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障害種別で変わる合理的配慮|職場の課題と定着を成功させる実践ガイド

この記事の内容
はじめに|障害者雇用を成功させる「理解」という土台

障害者雇用を進めるうえで、「マニュアルを渡すだけ」「静かな席を用意するだけ」といった一律の対応では、社員の定着は困難です。成功の鍵は、「障害の種類ごとの特性」を深く理解し、その特性に合わせた柔軟な合理的配慮を行うことにあります。
この記事では、代表的な3つの障害種別(精神・発達・身体)ごとに、就労でぶつかりやすい課題と、職場でできる具体的な配慮のヒントを紹介します。
本記事が、貴社のダイバーシティ推進と、社員の長期定着に向けた実践的な土台となることを願っています。
精神障害(うつ病・双極性障害など):波のある体調と職場の理解
精神障害は、外見からは症状が分かりにくいため、体調管理において「柔軟な時間管理」と「心理的安全性」の確保が不可欠です。
よくある就労課題
精神障害(うつ病、双極性障害、統合失調症など)を持つ社員が抱える最大の課題は、「体調と集中力の波」です。これは、薬の改良が進んだ現在でも、長期就労を考える上で避けて通れない現実です。
- 集中力・持続力の不安定さ: 症状や薬の影響で、午前中は特に意欲が上がらず集中力が続かない、あるいは急に強い疲労感に襲われることがあります。薬は改良されていますが、治療効果と引き換えに眠気や倦怠感が残るケースも少なくありません。
- 日内変動の存在: 「午後からの方が集中力が高い」「夕方になると極端に疲れる」といった日内変動(一日のうちでの体調の変化)があるのが特性です。この体調の波は、個人の意志の問題ではなく、脳内の神経伝達物質のバランスや睡眠リズムの乱れが影響している医学的な事実です。
- 環境の変化への弱さ: 職場の人間関係のトラブルや、急な業務内容の変更が、再発のトリガー(引き金)になりやすいです。強いプレッシャーや過度なストレスは、症状を悪化させる最大の要因となります。
- ストレスサインが隠れやすい: 外見からは症状が分かりにくいため、体調が悪いことを周囲に気づかれず、本人も「迷惑をかけたくない」と無理をしてしまいがちです。これが限界を超えると、結果的に長期離脱(休職)につながります。
職場でできる配慮(業務量調整、ストレスサインの共有など)

精神障害を持つ社員への配慮は、「柔軟な時間管理」と「心理的安全性」の確保が柱となります。
- 勤務時間・業務量の調整:
- フレックスタイム制: 体調の波に合わせて出勤時間を調整できるようにします。「午後からの方が集中力が高い」という特性を活かし、最も生産性の高い時間帯に働けるようにします。
- 業務量の調整と可視化: 納期やタスクの優先順位を明確にし、無理のない業務量を割り当てます。
- ストレスサインの共有:
- 本人との合意: 体調が悪化する前の「SOSサイン」(例:残業が増える、雑談が減る)を本人と上司の間で共有しておき、サインが出たらすぐに面談を行うルールを設けます。
- 相談体制の構築:
- 定期面談: 上司による週1回程度の短い定期面談を実施し、業務の進捗と体調をチェックします。これは監視ではなく、早期のリスク察知が目的です。
発達障害(ASD・ADHDなど):コミュニケーションと環境の合わなさ
発達障害を持つ社員は、特性を活かせれば非常に高い専門性を発揮しますが、環境が合わないとミスが増え、自己肯定感を失いやすいです。
よくある就労課題
- コミュニケーションのミスマッチ: ASD(自閉スペクトラム症)の特性などにより、曖昧な指示や場の空気を読むことが難しく、人間関係で孤立しがちです。
- マルチタスクの困難: ADHD(注意欠如・多動症)の特性などにより、複数の仕事を同時に進めたり、急な割り込みタスクに対応したりするのが苦手です。
- 感覚過敏: 職場の騒音、蛍光灯の光、人の動きなどが過剰な刺激となり、集中力を著しく低下させます。
職場でできる配慮(明確な指示、感覚過敏対策など)
支援の核は、「曖昧さの排除」と「集中環境の確保」です。
- 明確な指示と記録:
- 指示の言語化: 業務の指示は口頭ではなく、チャットやメールで「文字」として明確に伝えます(5W1Hの徹底)。
- タスクの細分化: 複数のタスクを一度に振らず、一つずつ順番に完了させる「シングルタスク運用」を基本とします。
- 感覚過敏対策:
- 環境整備: ノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可したり、騒音や人の動きが少ない壁際の席に配置したりします。
- 特性を活かした配置:
- 業務の特化: 強いこだわりや集中力を活かし、データ入力、検品、マニュアル作成など、緻密さや反復作業が求められる業務を任せます。
身体障害:環境整備と「遠慮しない配慮」の必要性
身体障害を持つ社員への配慮は、主に「物理的なバリアの解消」と「体力的な負担の軽減」に焦点を当てます。
物理的なバリアと移動の制約
- 通勤の負担: 満員電車や長時間の通勤が、体力を奪い、仕事への集中力を低下させます。
- 職場内の課題: 車いすユーザーにとって、段差、狭い通路、不十分なバリアフリートイレなど、職場内の物理的なバリアが大きな課題です。
職場でできる配慮(バリアフリー・機器導入・通勤支援)
- リモートワークとフレックスの活用:
- 通勤支援: 在宅勤務やフレックスタイム制を活用し、通勤の負担をゼロにするか、ラッシュ時間を避けることで疲労の蓄積を防ぎます。
- 環境整備と機器導入:
- 物理的な配慮: 車いすでの移動に適したデスクや通路の確保、多機能トイレの改修。
- 機器導入: エルゴノミクスに基づいた入力機器、座位保持のための専用チェアなど、業務に必要な機器の導入を検討します。
- 「遠慮しない」ヒアリング:
- 企業側から「何ができて、何ができないか」を遠慮せず本人にヒアリングし、過剰なサポートを避け、本当に必要な支援に集中することが大切です。
共通する支援のポイントとまとめ

共通する支援のポイント
どの障害にも共通する「壁」を壊し、定着に繋げるために、以下の3点が不可欠です。
- 「本人の声を聞く姿勢」: 配慮は、マニュアルや診断名だけで決めず、本人が「何に一番困っているか」を丁寧にヒアリングすることから始まります。
- 「制度と柔軟さの両立」: 法定された制度(合理的配慮)を理解しつつ、それを超える「人間的な柔軟さ」をもって対応することが、社員の企業へのロイヤリティ(愛着)を高めます。
- 「定着支援の重要性」: 入社時だけでなく、入社後も産業医やジョブコーチなどの支援機関と連携し、体調や業務内容の変化に合わせてサポートを見直す継続的な体制が、長期就労につながります。
まとめ|「理解する」ことが、最も効果的な配慮です
障害者雇用を成功させる鍵は、制度やマニュアルではなく、現場の「理解」という土台にあります。
1. 障害種別を超えた「働きやすさ」の共通項
- 精神・発達障害を持つ方へ: 集中力の波や環境の変化への弱さといった特性は、適切な配慮によって克服できます。「柔軟な時間管理(フレックス)」と「曖昧さの排除(明確な指示)」こそが、あなたの能力を最大限に引き出す戦略です。
- 身体障害を持つ方へ: 物理的なバリアや体力的な制約は、リモートワークや機器導入、そして「遠慮しないヒアリング」によって解消できます。
2. 企業の成長に繋がる「共感」という投資
人事・管理職の皆様へ
「理解する」ことは、最も効果的な配慮です。一人ひとりの障害特性を正しく理解し、それに見合った働き方や環境を一緒に考えることが、社員の能力を最大限に引き出し、企業の成長を支える土台となります。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







