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合理的配慮を“伝える力”がキャリアを変える

この記事の内容
― 受け身の配慮から「協働の配慮」へ。職場で自分らしく働くための対話スキル ―
はじめに|「配慮してもらうのは申し訳ない」と思っていませんか?
障害者雇用で働く人の多くが、職場でこう感じた経験があるのではないでしょうか。
「他の人より休憩が多い」「体調を理由に早退した」――。
頭では「仕方がない」と分かっていても、心のどこかで「迷惑をかけているのでは」と自分を責めてしまう。
しかし、その“遠慮”が続くと、仕事への自信を失い、最悪の場合は離職につながってしまいます。
本来、合理的配慮は「甘え」ではなく、「働く力を発揮するための環境調整」です。
本記事では、障害のある当事者が職場で自分らしく働き続けるために必要な
“伝える力”と“協働の姿勢”について、実務レベルで解説します。
「合理的配慮」とは何か?企業と当事者の“約束”としての位置づけ

「合理的配慮」という言葉は、障害者雇用促進法で定義されています。
簡単に言えば、「障害のある人が他の人と同じように働けるようにするための調整」のこと。
例えば、次のような配慮が挙げられます。
- 通院や体調変動を考慮した勤務時間の調整
- 雑音を減らすための静かな作業環境の確保
- 業務内容を分かりやすく可視化したマニュアルの整備
- コミュニケーションの方法(口頭→チャットやメモ)を柔軟に変更 など
つまり合理的配慮とは、「特別扱い」ではなく「働くための土台づくり」なのです。
企業にとっても、これは「コスト」ではなく「投資」です。
配慮があることで離職が減り、人材が定着すれば、結果的に企業の成長にもつながります。
合理的配慮は、企業と当事者が“協力して職場をつくる”ための約束と考えるべきなのです。
当事者ができる「伝え方」の工夫
配慮を受けるためには、まず「自分の状態を理解し、適切に伝える」ことが欠かせません。
これは決して簡単ではありませんが、次の3ステップで整理することで、
相手に伝わる形に変えることができます。
ステップ1:自己理解を深める
自分の得意・不得意、体調が不安定になるタイミング、集中しやすい環境などを具体的に書き出します。
「この時間帯は頭が働きやすい」「人が多いと集中できない」「締め切り前に不安が強くなる」など、
客観的に言語化することが大切です。
これが“自己分析”であり、配慮の出発点になります。
ステップ2:「配慮内容」ではなく「目的」を伝える
よくある伝え方は、「〇〇が苦手です」「〇〇をしてほしい」というもの。
しかし、これだけでは相手に“なぜ必要なのか”が伝わりにくくなります。
例えば次のように言い換えると、建設的な印象になります。
- NG:「朝が弱いので、10時出社にしてほしい」
- OK:「朝の通勤混雑で体調を崩すことが多いため、10時出社にすることで安定して勤務できます」
目的(=安定した勤務)を明確にすれば、企業側も納得しやすく、協力的になりやすいのです。
ステップ3:協働の姿勢で話す
「お願い」ではなく「提案」として話す意識を持ちましょう。
- 「もし可能でしたら、〇〇の方法も試してみたいです」
- 「こうした環境があれば、より安定して成果を出せます」
このような伝え方は、上司や人事に“共に働く仲間”という印象を与えます。
それが信頼につながり、結果的に働きやすさを支えることになるのです。
企業が“配慮しやすい人”になるためのポイント

配慮は、言えば必ず実現するわけではありません。
企業側も「どうすれば無理なく対応できるか」を探っている段階です。
そんな中で、“配慮しやすい人”になる工夫をしておくと、信頼関係が生まれます。
① 感謝を言葉にする
「ありがとうございます」「助かりました」の一言は、何よりの信頼構築ツールです。
上司や同僚が「やってよかった」と思える関係を築くことが、次の配慮につながります。
② 報連相を丁寧にする
「体調が悪い」だけでなく、「こういうサインが出ているので今日は早めに上がります」など、
具体的に説明することで、相手に“予測可能性”を与えます。
予測できる状況は、不安を減らし、安心して任せてもらえる信頼の基盤になります。
③ 小さな成功体験を共有する
「この配慮を導入してもらったことで、〇〇の業務がスムーズに進みました」
といった報告は、企業にとっても“配慮が効果的だった証拠”になります。
それが次の配慮や職場改善の前例になるのです。
職場環境を変える「声の上げ方」
いくら努力しても、すべての企業がすぐに理解してくれるとは限りません。
それでも諦めずに「声を上げる」方法はあります。
● 一人で抱え込まない
まずは、社内の人事・産業医・上司などに相談します。
社内に理解者がいない場合は、地域障害者職業センターやハローワークの専門援助窓口、
またはジョブコーチなどの外部機関を活用しましょう。
第三者が入ることで、感情的な衝突を避け、建設的な調整がしやすくなります。
● 「個人の要望」から「職場全体の改善提案」へ
「私のために変えてほしい」ではなく、
「こうした仕組みがあれば、同じ課題を持つ人にも役立ちます」と伝えることで、
企業も前向きに検討しやすくなります。
● 伝えた後は“待つ勇気”も大切
配慮の導入には、上司や本社、人事部など複数の調整が必要な場合もあります。
一度伝えたら、相手が動ける時間を尊重する姿勢も信頼につながります。
まとめ|「伝える力」は、働き続ける力になる

合理的配慮とは、
「助けてもらうための仕組み」ではなく、
「能力を発揮するための環境づくり」です。
そのためには、当事者自身が“伝える力”を身につけることが欠かせません。
遠慮や我慢ではなく、対話と協働で自分らしい働き方を築くこと。
それが、キャリアを守り、長く働き続けるための最も確かな力になります。あなたの声が、次の誰かの働きやすさにつながるかもしれません。
今日から少しずつ、職場での「伝える一歩」を踏み出してみてください。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







