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【警告】実雇用率2.41%の衝撃|法定雇用率2.7%時代に企業が採るべき緊急対策

この記事の内容
はじめに|迫る2.7%の壁と「実雇用率2.41%」の衝撃

法定雇用率の2.7%への引き上げが目前に迫る中、日本企業の障害者雇用を取り巻く状況は、依然として厳しい現実を突きつけています。厚生労働省が発表した「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」によると、企業全体の実雇用率は2.41%に留まり、過半数の企業が法定雇用率を達成できていないという現状が明らかになりました。これは、実に50.8%もの企業が未達成であり、特に中小企業においてその傾向が顕著です。
このギャップは、単に障害者雇用促進法に基づく罰金(納付金)リスクに留まるものではありません。これは、企業の「法令遵守意識」と「ダイバーシティ推進力」、ひいては「持続可能な企業価値」が問われる、経営の根幹に関わる重大な課題と認識すべきです。
法定雇用率の未達成は、以下のような多岐にわたる経営リスクを顕在化させます。
- 納付金による経済的負担の増加: 雇用率未達成企業は、不足人数に応じて一人当たり月額5万円の納付金を支払う義務があります。これは、企業収益を圧迫する直接的な要因となります。
- 社会的信用の失墜と企業イメージの低下: 障害者雇用への取り組みは、企業の社会的責任(CSR)の重要な指標の一つです。未達成企業は、社会からの厳しい視線にさらされ、ブランドイメージの棄損や顧客離れ、優秀な人材の採用難に繋がる可能性があります。
- 従業員のエンゲージメント低下: ダイバーシティ&インクルージョンへの意識が低い企業文化は、既存従業員のモチベーション低下や離職率の増加を招く恐れがあります。多様な人材が活躍できる職場環境は、従業員の満足度向上と生産性向上に直結します。
- 新たなイノベーションの機会損失: 多様な視点や経験を持つ人材は、企業に新たな発想や価値観をもたらし、イノベーションを促進する源泉となります。障害者雇用を推進しないことは、この貴重な機会を逸することに他なりません。
- 訴訟リスクの増大: 障害を理由とする不当な差別は、訴訟リスクに繋がり、企業の法的コストやブランド価値の低下を招く可能性があります。
このような状況を打破し、持続的な成長を実現するためには、従来の採用手法からの脱却と、より戦略的な採用計画が不可欠です。
本稿は、人事・経営層が直面するこの喫緊の課題に対し、企業が採るべき緊急対策を提示します。これには、障害特性への理解を深めること、職場環境の整備、そして社内における意識改革の推進が含まれます。法定雇用率の達成を単なる義務と捉えるのではなく、企業価値向上への好機と捉え、全社一丸となって取り組むことが、今、強く求められています。
なぜ雇用率の達成が進まないのか?構造的な課題
課題1:従来の採用手法の限界
ハローワーク頼みや、受け身の採用では、優秀な人材の確保が難しい現状があります。特に、スキルや経験が豊富な即戦力人材は、求人サイトやエージェント経由で転職活動を行う傾向が強いため、従来のチャネルではリーチできません。
課題2:現場の「ノウハウ不足」
現場の管理職が障害特性の理解や合理的配慮の提供に戸惑い、採用後のミスマッチを恐れて採用に消極的になっていることが、採用が進まない大きな要因です。この「ミスマッチの恐れ」が、採用への心理的ブレーキとなっています。
法定雇用率未達成が企業にもたらす4大リスク
リスク1:経済的なコスト(納付金とペナルティ)
法定雇用率未達成の場合、「障害者雇用納付金」の支払いが発生します。この納付金は企業財政に影響を与えるだけでなく、納付金を支払っても雇用義務を果たしていないという「ペナルティ」としての意味合いを持ちます。
リスク2:社会的信用とレピュテーションの低下
法令遵守意識の欠如と見なされ、ステークホルダー(顧客、投資家)からの信用を失うリスクがあります。特にSDGsやESG投資が重視される現代において、企業の社会的責任(CSR)の観点から評価が厳しくなります。
リスク3:優秀な人材の確保競争からの遅れ
ダイバーシティを推進しない企業は、「多様な働き方に対応できない」と判断され、新卒・中途を問わず、優秀な人材獲得競争で不利になります。
リスク4:行政指導と「企業名公表」のブランド毀損
- 内容: 法定雇用率が著しく未達成な企業や、ハローワークからの指導に従わない企業は、最終的に厚生労働省から企業名が公表される可能性があります。
- 影響: この公表は、企業イメージの毀損、特にBtoC企業(一般消費者向け企業)の売上や、取引先からの信用に深刻なダメージを与えます。
2.7%達成に向けた戦略的採用ロードマップ

戦略1:外部リソースの積極的活用による採用リスクとコストの軽減
障害者雇用における採用の成功確率を高め、同時にコストを抑制するためには、外部リソースの戦略的な活用が不可欠です。これは、企業が単独で抱える課題を外部の専門機関と連携することで解決する、最も現実的かつ効果的なアプローチと言えます。
- 内容: 障害者雇用に特化した転職エージェントや、就労移行支援事業所といった専門性の高い外部機関との連携を強化することが重要です。これらの機関は、単なる人材紹介に留まらない多角的なサポートを提供します。
- メリット:
- 非公開求人の提供と質の高い人材の確保: 障害者雇用専門のエージェントは、ハローワークなど一般には公開されない「非公開求人」を多数保有していることが多く、企業のニーズに合致する「質の高い人材」との出会いを創出します。これにより、企業はより広範な選択肢の中から最適な候補者を見つけることができます。
- ミスマッチの防止と定着支援ノウハウ: 専門機関は、障害のある求職者の特性や強みを深く理解しており、企業の求める業務内容との最適なマッチングを図るためのノウハウを有しています。また、採用後の定着を支援するための具体的なアドバイスやサポートを提供することで、早期離職のリスクを低減し、長期的な雇用関係の構築に貢献します。具体的には、職場環境の調整、同僚への理解促進、定期的な面談設定など、多岐にわたるサポートが期待できます。
- 採用プロセス全般のサポート: 専門機関は、求人票の作成支援から、書類選考、面接対策、条件交渉、入社後のフォローアップまで、採用プロセス全般にわたって企業をサポートします。これにより、障害者雇用に関する専門知識や経験が不足している企業でも、安心して採用活動を進めることが可能になります。
戦略2:「採用枠の拡大」と障害特性を活かした業務設計(ジョブ・カービング)
障害者雇用を推進する上で、従来の事務職中心の採用枠に囚われず、企業全体の多様な職種において障害のある人材が活躍できる機会を創出することが不可欠です。そのためには、各職種の業務内容を詳細に分析し、障害特性を最大限に活かせるような業務設計(ジョブ・カービング)を積極的に導入することが急務です。
- 内容: 事務職に限定せず、製造、IT、サービス、研究開発、営業サポートなど、企業内のあらゆる職種において、障害特性を考慮した業務設計を行い、採用枠を拡大します。具体的には、以下のステップで進めます。
- 業務の棚卸しと細分化: 各部署の業務内容を詳細に洗い出し、それぞれの業務を構成するタスクを細かく分解します。
- 障害特性との適合性評価: 分解されたタスクに対し、どのような障害特性を持つ人材が能力を発揮しやすいかを評価します。例えば、集中力を要する定型業務は発達障害のある方、視覚情報処理に強みを持つ方はデータ入力やIT関連業務、手先の器用さを活かせる方は製造工程など、個々の特性と業務内容を結びつけます。
- 業務の再設計(ジョブ・カービング): 既存の業務を再構築し、障害のある社員が担当しやすい新たな業務ユニットを創出します。これにより、個々の能力を最大限に引き出し、生産性向上にも寄与します。
- 職場環境の整備: 業務設計と合わせて、物理的環境(バリアフリー化、照明調整など)や、コミュニケーション方法(情報伝達の工夫、支援機器の導入など)の整備も行い、働きやすい環境を構築します。
- メリット:
- 人材活用の最大化と生産性向上: 障害のある社員の潜在能力を最大限に引き出し、企業全体の生産性向上に貢献します。
- 多様な人材確保と組織の活性化: 多様なバックグラウンドを持つ人材が組織に加わることで、新たな視点や発想が生まれ、組織全体の活性化に繋がります。
- 企業イメージの向上と社会的責任の遂行: 障害者雇用に積極的に取り組む姿勢は、企業の社会的責任(CSR)を果たすだけでなく、企業イメージやブランド価値の向上にも寄与します。
戦略3:採用前の「実地理解」の導入によるミスマッチの最小化
障害者雇用において、採用後のトラブルや早期離職を防ぐ上で、採用前の「実地理解」は最も重要なステップの一つです。面接だけでは把握しきれない業務適性や職場の相性を、実践的な機会を通じて確認することで、採用後のミスマッチを大幅に削減することが可能になります。実際、トライアル雇用や職場実習の導入は、採用後のトラブルの8割を防ぐと言われており、企業と応募者双方にとって極めて有効な手段です。
- 内容: トライアル雇用制度や職場実習制度を積極的に活用し、面接だけでは分からない「実際の業務遂行能力」と「職場の雰囲気や人間関係への適応度」を事前に確認します。
- トライアル雇用: 通常3ヶ月程度の期間を設け、応募者を実際に雇用しながら業務を遂行してもらう制度です。この期間中に、企業は応募者のスキル、業務への適応度、コミュニケーション能力などを評価します。応募者側も、実際の業務内容や職場環境、企業の文化などを体験し、長期的に働けるかどうかを判断できます。
- 職場実習: 一定期間(数日から数週間程度)企業内で業務を体験してもらう制度です。雇用関係は発生しませんが、実際の職場で働くことで、業務のイメージや職場の雰囲気を具体的に掴むことができます。企業側も、応募者の就労意欲や基本的なビジネスマナー、周囲との協調性などを観察する機会となります。
- メリット:
- 応募者側のメリット:
- 不安の解消: 実際に働くことで、企業文化や業務内容への理解を深め、入社後の不安を解消できます。
- 自己理解の促進: 自身の能力や配慮の必要性を具体的な業務を通じて再認識し、企業に求めるサポートを明確にできます。
- 最適な職場選択: 複数の企業での実習を通じて、自分に最も合った職場を見つけることができます。
- 企業側のメリット:
- ミスマッチの最小化: 書類や面接では見極めにくい「潜在的な能力」や「職場の雰囲気との相性」を実地で確認できます。これにより、採用後の「こんなはずではなかった」という状況を回避し、早期離職のリスクを大幅に低減します。
- 配慮の必要性の具体化: 実際に業務を共にする中で、どのような配慮が必要か、どのようなサポートがあれば能力を最大限に発揮できるかを具体的に把握できます。これにより、入社後のスムーズな受け入れ体制を構築できます。
- 定着率の向上: 事前にお互いの理解を深めることで、入社後の定着率が向上し、長期的な人材育成に繋がります。
- 教育・研修計画の最適化: 実習期間中に得られた情報をもとに、入社後の個別教育・研修計画をより効果的に立案できます。
- 応募者側のメリット:
これらの戦略を複合的に実施することで、企業は障害者雇用を単なる義務ではなく、企業の成長戦略の一環として捉え、持続可能で成果を出す雇用を実現することができます。
まとめ|「仕組み」への投資が未来の雇用を創る

法定雇用率2.7%の達成は、企業にとって単なる義務ではなく、持続的な成長を実現するための重要な経営戦略です。従来の受け身な採用活動から脱却し、戦略的な「仕組みづくり」への積極的な投資が不可欠です。
記事の要約:
現状の法定雇用率2.7%を達成するためには、単に障害者を採用するという受動的なアプローチでは不十分です。企業は、障害を持つ人材がその能力を最大限に発揮できるような、戦略的かつ包括的な「仕組みづくり」に投資し、能動的に取り組む必要があります。これは、採用活動のプロセスを見直すだけでなく、職場環境の整備、育成プログラムの充実、評価制度の改善など、多岐にわたる取り組みを指します。
読者(人事・経営層)へのメッセージ:
採用を「義務」と捉える従来の考え方を改め、「企業の成長戦略」として再定義する時が来ています。障害者雇用は、企業のダイバーシティを推進し、組織全体の創造性や生産性を向上させるための強力なドライバーとなり得ます。人事・経営層の皆様には、この認識のもと、ダイバーシティ推進におけるリーダーシップを積極的に発揮していただきたいと強く訴えかけます。
具体的には、以下の点に注力してください。
- 意識改革の推進: 障害者雇用に対する社内の意識を変革し、多様な人材が活躍できる企業文化を醸成する。
- 戦略的な採用計画: 障害者の特性や能力を理解し、企業のニーズと合致する人材を戦略的に採用する計画を策定する。
- 職場環境の整備: バリアフリー化はもちろん、情報保障、コミュニケーション支援、柔軟な働き方の導入など、障害者が働きやすい環境を整備する。
- 育成・キャリアパスの提供: 障害者の能力開発を支援し、長期的なキャリア形成を支援するプログラムを提供する。
- 適切な評価制度の確立: 障害の有無に関わらず、個々の能力と貢献度に基づいた公正な評価制度を確立する。
- トップコミットメントの明確化: 経営層がダイバーシティ推進の重要性を明確に示し、全社的な取り組みとして推進する。
これらの取り組みを通じて、企業は法定雇用率の達成に留まらず、真の意味で多様性を尊重し、持続的に成長できる組織へと変革を遂げることができます。障害者雇用は、企業価値を高め、社会からの信頼を獲得するための重要な経営課題であることを認識し、積極的に取り組んでいくことが求められます。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







