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障害者YouTuberが増えている理由とは?発信テーマから見る“多様性”と新しい生き方

この記事の内容
はじめに:いま、障害者YouTuberが増えている背景

近年、障害者による動画発信が注目されています。それは、YouTubeというプラットフォームが、これまで「語られなかったリアル」を発信する場となったからです。
SNS・YouTubeでの発信は、「自分らしさ」の追求、「理解促進」、そして「居場所づくり」に直結しています。障害者YouTuberは、単なるエンターテイナーではなく、自らの日常や仕事のリアルをオープンにすることで、同じ悩みを持つ人々に共感と希望を与え、社会変革を促す「ロールモデル」としての役割を担っています。
本稿では、障害者YouTuberが何を伝え、視聴者が何を求めているのか、その動機と社会に与える影響を深く掘り下げていきます。
発信者の多様性:どんな人たちがYouTubeを活用しているのか
障害者YouTuberの最大の強みは、その多様性にあります。YouTubeのアクセシビリティ向上とスマートフォンの普及により、誰もが発信できる時代が到来しました。
- 身体障害・聴覚障害・発達障害・知的障害など、発信層の広がり: 車いすユーザーや聴覚障害者の生活だけでなく、外見からは分かりにくい精神障害や発達障害を持つ人々が、「心の壁」や「生きづらさ」を言語化し、共感を呼んでいます。
- 個人での発信、家族チャンネル、福祉団体によるチャンネルなど形態の違い: 発信の形態は多様です。個人が自らの生活を発信するチャンネルもあれば、知的障害を持つお子さんの成長を親が記録する「家族チャンネル」、さらには福祉団体が啓発目的で運営するチャンネルも増えています。
- 年齢・性別・居住地も幅広く、誰でも発信できる時代へ: 発信者の年齢や性別、居住地も幅広いです。特別な機材は不要で、スマートフォン一つあれば始められるため、誰もがアクセスできるプラットフォームとなっています。
- テクノロジーの進化が後押ししている: 音声入力、自動字幕機能といったテクノロジーの進化が、聴覚・身体的な制約を持つ人々の編集・発信の負担を大幅に軽減し、活動を後押ししています。
人気障害者YouTuberたちの発信テーマ

人気YouTuberたちの発信テーマは、彼らの生活や障害特性と深く結びついており、視聴者が求めるリアルな情報を提供しています。
- 「聴覚障害 × 日常生活」例:難聴ユカコ: 手話、人工内耳を使ったコミュニケーション、家族関係、社会での聞き間違いや苦労などをオープンに語り、聴覚障害への理解を深めています。
- 「車いす × ライフスタイル」例:渋谷真子: バリアフリー情報、旅行、美容、ファッションなど、障害があってもポジティブに生活を楽しむライフスタイルを発信し、視聴者に希望を与えています。
- 「知的障害 × 家族発信」例:このはチャンネル・うーちゃんねる: 知的障害を持つ家族の成長、日々の通所、家族の喜びや悩みを共有し、障害を持つ子の親御さんや、支援者への貴重な情報を提供しています。
- 「重度身体障害 × 表現活動」例:あそどっぐ: 笑い、アート、社会風刺など、障害を個性として捉え、ユーモアを交えて表現することで、視聴者の固定観念を壊しています。
- 発信の多様性: 障害そのものを“主題化”し、制度や知識を伝える人もいれば、障害を“個人の人生の一部”として捉え、趣味や日常を発信する人もいます。
なぜ発信するのか? その動機とメッセージ
障害者YouTuberが活動を続ける動機は、単なる収益化に留まらず、社会的な使命感や深い個人的な目標に根ざしています。
- 「同じ境遇の人に勇気を届けたい」「誤解や偏見をなくしたい」: 自らの経験をオープンにすることで、今まさに同じ悩みを抱える人に対して「大丈夫だ」という希望を与え、社会への理解を深めることを目指しています。
- 「自分の生き方を仕事に変えたい」「障害も個性のひとつとして伝えたい」: 発信活動を通じて収益化を図り、障害の有無に関わらない「新しい働き方」を確立しています。これは、障害を個性や才能の一部として捉える、自己肯定感の現れでもあります。
- 「見られる怖さ」「誹謗中傷との向き合い」もある: 発信は「社会との対話」である反面、心無いコメントや差別的な発言といった誹謗中傷に晒されるリスクもあります。しかし、それでも続けるのは、“共感の声”と“社会の変化”を信じているからです。
YouTubeが生む変化:福祉と社会の距離が近づく
障害者YouTuberの活動は、社会の意識や構造に具体的な変化をもたらし始めています。
- 一般の視聴者が「知らなかった現実」に触れる: 動画という視覚的なメディアを通じて、健常者の視聴者が、障害者の日常生活や困難を「自分事」として捉えるようになります。
- 教育・企業研修などでも動画が教材化されるケースも: 動画は、文字情報よりもインパクトがあり、理解を促しやすいです。企業の障害者雇用研修や、学校のダイバーシティ教育の教材として、YouTuberの動画が活用される事例が増えています。
- 当事者発信が「支援のあり方」を変え始めている: 「支えられる」側から「伝える」側へと立場が変わることで、行政や企業に対しても、より現実的な支援のあり方を提言できるようになりました。
課題もある:収益化・誹謗中傷・発信疲れ
発信活動を継続するには、多くの困難が伴います。
- 再生数・収益のハードル: 動画の企画や編集には多大な時間と労力がかかりますが、再生数・収益のハードルは高く、活動を継続するための経済的な基盤づくりが課題です。
- ネガティブコメントや差別的発言への対応: 精神的な負担となるネガティブコメントや差別的発言に、継続的に向き合い続けなければなりません。
- 継続的に発信を続ける難しさ: 病気の波や体力の制約の中で、定期的な動画制作を続ける「発信疲れ」も大きな課題です。それでも続ける人たちの支えは、視聴者からの“共感の声”と“社会の変化”です。
これからの展望:障害者×発信の未来

- 企業・自治体・メディアとのコラボ事例が増えている: 企業はダイバーシティ推進の一環として、YouTuberと連携した商品開発やプロモーションを行う事例が増えており、活動の幅が広がっています。
- 若年層を中心に「ロールモデル」としての影響力が拡大: YouTubeは、障害を持つ若年層にとって、「こんな生き方もあるんだ」という新しいキャリアや人生の目標を示す、強力なロールモデルとなっています。
- 「伝えること」が“働くこと”や“社会参加”の新しい形になる時代へ: 発信活動自体が、「障害特性を活かした新しい仕事」として成立する時代になりつつあります。
発信の力が社会を変える
障害者YouTuberは、単なる自己表現の場としてYouTubeを利用しているだけでなく、社会に対して積極的に働きかけ、「社会変革」を同時に推進する重要な存在です。彼らの活動は、個人の尊厳を守り、多様性を尊重する「共生社会」の実現に向けた具体的な一歩と言えます。
障害を持つ人々が自身の経験や意見を語ることは、「弱さの露出」と誤解されがちですが、決してそうではありません。むしろ、それは共生社会のリアルを社会に伝え、人々の意識を変化させるための、極めて勇気ある行為です。彼らの発信は、これまで社会の中で見過ごされてきた課題や偏見を浮き彫りにし、健常者が障害に対して抱く固定観念を打ち破る力を持っています。彼らが示す多様な生き方や価値観は、社会全体に新たな視点をもたらし、より包容力のある社会を築くための貴重な情報源となります。
しかし、このような重要な発信活動を継続し、さらに発展させていくためには、社会全体での支援体制が不可欠です。具体的には、企業は障害者YouTuberの活動を広告やプロモーションの機会と捉え、経済的な支援を行うことで、彼らの活動の持続可能性を高めることができます。行政は、情報アクセシビリティの向上や、障害者YouTuberが活動しやすい環境を整備するための政策を推進する必要があります。また、障害者支援団体や個人の支援者も、彼らの発信内容の企画・制作をサポートしたり、情報拡散に協力したりすることで、その影響力を増幅させることができます。
障害者YouTuberの存在は、社会の意識を啓発し、多様な人々が共存できるより良い社会を築くための希望の光です。彼らの発信を支え、共に共生社会を創造していくための仕組みを社会全体で構築することが、今、強く求められています。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







