2025/10/15
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【知らないと損】同一労働同一賃金は障害者雇用にどう適用される?給与格差をなくす知識

はじめに|障害者雇用における「賃金格差」の現実

障害者雇用の現場では、「同じ仕事をしているはずなのに、一般社員と給与が違う」「昇進のチャンスがない」といった賃金格差不公平感が根強く残っています。これが、障害者の方のモチベーションを削ぎ、短期離職の一因となっているのが現実です。

しかし、この不公平感を解消するための明確な法律があります。それが「同一労働同一賃金」の原則です。この記事では、この原則を正しく理解し、企業がそのガイドラインを遵守することで、給与の不公平感が解消され、障害者雇用の定着率が向上することを提示します。

本稿を通じて、制度の基本、給与差が生まれる構造、そして企業が取るべき評価制度改革の具体策を知り、あなたのキャリアを拓く知識として活用してください。


同一労働同一賃金とは?制度の基本と障害者雇用への適用制度の定義と目的:不合理な待遇差の是正と公正な評価の実現

同一労働同一賃金とは、働き方改革の一環として2020年4月(中小企業は2021年4月)に施行された、パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)に基づき、「不合理な待遇差の禁止」を明確に定めた原則です。この原則は、雇用形態(正規・非正規)に関わらず、「同じ仕事内容」「同じ責任」であれば、同じ賃金・待遇を支払うべきという考え方を法律で義務付けたものです。

その最大の目的は、これまで慣習的に存在していた非正規社員に対する不合理な待遇差を是正し、すべての労働者が公正な評価と待遇を受けられる環境を実現することにあります。具体的には、基本給、賞与、各種手当(通勤手当、役職手当、精皆勤手当、住宅手当など)、福利厚生(法定外福利厚生含む)など、あらゆる待遇について、正社員と非正規社員の間に不合理な差を設けることを禁止しています。

障害者雇用への適用:賃金決定における重要な原則

この同一労働同一賃金のルールは、障害者雇用にも当然適用されます。これは、障害を持つ労働者が、その障害を理由に不当な賃金格差に直面することを防ぐための極めて重要な原則です。障害者雇用だからといって、その事実のみで賃金が低く設定されることは、法律上許されません。

しかし、ここには非常に重要なポイントがあります。賃金差が許容されるのは、「業務の差」が明確に存在する場合のみであり、「合理的配慮」の提供自体が賃金差の根拠となるわけではない、という点です。

より具体的に説明すると、以下のようになります。

  1. 「業務の差」がある場合のみ賃金差が許容される
    • 賃金差が認められるのは、実際に担当する業務の内容、量、質、責任の範囲、求められるスキルや経験などに、客観的かつ明確な差がある場合に限られます。例えば、一般の従業員がフルタイムで高度な専門業務に従事し、障害を持つ従業員が短時間で補助的な業務に従事する場合など、業務そのものの性質に明確な違いがあれば、その違いに応じた賃金差は合理的と判断されます。
    • この「業務の差」は、雇用契約書や職務記述書に具体的に明記され、実際に遂行されている業務内容と合致している必要があります。単なる職種名や部署名ではなく、具体的な職務内容、目標、評価基準によって、業務の差が客観的に説明できることが求められます。
  1. 「合理的配慮」は賃金差の根拠とはならない
    • 「合理的配慮」とは、障害者差別解消法や障害者雇用促進法に基づき、障害を持つ労働者が他の労働者と平等に働く機会を得られるよう、事業主が過重な負担とならない範囲で必要な措置を講じることを指します。例えば、勤務時間の短縮、業務内容の調整、物理的環境の整備(スロープの設置、拡大鏡の提供など)、コミュニケーション手段の変更(手話通訳の配置など)などがこれに該当します。
    • 重要なのは、合理的配慮を提供したこと自体が、賃金に差を設ける直接的な理由にはならないという点です。合理的配慮は、あくまで障害を持つ労働者がその能力を発揮し、業務を遂行するための環境を整えるためのものであり、それによって業務内容や責任の範囲に「明確な差が生じた場合」に限り、その結果として生じた業務の差に応じて賃金差が許容される、という解釈が不可欠です。
    • 例えば、合理的配慮として業務量を調整した結果、他の従業員よりも業務量が明らかに少ない、あるいは責任範囲が限定的であるといった「業務の差」が客観的に認められる場合に限り、その差に応じた賃金設定が許容されます。逆に、業務量が調整されたとしても、担当する業務の質や責任範囲が同等であれば、賃金差は不合理と判断される可能性が高いでしょう。企業は、合理的配慮と業務内容の変化、そしてそれによる賃金への影響について、明確な説明責任を負います。

「同じ仕事なのに給与が違う」が生じる構造的な理由:障害者雇用の現実

同一労働同一賃金の原則があるにもかかわらず、障害者雇用において給与の不公平感が残るのには、いくつかの構造的な理由が存在します。これらを理解することは、企業がより公平な評価制度を構築し、求職者が自身の価値を正当に評価してもらうために不可欠です。

理由1:業務内容の「限定」による賃金差

  • 内容: 障害を持つ従業員の安定就労を目指す上で、企業が業務を特定の範囲に限定したり、細分化(ジョブ・カービング)したりするケースは少なくありません。これは、障害特性に配慮し、能力を最大限に発揮してもらうための有効な手段となる一方で、結果的に業務の責任範囲や求められるスキルが一般社員と比較して狭くなることがあります。この業務内容の限定が、客観的な業務の差として認識され、賃金差を生むメカニズムとなります。重要なのは、この「限定」が適切に評価され、限定された業務内での貢献度が正当に賃金に反映されているかという点です。

理由2:評価基準の「曖昧さ」と「時間」への偏重

  • 内容: 多くの企業において、依然として従業員の評価基準が「時間(残業時間、在席時間)」に大きく偏っている現状があります。特に、障害を持つ従業員の場合、通院や体調不良による欠勤、時短勤務などの合理的配慮が「勤務時間の少なさ」としてネガティブに捉えられがちです。これにより、「成果(アウトプット)」や「業務の質」ではなく、「オフィスにいた時間の長さ」が評価の主軸となり、結果として給与の不公平感を生み出しています。本来、評価されるべきは、与えられた業務でどれだけの価値を生み出したか、という点であるはずです。

理由3:昇進・昇格の機会の不平等

  • 内容: 合理的配慮(時短勤務、通院のための休暇など)があることを理由に、企業が無意識のうちに、あるいは意図的に、障害を持つ従業員を責任あるポジションやキャリアアップに繋がる重要な業務から外してしまうケースが見られます。これにより、昇進・昇格の機会が不当に奪われ、長期的なキャリア形成における賃金格差が固定化される可能性があります。この背景には、「配慮が必要な社員に大きな責任は任せられない」という誤った認識や、合理的配慮が「足かせ」と捉えられてしまうという課題があります。

企業が取るべき評価制度改革の具体策

障害者雇用の公平性を確保し、優秀な人材の定着を図るためには、企業は評価制度の抜本的な改革に取り組む必要があります。評価軸の「脱・時間」化戦略(人事向け)

  • 内容: 評価軸を「在席時間」や「残業時間」といった投入時間ではなく、「業務の質」「難易度」「目標達成度」「会社への貢献度」といったアウトプットベースに移行することが極めて重要です。この「脱・時間」化は、障害を持つ従業員だけでなく、育児や介護と両立する全社員の公平な評価にも繋がります。具体的には、MBO(目標管理制度)やOKR(目標と主要な結果)などを導入し、個々の従業員が設定した目標に対する達成度や、具体的な業務成果を客観的に評価する仕組みを構築する必要があります。

業務の「見える化」と役割の明確化

  • 内容: 合理的配慮によって業務を限定する場合でも、その業務が会社にもたらす「貢献度」を数値や言語で明確化することが不可欠です。例えば、「データ入力業務」であれば、「月間〇件のデータを正確に処理し、営業チームの業務効率を〇%向上させた」といった具体的な貢献を評価に組み込むべきです。職務記述書(ジョブディスクリプション)を詳細に作成し、各従業員が担当する業務内容、責任範囲、期待される成果を明確にすることで、客観的な評価と、それに基づく賃金設定が可能になります。

多様な働き方を前提とした評価体系の構築

  • 内容: フレックスタイム制度やテレワーク制度など、多様な働き方を導入する企業が増える中で、評価制度もそれに対応する必要があります。場所や時間にとらわれず、成果で評価される仕組みを構築することで、障害を持つ従業員も自身の能力を最大限に発揮し、正当な評価を受けることができます。定期的な面談やフィードバックを通じて、従業員のパフォーマンスをきめ細かく把握し、キャリアパスの提示も重要です。

求職者が活用すべき「賃金交渉術」と「自己防衛」

障害を持つ求職者が不当な待遇を避け、自身の価値を正当に評価してもらうためには、積極的な情報収集と交渉術を身につけることが重要です。貢献度を武器にする交渉術

  • 内容: 採用面接では、単に「配慮が必要である」と伝えるだけでなく、「配慮があれば、〇〇という成果を出せる」「過去の経験から、〇〇の業務で貴社に貢献できる」といった形で、自身のスキルや能力、そして具体的な貢献度をセットで提示することが有効です。自身の強みや、企業にとってのメリットを明確に伝え、賃金アップや希望する待遇を獲得するための交渉材料としましょう。具体的な実績や数値を用いて説明することで、説得力が増します。

転職エージェントの活用と情報収集

  • 内容: 障害者雇用に特化した転職エージェントを積極的に活用しましょう。エージェントは、一般には求人票に明記されない「一般社員の給与水準」や「評価制度の詳細」、過去の採用実績に基づく「企業の合理的配慮への理解度」など、貴重な情報を持っています。これらの情報を事前に確認することで、より自身の希望に合った企業を選び、ミスマッチを防ぐことができます。また、複数社の求人を比較検討し、自身の市場価値を把握することも重要です。

入社前の待遇確認と書面化

  • 内容: 内定が出た際には、給与、手当、評価制度、昇進・昇格の機会、合理的配慮の内容など、すべての待遇について書面で明確に確認しましょう。口頭での約束だけでなく、雇用契約書や労働条件通知書に明記されていることを確認し、不明な点があれば必ず質問して解消しておくことが、後々のトラブルを防ぐ上で重要です。

まとめ|公平な評価が、企業と社員の未来を拓く

同一労働同一賃金の原則に基づけば、障害者雇用の給与における不公平感は解消できるはずであり、また解消されるべきものです。これは単なる法律遵守の問題にとどまらず、企業の持続的な成長と、すべての社員のウェルビーイングに直結する重要な課題です。

  • 企業へ: 公平な評価制度は、単に法律を守るだけでなく、優秀な人材の離職を防ぎ、多様な才能を惹きつけ、定着させるための「最強の戦略」であることを再認識してください。多様な視点や能力を持つ社員が活躍できる環境は、企業の競争力向上に不可欠です。透明性の高い評価基準を設け、合理的配慮を積極的に提供することで、企業はより強固な組織を構築し、社会的な信頼を高めることができます。

求職者へ: 同一労働同一賃金という制度を武器に、自身のスキルと貢献度を正当に評価してもらえる環境を積極的に選び、主体的にキャリアを築いていくよう促します。自身の権利を知り、適切な情報を収集し、自身の価値を自信を持って伝えることで、納得のいく働き方を実現できるでしょう。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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