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側弯症と働く|「痛み」と共に生きる力をキャリアに変える-見えない疲労を理解し、合理的配慮で“自分らしい働き方”を実現する方法

この記事の内容
はじめに|側弯症は「見た目だけではない」疲労との闘い

側弯症(そくわんしょう)は、背骨の変形という外見に目が行きがちですが、その本質は、慢性的な痛みと、姿勢を維持しようとする無意識の努力からくる強い疲労との闘いです。この「見えない疲労」こそが、長期就労を阻む最大の壁となります。
しかし、適切な環境整備と配慮があれば、側弯症でも能力を最大限に発揮し、安定して働くことは可能です。
この記事では、側弯症の症状の正しい理解、障害者手帳の交付基準、そして職場で必要な具体的な配慮について徹底解説します。
側弯症の基礎知識と障害者手帳の境界線
側弯症とは?症状の重さと進行度
側弯症は、背骨がS字やC字に曲がる病気です。医師はコブ角(Cobb angle)という角度で重症度を判断し、この角度が大きくなるほど、体への負担が増します。進行性の病気であるため、治療と並行して、長期的な視点でのキャリアプランが必要です。
障害者手帳の交付基準(体幹機能障害・呼吸器機能障害)
側弯症と身体障害者手帳の交付について
側弯症と診断された方すべてが身体障害者手帳の対象となるわけではありません。身体障害者手帳は、その障害が日常生活や社会生活に著しい制限をもたらす場合に交付されるものです。軽度・中度の場合
原則として、軽度から中度の側弯症の場合、日常生活に大きな支障がないと判断されるため、身体障害者手帳の交付対象外となります。例えば、学校生活や通常の仕事、家事などが問題なく行える場合は、手帳の必要性は低いと考えられます。これは、側弯症の変形が軽度であれば、姿勢の保持や運動機能に大きな影響を及ぼさないことが多いためです。交付条件
身体障害者手帳が交付される可能性があるのは、側弯症の変形が重度に進行し、坐位(座る姿勢)の保持や呼吸機能に著しい支障がある場合です。具体的には、以下のような状態が該当します。
- 坐位保持の困難: 脊柱の重度な湾曲により、安定して座り続けることが困難な場合。これは、学業や仕事、食事など、座って行う活動全般に大きな支障をきたします。特に、長時間座位を保つことができないために、特定の職種に就くことが困難になるケースも考えられます。
- 呼吸機能の低下: 胸郭の著しい変形によって、肺が圧迫され、呼吸機能が低下している場合。これは「呼吸器機能障害」として認定される可能性があります。呼吸機能の低下は、息切れや動悸、運動能力の著しい低下を招き、日常生活における活動範囲を大幅に制限します。階段の昇降や少しの運動でも息苦しさを感じたり、ひどい場合には安静時にも呼吸困難を伴うことがあります。
身体障害者手帳の申請には、医師の診断書や意見書が必要となります。側弯症の重症度やそれによって引き起こされる具体的な機能障害の程度が詳細に記載された書類を提出し、自治体の審査を受けることになります。手帳の交付が認められた場合、等級に応じた様々な福祉サービスや支援が受けられるようになります。
就労で直面する3つの大きな課題

側弯症を持つ方が職場で能力を発揮するためには、これらの課題への事前対策が不可欠です。
課題1:慢性的な「疼痛(とうつう)」と疲労
- 内容: 体のバランスが崩れることによる腰痛や背中の痛み、そして姿勢を保とうとする無意識の努力が、集中力と体力を奪います。この「見えない努力」が、脳疲労を引き起こし、業務効率を低下させます。
課題2:長時間の「座位」が引き起こす問題
- 内容: デスクワークで長時間座り続けることは、背骨の曲がりに負荷をかけ、痛みを悪化させます。一般的なオフィスチェアでは、正しい姿勢を保つことが難しくなり、業務効率を著しく低下させることになります。
課題3:周囲の「見えない苦悩」への無理解
外見の症状が目立たない「見えない障害」(精神障害や内部障害など)を持つ社員は、職場で最も深刻な誤解に直面します。
- 内容: 外見の症状が目立たない場合、「座っているだけなのに疲れている」「休憩が多い」といった行動が、周囲から「サボり」「体力が足りない」と誤解されやすいです。この無理解は、本人に「自分は信頼されていない」という孤独感と自己肯定感の低下を招き、離職の大きな原因となります。
解決策:職場の「共通認識」を構築する戦略
この誤解を解消し、社員の心理的安全性を確保するためには、人事と上司が主導した戦略的な情報共有が必要です。
- アクション1:本人の同意を得た上での「特性の言語化」: 単に「精神障害です」と伝えるのではなく、「この方の特性上、午後は集中力が落ちるため、15分ごとに短い休憩が必要です」といった、『配慮の理由』を明確に言語化し、関係部署やチーム内で共有します。
- アクション2:休憩を「業務プロセス」として扱う: 休憩を「個人的なサボり」ではなく、「午後の生産性を回復させるための必要な業務プロセス」として位置づけます。上司は、「疲れたら休んでいいよ」という曖昧な言葉ではなく、「休憩は、あなたの責任ある業務の一部です」と伝えます。
- アクション3:全社員向けの啓発研修: 人事部主導で、「見えない障害がもたらす疲労のリアル」についての研修(e-ラーニングなど)を実施します。これは、同僚に「知識」を与えることで、無意識の偏見や誤解(バイアス)を解消する最も有効な手段です。
この戦略的な情報開示と啓発が、社員の孤立を防ぎ、職場を真の協力体制へと導きます。
職場で必須の「合理的配慮」と環境調整術
休憩と姿勢管理のための機器導入
体への負担を分散させ、痛みを軽減するための専門的な機器導入は、最も効果的な配慮の一つです。
- 具体的な配慮: 体への負担を分散させるための高機能なオフィスチェア(エルゴノミクスチェア)、業務中の短時間休憩(リクライニング休憩)を可能にする環境整備。昇降デスク(スタンディングデスク)の導入も、長時間の座位による負担を軽減するのに役立ちます。
勤務形態の柔軟化
- 内容: 慢性的な痛みが強い日のために、テレワークやコアタイムの柔軟なフレックスタイム制度を活用し、通勤の負担を減らす。出勤後の疲労を最小限に抑えることが、午後の生産性を高めます。
業務内容の調整
- 内容: 重い物の運搬や、長時間立ちっぱなしの業務からの免除。座り作業と軽い移動を組み合わせるなど、業務に多様性を持たせる工夫が、一つの姿勢に固執することによる痛みの悪化を防ぎます。
側弯症を持つ社員の「強み」とキャリアパス
特性を活かした「強み」
- 内容: 自身の体調管理に非常に長けている点、集中力の維持(体調が安定していれば)、緻密な作業の正確性など。体調を維持するために自己管理を徹底する能力は、どんな仕事でも評価される強みとなります。
安定就労とキャリア継続
- 内容: 医療・健康管理に携わる職種や、データ分析など、自身の特性を活かし、体の負担が少ないデスクワークで専門性を高めるキャリアパス。体調管理のプロとしての経験は、キャリアを継続するための大きな武器となります。
まとめ:痛みを乗り越え、自分らしく働くために

側弯症と働くということは、「見えない疲労」との賢明な闘いです。この闘いを乗り越え、自分らしいキャリアを築く鍵は、症状の正しい理解と、職場の環境を能動的に変えることにあります。
企業側(人事・管理者)へ
側弯症への配慮は、単なる同情ではありません。それは、「個別の環境調整」という名の生産性への投資です。高機能チェアや昇降デスクの導入、柔軟な休憩の提供は、社員の慢性的な痛みを軽減し、午後の集中力を劇的に回復させます。社員の能力を最大限に引き出すため、痛みを我慢させない仕組みを積極的に構築してください。
当事者(求職者・社員)へ
- 「体のSOSを正直に伝える勇気」が、あなた自身のキャリアを守ります。痛みを我慢して働き続けることは、病状を悪化させ、最終的に離職につながります。
- 必要な配慮を具体的に求め、環境を自ら整えることが、長期就労への最強の戦略です。あなたの「痛みと共に生きる力」を、仕事という形で社会に貢献し続けてください。
誰もが安心して能力を発揮できる社会は、企業と当事者の勇気ある一歩から生まれます。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







