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人事・上司必見!薬の服用は「リスク」ではない|社員の安定就労を支えるサポート戦略

この記事の内容
はじめに|服薬は「治療」であり「仕事への備え」である

精神障害や難病を持つ社員が、薬の服用について職場に伝えることに躊躇する現状があります。「薬を飲んでいる=病状が不安定」という誤解や偏見が、彼らを孤立させています。
しかし、服薬は、病状を安定させ、安定して働くための積極的な自己管理です。薬は治療の継続であり、社員の能力を引き出すための「戦略的投資」と捉え直すべきです。
本稿では、当事者の声を通じて、服薬のリアルな課題と、企業が実践すべき両立戦略を解説します。
当事者が語る服薬のリアルと職場への壁
今回は、うつ病を経験し、IT企業で事務職として働くAさん(仮名)に、服薬と就労の現実を伺いました。
服薬の目的と「副作用」の真実
インタビュアー: 薬の服用で、仕事中に困ることはありますか?
Aさんの声: 「薬の目的は、もちろん治療の継続ですが、副作用(眠気、だるさ、集中力低下)のリアルと向き合うことになります。『薬を飲まない方が体は楽だが、病状が不安定になる』というジレンマは常にあります。仕事で一番集中したい午前に、眠気が残るのが一番つらいですね」
隠すことが招く「生産性の低下」
インタビュアー: 副作用を隠して仕事を続けた経験はありますか?
Aさんの声: 「ありました。薬の影響を正直に伝えると、評価に響くと思い、副作用を隠して仕事を続けた結果、ミスが増え、自己否定に陥った経験があります。薬の管理や服用時間を同僚に知られることへの心理的抵抗が、隠蔽を招き、結果的に生産性を下げていました」
企業が実践すべき「服薬と仕事」の両立戦略

休息と時間の柔軟な配慮
従業員が服薬の副作用や病状による倦怠感に効果的に対応できるよう、企業は休息と時間の柔軟な配慮を積極的に導入すべきです。これにより、個人の健康維持と生産性向上を両立させることが可能になります。
- 具体的な声: 「副作用で眠気が強い日でも、オフィス内の静かな休憩スペースで短時間の仮眠が取れたおかげで、午後の重要な会議にも集中して臨むことができました。自宅で休む必要がなく、業務への影響を最小限に抑えられたのは本当に助かりました。」(Aさん)
- 対応策の具体例:
- フレックスタイム制の柔軟な運用: 服薬のタイミングや体調の変化に合わせて、出勤・退勤時間を調整できる仕組みを徹底します。例えば、午前中に服薬し、その副作用で眠気や倦怠感がある場合は、午後に業務を開始できるよう調整を可能にします。
- 業務内容の柔軟な調整: 体調が優れない時間帯には、集中力をあまり必要としない単純作業やルーティン業務を割り当て、体調が安定している時間帯に集中力や思考力を要する業務を行うなど、業務内容を調整します。
- 休憩スペースの整備: オフィス内に、仮眠やリラックスができる静かで快適な休憩スペースを確保します。プライバシーが確保された空間を提供することで、従業員は安心して休息を取ることができます。
- 在宅勤務・リモートワークの活用: 体調が優れない日や、通院が必要な日には、在宅勤務やリモートワークを積極的に活用することで、身体的負担を軽減し、柔軟な働き方をサポートします。
- 定期的な面談と状況確認: 上長や産業医との定期的な面談を通じて、従業員の体調や服薬状況を把握し、必要な配慮について話し合う機会を設けます。これにより、個々のニーズに合わせたサポートを継続的に提供します。
これらの施策を講じることで、従業員は自身の健康状態と向き合いながら、最大限のパフォーマンスを発揮できるようになり、結果として企業全体の生産性向上にも貢献します。
服薬情報の「限定開示」ルール
服薬に関する情報は非常にデリケートであり、従業員のプライバシー保護を最優先すべきです。守秘義務を徹底した上で、必要最小限の範囲でのみ情報共有を行う厳格なルールを確立することが不可欠です。
- 対応策の具体例:
- 共有範囲の厳格化: 服薬の事実は、直属の上長、人事担当者、および産業医のみに限定して共有することを徹底します。これらの情報は、個人の健康管理や適切な業務配慮のために必要不可欠な関係者以外には開示しません。
- 開示内容の限定: チーム全体や同僚に対しては、薬の名前や病名といった具体的な情報を開示する必要は一切ありません。上長は「Aさんは健康上の理由から、時折休憩を取ることがあります」といった、業務遂行上必要な範囲の情報のみを伝達します。これにより、従業員のプライバシーを守りつつ、周囲の理解を促進します。
- 書面での合意形成: 服薬情報の共有については、必ず従業員本人の同意を文書で取得します。どのような情報を、誰に、どのような目的で共有するのかを明確にし、従業員が安心して情報開示を行える環境を整備します。
- 情報管理の徹底: 共有された服薬情報は、厳重なセキュリティ対策が施された環境で管理し、アクセス権限を制限します。情報の漏洩や不正利用を防止するための措置を講じることが重要です。
- 相談窓口の設置: 従業員が服薬に関する懸念や疑問を安心して相談できる窓口(産業医、保健師、カウンセラーなど)を設置し、専門家によるサポートを受けられるようにします。これにより、従業員は適切な情報と支援を得ることができます。
このような限定開示ルールを設けることで、従業員は安心して自身の健康情報を企業に伝えることができ、企業はプライバシーを尊重しながら、個々の従業員が働きやすい環境を整備することが可能になります。
信頼を築くための「情報開示」と「管理術」

会社に伝えるべきことの整理(具体的ノウハウ)
社員が会社に配慮を求める際、単に自身の状態を伝えるだけでなく、具体的な解決策とセットで提案するノウハウが極めて重要です。これにより、会社側は具体的な協力体制を構築しやすくなり、双方にとってより良い職場環境の実現につながります。
- Aさんのノウハウ: 「薬の影響で眠いです」といった抽象的な訴えでは、会社側もどのように対応すべきか困惑することがあります。しかし、「午後の13時〜14時に眠気が強くなるため、その時間帯はデータ入力のような集中を要する業務を避け、資料整理やメール返信といった簡単なタスクに切り替えたい」と具体的に提案することで、会社側は業務の再配分やタスク調整を検討しやすくなります。さらに、「可能であれば、その時間帯に短時間の休憩を取らせていただくことは可能でしょうか」といった具体的な休憩時間の提案や、「集中力が求められる業務は午前中に前倒しで完了させます」といった自己管理の姿勢を示すことで、会社側も協力を惜しまなくなります。これにより、社員は安心して業務に取り組むことができ、生産性の低下も防ぐことができます。
薬の「自己管理」ノウハウ
社員が自身の健康状態や服薬状況を適切に自己管理するための支援も、会社としての重要な役割です。これにより、社員は安心して治療を継続でき、会社は社員の健康維持をサポートできます。Aさんのノウハウ: 飲み忘れを防ぐためのリマインダーアプリの活用を推奨するだけでなく、具体的なアプリの紹介や使用方法に関する情報提供も有効です。また、薬を安全に保管するための工夫として、社内の鍵付きロッカーの提供はもちろんのこと、個人の引き出しへの施錠を許可する、あるいは私物の保管場所を確保するといった配慮も考えられます。さらに、緊急時に備えて、服用中の薬の情報(薬の種類、服用量、服用時間、緊急連絡先など)を記載したカードを常に携帯するよう促すなど、多角的なサポートを通じて服薬の継続性を高めます。これにより、社員は職場での服薬に関する不安を軽減し、安定した業務遂行に繋がります。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







