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人工透析と仕事を両立するには?透析患者に向いている職種と働き方を解説

人工透析が必要となっても、働くことは決して不可能ではありません。本記事では、透析と仕事を両立させるための具体的な工夫や、向いている職種、利用できる支援制度について詳しくご紹介します。
人工透析とは
人工透析とは、腎臓の機能が著しく低下した場合に、体内にたまる老廃物や余分な水分を機械的に除去する治療法です。
本来、健康な腎臓は血液をろ過して体外に老廃物を排出する役割を果たしていますが、腎不全になるとこの機能が失われるため、人工的に代替する必要が生じます。
人工透析は患者の命を維持するために欠かせない治療であり、定期的かつ継続的な通院と治療が求められます。
人工透析が必要になる原因疾患
人工透析を必要とする主な原因疾患は以下の通りです。
- 糖尿病性腎症:日本における透析導入の最大原因。血糖コントロール不良によって腎機能が低下します。
- 慢性糸球体腎炎:腎臓の糸球体に慢性的な炎症が起き、徐々に機能を失っていく病気。
- 高血圧性腎症:長期間にわたる高血圧により腎臓にダメージが蓄積され、機能障害を引き起こす。
- 多発性嚢胞腎:腎臓に多数の嚢胞ができ、腎機能を低下させる遺伝性疾患。
これらの疾患により腎臓の働きが著しく損なわれると、人工透析が必要不可欠となります。
人工透析の種類
人工透析には主に血液透析と腹膜透析の2種類が存在します。
それぞれの特徴を理解し、自分のライフスタイルに合った方法を選択することが重要です。
血液透析
最も一般的な透析方法であり、週に3回、1回4時間前後の治療が必要です。
【血液透析の特徴】
- 医療機関に設置された透析装置を使用
- 血液を体外に取り出し、ダイアライザー(人工腎臓)を通して老廃物を除去
- 規則正しいスケジュールが必要
【血液透析と仕事両立の課題】
- 通院のために勤務時間の調整が必要
- 体調管理に注意が必要(特に透析直後の倦怠感)
腹膜透析
自宅で自己管理できる透析方法で、毎日行う必要があります。
【腹膜透析の特徴】
- 自宅や職場でも実施可能
- 自然な方法で老廃物を除去するため、体への負担が比較的軽い
- 機械を使わずに行う方法(CAPD)と、機械を使って夜間に自動で行う方法(APD)がある
【腹膜透析と仕事両立のメリット】
- 自由度の高いスケジュール調整が可能
- 通院頻度が血液透析に比べて少ない(1~2か月に1回程度)
それぞれにメリット・デメリットがあるため、医師とよく相談して選択することが大切です。
人工透析を行う理由
透析は単なる治療ではなく、命を守るための必須医療行為です。
透析によって体内の毒素を取り除き、電解質バランスを正常に保ち、むくみや心不全、意識障害といった合併症を防ぎます。
また、透析を継続することで、日常生活や社会生活を維持することも可能になります。
きちんと治療と自己管理を行えば、仕事を続けること、家庭生活を送ることも十分にできるのです。
人工透析が必要になったら利用できる制度

人工透析が必要になったとき、治療そのものだけでなく、生活全般にわたってさまざまな支援が必要になります。
実際、透析患者の多くは、医療費や就労、生活費の負担軽減のために、さまざまな公的制度を利用しています。
ここでは、人工透析を受ける方が活用できる主な制度を、わかりやすく整理してご紹介します。
障害者手帳の取得
まず、人工透析を受ける方がぜひ検討したいのが、身体障害者手帳の取得です。
血液透析や腹膜透析を長期にわたり行う必要がある場合、一定の条件を満たせば、原則として身体障害者手帳(1級または3級)が交付されます。
【障害者手帳取得のメリット】
- 税制優遇:所得税や住民税の控除が受けられる
- 公共料金の割引:電車・バス・高速道路、携帯電話料金などの割引制度がある
- 医療費の助成:自己負担額が軽減される場合がある(自治体による)
- 就労支援:障害者雇用枠での就職活動がしやすくなる
【手帳取得の流れ】
- 主治医に診断書を依頼
- 市区町村の障害福祉窓口に申請
- 審査を経て交付(通常、申請から2〜3ヶ月)
障害者手帳を取得することで、治療と生活を支えるための社会的なサポートを広く受けられるようになります。
「自分はそこまで重くないかも」と思っていても、まずは申請を検討してみることをおすすめします。
障害年金の受給
次に、障害年金の受給も非常に重要な支援制度です。
人工透析を受けている場合、障害等級の基準を満たせば、障害基礎年金または障害厚生年金を受給できる可能性があります。
【障害年金受給のポイント】
- 人工透析を1年以上継続している場合、原則2級以上に認定されるケースが多い
- 仕事をしている場合でも、障害年金を受給できる(収入制限は基本的にない)
- 受給額は、障害等級や加入していた年金制度により異なる
【障害年金の申請に必要なもの】
- 初診日を証明する書類(医療機関の証明書など)
- 診断書(透析内容を記載したもの)
- 申立書(生活や就労の困難さを説明)
透析治療が生活に与える影響は大きいため、障害年金によって経済的な基盤を安定させることは、無理なく治療と生活を両立させるために非常に重要です。
その他の支援制度
さらに、人工透析を受ける方は、他にも多様な支援制度を利用することが可能です。
ここでは、代表的なものをまとめてご紹介します。
自立支援医療(更生医療)
- 医療費の自己負担を原則1割に軽減できる制度
- 透析治療は対象になるため、自己負担が大幅に減る
- 所得に応じた負担上限額が設定されるため、低所得層ほど負担が小さい
高額療養費制度
- 医療機関で支払った医療費が、一定額を超えた場合に払い戻しされる制度
- 所得区分に応じて自己負担限度額が設定される
- 長期的に治療費がかかる透析患者にとって非常に重要な制度
難病医療費助成制度(該当する場合)
- 特定の疾患(慢性腎不全など)に対して、医療費助成が行われる
- 認定されれば、さらに医療費負担が軽減される
就労支援・職業リハビリテーション
- ハローワークや地域障害者職業センターなどで、透析患者向けの就職・転職支援が受けられる
- 障害者雇用枠を活用した働き方も可能
これらの制度を賢く活用することで、人工透析と仕事、そして日常生活のバランスを取りやすくなります。
人工透析患者が職場で直面する問題

人工透析を受けながら働く方は、治療と仕事の両立において、さまざまな課題に直面します。
見た目には健康そうに見えることも多いため、周囲の理解を得るのが難しい場面も少なくありません。
ここでは、人工透析患者が職場で感じやすい具体的な問題について、整理して解説します。
透析治療による時間的制約
人工透析の最大の特徴は、定期的かつ長時間の治療が必須である点です。
特に血液透析を選択している場合、週3回、1回あたり4時間程度の通院と治療が必要です。
このため、通常の勤務時間と透析スケジュールをどう両立させるかが大きな課題になります。
たとえば、午後に透析がある場合、午前中のみ勤務しなければならなかったり、フルタイム勤務が難しくなったりします。
【時間的制約がもたらす影響】
- 透析日の勤務時間短縮による収入減
- 早退・遅刻の必要性に対する周囲の理解の確保
- 勤務スケジュールの柔軟性を求める交渉
特に繁忙期やシフト勤務がある職場では、周囲への説明と理解を得るために、事前の調整が不可欠です。
シャントの管理と保護
人工透析を受けるために、腕に「シャント」と呼ばれる血管アクセス部位を作成することが一般的です。
シャントは、透析中に大量の血液を体外に送り出し、また体内に戻すために欠かせないものですが、非常にデリケートな箇所でもあります。
【シャント管理で注意すべきこと】
- 重い物を持つ作業を避ける
- 強い圧迫や外傷を与えない
- シャント側の腕で血圧を測ったり採血しない
仕事によっては、重い荷物を運ぶ、腕を酷使する作業が必要な場合もあり、シャントの保護のために業務内容の変更や配慮を依頼しなければならないこともあります。
【職場でのシャント保護の工夫例】
- できるだけデスクワークや軽作業中心にする
- シャント部位を守るため、アームカバーや保護パッドを使用する
- シャントを周囲に理解してもらい、無理な作業を断る
自身の安全を守るためにも、シャントへの配慮は欠かせないポイントです。
周囲の理解が得られにくい点
人工透析患者がもっとも苦労するのは、「見た目では分かりにくい障害」であることに起因する周囲の理解不足です。
見た目では分かりにくい
透析患者は、外見上は健常者とほとんど変わりません。
そのため、以下のような誤解を受けやすくなります。
- 「普通に見えるのに、なぜ早退するのか?」
- 「なぜ特別扱いが必要なのか?」
- 「透析ってそんなに大変なの?」
こうした認識ギャップが、無理解や偏見につながるケースもあります。
治療の必要性の説明
また、人工透析の治療内容や重要性について、正しく知っている人は意外に少ないのが現実です。
そのため、適切な場面で透析治療の必要性、時間的制約、体への負担について、簡潔かつ前向きに説明できるスキルも必要になってきます。
【説明の工夫ポイント】
- 必要以上に深刻に話しすぎない
- 「治療を受ければ、普通に働ける」という前向きなメッセージを添える
- 必要な配慮だけを具体的にお願いする
周囲との円滑なコミュニケーションを築くことは、ストレスを軽減し、働きやすい環境を整えるうえでとても大切です。
人工透析患者に適した働き方

人工透析を受けながら仕事を続けるには、従来の勤務スタイルにこだわらない柔軟な働き方を模索することが重要です。
治療を最優先しつつ、無理なく、長く働き続けられる環境を整えるために、どのような働き方が適しているのかを具体的にご紹介します。
透析時間に合わせた勤務形態
人工透析を続けながら仕事をするうえで、もっとも大きな課題は透析にかかる時間です。
一般的な血液透析の場合、週に3回、1回あたり4時間以上を確保する必要があり、さらに通院・準備・体調回復の時間も考慮しなければなりません。
このため、勤務形態や勤務時間に柔軟な対応ができる職場を選ぶことが欠かせません。
時間確保のしやすい職場選び
透析のスケジュールに合わせた働き方を実現するためには、勤務時間に融通がきく職場を選ぶことが重要です。
【例】
- フレックスタイム制度を導入している会社
- パートタイム勤務や短時間勤務が可能な職場
- 週休3日制や変形労働時間制を取り入れている企業
透析治療を最優先にしながらも、無理なく仕事を続けるためには、事前に雇用条件や働き方についてしっかり確認し、交渉しておくことが大切です。
オーバーナイト透析の活用
一部の医療機関では、オーバーナイト透析(夜間透析)を実施しているところもあります。
オーバーナイト透析は、夜間に長時間かけて透析を行うため、日中の時間をフルに使うことができるメリットがあります。
【オーバーナイト透析のメリット】
- 日中にフルタイム勤務が可能
- ゆっくり時間をかけた透析により体への負担が軽減
- 治療後の倦怠感が少ない傾向にある
勤務先や生活リズムに合わせて、オーバーナイト透析の活用を検討するのもひとつの選択肢です。
テレワークの導入
透析患者にとって、通勤による身体的負担や感染症リスクは無視できない問題です。
そのため、近年急速に普及した**テレワーク(在宅勤務)**は、非常に大きなメリットをもたらします。
【テレワークのメリット】
- 通勤負担ゼロ、体力温存
- 急な体調変化にも柔軟に対応できる
- 透析治療後に自宅で静養しながら働ける
- トイレや休憩のタイミングを自由に調整できる
特にIT関連、事務職、カスタマーサポート、ライティング業務など、パソコンとネット環境があれば完結できる仕事は、透析患者にとって理想的な働き方の一つと言えるでしょう。
企業によっては、完全在宅だけでなく、週何日か出社する「ハイブリッド型」の勤務形態を取り入れているところもあります。
自分の体調や生活スタイルに合わせて、最適なテレワーク環境を探してみるのも良いでしょう。
産業医のいる企業での就労
人工透析患者にとって、勤務先に産業医が常駐しているかどうかも大きなポイントです。
産業医とは、企業において従業員の健康管理や安全衛生指導を担当する医師のことです。
【産業医がいる職場のメリット】
- 体調に応じた業務内容や働き方の相談ができる
- 健康状態を考慮した勤務時間調整がしやすい
- 職場復帰支援やリハビリ勤務の導入がスムーズ
- 主治医と連携して就労支援プランを立ててもらえることもある
特に中規模以上の企業(常時50人以上の労働者がいる事業所)では産業医の設置が義務付けられており、健康管理の面で安心できる体制が整っています。
透析患者の場合、体調の波や治療スケジュールに応じて臨機応変な対応が求められるため、産業医と連携できる企業で働くことは大きな安心材料となるでしょう。
人工透析患者におすすめの職種

人工透析を受けながら働く場合、体調の変化に配慮しつつ安定して続けられる職種を選ぶことが重要です。
ここでは、透析治療を継続しながら無理なくキャリアを築けるおすすめの職種について詳しくご紹介します。
事務系・コールセンター
人工透析患者にとって、体への負担が少ないデスクワークは非常に適した職種といえます。
【事務系の例】
- 一般事務
- 経理・財務
- 人事・総務
- 営業事務
これらの仕事は、基本的に座ったまま業務ができ、突発的な肉体労働や重作業がないため、体力に不安がある方でも安心して取り組めます。
また、業務内容やスケジュールが比較的安定しているため、透析の予定に合わせた柔軟な働き方もしやすいのが魅力です。
さらに、コールセンター業務も選択肢に入ります。
【コールセンターのメリット】
- 基本は座り仕事
- 勤務時間の融通が利く場合が多い
- シフト制で無理のないスケジュール調整が可能
ただし、長時間の発声やストレスの多い対応(クレーム対応など)は体調に影響する可能性もあるため、事前に業務内容をよく確認し、自分に合った職場を選ぶことが大切です。
ITエンジニア・データ入力
専門的なスキルをお持ちの方には、ITエンジニアやデータ入力の仕事もおすすめです。
【ITエンジニアの魅力】
- プログラミングやシステム開発など、集中力を活かす仕事
- 在宅勤務(リモートワーク)が導入されている企業が多い
- 成果主義のため、時間よりもアウトプット重視
【データ入力のメリット】
- 体力消耗が少ない
- 作業のペースを自分でコントロールしやすい
- 短時間勤務・在宅勤務の求人も豊富
いずれもパソコンを使った作業が中心となるため、通勤や肉体労働による体への負担を最小限に抑えられます。
また、成果物中心の評価が多いため、治療スケジュールに合わせた柔軟な働き方が実現しやすい点も大きなメリットです。
テレワーク可能な仕事
近年の働き方改革や社会情勢の変化により、テレワーク可能な仕事が一気に拡大しました。
人工透析患者にとって、自宅で働ける環境は非常に大きなアドバンテージとなります。
【テレワークに適した仕事の例】
- ライター・編集
- カスタマーサポート(チャット対応)
- ウェブデザイナー
- SNS運用担当
- オンライン講師・チューター
テレワークのメリットは、
- 通勤ストレスゼロ
- 体調変化に柔軟に対応できる
- トイレや休憩も自由に取れる
- 感染症リスクを最小限にできる
といった点が挙げられます。
透析による時間的制約を抱えながらでも、パフォーマンスを最大限発揮できる環境を作ることが可能です。
また、自宅でリハビリをしながらスキルアップを目指せるため、将来的により幅広いキャリアパスを築くことにもつながります。
人工透析患者の仕事探しの方法
人工透析を受けながら働き続けるためには、自身の体調と治療スケジュールに配慮した職場選びが不可欠です。
透析治療には時間的・体力的な負担が伴うため、無理なく働ける環境を整えることが、長くキャリアを維持するための鍵となります。
ここでは、人工透析患者の方が活用できる仕事探しの方法を詳しく紹介します。
ハローワークの活用
ハローワーク(公共職業安定所)は、全国各地に設置されている国の就労支援機関です。
【特徴】
- 障害者専門の窓口が設けられている
- 障害者専用求人(障害者雇用枠)の紹介
- キャリア相談、面接対策のサポート
- 企業との調整支援(勤務時間、配慮事項など)
透析治療による時間的制約や体調への配慮が必要な場合でも、担当者に希望条件を伝えれば、それに合った求人情報を提供してもらえる可能性が高まります。
また、障害者雇用に積極的な企業を紹介してもらえるのも心強いポイントです。
地域障害者職業センターの利用
地域障害者職業センターは、障害者の職業リハビリテーションを専門的に行う機関です。
【特徴】
- 専門スタッフによる職業評価
- 適職診断、能力評価
- 職場適応援助(ジョブコーチ支援)
- 障害特性に応じた職場開拓支援
透析患者の場合、「どんな働き方なら無理なく続けられるか」「どの程度の業務負担が適切か」といった具体的なアドバイスを受けられる点がメリットです。
さらに、就職後もフォローアップ支援を受けられるため、長期的な定着支援にもつながります。
就労移行支援事業所の利用
就労移行支援事業所は、一般企業への就労を目指す障害者向けに、就職訓練や職場実習の機会を提供する施設です。
【特徴】
- パソコンスキルやビジネスマナーの習得
- 面接練習・履歴書作成支援
- 職場実習を通じた適性確認
- 体調管理と仕事の両立支援
透析治療で働くことに不安がある場合でも、段階的に働く力を身につけることができ、自信を持って就職活動に臨めます。
また、事業所によっては、透析治療と両立できるペースで通所できるプログラムを用意しているところもあります。
障害者雇用に特化した転職サイトの活用
最近では、障害者雇用に特化した転職支援サイトやエージェントサービスも充実しています。
【活用メリット】
- 自宅にいながら求人情報を検索・応募できる
- 障害への配慮内容が明示されている求人が多い
- キャリアカウンセラーによる個別サポートあり
- 在宅勤務や時短勤務可能な求人も豊富
透析スケジュールに合わせて働ける企業や、体調面への理解が深い職場を効率的に見つけたい場合は、ぜひ積極的に活用したい手段です。
✅【おすすめ転職サイト:障害者ナビはこちら】
まとめ
人工透析患者が無理なく働き続けるためには、体調・治療スケジュールに配慮してもらえる環境を選ぶことが何よりも重要です。
- ハローワークでは障害者専用求人と専門的なサポートが受けられる
- 地域障害者職業センターでは適職診断や職場開拓支援が受けられる
- 就労移行支援事業所ではスキル訓練と就職サポートが受けられる
- 障害者ナビなら自分に合った求人を自宅から探せる
透析治療と両立できる働き方を見つけることで、自分らしいライフスタイルを無理なく築いていくことが可能になります。
「できないこと」ではなく、「できること」に目を向けて、ぜひ新たな一歩を踏み出してください。