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人工心臓とは?仕組み・対象者・障害者手帳との関係をわかりやすく解説【2025年最新版】

この記事の内容
はじめに(心臓病患者にとっての最後の手段としての人工心臓)

心臓病は、日本人の死亡原因の上位を占める重大な疾患です。特に心不全や心筋症といった病気が重症化すると、薬物療法や外科手術だけでは命をつなぐことが難しくなるケースがあります。
そのような状況で登場するのが「人工心臓」です。人工心臓は、心臓の機能を補助したり、完全に代替したりする医療機器であり、まさに「最後の選択肢」といえます。
人工心臓の研究自体は1960年代から始まり、日本では2000年代に入り本格的に臨床導入されました。現在主流の「植込み型補助人工心臓(VAD)」は2011年に保険適用となり、これまでに国内で数千例規模の手術が行われています。とはいえ、心臓移植の待機患者など限られた方が対象であり、実際に装着して生活している患者さんは全国でも数百~千人程度にとどまります。そのため、一般の人が「人工心臓の方」に直接出会う機会は非常に少ないのが現状です。
本記事では、人工心臓の仕組みや種類、日本での普及状況、人工心臓が必要とされる病気、そして障害者手帳との関係についてわかりやすく解説します。2025年最新版として、最新情報を踏まえて紹介しますので、人工心臓に関心のある方やご家族、また障害者雇用や福祉制度に携わる方にも役立つ内容です。
人工心臓とは?
人工心臓とは、心臓が十分に血液を送り出せない状態になったときに、その機能を補助または代替するための医療機器です。大きく分けて 「補助人工心臓(VAD)」 と 「完全植込み型人工心臓」 の2種類があります。
補助人工心臓(VAD)と完全植込み型人工心臓の違い
- 補助人工心臓(VAD:Ventricular Assist Device)
自分の心臓がまだ一部機能している患者に使用されます。ポンプのような装置が心室を補助し、血液を全身に送り出す仕組みです。心臓移植までの「ブリッジ」として導入されるケースが多く、日本でも数千例以上の実績があります。 - 完全植込み型人工心臓(Total Artificial Heart)
自分の心臓の機能を完全に置き換える装置で、心臓そのものを人工心臓に入れ替えるタイプです。まだ日本ではごく限られた臨床段階であり、一般的には使われていません。米国や欧州では研究が進んでいますが、日本での普及はこれからの課題です。
日本での普及状況と患者数
日本では、補助人工心臓(VAD)が主に使用されています。厚生労働省や日本循環器学会のデータによると、心臓移植待機中の数千人規模の患者のうち、数百人がVADを装着して生活しています。特に2010年代以降、体外設置型から植込み型VADの導入が進み、生活の質が大きく改善しました。
ただし、完全人工心臓の実用化はまだ途上であり、日本国内では「移植待機を支える補助人工心臓」が現実的な治療選択肢となっています。
人工心臓を必要とする病気
人工心臓が必要となるのは、主に以下のような重症の心疾患です。
重症心不全
心臓のポンプ機能が極端に低下し、薬物療法やペースメーカーだけでは生命維持が難しい状態。息切れやむくみが強く、日常生活に大きな制限がかかります。
心筋症(拡張型など)
心筋が異常を起こし、心臓の収縮・拡張機能が低下する病気。特に拡張型心筋症は、心臓移植の適応になることも多く、人工心臓の対象となるケースがあります。
心臓移植待機患者(補足解説)
日本では臓器提供数が少なく、心臓移植の件数も年間数十例にとどまっています。日本循環器学会の報告によると、2020年代に入っても心臓移植の実施数は年間40〜60件前後で推移しています。一方で、移植を希望して待機登録している患者は常に800〜900人程度いるといわれ、圧倒的な供給不足です。
このため、補助人工心臓(VAD)を装着して「移植待機リスト」に入り、数年単位で順番を待つ患者が多いのが現実です。中には5年以上人工心臓で生活しながら待機する方もいます。つまり人工心臓は、移植にたどり着くまでの「架け橋」であると同時に、移植に到達できない場合の「事実上の長期治療手段」にもなっているのです。
人工心臓と障害者手帳の等級
人工心臓の装着は、障害者手帳(身体障害者手帳)の認定に深く関係します。
心臓機能障害の1級は「日常生活に常時介助を要する」ケース
心臓機能障害は、その程度に応じて等級が決まります。1級は最も重度であり、「日常生活に常時介助が必要な状態」と定義されています。
人工心臓=必ず1級ではないが、ほとんどが1級相当
人工心臓を装着している患者は、機器の管理や外出制限、体力低下などから、ほとんどが1級に該当します。ただし、装着しているから自動的に1級というわけではなく、症状や生活制限の程度を踏まえて認定されます。
実際の等級認定例
公開されている自治体の認定基準では、植込み型補助人工心臓を装着している場合、ほぼ確実に1級に認定されるケースが多いとされています。これは、日常生活の制約や介助の必要性が高いためです。
人工心臓患者の生活

人工心臓を装着して生活するには、さまざまな制約や支援制度が関わります。
外出・入浴・就労における制約
- 外出
バッテリー(腰や肩から提げるバッグに収納)と制御装置を常に携帯しなければならず、長時間の外出は「バッテリー残量の管理」が必須です。旅行や遠出の際は、予備バッテリーや充電設備を持ち歩く必要があります。 - 入浴
人工心臓のコントローラーや接続ケーブルは防水仕様ではないため、全身浴は基本的にできません。シャワー時も防水カバーを使用して慎重に行う必要があり、介助が必要な場合もあります。体を濡らす行為自体がリスクにつながるため、患者さんの多くは「短時間のシャワー+部分洗浄」で清潔を保っています。 - 就労
デスクワークや在宅勤務であれば可能なケースもあります。ただし「重量物を持つ」「埃や水場で作業する」など機器に負担がかかる職場は難しく、就労先の理解が不可欠です。
医療費・維持費用と支援制度
人工心臓の手術・入院費用は 総額で数千万円規模 にのぼります。ただし実際に患者が負担する金額は、以下の制度によって大幅に軽減されます。
- 高額療養費制度
所得に応じて1か月の自己負担上限が決まり、一般的な家庭なら数万円程度に収まります。 - 自立支援医療制度(更生医療)
指定医療機関での治療費が1割負担に軽減される。 - 障害者手帳に伴う医療費助成
自治体によってはさらに医療費が助成され、自己負担がほぼゼロになるケースもあります。
つまり「数千万円の治療=実際の自己負担は数万円単位」で済むことが多く、日本の公的医療制度が大きな支えになっています。
人工心臓患者が注意すべきポイント
人工心臓を装着して生活するうえで、日常的に注意が必要な点があります。
- バッテリー残量の管理
人工心臓は電源がなければ動きません。常にバッテリー残量を確認し、予備バッテリーを携帯することが必須です。 - 感染予防
体外に出ているドライブライン(体内と装置をつなぐケーブル)の部分は感染リスクが高く、清潔管理を徹底する必要があります。 - 入浴・水濡れの制限
防水ではないため入浴方法は工夫が必要。汗をかいた後のケアも大切です。 - 運動や身体への負荷
激しい運動や重量物の持ち運びは避け、医師の指導のもとで適度な運動を行うことが望まれます。 - 外出・旅行の制約
長時間の外出や旅行では、予備機器・充電設備の携帯が必須。航空機利用時は事前申請が必要になる場合もあります。 - 緊急時の対応
機器にトラブルが起きた際の対応マニュアルを家族と共有し、救急医療機関の情報を常に把握しておくことが重要です。
人工心臓について知っておきたい重要な事実

人工心臓は命をつなぐための大切な医療機器ですが、実際に生活するうえで知っておくべき現実があります。
- 一生使える装置ではない
補助人工心臓(VAD)は、基本的に心臓移植までの「つなぎ治療」です。完全人工心臓が実用化されていない日本では、「人工心臓をつけたまま一生生活する」ことは想定されていません。 - 移植にたどり着けない患者も多い
日本の心臓移植は年間40〜60件程度に限られており、待機患者は常に800〜900人前後います。そのため、人工心臓をつけたまま数年生活し続ける人も少なくありません。 - 外見から分かりにくい制約がある
装置は衣服の下に隠れるため、見た目には普通に見える場合があります。しかし、実際にはバッテリーや機器を常に身につけており、自由に動けない・入浴が制限されるなど大きな制約があります。 - 災害や停電は命に直結するリスク
人工心臓は電源で動くため、停電や災害時には予備電源が不可欠です。家族や周囲が緊急対応の流れを把握しておくことも大切です。 - 制度に支えられている現実
数千万円の医療費も、公的保険や障害者手帳による医療費助成で自己負担は大幅に軽減されます。こうした制度があって初めて、治療が現実的になります。
こうした事実を知っておくことで、患者本人だけでなく家族や社会全体が「どう支え合うか」を考えるきっかけになります。
まとめ(人工心臓は数少ない選択肢/等級と支援制度の理解が重要)
人工心臓は、重い心臓病患者にとって「命をつなぐ最後の選択肢」です。補助人工心臓(VAD)を中心に、日本でも数千例の実績が積み重なり、移植待機中の患者の生活を支えています。
一方で、人工心臓は一生使える装置ではなく、臓器提供の少なさから「移植にたどり着けないまま人工心臓と共に生活を続ける」現実もあります。
そのため重要なのは、「治療の仕組み」と「生活上の制約」そして「制度による支え」 を正しく理解することです。人工心臓を装着した患者の多くは障害者手帳の1級に認定され、医療費助成や生活支援制度を利用しながら日々を送っています。これらの制度は患者と家族の大きな支えとなります。
また、人工心臓は外見からは分かりにくい障害であり、周囲の理解と社会的な配慮が欠かせません。企業や地域社会が正しい知識を持ち、働き方や生活を支える環境を整えることが、患者がより安心して生きられる社会につながります。
2025年現在、人工心臓はまだ限られた治療手段ですが、医療技術は着実に進歩しています。もしご自身やご家族、知人が人工心臓や心臓移植に関わる場面があれば、この記事で触れた情報や制度を思い出し、必要なサポートにつなげていただければ幸いです。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。










