略的投資
多様な通勤手段の選択は、障害者社員の体調管理と長期定着に不可欠な合理的配慮です。本稿を通じて、通勤の困難さ(ラッシュ時の疲労、物理的バリア)が、いかに業務開始前の「見えない疲労」となり、企業の生産性を低下させているかを再確認しました。企業がルールとリスクヘッジを整備することで、この課題は解決できます。
読者へのメッセージ:企業と当事者が共に負う「未来への責任」
人事・現場の管理職の皆様へ
企業は、通勤のバリアを解消する投資を、「コスト」ではなく「社員の能力を引き出すための戦略」と捉え直してください。在宅勤務、フレックスタイムの活用、そして駐輪場の確保といった「仕組み」への投資こそが、離職を防ぎ、優秀な人材の定着を保証します。
障害を持つ当事者の皆様へ
企業に配慮を求める際は、「自己の安全管理」と「保険加入」を徹底していることを示し、安全への責任を果たす姿勢を持つことが不可欠です。
企業は「通勤の壁」を壊す投資を、当事者は「安全への責任」を果たす姿勢を持つことが、真の共生につながるのです。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







