2025/10/17
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【障害者雇用の福利厚生】育児・介護休業は取得可能?知っておくべき法律と会社の選び方

はじめに|育児・介護休業制度が障害者雇用で重視される理由

障害を持つ労働者がキャリアを長期的に築く上で、家族のライフステージ変化(出産、育児、介護など)は大きな壁となり得ます。体調の波や通院がある中で、さらに家族のケアが必要になると、「仕事を辞めるしかない」と考える方も少なくありません。

しかし、知っておくべきは、この制度が単に「雇用される」だけでなく、「働き続けられる」環境を保証するための法律であるということです。企業側の視点で見ても、制度の整備は、優秀な人材の定着や企業の社会的価値向上につながります。

本コラムでは、障害を持つ当事者やその家族が、育児・介護休業制度について正しく理解し、安心して働ける会社を見つけるための情報を提供します。


【基礎知識】育児・介護休業法の基本と障害者雇用の関係

育児・介護休業法とは?

  • 基本的な制度の概要: 育児休業(原則子が1歳まで)、介護休業(要介護状態の家族1人につき通算93日まで)、子の看護休暇、介護休暇(年5日など)といった、仕事と家庭の両立を支援する制度の基本を定めた法律です。
  • 法律上の対象者: 雇用形態に関わらず、すべての労働者が対象です。ただし、この法律は「長期的な雇用継続」を前提としているため、期間の定めがある労働者(有期雇用労働者:契約社員、パート・アルバイトなど)には、以下の例外的な取得条件が付いています。
  1. 継続雇用期間: 育児休業の場合、原則として同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること(介護休業などは6か月以上の基準が適用される場合もあります)。
  2. 契約更新の確実性: 休業終了後も引き続き雇用される見込みがあること、つまり、契約が満了することが明らかでないこと。

障害者雇用枠では、まず有期雇用契約で入社するケースも多いため、ご自身の雇用契約期間と、将来的な契約更新の見込みについて、人事担当者や転職エージェントを通じて事前に確認しておくことが、権利を行使するための重要なステップとなります。

  • 2025年4月改正のポイント: 特に障害児や医療的ケア児を育てる親への配慮が明記されました。障害児を育てる親も、介護休業の対象となり、より柔軟な働き方を選べるようになりました。

障害者雇用における法の適用

  • 法の適用: 障害のある労働者も、法律上は当然に育児・介護休業の権利を持ちます。
  • 柔軟な制度設計: 障害を持つ当事者自身が育児や介護をする場合、その特性に合わせた柔軟な制度設計が求められます。
  • : 視覚障害がある人が育児をする場合、代替手段の検討など、企業側は個別の状況に応じた合理的配慮を行う必要があります。

視覚障害を持つ親の育児と企業の合理的配慮

育児・介護休業法では、障害を持つ当事者自身が育児をする場合、企業は個別の状況に応じた合理的配慮を行うことが求められています。

1. 育児で直面する具体的な困難

視覚障害を持つ親御さんが育児をする際、最も困難に感じるのは、「安全の確保」「情報把握」です。

  • 安全の確保:
    • : ハイハイや歩き始めた子どもが危険な場所に近づいていないか、熱いものに触れていないかなど、目視での瞬時のリスク察知ができません。
  • 情報把握:
    • : 薬のラベルや離乳食の賞味期限を読む、子どもの発熱時の体温計の目盛りを読む、予防接種の資料を読むなど、文字情報や細かい視覚情報の把握が困難です。

2. 企業に求められる「代替手段の検討」という配慮

企業が提供すべき合理的配慮は、単なる勤務時間の調整に留まりません。「親が育児に集中できる環境」を間接的にサポートすることも重要です。

課題企業が検討すべき配慮の例目的
通院・情報把握子の看護休暇の柔軟な利用定期的な予防接種や健康診断の際に、家族が付き添えるよう休暇を取りやすくする。
職場復帰テレワークの継続育児中は特に通勤負担や予期せぬ欠勤リスクが高まるため、在宅勤務を柔軟に認める。
業務調整情報共有の徹底育児や家族の状況に関するストレスを抱え込ませないよう、産業医や保健師との定期面談を促す。

3. 法的側面:合理的配慮の義務

育児・介護休業法第26条では、「事業主は、その雇用する労働者が子の養育又は家族の介護を行いやすくするため、その者の配置の変更その他適切な措置を講ずるよう努めなければならない」と定められています。

これは、障害者手帳の有無にかかわらず、障害特性に基づき、仕事と家庭の両立を支援するための努力義務を企業に課しています。

企業は、上記の具体的な困難を理解し、通院や急な休みを可能にする「柔軟な制度設計」で親御さんの育児を間接的に支援することが求められます。


障害者が直面する「育児」の課題と制度活用のヒント

障害児の育児:既存制度の課題と新たな動き

一般的な子育て支援では追いつかない、障害児特有のケアニーズに焦点を当て、制度の重要性を訴えます。

  • 課題と改正: 従来の育児休業制度は「93日では足りない」という現場の声がありました。2025年4月改正で、障害児や医療的ケア児の親も介護休業の対象となることが明記されました。これにより、子の看護休暇など、柔軟な制度の利用が可能となります。
  • 企業独自制度の重要性: 法定の制度以上に、企業が独自に休業期間を設定したり、休暇の積み立て制度を設けたりすることが、社員の安心につながります。

当事者自身が育児をする場合の課題と支援事例障害を持つ親の困難と向き合う

障害を持つ親が育児を行う際には、健常な親とは異なる、あるいはより増幅された困難に直面することがあります。これらの困難は、身体的、精神的、社会的側面にわたり、多岐にわたります。

  • 身体的負担:
    • 移動と抱っこ: 車いすを利用する親や身体に麻痺がある親は、子どもを抱っこしたり、おむつ交換や着替えのために持ち上げたりする動作が困難な場合があります。また、ベビーカーを押しながら移動することや、子どもを連れて公共交通機関を利用することにも大きな労力を要します。
    • 日常生活動作の制限: 入浴介助、食事の準備、掃除などの家事全般において、障害の種類や程度によっては大幅な制限が生じ、育児との両立が困難になります。
    • 慢性的な疲労と痛み: 障害による身体的な痛みや疲労が常にある場合、育児による負担がさらに重なり、休息が十分に取れない状況に陥りやすくなります。
  • 精神的負担:
    • 育児不安と自己肯定感の低下: 障害があることで「ちゃんと育てられるだろうか」「子どもに迷惑をかけてしまうのではないか」といった育児不安を抱えやすく、自己肯定感が低下することがあります。
    • 孤立感と情報不足: 障害を持つ親同士のネットワークが限られている場合や、地域の子育て支援情報が十分に届かない場合、孤立感を深めやすくなります。周囲からの無理解や偏見に晒されることも精神的な負担となります。
    • 将来への不安: 子どもの成長や教育、自身の健康状態など、将来に対する漠然とした不安を抱えることがあります。
  • 社会的負担:
    • 経済的困窮: 障害による就労の困難や医療費の負担などから、経済的に困窮する家庭も少なくありません。これが育児に必要な物品やサービスへのアクセスを阻害することがあります。
    • 社会資源へのアクセスの困難さ: 障害の特性に配慮した育児支援サービスの情報が不足していたり、利用手続きが煩雑であったりする場合、必要な支援にたどり着くことが難しいことがあります。

効果的な支援事例:行政サービスと企業制度の併用

障害を持つ親が安心して育児に取り組めるよう、多角的な支援が不可欠です。行政の福祉サービスと企業の柔軟な制度を組み合わせることで、より効果的な支援が実現可能です。

  • 行政の福祉サービス:
    • 居宅介護の育児支援: 障害者総合支援法に基づく居宅介護サービスは、身体介護(おむつ交換、入浴介助など)や家事援助(食事の準備、掃除、洗濯など)に加えて、育児に関する支援(子どもの見守り、送迎補助など)を提供することができます。これにより、親の身体的負担を軽減し、育児に充てる時間を確保できます。
    • 地域子育て支援拠点事業: 地域の児童館や子育て支援センターでは、育児相談、情報提供、親同士の交流の場を提供しています。障害を持つ親向けの専門的な相談窓口や交流会を設けることで、孤立感の解消と情報共有を促進できます。
    • 障害児通所支援: 親に障害がある場合、子どもが発達に課題を抱えている可能性も考慮し、早期からの療育支援が重要です。児童発達支援や放課後等デイサービスなどを活用することで、子どもの発達を促し、親の育児負担を軽減できます。
    • ホームヘルプサービス: 育児に関する身体的負担が大きい場合、日常的な家事や育児の一部を担ってもらうことで、親の休息時間を確保し、精神的なゆとりを生み出します。
  • 企業の制度と柔軟な働き方:
    • テレワーク(リモートワーク)の導入: 柔軟な働き方としてテレワークを導入している企業は、障害を持つ親にとって大きな助けとなります。通勤による身体的負担の軽減、子どもの急な体調不良への対応、育児と仕事の間の時間管理のしやすさなど、多様なメリットがあります。特に、身体障害を持つ親にとっては、自宅で仕事ができることで、移動の困難さや職場でのバリアフリー設備への懸念が解消されます。
    • 短時間勤務制度: 子どもの保育園や学校の送迎、医療機関への付き添いなど、育児には時間的な制約が多く伴います。短時間勤務制度を利用することで、これらの時間を確保し、仕事と育児の両立を可能にします。柔軟な勤務時間の設定(例:コアタイムなしのフレックスタイム制)も有効です。
    • フレックスタイム制度: 出退勤時間を柔軟に調整できるフレックスタイム制度は、子どもの生活リズムや親の体調に合わせて働くことを可能にします。特に体調の波がある障害を持つ親にとって、自身のペースで働けることは非常に重要です。
    • 時間単位有給休暇制度: 半日単位だけでなく、時間単位で有給休暇を取得できる制度は、子どもの急な発熱や予防接種、面談など、短時間の用事にも対応しやすくなります。
    • 企業内保育所の設置や提携: 企業内に保育所があれば、通勤の負担が減り、子どもの近くで働く安心感が得られます。また、地域の保育所との提携や利用補助も、経済的・時間的負担の軽減につながります。
    • 介護・育児休業制度の拡充: 法定以上の期間や取得要件の緩和など、休業制度を拡充することで、親が安心して育児に専念できる期間を確保できます。特に、配偶者の育児参加を促す制度(例:男性の育児休業取得奨励金)も重要です。
    • 相談窓口の設置: 社内に育児や介護に関する相談窓口を設置し、専門家がサポートすることで、従業員の不安解消や制度利用の促進につながります。障害を持つ親特有の悩みにも対応できるような体制が望ましいです。

これらの支援を効果的に組み合わせることで、障害を持つ親が育児の喜びを感じながら、社会参加も継続できるような環境を整備していくことが、共生社会の実現には不可欠です。


障害者が直面する「介護」の課題と制度活用のヒント

障害特性と介護負担

介護する家族に障害がある場合、健常者とは異なる負担が生じる可能性がある点を説明。

  • : 身体障害者が要介護者を抱える場合、重労働となるため、身体的な負担が極度に高まる。精神障害者が複雑な手続きを担う場合、ストレスやマルチタスク処理の困難さから、精神的な負担が増大する。

介護休業制度の現状と活用ポイント

  • 制度活用: 通算93日の介護休業を分割取得できる制度について解説。
  • 柔軟な働き方: 介護のための短時間勤務制度や、所定外労働の制限(残業免除)など、柔軟な働き方の選択肢を紹介。
  • 介護休業給付金: 休業中の経済的支援である介護休業給付金についても説明し、不安の解消に繋げます。

企業に求めるべき「一歩進んだ」介護支援

  • 独自の制度: 法定以上の休業期間設定、休暇の積み立て制度(セイコーエプソンの事例など)。
  • 社内支援: 社内での介護相談窓口の設置や、外部専門機関との連携。

企業の担当者が知るべき、制度整備のポイント

法律遵守の重要性

育児・介護休業法の基本義務(周知・意向確認、ハラスメント防止など)を再確認し、法令遵守が企業のリスクマネジメントにつながることを提示します。

制度を「使える」風土づくり

  • 意識改革: 制度があっても利用しづらい雰囲気(いわゆる「パタハラ」など)をどう改善すべきか。
  • 管理職の役割: 管理職向けの研修や、社員同士が助け合う企業風土の醸成。

障害特性に合わせた柔軟な対応

  • 配慮義務: 個別の状況に応じた配慮義務(育児・介護休業法26条)について解説。
  • 多様な働き方: テレワークやフレックスタイム制度など、多様な働き方を導入するメリット。

Q&A – 育児・介護休業に関するよくある質問

育児・介護休業制度に関するよくある質問(FAQ)

従業員の皆様が育児・介護休業制度をより深く理解し、安心して利用できるよう、よくある質問とその回答をまとめました。

Q1. 入社1年未満でも育休は取れる?

原則として、育児休業を取得するには、同一の事業主に引き続き1年以上雇用されている必要があります。しかし、企業によっては、独自の規定を設け、入社1年未満の従業員でも育児休業の取得を認める場合があります。また、子が1歳6か月に達する日までに雇用契約が満了することが明らかでない場合や、過去1年以内に育児休業を取得していない場合など、特定の条件下では、入社1年未満でも取得が可能なケースもあります。詳細は勤務先の人事部または担当部署にご確認ください。

Q2. パートやアルバイトでも制度は利用できる?

はい、パートやアルバイトといった非正規雇用の従業員でも、育児・介護休業制度を利用できます。ただし、いくつかの要件を満たす必要があります。具体的には、申出時点において、子が1歳6か月に達する日までに雇用契約が満了することが明らかでないこと、週の所定労働日数が3日以上であることなどが挙げられます。介護休業についても同様に、雇用期間や勤務日数に関する一定の要件があります。正社員と同様に、育児・介護休業給付金の対象となることもありますので、ご自身の雇用契約や勤務状況を確認し、勤務先に相談することをおすすめします。

Q3. 育児と介護で時短勤務を併用できる?

育児のための短時間勤務制度と介護のための短時間勤務制度は、原則として同時に利用することはできません。しかし、状況に応じて、それぞれの制度を時期をずらして利用することは可能です。例えば、育児のために短時間勤務を利用している期間が終了した後、介護の必要が生じた場合には、介護のための短時間勤務制度に切り替えることができます。また、企業によっては、従業員の状況に合わせて柔軟な働き方を認める独自の制度を設けている場合もありますので、勤務先の人事担当者にご相談ください。

Q4. 育児・介護休業中に給料はもらえる?(給付金について)

育児・介護休業中は、原則として会社から給料は支給されません。しかし、雇用保険から「育児休業給付金」や「介護休業給付金」が支給されます。育児休業給付金は、休業開始から最初の6ヶ月間は休業開始時賃金日額の67%、それ以降は50%が支給されます。介護休業給付金は、休業開始時賃金日額の67%が支給されます。これらの給付金は非課税であり、生活の大きな支えとなります。申請手続きは、勤務先を通じてハローワークで行うのが一般的です。

Q5. 勤務先に制度がない場合はどうすればいい?

育児・介護休業制度は法律で定められた制度であり、従業員が希望すれば企業は原則として取得を認めなければなりません。もし勤務先に制度が明記されていない場合でも、従業員は育児・介護休業法に基づいて権利を行使できます。まずは勤務先の人事担当者や上司に相談し、制度の利用について話し合うことが重要です。それでも解決しない場合や、制度の利用を拒否された場合は、労働基準監督署や都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談することができます。専門機関が間に入り、問題解決に向けたアドバイスや支援を受けることが可能です。


まとめ – 安心して働き続けるための未来

育児・介護休業制度は、障害者雇用における定着率向上に不可欠な福利厚生であることを改めて強調します。障害のある従業員が安心して働き続けられる環境を整備することは、企業の社会的責任であると同時に、多様な人材の活用による組織力強化にも繋がります。

当事者である従業員にとっては、この制度を正しく理解し、自身のライフステージに合わせて柔軟に活用することが、長期的なキャリア形成において極めて重要です。育児や介護は、計画通りに進まないことも多いため、制度の利用について企業との十分なコミュニケーションを図り、個別の状況に応じたサポートを受けることが望ましいでしょう。

一方、企業側にとっては、単に制度を設けるだけでなく、その運用において柔軟性と実効性を持たせることが求められます。例えば、短時間勤務や時差出勤、テレワークの導入など、従業員の状況に応じた多様な働き方を許容することで、制度の利用を促進し、従業員の定着率向上に繋げることができます。また、制度利用中の従業員が安心して職場復帰できるよう、定期的な情報提供やキャリア面談の実施なども有効です。長期的なキャリアプランを見据えた場合、育児・介護支援が充実した企業を選ぶことのメリットは計り知れません。ワークライフバランスを重視する現代において、従業員が仕事と家庭生活を両立できる環境を提供することは、企業の魅力向上にも繋がり、優秀な人材の確保にも貢献します。企業は、育児・介護休業制度を単なる義務としてではなく、従業員エンゲージメントを高め、企業の持続的な成長を支える重要な投資と捉えるべきです。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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