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腎臓病・腎機能障害と仕事の両立を目指す方へ|働き続けるために必要な知識と就労支援制度

この記事の内容
腎臓病や腎機能障害を抱えながら働くことは、確かに様々な困難を伴います。しかし、適切な知識と支援があれば、病気と仕事を両立させることは十分に可能です。
この記事では、腎臓病・腎機能障害の基本的な知識から、働く上での課題、そして仕事を続けるために活用できる支援制度まで、わかりやすくご紹介します。
腎臓病・腎機能障害の基礎知識
主な症状と原因
腎臓病は、腎臓の機能が低下することで起こる病気です。私たちの体には左右に一つずつ、合計2つの腎臓があります。腎臓は体の中の不要な物質を尿として排出したり、血圧を調整したり、赤血球を作るホルモンを分泌したりする大切な臓器です。
主な症状としては以下のようなものがあります。
- むくみ
- 疲れやすさ、だるさ
- 尿の量や色の変化
- 食欲不振
- 吐き気や嘔吐
- 高血圧
- 貧血
腎臓病の主な原因には次のようなものがあります。
- 糖尿病
- 高血圧
- 慢性腎炎
- 多発性嚢胞腎などの遺伝的な病気
- 薬の副作用
- 尿路結石や感染症
腎臓病は初期段階では自覚症状がほとんどないことが特徴です。そのため、定期的な健康診断で早期発見することが大切です。
治療方法
腎臓病の治療方法は、病気の種類や進行度によって異なります。主な治療法を見てみましょう。
薬物療法
腎臓病の治療では、様々な薬が使われます。
- 降圧剤:高血圧を管理するための薬です。腎臓を保護するために、血圧を適切な範囲に保つことが重要です。
- 利尿剤:体内の余分な水分や塩分を排出し、むくみを減らす薬です。
- 腎保護薬:腎臓の機能低下を遅らせるための薬です。
- 貧血治療薬:腎臓病に伴う貧血を改善するための薬です。
薬の種類や量は、病状によって医師が調整します。自己判断で薬の量を変えたり、飲むのをやめたりしないことが大切です。
食事療法
食事療法は腎臓病の治療において非常に重要です。腎臓に負担をかけないようにするため、タンパク質、塩分、カリウム、リンなどの摂取量を調整します。
- タンパク質:腎臓に負担をかける可能性があるため、医師や栄養士の指導に従って摂取量を調整します。
- 塩分:塩分の摂り過ぎは血圧を上げ、むくみの原因になります。減塩食が基本です。
- カリウム:腎機能が低下すると体内にカリウムがたまりやすくなります。カリウムの多い食品(バナナ、オレンジ、じゃがいもなど)の摂取に注意が必要です。
- リン:腎機能が低下するとリンも体内にたまりやすくなります。加工食品や乳製品などに多く含まれています。
食事療法は一人ひとりの状態に合わせて調整する必要があります。栄養士や医師の指導を受けながら、バランスの良い食事を心がけましょう。
人工透析
腎機能が著しく低下すると、人工透析が必要になります。透析には主に2種類あります。
- 血液透析:血液を体外に取り出し、透析装置で血液をろ過した後、きれいになった血液を体内に戻す方法です。通常、週に3回程度、1回につき4時間ほど病院や透析クリニックで行います。
- 腹膜透析(PD):お腹の腹膜を利用して血液をろ過する方法です。自宅で行うことができ、自分のスケジュールに合わせて透析を行えるという利点があります。
どちらの透析方法を選ぶかは、生活スタイルや病状に合わせて医師と相談しながら決めていきます。
腎臓病患者の就労における課題

体力の問題と疲労の問題
腎臓病を抱えながら働く上で、最も大きな課題の一つが体力と疲労の問題です。
腎臓病による主な体力問題
- 慢性的な疲労感
- 集中力の低下
- 貧血による息切れやめまい
- 長時間の立ち仕事や肉体労働の困難さ
- 透析後の体調不良
これらの問題に対処するためには、自分の体調と向き合い、無理をしない働き方のペースを見つけることが大切です。また、職場に自分の状況を適切に伝え、理解を得ることも重要です。
見えない障害に対する周囲の理解
腎臓病は外見からは分かりにくい「見えない障害」です。そのため、「見た目は元気そうなのに」と周囲から理解されにくいという課題があります。
周囲の理解を得るためのポイント
- 必要に応じて、上司や同僚に自分の病状を説明する
- 体調の波があることを伝えておく
- 無理をせず、体調不良時には休むことを恐れない
- 産業医や人事部などを通じて、適切な配慮を求める
職場の理解を得ることで、無理なく働き続けられる環境を整えることができます。
透析治療と時間の制約
透析治療を受けながら働く場合、時間の制約は大きな課題となります。特に血液透析の場合、週に3回程度、1回につき4時間ほどの治療時間に加え、通院時間も必要です。
透析と仕事の両立のためのアプローチ
- フレックスタイム制度の活用
- 在宅勤務の導入
- 短時間勤務の検討
- 透析スケジュールに合わせた勤務シフトの調整
- 夜間透析の利用(可能な施設の場合)
透析スケジュールは基本的に固定されるため、それに合わせた働き方を職場と相談することが大切です。多くの場合、事前に計画を立てることで対応が可能です。
腎臓病患者に適した仕事と働き方

柔軟な勤務形態を提供する企業
腎臓病患者が無理なく働き続けるためには、柔軟な勤務形態を提供している企業での就労が理想的です。
柔軟な勤務形態の例
- フレックスタイム制:出勤・退勤時間を自分で調整できるため、透析スケジュールに合わせた勤務が可能です。
- 時差出勤:通勤ラッシュを避けることで体力的な負担を減らせます。
- 在宅勤務:通勤の負担がなく、体調に合わせて休憩を取りながら働けます。
- 短時間勤務:フルタイムよりも労働時間を短くすることで、体力的な負担を軽減できます。
- ジョブシェアリング:一つの仕事を複数人で分担して行う働き方です。
最近では、働き方改革の推進により、これらの柔軟な勤務形態を導入する企業が増えています。求人情報をチェックする際は、こうした勤務形態が可能かどうかをしっかり確認しましょう。
身体的負担の少ないデスクワーク
腎臓病患者にとって、身体的負担の少ない仕事を選ぶことは重要です。
おすすめの職種例
- 一般事務職:デスクワークが中心で、体力的な負担が比較的少ないです。
- 経理・会計:数字を扱う仕事は集中力を要しますが、自分のペースで進められることが多いです。
- Webデザイナー・プログラマー:在宅勤務の機会も多く、技術さえあれば体力面での制約を受けにくいです。
- カスタマーサポート:電話やメールでの対応が中心で、座ったままでできる仕事です。
- データ入力:単純作業が中心で、比較的習得しやすい仕事です。
これらの仕事は、体力的な負担が少なく、腎臓病患者でも比較的続けやすい仕事と言えます。ただし、長時間のデスクワークによる腰痛などには注意が必要です。定期的に軽い体操やストレッチを行うことをおすすめします。
障害者手帳取得と雇用機会
腎臓病が進行し、一定以上の機能障害がある場合は、身体障害者手帳を取得できる可能性があります。手帳を取得することで、様々な支援やサービスを受けられるようになります。
身体障害者手帳の等級と腎臓機能障害の関係
- 1級:人工透析を実施している、または腎臓移植を受けた方
- 3級:腎機能が著しく低下している方
- 4級:腎機能が相当程度低下している方
手帳を持っていると、障害者雇用枠での就職が可能になります。日本では、一定規模以上の企業に対して障害者雇用率が義務付けられており、積極的に障害者を採用している企業も多くあります。
就労支援と法的保護
「合理的配慮」の理解
「合理的配慮」とは、障害を持つ人が他の人と平等に働けるよう、職場で必要かつ適当な変更や調整を行うことです。2016年に施行された「障害者差別解消法」により、事業者は障害者に対して合理的配慮を提供する義務(民間企業は努力義務)を負っています。
腎臓病患者に対する合理的配慮の例
- 勤務時間の調整:透析のための通院時間の確保
- 休憩時間の確保:疲労しやすい特性を考慮した休息の保障
- 作業環境の調整:立ち仕事を減らす、座れる環境を用意するなど
- 通院のための有給休暇の柔軟な取得
- 業務内容の調整:体力的に無理のない業務への変更
合理的配慮を求める際のポイント
- 自分の状況と必要な配慮を具体的に伝える
- 配慮によって得られる効果(業務効率の向上など)も説明する
- 一方的な要求ではなく、双方で話し合って解決策を見つける姿勢を持つ
合理的配慮は一律に決まるものではなく、一人ひとりの状況や職場環境によって適切な内容は異なります。職場とのコミュニケーションを大切にしましょう。
労働者の権利と差別防止
腎臓病を含む障害を理由とした雇用差別は法律で禁止されています。知っておくべき権利と法的保護について見ていきましょう。
主な法的保護
- 障害者差別解消法:障害を理由とした不当な差別的取り扱いの禁止と合理的配慮の提供を定めています。
- 障害者雇用促進法:障害者の雇用の促進と安定を図るための法律です。
- 労働基準法:すべての労働者の権利を保護する基本的な法律です。
不当な差別的取り扱いの例
- 障害があることを理由に採用を拒否すること
- 障害を理由に不当に低い賃金を設定すること
- 合理的な理由なく、障害を理由に昇進や研修の機会を与えないこと
もし職場で不当な差別を受けていると感じた場合は、以下の相談窓口を利用することができます。
- 労働局や労働基準監督署の総合労働相談コーナー
- 地域の障害者就業・生活支援センター
- 地方自治体の労働相談窓口
自分の権利を知り、必要に応じて適切な支援を求めることが大切です。
治療と仕事の両立支援制度
腎臓病の治療と仕事を両立するための様々な支援制度があります。
主な支援制度
- 傷病手当金:健康保険に加入している方が病気やケガで働けなくなった場合、一定期間、給与の約3分の2が支給されます。最長1年6ヶ月受給可能です。
- 高額療養費制度:医療費が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される制度です。透析患者の場合、「特定疾病療養受療証」を使用することで、月々の自己負担額が軽減されます。
- 障害年金:国民年金や厚生年金の加入者が、一定の障害状態になった場合に支給される年金です。透析患者は多くの場合、障害等級2級に該当し、障害基礎年金を受給できる可能性があります。
- 難病医療費助成制度:一部の腎臓病は指定難病に含まれており、医療費の助成を受けられる場合があります。
- 就労系障害福祉サービス:障害者手帳を持っている方や難病患者の方は、就労移行支援や就労継続支援などのサービスを利用できます。
これらの制度を上手に活用することで、経済的な負担を軽減しながら、治療と仕事を両立させることができます。詳しくは、医療ソーシャルワーカーや地域の社会福祉協議会、ハローワークの専門窓口などに相談してみましょう。
仕事探しのアプローチ
ハローワークの活用
ハローワーク(公共職業安定所)は、腎臓病患者を含む障害のある方の就職支援に力を入れています。
ハローワークで受けられるサービス
- 専門の就職支援ナビゲーターによる相談:障害特性に配慮した職業相談や職業紹介を行っています。
- 障害者向けの求人情報の提供:障害者雇用枠での求人を多数取り扱っています。
- トライアル雇用制度:一定期間の試行雇用を通じて、正式採用を目指す制度です。
- 職場適応支援:就職後の職場定着をサポートします。
- 各種助成金制度の案内:障害者を雇用する事業主や通院などで働きづらさのある方を支援する制度があります。
ハローワークを利用する際は、事前に「障害者手帳」や「医師の意見書」などを用意しておくと、より適切な支援を受けられる場合があります。
全国のハローワークには、障害者の就労を専門に支援する「専門援助部門」や「障害者窓口」が設置されています。初めて利用する際は、こうした専門窓口の利用をお勧めします。
障害者専門の転職サービス
一般の転職サービスとは別に、障害者に特化した転職支援サービスも充実しています。これらのサービスは、障害特性への理解が深く、適切な職場とのマッチングを重視しています。
障害者専門の転職サービスのメリット
- 障害への理解がある企業を紹介してもらえる
- 就労条件(通院配慮、短時間勤務など)を細かく相談できる
- 面接対策や履歴書添削などのサポートが受けられる
- 入社後のフォローも充実していることが多い
こうしたサービスは基本的に無料で利用できます(企業側が費用を負担する仕組み)。複数のサービスに登録して、自分に合ったサポートを選ぶとよいでしょう。
障害者雇用に特化した求人サイトの利用
インターネット上には、障害者雇用に特化した求人サイトがあります。これらのサイトでは、障害への配慮がある企業の求人情報を効率良く探すことができます。
主な障害者雇用専門の求人サイト
- 障害者雇用促進協会「障害者人材サポート」
- エンジョブ!障害者雇用
- atGPジョブサーチ
- 障害者のための転職・就職サイト「DREAM GATE」
これらのサイトでは、一般の求人サイトではあまり見られない詳細情報(バリアフリー環境の有無、通院への配慮、勤務時間の調整可否など)が掲載されていることが多いです。
就労移行支援事業所の利用
就労移行支援事業所は、障害のある方が一般企業などで就労できるよう、就労に必要な知識・能力の向上や職場探しのサポートを行う福祉サービスです。
就労移行支援事業所のサービス内容
- ビジネスマナーや社会生活技能の訓練
- パソコンスキルなどの職業訓練
- 体調管理やストレス対処法の学習
- 面接対策や履歴書の書き方指導
- 企業見学や職場実習の機会提供
- 就職後の定着支援
利用期間は原則2年間で、その間に段階的に就労に向けた準備を進めていきます。腎臓病患者の方は、体調の波に合わせて無理なく訓練を受けられるよう配慮してもらえることが多いです。
就労移行支援事業所を利用するには、お住まいの市区町村の障害福祉課などで「障害福祉サービス受給者証」の交付を受ける必要があります。詳しくは、お住まいの地域の福祉課や相談支援事業所に問い合わせてみましょう。
まとめ
腎臓病や透析治療があっても、あなたに合った働き方はきっと見つかります。
体調や生活に無理のない職場、病気への理解がある職場を選ぶことで、安心して長く働き続けることが可能です。
一人で悩まず、制度や支援を味方にすることが大切です。あなたらしい生き方をぜひ見つけていきましょう。