2025/08/19
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精神障害で二次障害が起きる理由と、その防ぎ方|原因・症状・予防のポイントを解説

はじめに

精神障害を抱える人にとって「二次障害」は決して珍しいことではありません。
二次障害とは、発達障害やうつ病、統合失調症といった一次障害に付随して起こる症状のことを指します。

多くの人が「本人の努力不足や性格の問題」と誤解しがちですが、実際には環境や支援体制の不足によって引き起こされるケースが非常に多いのです。

この記事では、

  • 二次障害とは何か
  • なぜ精神障害に付随して起きるのか
  • 日常生活や仕事の中でどのように予防できるのか

を整理して解説します。正しい知識を得ることで、当事者本人だけでなく家族や支援者も「防げる二次障害」に対応しやすくなるはずです。


二次障害とは?

一次障害との違い

まずは一次障害と二次障害の違いを明確にしておきましょう。

  • 一次障害:発達障害、うつ病、統合失調症など、医学的に診断される「根本的な障害」
  • 二次障害:一次障害に起因して後から現れる症状や問題行動

一次障害そのものが直接の原因ではなく、周囲の理解不足・生活環境の困難さ・心理的ストレスなどによって、二次障害が引き起こされます。

二次障害の代表例

精神障害に伴って起こりやすい二次障害には、以下のようなものがあります。

  • うつ病・不安障害・パニック障害
    強いストレスや孤立感から、気分障害や不安障害を発症することがあります。
  • アルコール・薬物・ネット依存
    不安や孤独感から逃れるために依存症に進行するケースもあります。
  • 心身症(頭痛・胃腸障害・不眠など)
    精神的な負担が身体症状として現れ、生活の質を大きく下げてしまいます。
  • 自傷行為・希死念慮
    強い無力感や絶望感から、自分を傷つける行為につながることもあります。

精神障害で二次障害が起きる理由

二次障害が起きる背景には、心理的・環境的・社会的・医療支援の4つの要因が複雑に絡み合っています。単一の原因で起こることは少なく、複数の要因が重なることで発症リスクが高まります。

心理的要因

  • 自己肯定感の低下
  • 「できない自分」への劣等感

精神障害を抱えていると、日常生活や仕事の中で「できないこと」が増えがちです。その結果、「自分は役に立たない」「迷惑をかけている」という思い込みが強まり、自己否定に陥ることがあります。
特に真面目で責任感の強い人ほど、自分を責める傾向が強く、二次障害につながりやすい傾向があります。


環境要因

  • 学校や職場でのいじめ、ハラスメント
  • 家庭内の不和や過度な期待

人間関係のストレスは、一次障害を大きく悪化させる要因です。たとえば、学校でのいじめや職場でのパワハラは、症状を抱えた人にとって大きな負担になります。
また、家庭内で「もっと頑張れ」「普通にやればできる」といった過度な期待や否定的な言葉を浴び続けることも、二次障害を引き起こす大きなリスクです。


社会的要因

  • 偏見や誤解による孤立
  • 周囲の無理解

精神障害に対する社会の理解はまだ十分とはいえません。「怠けているだけ」「甘えている」という誤解は根強く、当事者が孤立する原因になります。
周囲のサポートを得られないまま孤立が続くと、不安障害や依存症、自傷行為などに発展するケースもあります。


医療・支援不足

  • 適切な診断が遅れる
  • 継続的な治療や支援が受けられない

精神障害は目に見えにくく、医療につながるまでに時間がかかることが多いです。診断が遅れることで治療のタイミングを逃し、症状が進行しやすくなります。
また、経済的な理由や制度の利用方法を知らないことから、治療や支援が途切れてしまうケースも少なくありません。その結果、一次障害が悪化し、二次障害が引き起こされます。


具体例

  • 発達障害の人が職場で失敗を繰り返すケース
    → 周囲の理解やサポートが得られず、自信を喪失 → うつ病を発症。
  • うつ病の人が孤立してしまうケース
    → 誰にも相談できず、医療につながれない → 不安障害や依存症に進展。
  • 統合失調症の人が治療を中断したケース
    → 症状が悪化し、仕事や生活に支障 → 自傷行為や社会的孤立につながる。

二次障害が生活・仕事に与える影響

二次障害は「心の問題」にとどまらず、生活全般や仕事、人間関係に大きな影響を与えます。一次障害そのもの以上に日常生活を難しくすることも多く、早めの気づきと対処が重要です。

日常生活への影響

  • 睡眠障害・生活リズムの乱れ
    夜眠れない、昼夜逆転するなど、睡眠リズムが崩れることで体調不良や倦怠感が続きます。
  • 家庭内不和
    気分の浮き沈みやイライラが増えることで、家族との関係が悪化するケースも少なくありません。
    → 家庭内での摩擦はさらにストレスを増やし、悪循環に陥ります。

仕事への影響

  • 集中困難
    頭がぼんやりして仕事に集中できず、ミスが増える傾向があります。
  • 欠勤・離職リスク
    体調不良や気分の落ち込みが続くことで、欠勤が増え、最終的には離職につながることもあります。
  • キャリア停滞
    長期的に働き続けられず、キャリア形成に遅れが出ることもあります。これは本人にとって大きな不安要因になります。

人間関係への影響

  • 孤立
    周囲に理解されないまま悩みを抱え込むことで、人付き合いを避けるようになり、孤立が進みます。
  • 誤解によるトラブル増加
    精神障害や二次障害に対する知識不足から、職場や学校で「わがまま」「怠けている」と誤解されることが多く、人間関係のトラブルにつながります。

学校や職場での初期対応

  1. 傾聴する(まずは話を聞く)
    • 「どうしてそんなことを言うの?」ではなく「つらかったね」「話してくれてありがとう」と受け止める姿勢が大切。
    • 否定やアドバイスよりも、安心して吐き出せる環境を作ることが第一歩です。
  2. 安心できる環境を整える
    • 学校なら、静かな保健室や相談室などに移動する。
    • 職場なら、休憩室や別室など人目を避けられる場所で話せるようにする。
  3. 責めない・決めつけない
    • 「努力が足りない」「考えすぎだ」といった言葉は逆効果。
    • 状況を整理する前に評価や指摘をすると、本人がさらに孤立してしまいます。
  4. 信頼できる専門窓口につなげる
    • 学校:スクールカウンセラー、養護教諭、担任など。
    • 職場:産業医、人事部門、外部の相談窓口。
      → 当事者一人で抱え込ませず、専門家や支援機関につなぐことが再発防止につながります。

二次障害を防ぐためのセルフケア

二次障害を予防するには、日常生活の中でできるセルフケアを意識することが大切です。医療的な治療と並行して、自分自身の習慣を整えることで再発リスクを減らせます。

生活習慣の安定化

  • 睡眠・食事・運動のリズムを整えることは、心身の安定に直結します。
  • 就寝・起床の時間を一定にし、軽い運動や栄養バランスの取れた食事を心がけることが効果的です。

ストレスマネジメント

  • 認知行動療法(CBT):考え方のクセを整理し、気分の落ち込みや不安を和らげます。
  • マインドフルネス:呼吸や「今この瞬間」に意識を向けることで、過度な不安やストレスを減らします。
  • 趣味の活用:音楽・読書・散歩など、自分に合ったリフレッシュ法を取り入れることが予防につながります。

気分や体調の記録

  • 日々の気分や体調をアプリや日記で記録しておくと、不調の兆候を早めにキャッチできます。
  • 記録を主治医や支援者に共有することで、客観的なアドバイスを受けやすくなります。

依存を防ぐ生活の工夫

  • 飲酒・ネット利用・ゲームなどは、ストレス解消に思えても依存症につながるリスクがあります。
  • 「夜はスマホを〇時以降使わない」「週に〇日は休肝日」といったルールを設けることで、セルフコントロールがしやすくなります。

発達障害のある方に向けたセルフケアの工夫

生活習慣の安定化は「環境設計」でサポート

  • ADHDの人は 忘れやすい・衝動的になりやすい 特性があるため、セルフケアの習慣化が難しい場合があります。
    タイマーやリマインダー、ToDoアプリを使って「寝る時間・薬を飲む時間・食事の時間」を可視化すると続けやすいです。
  • ASDの人は 急な変化が苦手 な傾向があるため、「朝のルーティンを固定する」「食事や睡眠のパターンを決めておく」と安心感につながります。

ストレスマネジメントは「ひとり型」と「サポート型」

  • 自分で取り組むのが難しいと感じたら、家族や支援者と一緒に練習する方法もあります。
    例:呼吸法を家族と一緒にやる、趣味の時間を友人と共有する。
  • ADHDの人は集中が途切れやすいので、短時間(5分)から始めるマインドフルネスや「体を動かす趣味」の方が続きやすいです。

気分や体調の記録は「見える化」する

  • 記録を自分でつけるのが負担なら、アプリで自動記録できる仕組みを活用すると便利です。
    例:睡眠アプリ、歩数計、気分チェックアプリ。
  • 記録は「主治医や支援者と共有する」ことを前提にすると、本人も「書くだけで役に立つ」と思えて続けやすくなります。

依存を防ぐには「ルールを外部化」する

  • ADHDは衝動性、ASDはこだわりの強さから「やめられない行動」にハマりやすいです。
    → 自分だけで制御するのではなく、家族と一緒にルールを作る/アプリで自動制限をかけることが有効です。
  • 例:「夜10時以降はWi-Fiが切れる設定にする」「ゲーム機は時間制限を設定する」

ポイントまとめ

  • 発達障害がある場合、セルフケアは 「自分だけで頑張らない」ことが重要
  • 環境を工夫する/支援者と一緒にやる/ツールを活用する ことで継続が可能になります。
  • 「完璧にやる」ことを目指すのではなく、少しずつ積み重ねることが二次障害予防につながります。

二次障害を防ぐための環境調整

二次障害を防ぐには、本人のセルフケアだけでなく、家庭・職場・学校などの環境を整えることが大切です。安心できる環境があれば、症状の悪化や再発を防ぐ力になります。

家庭でできる工夫

  • 安心感を与える声かけ
    「大丈夫だよ」「無理しなくていいよ」といった言葉が、本人の安心につながります。
  • 「頑張れ」という言葉を避ける
    一見励ましの言葉ですが、プレッシャーとなり逆効果になることがあります。代わりに「一緒に考えよう」と寄り添う姿勢が効果的です。

職場での工夫

  • 業務量の調整・時短勤務・在宅勤務
    症状や体調に合わせて勤務形態を柔軟にすることで、長期的な就労継続が可能になります。
  • チェックリストやマニュアルの活用
    作業を可視化し、抜け漏れを防ぐ工夫は安心感を与えます。特にADHDやASDの人に有効です。

学校での配慮

  • 支援学級の活用
    学習環境を調整することで、ストレスを減らし、自己肯定感を育てられます。
  • スクールカウンセラーとの相談
    定期的に話せる場所があるだけで、孤立感の軽減や再発防止につながります。

具体例

  • 定期的な面談で再発を防いだケース
    職場で月1回の面談を設けることで、症状の変化を早めに把握し、長期的に働き続けられた例があります。
  • ジョブコーチのサポートが役立ったケース
    仕事上の課題を一緒に整理し、必要な配慮を企業に伝えることで、二次障害の悪化を防げた事例があります。

利用できる支援制度

日本には、精神障害や二次障害を持つ人を支えるための制度が整備されています。これらを早めに活用することで、生活や就労を安定させることができます。

医療機関でのサポート

  • 精神科・心療内科での診断と治療
  • 必要に応じた薬物療法や心理療法

福祉サービス

  • 障害者手帳:雇用や福祉制度を利用しやすくなる
  • 自立支援医療制度:医療費の自己負担を軽減
  • 障害年金:生活の経済的支えになる

就労支援

  • 障害者雇用枠:配慮のある職場で働きやすい
  • 就労移行支援事業所:就職に向けた訓練やサポート
  • ジョブコーチ制度:職場定着をサポート

家族向け支援

  • 家族会:同じ悩みを持つ人との交流や情報交換
  • 自治体の相談窓口:生活や制度の相談が可能
  • ピアサポートグループ:経験者の声から学び、安心感を得られる

まとめ|当事者と家族、そして社会へのメッセージ

二次障害は決して「本人の弱さ」や「努力不足」から起きるものではありません。
その多くは、環境のストレスや支援の不足によって引き起こされます。

予防のカギは、

  • 早期対応
  • 環境調整
  • セルフケア
  • 制度の活用

の4つです。

しかし本当に大切なのは、当事者や家族だけに負担を背負わせないこと。
周囲の理解や小さな配慮が、二次障害を防ぎ、安心して暮らせる社会を作ります。

私たち一人ひとりの意識が変われば、学校も、職場も、地域社会も「安心して弱音を吐ける場所」になれます。
それは決して遠い未来の話ではなく、今から作っていける現実です。当事者の声に耳を傾け、支え合う輪を広げていくことで、誰もが自分らしく働き、生きていける社会は必ず実現できます。
一人で抱え込まず、支援を頼りながら、そして周囲も共に歩みながら、「安心できる生活と仕事」を築いていきましょう。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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