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【長期定着の必須条件】「症状の波」を乗りこなす勤務形態の柔軟な変更制度とは

この記事の内容
はじめに|「柔軟な勤務」こそがキャリアの生命線

障害者雇用を進める企業にとって、「いかに社員に長く働いてもらうか(長期定着)」は最大の課題です。その定着を阻む最も大きな要因こそが、障害特性(特に精神・難病)による体調の波です。従来の「毎日9時出社」といった定時・定日勤務は、社員の離職に直結しています。
この記事の結論は、勤務形態の柔軟な変更制度は、社員の体調を最優先させ、結果的に長期定着と安定したパフォーマンスを引き出すための、最も重要な合理的配慮であるということです。
本稿では、この制度がなぜ合理的配慮の核なのか、そして企業が戦略的に導入・活用すべき理由を徹底解説します。
なぜ「制度の柔軟性」が合理的配慮の核なのか?
精神疾患や難病を持つ社員が、その能力を最大限に発揮し、企業に貢献し続けるためには、「制度の柔軟性」が不可欠です。これは単なる温情的な措置ではなく、社員の健康を守り、企業の生産性を向上させるための戦略的な「合理的配慮」に他なりません。特に、体調の波が予測しにくいという疾患特性を理解し、従来の固定的な働き方から脱却することが、現代の企業に求められています。
課題:症状の波と「定時・定日」の矛盾
精神疾患や難病を抱える社員にとって、最大の課題の一つは「体調の波」が予測しにくいことです。これは、日によって、あるいは時間帯によって、集中力や体力が大きく変動することを意味します。例えば、「毎日9時出社」といった固定勤務は、健常な社員にとっては当たり前のことかもしれませんが、体調の波がある社員にとっては極めて大きなストレスと疲労につながります。
- 内容の深掘り: 午前中に症状が重い、あるいは薬の副作用で眠気が強い時間帯があるなど、個々の社員にはそれぞれ異なる「体調のピークと谷」が存在します。この「能力を発揮できない時間帯に無理を強いられる」状況は、社員のパフォーマンスを著しく低下させるだけでなく、症状の悪化や二次的な精神的負担を引き起こしかねません。結果として、欠勤や休職、最悪の場合には離職へとつながり、企業にとっても大きな損失となります。
- 解決策の提示: この根深い矛盾を解消するためには、勤務時間を「社員のコンディション」に柔軟に合わせるという発想への転換が不可欠です。例えば、体調が安定している午後に業務のピークを持ってくる、あるいは集中力が持続する時間帯にコア業務を割り当てるなど、個々の特性に応じた働き方を許容することで、社員は無理なく最大のパフォーマンスを発揮できるようになります。
制度の種類:社員が求める具体的な「柔軟性」
社員が求める柔軟な働き方は、大きく分けて「復職からフルタイムへのステップ」と「体調維持」の二つの目的を達成するために存在します。これは、単に時間的な制約をなくすだけでなく、社員が安心してキャリアを継続できる環境を整備することを意味します。
- 内容の具体化:
- 時短勤務からフルタイムへの変更: 復職初期は心身への負担を考慮し、短時間勤務から始め、体調の回復度合いに合わせて段階的に勤務時間を延長していく制度です。これにより、社員は無理なく社会復帰し、徐々に業務に慣れることができます。
- 週3日勤務から週5日勤務への変更: 週あたりの勤務日数を調整する制度です。体調が不安定な時期は日数を減らし、安定してきたら増やすといった柔軟な対応が可能になります。
- 勤務時間のシフト(例:午前中を避ける、午後からの勤務): 個々の体調の波に合わせて、出社時間や退社時間を調整できる制度です。例えば、午前中に症状が出やすい社員は午後から勤務を開始する、あるいはラッシュアワーを避けて出社するなども含まれます。
- 在宅勤務・リモートワークの活用: 自宅での作業を可能にすることで、通勤による負担を軽減し、体調が悪化した際にも無理なく業務を継続できる環境を提供します。
- 休憩時間の柔軟な取得: 必要に応じて、通常の休憩時間以外にも体調に合わせた休憩を許可する制度です。これにより、体調の急変時にも対応しやすくなります。
これらの制度は、社員が自身の体力や症状の回復度に合わせて、勤務形態を段階的かつ主体的に調整できることを目的としています。企業側は、これらの選択肢を提供することで、社員一人ひとりの状況に寄り添ったサポートを実現できます。
勤務形態の柔軟化がもたらす「社員の安定」と「企業の利益」

柔軟な働き方は、単に社員の個人的な安定に寄与するだけでなく、企業の経営戦略に直結する多大なメリットをもたらします。これは、現代の労働環境において、企業が持続的な成長を遂げるための重要な投資と捉えるべきです。
社員側のメリット:体調管理とキャリアの継続
社員にとって、柔軟な働き方は自身の健康を守り、長期的なキャリア形成を可能にする生命線となります。
- 内容の詳述:
- 体調悪化の予防と欠勤リスクの最小化: 体調に合わせた働き方ができることで、無理をして症状が悪化することを防ぎ、結果として急な欠勤や長期休職のリスクを大幅に低減できます。これは、社員自身の精神的・肉体的な負担軽減にもつながります。
- キャリアを途切れさせない戦略: 復職直後は時短勤務で徐々に業務に慣れ、体調が安定したらフルタイムへ移行するなど、自身のペースでキャリアを継続・発展させることが可能になります。これにより、スキルや経験が途絶えることなく蓄積され、将来的なキャリアパスが広がります。
- 会社への強い信頼感と安心感: 会社が自身の健康状態や特性を理解し、「自分の健康を守ってくれている」という強い安心感は、社員のエンゲージメントとモチベーションを飛躍的に向上させます。この信頼関係は、生産性の向上だけでなく、組織への忠誠心にもつながります。
- ストレスの軽減とQOLの向上: 柔軟な働き方は、私生活とのバランスを取りやすくし、全体的な生活の質(QOL)向上に貢献します。ストレスが軽減されることで、業務への集中力も増し、より創造的な仕事が可能になります。
企業側の戦略的メリット:コスト削減と優秀な人材の確保
企業にとって、柔軟な働き方の導入は、単なるコストではなく、将来への投資として大きなリターンをもたらします。
- 内容の掘り下げ:
- 離職率の低下と採用・育成コストの削減: 働きやすい環境を提供することで、社員の定着率が向上し、新たな人材の採用や育成にかかる膨大なコストを削減できます。特に、精神疾患や難病を持つ社員は一度職場に定着すると、その経験やスキルは企業にとって貴重な資産となります。
- 「働きやすさ」を重視する優秀な人材の確保: 現代の労働市場では、特にITや専門職分野において、単に給与が高いだけでなく、「働きやすさ」や「ワークライフバランス」を重視する優秀な人材が増えています。柔軟な働き方を打ち出すことは、これらの人材を惹きつけ、企業競争力を高める上で極めて有効な戦略となります。
- 企業のブランドイメージ向上: 社員の健康と働き方を重視する企業姿勢は、社内外における企業のブランドイメージを向上させます。これは、採用活動だけでなく、顧客や取引先からの信頼獲得にもつながり、長期的な企業価値向上に貢献します。
- 最大の利益:集中力と生産性の向上: 勤務時間を体調の良い時間帯に合わせることで、社員は集中力とモチベーションを最大限に発揮できます。結果として、業務の質と量が向上し、企業の生産性全体が底上げされます。これは、単に時間当たりの生産性が上がるだけでなく、創造的な発想や問題解決能力の向上にも寄与します。
- ダイバーシティ&インクルージョンの推進: 柔軟な働き方は、多様な背景を持つ人々が活躍できるインクルーシブな企業文化を醸成します。これにより、多角的な視点やアイデアが生まれやすくなり、企業のイノベーションを促進します。
制度を効果的に活用するための実践ステップ

柔軟な働き方を導入するだけでは不十分です。制度が現場で機能し、社員と企業の双方にとって最大限のメリットをもたらすためには、具体的な活用ステップと明確なルール作りが不可欠です。
活用ステップ1:体調と目標の「可視化」
制度を有効活用するためには、社員自身の主体的な情報開示と、それをサポートする企業の仕組みが不可欠です。感情論ではなく、客観的なデータに基づいたコミュニケーションが重要になります。
- 内容の詳細化:
- 「体調の波を記録したデータ」の活用: 社員は、日々の体調、特に症状の波やその時間帯、服薬状況などを記録したデータを活用し、自身のコンディションを客観的に把握することが重要です。例えば、スマートフォンのアプリや簡単な日報ツールを利用して、体調の良し悪しを5段階で評価したり、特定の症状が出やすい時間帯を記録したりすることが有効です。
- 具体的な希望の提示: 勤務時間の変更を求める際は、「何となくしんどい」といった抽象的な表現ではなく、「過去1ヶ月間の記録から、午前9時から11時の間は集中力が著しく低下するため、午前9時出社ではなく、11時出社を希望します」といった具体的なデータに基づいた希望を伝えることが重要です。これにより、上司や人事は状況を正確に理解し、適切な判断を下しやすくなります。
- 目標設定の明確化: 変更後の働き方でどのような目標を達成したいのか(例:体調の安定、生産性の向上、特定のプロジェクトへの貢献など)を明確にすることで、企業側もサポート体制を構築しやすくなります。
- プライバシーへの配慮: 体調に関するデリケートな情報を開示する際には、社員のプライバシーに最大限配慮し、必要最低限の情報のみを共有する仕組みや、情報を取り扱う担当者を限定するなどのルール作りが不可欠です。
活用ステップ2:変更の「頻度」と「ルール」の明確化
制度が現場で混乱なく機能するためには、明確なルール設定が不可欠です。これにより、社員は安心して制度を利用でき、現場の管理職も適切なマネジメントが可能になります。
- 内容の具体例:
- 勤務時間変更の頻度: 「月に1回まで」「四半期に1回まで」など、変更可能な頻度を明確に定めます。これにより、過度な変更による業務への影響を最小限に抑えつつ、柔軟性を確保します。
- 申請期限の設定: 「変更希望日の〇日前までに申請すること」といった申請期限を設けます。例えば、「変更希望日の前日正午までに連絡」とすることで、上司は業務調整や人員配置の計画を立てる十分な時間を確保できます。
- 承認フローの明確化: 誰に、どのような方法で申請し、誰が承認するのか(例:直属の上司→人事部)といった承認フローを明確にします。
- 緊急時の対応ルール: 予期せぬ体調不良など、緊急時の対応についても事前にルールを定めておくことが重要です。例えば、「体調不良の場合は、〇時までに〇〇に連絡すること」といった具体的な指示を明文化します。
- 評価制度との連携: 柔軟な働き方を導入した場合でも、公平かつ適切な評価ができるよう、評価基準や方法を見直す必要があります。成果主義を導入するなど、時間ではなく実績で評価する仕組みを検討することも有効です。
- 定期的な見直しとフィードバック: 導入後も定期的に制度の運用状況を評価し、社員からのフィードバックを基に改善していくサイクルを構築することが重要です。これにより、制度が形骸化することなく、常に実情に合ったものとして機能し続けます。
まとめ|柔軟な働き方が、企業文化と未来を創る
勤務形態の柔軟性は、単に一部の社員に対する特別な配慮ではありません。それは、精神疾患や難病といった多様な特性を持つ人々が社会で活躍するための「合理的配慮」であり、ひいては企業の持続的な成長を支えるための不可欠な戦略です。
人事・管理職の皆様へ
今、私たちに求められているのは、「固定された時間」に社員を縛り付ける旧態依然とした考え方からの脱却です。真に価値があるのは、社員が持つ「能力」そのものであり、その能力を最大限に引き出すための環境を提供することこそが、企業の未来を創る鍵となります。
柔軟な働き方を通じて社員の健康を守り、彼らが最高のパフォーマンスを引き出すことができる環境を整えることは、単なるコストではなく、企業が競争優位性を確立し、持続的な成長を遂げるための戦略的な投資です。誰もが長期的に活躍できる企業文化を築き、社会全体に貢献できる組織へと進化していきましょう。これからの時代に求められるのは、画一的な働き方ではなく、多様性を力に変える柔軟な企業です。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







