2025/04/25
  • 内部障害
  • 障害者雇用

    小腸機能障害とは?仕事での悩みと就労の工夫・支援ポイントを解説

    いつもの朝、目覚めると同時にトイレへ駆け込む毎日。「今日もまた、お腹の調子が悪い…」と心配しながら出勤の準備をするのは、小腸機能障害を抱える多くの方の日常風景です。外見からは分かりにくい障害ゆえに、周囲の理解を得ることの難しさや、突然の体調不良への不安を抱えながら働くことの大変さを感じている方も多いのではないでしょうか。

    本記事では、小腸機能障害とは何か、働く上での悩みやポイント、就労支援サービスについて詳しく解説します。

    小腸機能障害の基礎知識

    小腸機能障害とは、小腸の機能が低下することで、栄養素の吸収が十分にできなくなる状態です。腸の病気や手術などによって引き起こされ、日常生活に大きな影響を及ぼす障害です。

    食事の栄養を体に取り入れる重要な役割を担う小腸の機能が低下すると、体重減少や下痢、腹痛、疲労感などの症状が現れます。これらの症状は、仕事や日常生活を送る上で大きな障壁となることがあります。

    小腸機能障害の主な原因とは?

    小腸機能障害の主な原因には、以下のようなものがあります。

    • クローン病:消化管に炎症が起こる慢性的な疾患で、口から肛門までのどの部位にも発症する可能性があります。特に小腸に炎症が起きると、消化・吸収機能に大きな影響を与えます。15歳から35歳の若年層に多く発症し、症状の悪化と軽減を繰り返す特徴があります。治療には薬物療法や食事療法、重症例では手術療法が必要です。定期的な通院や投薬管理が必要で、体調の波が仕事の継続性に影響を与えることがあります。
    • 潰瘍性大腸炎:主に大腸に炎症や潰瘍ができる疾患ですが、症状が重症化すると小腸にも影響が及ぶことがあります。
    • 短腸症候群:小腸の一部を切除する手術を受けた後に発症する状態で、残った腸管の長さによって症状の程度が異なります。小腸の長さが通常の3分の1以下になると、十分な栄養吸収ができなくなります。
    • 放射線腸炎:がん治療などで放射線治療を受けた際、腸に炎症が起こり、その後遺症として小腸機能障害が生じることがあります。
    • 腸管出血性大腸菌感染症:O157などの病原性大腸菌による感染症で、重症化すると小腸の機能にも影響を与えることがあります。
    • 小腸の手術による影響:腫瘍や外傷などにより小腸の一部を切除した場合、吸収面積の減少により機能障害が生じます。
    • 腸閉塞の後遺症:腸閉塞(イレウス)を繰り返すことで、小腸の機能に障害が生じることがあります。

    これらの疾患や状態により、小腸の消化・吸収機能が低下し、十分な栄養を摂取できなくなることで、様々な健康上の問題が生じます。適切な治療と管理を行いながら、体調の波に合わせた就労環境の調整が重要となります。

    小腸の機能障害程度等級表に基づいた判断

    障害者手帳(身体障害者手帳)の取得においては、小腸機能障害の程度を判断するための基準があります。等級は以下のように分かれています。

    1級

    • 小腸の機能を完全に失ったもの
    • 小腸の広範囲の切除により、栄養の維持が困難で、中心静脈栄養法を必要とするもの

    3級

    • 小腸の機能の著しい障害により、食事療法で治療効果がほとんど得られず、標準体重の維持ができないもの
    • 小腸の大部分の切除により、食事療法では栄養の維持が困難なもの

    4級

    • 小腸の機能の障害により、随時作業が制限されるもの
    • 小腸に大きな切除が行われ、食事制限が必要なもの

    この等級に基づいて、障害者手帳が交付され、それに応じた支援やサービスを受けることができます。障害認定の際には、医師の診断書が必要となり、症状や日常生活への影響度などが総合的に判断されます。

    小腸機能障害者の職場での悩み

    小腸機能障害を持ちながら働く上では、さまざまな困難や悩みがあります。これらを理解し、適切に対処することが、職場での生活を円滑に送るために重要です。

    周囲の理解が得にくい

    小腸機能障害は、外見からは分かりにくい「見えない障害」の一つです。そのため、周囲の人々から理解を得ることが難しく、以下のような問題に直面することがあります。

    • トイレに頻繁に行くことへの誤解
    • 体調不良の際の配慮が得られにくい
    • 食事制限の必要性を説明することの難しさ
    • 「怠けている」と誤解されるリスク
    • 突然の体調不良で予定をキャンセルすることへの申し訳なさ
    • 周囲への説明の負担

    特に問題となるのは、症状の変動です。ある日は元気に働けても、次の日には強い腹痛や疲労で仕事が困難になることがあります。この「波」を理解してもらうことは簡単ではありません。

    また、小腸機能障害に伴う症状として、疲労感や倦怠感が強く現れることがあります。これは栄養吸収の問題から来るものですが、外見からは分かりにくく、「単なる疲れ」と誤解されがちです。

    障害の特性を職場の上司や同僚に適切に説明することが重要ですが、プライバシーとのバランスを取るのも難しい課題です。どこまで詳しく伝えるべきか、誰に伝えるべきかという判断も必要になります。

    体調管理と仕事のバランス

    小腸機能障害の方にとって、体調の波と仕事のバランスを取ることは大きな課題です。主な悩みとして以下のようなものが挙げられます。

    • 予測できない体調不良への対応
    • 通院や治療と仕事のスケジュール調整
    • 疲労が溜まりやすく、回復に時間がかかる
    • 薬の副作用と仕事への影響
    • 食事制限と職場での食事の問題
    • ストレスによる症状悪化の予防

    特に難しいのは、症状の予測が困難な点です。前日までは調子が良くても、突然の腹痛や下痢に襲われることがあり、計画的な業務遂行が難しくなることがあります。

    また、治療のための定期的な通院も必要となるため、仕事のスケジュールとの調整が必要です。特に専門医が少ない地域では、通院に半日以上かかることもあり、勤務時間との兼ね合いが問題になることがあります。

    無理をせず自分のペースを守りながら働くことが大切ですが、仕事の責任との兼ね合いで悩むケースも多いです。

    キャリアの制限

    小腸機能障害により、選べる職種や働き方に制限を感じることもあります。

    • 長時間勤務や不規則な勤務が困難
    • 出張や転勤が難しい場合がある
    • 体力を使う仕事への適応の難しさ
    • キャリアアップのチャンスの制限
    • 責任のある役職への昇進の不安
    • 職場でのネットワーキング機会の制限

    特に影響が大きいのは、キャリアの発展や成長の機会です。体調管理を優先するあまり、新しいプロジェクトや責任ある役割を引き受けることをためらってしまうケースもあります。

    また、仕事後の飲み会や社交イベントに参加しにくいことで、職場での人間関係構築や情報収集の機会が制限されることもあります。これが間接的にキャリア形成に影響を与えることもあるでしょう。

    これらの制限は、職場選びやキャリア形成において大きな悩みとなります。しかし、自分の強みを活かせる職場や働き方を見つけることで、充実したキャリアを築くことは十分可能です。

    障害開示のプレッシャーとストレス

    障害を職場にどこまで開示するかという問題は、多くの方が直面する大きな悩みです。

    • いつ、どの程度まで障害について伝えるべきか
    • 開示によって不当な扱いを受けるのではないかという不安
    • 障害を隠すことによるストレス
    • 就職活動中の開示タイミングの難しさ
    • 職場の人間関係への影響の懸念
    • プライバシーと必要な配慮のバランス

    障害開示は個人の判断によるものであり、環境や状況によって最適な選択は異なります。重要なのは、自分が働きやすい環境を整えるために何が必要かを考えることです。

    障害者雇用枠を利用する場合は必然的に開示が必要になりますが、一般枠での就職の場合は開示の有無や程度を選ぶことができます。職場の風土や上司の性格なども考慮し、自分にとって最適な方法を選ぶことが大切です。

    小腸機能障害者が働くうえでのポイント

    小腸機能障害があっても、適切な環境と条件があれば、能力を発揮して働くことができます。ここでは、働く上で重要なポイントを紹介します。

    適した職種の選択

    小腸機能障害の方に向いている職種には、以下のような特徴があります。

    • 時間や場所に柔軟性がある仕事: テレワークが可能な職種(プログラマー、WEBデザイナー、ライター等)
    • トイレに行きやすい環境の仕事: 自分のペースで作業できる職種(事務職、データ入力、システム管理等)
    • 体力的な負担が少ない仕事: デスクワーク中心の職種(一般事務、経理、コールセンター等)
    • ストレスが少なく、規則正しい生活ができる仕事: 残業が少なく、シフトが安定している職場
    • 専門的なスキルを活かせる仕事: 専門知識やスキルがあれば、体調に合わせた働き方の交渉がしやすい(翻訳、編集、コンサルタント等)
    • 在宅ワークが可能な仕事: 自宅で働けることで、トイレや休憩、食事などを自分のペースで管理できる(フリーランス、リモートワーク等)

    反対に、以下のような職種は体調管理が難しい場合があります。

    • 接客業など長時間立ち仕事が必要な職種
    • 不規則なシフト勤務がある職種
    • 休憩が取りにくい職種
    • 出張や移動が多い職種
    • 食事時間が不規則になりやすい職種

    自分の症状や体調の波に合わせて、無理なく続けられる仕事を選ぶことが大切です。また、専門スキルを身につけることで、より柔軟な働き方ができる可能性が広がります。

    障害者雇用枠の活用

    身体障害者手帳を持っている場合は、障害者雇用枠を活用することも選択肢の一つです。

    • 障害者雇用枠のメリット
      • 障害への理解や配慮が得られやすい
      • 勤務時間や条件の調整がしやすい
      • 長期的に安定して働ける可能性が高い
      • 法定雇用率の対象となるため企業側のメリットもある
      • 就労支援機関のサポートを受けやすい
    • 障害者雇用の探し方
      • ハローワークの専門窓口
      • 障害者向け合同企業説明会
      • 障害者雇用に特化した就職支援サービス
      • 就労移行支援事業所を通じた就職活動
      • 企業の障害者採用ページの確認

    とはいえ、最近では多くの企業が障害者の能力を活かした戦力化を進めており、一般社員と同等の業務や責任を任せるケースも増えています。

    障害者雇用枠は特別な枠というよりも、自分に合った働き方を実現するための一つの手段と考えるとよいでしょう。

    勤務条件・職場環境の確認

    就職や転職を考える際には、以下のような点に注意して職場環境を確認しましょう。

    勤務時間の調整

    • フレックスタイム制度があるか
    • 時短勤務の可能性
    • 通院のための休暇取得のしやすさ
    • 在宅勤務の選択肢
    • 休憩時間の取りやすさ
    • 残業の頻度や量

    特に小腸機能障害の場合、朝の体調が不安定になりやすいため、始業時間の柔軟性は重要なポイントです。また、体調不良時に急な休みを取れる制度や雰囲気があるかどうかも確認しておくとよいでしょう。

    通院については、定期的な通院が必要な場合が多いため、有給休暇とは別に病気休暇制度があるかどうかも重要です。

    無理なく続けられる勤務時間と体調管理のバランスを考慮することが重要です。

    仕事内容の調整

    • 業務内容や負荷の調整が可能か
    • トイレに行きやすい環境か
    • 休憩スペースや休憩時間の確保
    • 同僚や上司の理解度
    • チーム作業か個人作業かの割合
    • 納期やデッドラインの柔軟性

    小腸機能障害の方にとって、トイレへのアクセスのしやすさは特に重要です。オフィスレイアウトや席の位置なども含めて確認するとよいでしょう。

    また、体調の波がある場合は、業務の調整がしやすい環境かどうかも重要です。例えば、チームで仕事を分担できる体制があれば、体調不良時にカバーしてもらいやすくなります。

    面接時や入社後に、必要な配慮について具体的に伝えることが大切です。配慮を求めることは特別なお願いではなく、能力を発揮するために必要な条件であると考えましょう。

    小腸機能障害者向けの就職支援サービス

    小腸機能障害を持つ方の就職をサポートするさまざまな支援サービスがあります。これらを活用することで、より自分に合った仕事や働き方を見つけやすくなります。

    公的機関の支援

    ハローワーク(職業安定所)

    ハローワークには障害者専門の窓口があり、以下のようなサポートを受けることができます。

    • 専門の職業相談員によるカウンセリング
    • 障害者向けの求人情報の提供
    • 職場適応訓練の紹介
    • 就職後のフォローアップ

    地域のハローワークに設置されている「専門援助部門」に相談することで、より具体的な支援を受けることができます。

    地域障害者職業センター

    障害者職業センターでは、より専門的な就労支援を受けることができます。

    • 職業評価・職業準備支援: 自分の適性や能力に合った仕事を見つけるためのサポート
    • ジョブコーチ支援: 職場に適応するための専門家によるサポート
    • 事業主支援: 企業に対する障害者雇用のアドバイスや環境整備の支援

    特に、自分の症状や体調の波を理解した上で、適切な職業選択をするためのアドバイスが受けられます。

    福祉サービスの活用

    就労移行支援事業所

    就労移行支援事業所は、一般企業への就職を目指す障害者を支援する施設です。

    • 就労スキルの訓練: ビジネスマナーやパソコン操作など、就労に必要なスキルを学べる
    • 職場体験・実習の機会: 実際の職場を体験し、自分に合った仕事を見つける機会が得られる
    • 就職活動のサポート: 履歴書の書き方や面接対策などのサポート
    • 就職後の定着支援: 就職後も継続して働けるようサポートを受けられる

    通常2年間の利用期間があり、その間に段階的に就労準備を進めることができます。

    障害者就業・生活支援センター

    障害者就業・生活支援センターは、就労面と生活面の両方から総合的な支援を行います。

    • 就労相談・支援: 就職活動のサポートや職場定着支援
    • 生活相談・支援: 日常生活や健康管理に関するアドバイス
    • 関係機関との連携: 医療機関や福祉サービスとの連携調整

    長期的な視点で、安定した就労と生活を実現するためのサポートを受けることができます。

    障害者雇用に特化した求人サイト

    近年では、障害者雇用に特化したオンラインの求人サイトも充実しています。

    • 障害者雇用に理解のある企業の求人情報が豊富
    • 在宅勤務可能な仕事など、柔軟な働き方の求人も多い
    • 障害特性に配慮した職場環境の情報も掲載されている
    • 就職活動のアドバイスや体験談なども参考になる

    これらのサイトでは、小腸機能障害の特性に合わせた働き方ができる企業を探しやすいという利点があります。

    障害者ナビでも、障害者雇用に特化した求人情報を提供していますので、ぜひご活用ください。

    まとめ

    小腸機能障害は外見からわかりにくく、周囲の理解を得ることが難しい障害ですが、適切な環境と条件があれば、能力を十分に発揮して働くことができます。

    自分の体調や症状に合わせた職種選びと働き方の工夫が、長く安定して働くための鍵になります。状況に応じて障害者雇用枠を活用することも、選択肢の一つとして検討してみてください。

    就職活動や職場での悩みがあれば、ハローワークや障害者就業・生活支援センターなどの公的支援サービスを積極的に活用しましょう。専門家のアドバイスを受けることで、より適切な職場選びができます。

    何より大切なのは、自分自身の体調管理と無理のないペース配分です。小腸機能障害があっても、自分らしく働ける場所は必ずあります。焦らず、一歩一歩進んでいきましょう。