2025/10/23
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【心の壁を壊す】事故・病気で障害者になった私が、事務職へのキャリアチェンジで得た「心の安定」

はじめに|「動」から「静」へ──キャリアの壁に直面する時

突然の病気でキャリアが一変した方が抱える、「外で活躍していた過去」と「内勤になる現実」とのギャップ、そして「自分はもう戦力になれないのではないか」という不安。この喪失感は、後天性障害を持つ方に共通する心の壁です。

この記事の結論は、キャリアチェンジは、能力の放棄ではなく、「新しい自分」の強みを最大限に活かすための戦略的な選択であるということです。

今回は、30代後半の女性で、リウマチ(難病)により元営業職から事務職へ転身したAさん(仮名)のリアルな声を通じて、その再起のプロセスを徹底解説します。


診断直後の「喪失感」とキャリアへの葛藤

過去の自分とのギャップ:「動」のキャリアの喪失

インタビュアー: 外回り中心の営業職を続けられないと悟った時、どのような喪失感を抱えましたか?

Aさんの声: 「外回りや人との交流が中心だった営業職を続けられないと悟った際の、深い喪失感自己肯定感の低下は大きかったです。常に動き回っていた『動』の自分が、『静』のキャリアを選ばなければならない現実に、『自分はもう社会の戦力になれないのではないか』とまで思いました。」

「事務職」への抵抗感と決意

インタビュアー: なぜ、事務職へのキャリアチェンジを決意したのですか?

Aさんの声: 「事務職への抵抗感はありました。『座って細かな作業をすること』は、活発だった自分には向いていないと思っていたからです。しかし、病気による長時間の立ち仕事や外回りの継続は不可能だと悟り、『今の体力で、長く安定して働ける仕事は何か』と逆算した結果、自分の特性を活かしやすい事務職を選びました。これは、『キャリアの放棄』ではなく『キャリアの継続』のための戦略的な決断でした。」


「ブランク」を乗り越えるためのスキルチェンジ戦略

PCスキルの習得が「再起の武器」になった理由

インタビュアー: 体力が限られた中で、どう再就職の準備をしましたか?

Aさんの声: 「営業を続けられないと分かったとき、『私には何が残っているか』を徹底的に考えました。体力が限られた中で、PCスキル(Excel、Word)が能力を証明するための唯一の武器になると気づきました。特に、営業職で培ったデータ管理の経験を活かし、Excel VBAやマクロの独学に集中しました。事務職へ進む上で、『私は単なる作業者ではなく、AI時代に業務効率化に貢献できる人材だ』とアピールするための最強の武器となりました。このスキルがあれば、デスクワークでも戦力になれるという自信に繋がりました。」

学習の葛藤と克服

インタビュアー: 慣れないPC作業や学習中の集中力の維持など、苦労した点はありますか?

Aさんの声: 「慣れないPC作業や学習中の集中力の維持など、苦労しました。特に病気の後遺症で、以前のように長時間集中することが難しくなっていたからです。しかし、就労移行支援事業所に約1年6ヶ月通所し、スタッフと相談しながら、『疲労を溜めないための学習時間』を確立しました。具体的には、『午前中は30分単位で休憩を取る』といった自己管理のルールです。独学で得たスキルと、支援機関のサポートが、ブランク期間を埋め、『病気を理由に諦めなくていい』という確かな自信へと繋がりました。」


新しい働き方:「静」のキャリアがもたらした安定

事務職で得られた「心の安定」

インタビュアー: 事務職という「静」のキャリアに転じて、どのような安定を得られましたか?

Aさんの声: 「通勤負担の軽減や、外回りのプレッシャーからの解放が、いかに精神的な安定につながったかを実感しています。特に、体調の波を考慮したフレックスタイム制を利用できるようになったことで、以前のような『無理をして出社する』というストレスから解放されました。」

障害特性を活かす仕事術:Aさんの場合

インタビュアー: 以前の営業経験は、今の事務職に活かされていますか?

Aさんの声: 「はい、大いに活かされています。営業時代に培ったコミュニケーション能力や計画性は、現在の事務職における『業務改善』や『マニュアル作成』に直結しています。

具体的には、営業としてお客様のニーズをヒアリングし、課題解決策を提案する中で磨かれたコミュニケーション能力は、部署内外の関係者との円滑な連携に役立っています。例えば、新しい業務フローを導入する際や、既存のプロセスに変更を加える際には、関係部署の意見を丁寧に聞き取り、それぞれの立場を理解した上で合意形成を図ることが不可欠です。この点において、営業時代に培った傾聴力や交渉力が大いに役立っています。

また、目標達成のために日々の活動を計画し、実行する中で養われた計画性は、事務職におけるプロジェクト管理や期限管理に不可欠です。例えば、マニュアル作成のような複数の工程と関係者が関わる業務では、全体のスケジュールを細分化し、各タスクの進捗を管理する能力が求められます。

特に、現在の業務で私が最も貢献できていると感じるのは、業務のボトルネックを見つけ、効率化を提案するという役割です。これは、営業時代に顧客の抱える問題を深く掘り下げ、最適な解決策を見つけ出すという『問題解決能力』をそのまま活かしている部分です。日々の業務を客観的に分析し、どこに無駄があるのか、どのようにすればより効率的に進められるのかを特定することで、業務全体の生産性向上に貢献しています。この一連のプロセスは、営業として顧客の隠れたニーズを引き出し、具体的な解決策を提示していた経験と全く同じ思考プロセスであると感じています。」


まとめ|過去の自分に感謝し、未来の自分を創る

後天性の障害を持つ方が、喪失感を乗り越え、新しい働き方と価値観を見つけるためのプロセスを深く掘り下げて再確認します。この道のりは、決して平坦なものではありませんが、適切な視点と戦略を持つことで、より豊かで意味のある未来を築くことが可能です。

まず、「喪失感の受容」は、このプロセスの第一歩です。突然の障害により、これまで当たり前だった能力やキャリア、社会とのつながりが失われたと感じることは自然なことです。この喪失感と向き合い、悲しみや怒り、絶望といった感情を認めることが、回復への道を拓きます。無理に前向きになろうとするのではなく、自分の感情に正直になる時間を設けることが重要です。

次に、「自己理解と再評価」が続きます。過去のキャリアや経験、そして障害によって変化した現在の自分を客観的に見つめ直すことで、新たな強みや可能性が発見できます。失われたものに焦点を当てるのではなく、残された能力や、障害を経験したからこそ得られた新しい視点、共感力といった「新しい強み」に目を向けることが肝要です。

そして、「新しい働き方と価値観の探求」です。障害の種類や程度によって、従来の働き方が困難になることもあります。しかし、現代社会には多様な働き方が存在します。リモートワーク、フレキシブルな勤務時間、専門性を活かした独立、あるいは新しい分野への挑戦など、自分に合った働き方を見つけるための情報収集と試行錯誤が必要です。また、仕事だけでなく、人生における価値観そのものを見つめ直し、「何が自分にとって本当に大切なのか」を再定義することで、精神的な安定と充実感を得ることができます。

読者へのメッセージ:

親愛なる読者の皆様へ。過去のキャリアや積み重ねてきた努力を否定する必要は全くありません。それは、今日のあなたを形作る大切な土台です。しかし、障害という大きな変化を経験した今だからこそ、新しい視点から自分を見つめ直し、「新しい強み」と「安定」に積極的に投資することが、あなたの未来を力強く創り出す鍵となります。

「新しい強み」とは、障害を乗り越える過程で培われた適応力、問題解決能力、共感力、そして新たな知識やスキルのことです。これらを意識的に伸ばし、活用することで、あなたはこれまで想像もしなかったような可能性を開拓できるでしょう。

また、「安定」とは、経済的な基盤だけでなく、精神的な安定、安心できる人間関係、そして自分らしくいられる環境を指します。これらを確保するために、例えば、再就職支援プログラムの活用、ピアサポートグループへの参加、あるいは趣味やボランティア活動を通じて新しいコミュニティに加わることなども有効です。

あなたの未来は、あなたがどのように行動し、どのように考えるかによって無限に広がります。過去の自分に感謝し、その経験を糧に、自分らしいペースで、自分らしい未来を力強く創造していきましょう。私たちは、その道のりを応援しています。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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