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【働く親のリアル】障害を持つ社員が語る、育児・介護と仕事を両立させる「柔軟な配慮」

この記事の内容
はじめに|「育児・介護」と「障害」が重なる壁

障害を持つ社員にとって、育児や介護は健常者以上の身体的・精神的負担となる「二重の壁」です。体調の波や通院がある中で、さらに家族のケアが必要になると、「仕事を辞めるしかない」と追い詰められる方も少なくありません。
この記事の結論は、企業側の「法的な遵守」と「個別の合理的配慮」の組み合わせこそが、社員の長期定着を保証するということです。
今回は、聴覚障害を持つCさん(仮名)に、そのリアルな両立術を伺いました。
- インタビュー対象者(仮名): 氏名(仮名:Cさん)、障害(聴覚障害)、状況(育児中の社員、または親の介護中の社員)。
当事者の課題|育児・介護で直面した「見えない困難」
身体・聴覚障害が育児・介護にもたらす具体的な課題
インタビュアー: 育児や介護で、障害特性ならではの困難はありましたか?
Cさんの声(育児): 「子どもが小さかった頃、一番怖かったのは夜泣きです。聴覚障害のため、夜泣きや嘔吐といった子どものSOSの音にすぐ気づけない不安が常にありました。また、保育園や病院からの急な電話連絡も難しく、子の看護休暇を取得・利用する際に、常に情報伝達の壁を感じていました。」
Cさんの声(介護): 「もし身体障害の方が要介護者を抱える場合、移動や入浴補助における身体的負担は、健常者の比ではありません。介護は体力勝負のため、仕事と介護の両立は非常に困難です。」
制度の利用への心理的ハードル
インタビュアー: 育児・介護の制度を使うことに、躊躇や葛藤はありましたか?
Cさんの声:
「正直なところ、『配慮を求めすぎると、もしかしたら自分の評価に響いてしまうのではないか』という不安が常に頭をよぎっていました。制度自体は存在していても、『それを使うことで、チームの皆に迷惑をかけてしまうのではないか』という葛藤も非常に大きかったです。特に、上司や同僚が私の体調や家庭の事情について、どこまで深く理解してくれているのかが不透明だと感じていたため、実際に制度を利用することへの心理的なハードルが非常に高く、なかなか一歩を踏み出せないでいました。周囲にどう受け止められるかを考えると、無理をしてでも頑張ってしまう自分がいました。」
企業が実践した「柔軟な合理的配慮」

制度の「柔軟な適用」と「情報保障」
インタビュアー: 会社からの配慮で、特に助かった事例を教えてください。
Cさんの声(配慮事例1:情報保障): 「聴覚障害で電話での連絡が難しいという課題に対し、会社は子の看護休暇や急な欠勤連絡をチャットやメールに統一してくれました。これにより、病院からの病状連絡を家族が代行してくれるなど、情報伝達の不安が解消されました。」
Cさんの声(配慮事例2:短時間勤務): 「介護による疲労を考慮し、通院時間だけでなく介護のための短時間勤務を柔軟に認めてもらいました。『休む時間』を確保してもらったことが、長期定着に繋がっています。」
福祉サービスとの「併用」を促す支援
インタビュアー: 福祉サービスとの併用について、会社からのサポートはありましたか?
企業側の工夫: 「育児・介護休業制度だけでなく、行政の居宅介護サービスやファミリーサポートの活用を促す情報提供を会社が行いました。企業の人事や産業医が、仕事と家庭以外の『第三のサポート』があることを教えることで、社員の不安を和らげることができます。」
長期定着を支える「企業文化」と「制度」の整備
法的義務の再確認と企業へのメリット
育児・介護休業法は、性別や雇用形態に関わらず、全ての社員に等しく適用される重要な法的義務です。企業は、この法律が単なる義務ではなく、社員のエンゲージメント向上とビジネス成長を促進する戦略的な機会と捉えるべきです。
詳細:
- 全社員への適用: 育児・介護休業法は、正社員だけでなく、契約社員、パートタイマーなど、全ての雇用形態の社員に適用されます。企業は、この法律の対象となる社員の範囲を正確に理解し、全ての社員が公平に制度を利用できるような体制を整える必要があります。特に、非正規雇用の社員に対しても、制度利用に関する十分な情報提供とサポートを行うことが重要です。
- 柔軟な働き方の導入: 育児や介護は、社員にとって予期せぬ、または継続的な時間的制約をもたらす可能性があります。このような状況において、企業が柔軟な勤務時間制度(短時間勤務、フレックスタイム制など)や在宅勤務制度などを積極的に導入することは、社員が仕事と家庭生活を両立させる上で不可欠です。柔軟な働き方は、社員のストレス軽減に繋がり、結果として仕事への集中力や生産性の向上に貢献します。
- 社員のロイヤリティ(忠誠心)向上と離職率低下: 企業が育児・介護休業制度を積極的に推進し、社員が安心して利用できる環境を整備することは、社員の企業への信頼感とロイヤリティを著しく高めます。社員は、企業が自身のライフイベントを尊重し、サポートしてくれると感じることで、企業への帰属意識を強めます。これにより、優秀な人材の定着に繋がり、結果的に離職率の低下、採用コストの削減という具体的なビジネスメリットが生まれます。特に、育児や介護を理由とした離職は、企業にとって貴重な知識や経験の損失に直結するため、その防止は極めて重要です。
- 企業イメージの向上: 育児・介護休業制度の積極的な導入と運用は、企業の社会的責任(CSR)を果たすことにも繋がり、企業イメージを向上させます。現代の求職者は、給与や仕事内容だけでなく、ワークライフバランスを重視する傾向にあります。育児・介護に理解のある企業は、優れた人材を惹きつけ、競争力を高めることができます。
職場の理解を深める「啓発活動」
育児・介護休業制度が形骸化することなく、実効性のあるものとなるためには、社員一人ひとりが制度に対する正しい理解を持ち、特に管理職層が制度の重要性を認識することが不可欠です。職場全体で「育児・介護休業は当然の権利である」という意識を浸透させるための啓発活動は、制度の利用をためらわせない企業文化を醸成する上で極めて重要です。
詳細:
- 管理職向け研修の実施: 管理職は、部下の育児・介護休業に関する相談を受ける最初の窓口であり、制度利用の承認者となることが多いため、その理解度は制度の成功に直結します。
- 研修内容: 研修では、育児・介護休業法の具体的な内容(取得条件、期間、給付金など)に加え、制度利用がもたらす企業へのメリット(離職率低下、生産性向上など)を強調します。
- 意識改革: 「育児・介護休業は、社員の個人的な都合ではなく、企業全体でサポートすべき社会的な責務である」という意識を浸透させます。管理職が、制度利用を「迷惑なこと」と捉えるのではなく、「社員の成長を支援し、企業の持続的な発展に貢献するもの」と前向きに捉えるよう促します。
- ハラスメント防止: 制度利用を理由とした不利益な取り扱い(降格、減給、望まない部署への異動など)やハラスメント(マタハラ、パタハラ、ケアハラなど)の防止策についても徹底的に指導します。管理職は、ハラスメントの定義を理解し、自身の言動がそれに該当しないか常に意識するとともに、ハラスメントが発生した場合の適切な対応方法を学びます。
- トップからのメッセージ発信: 経営層や役員が、育児・介護休業制度の重要性について定期的に社内メッセージを発信することは、全社員の意識向上に大きな影響を与えます。トップが自ら制度利用を推奨し、支援する姿勢を示すことで、社員は安心して制度を利用できると感じます。
- ロールモデルの提示: 実際に育児・介護休業制度を利用した社員の体験談を共有したり、管理職が率先して制度を利用したりすることは、他の社員にとって具体的なイメージを提供し、制度利用への心理的ハードルを下げます。特に、男性社員が育児休業を取得するケースを積極的に紹介することは、性別に関わらず制度利用が当たり前であるという企業文化を醸成する上で非常に効果的です。
- 制度利用者の公的サポート: 制度を利用する社員を孤立させないよう、職場全体で公にサポートする文化を構築します。
- 情報共有: 制度利用中や復帰後の社員に対して、業務に関する情報共有を継続的に行い、スムーズな職場復帰を支援します。
- 業務分担の見直し: 制度利用者の業務を周囲の社員で適切に分担し、過度な負担が生じないよう配慮します。この際、業務分担に関する透明性を確保し、他の社員にも理解と協力を求めることが重要です。
- メンター制度の導入: 制度利用者や復帰後の社員に対して、経験豊富な先輩社員がメンターとしてサポートする制度を導入することも有効です。これにより、精神的なサポートや実務的なアドバイスを受けることができ、安心感に繋がります。
これらの啓発活動と具体的なサポート体制を整えることで、企業は育児・介護休業制度を単なる義務ではなく、社員一人ひとりが最大限の能力を発揮できる、活力ある職場環境を築き上げることが可能になります。
まとめ|「両立できる」という安心感をキャリアに

障害を持つ社員が育児・介護と仕事を両立させるためには、企業側の柔軟な対応と、多様な福祉サービスの戦略的な併用が不可欠です。時間や場所に縛られない働き方の導入、例えばテレワークやフレックスタイム制、短時間勤務制度の拡充は、社員が自身の状況に合わせて働き方を調整できる環境を提供します。また、育児や介護による急な休みにも対応できるよう、代替要員の確保や業務の標準化を進めることも重要です。
企業は、単に制度を設けるだけでなく、実際に利用しやすい雰囲気作りにも注力すべきです。上司や同僚が育児・介護への理解を深め、ハラスメントのない職場環境を整備することが、社員が安心して制度を利用できる土台となります。さらに、育児・介護休業からの復職支援として、キャリアカウンセリングや研修プログラムを提供することも、社員の不安軽減に繋がり、スムーズな職場復帰を促します。
福祉サービスとの併用においては、公的な支援だけでなく、民間の多様なサービスも積極的に活用することが有効です。例えば、ベビーシッターや家事代行サービス、送迎サービス、通所介護(デイサービス)などを組み合わせることで、育児・介護に伴う負担を軽減し、仕事に集中できる時間を確保できます。企業がこれらのサービス利用に対する情報提供や、一部費用補助を行うことも、社員にとって大きな支援となります。
読者へのメッセージ:
障害や家族の状況によって、自身のキャリアを諦める必要はありません。利用できる制度や企業の配慮を戦略的に活用することで、「働き続けられる」という安心感をキャリアの揺るぎない土台とすることができます。多様な働き方を模索し、利用可能な福祉サービスを最大限に活用することで、仕事と育児・介護を両立させ、自分らしいキャリアを築いていくことが可能です。企業との対話を通じて、個々の状況に合わせた柔軟な働き方を実現し、安心して長く活躍できる未来を共に創っていきましょう。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







