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肢体不自由のある方の仕事探し完全ガイド|適職・支援サービス・企業選びのコツを徹底解説

この記事の内容
「働きたい。でも、自分の身体の状況を考えると不安がある」
そんな思いを抱える方は少なくありません。肢体不自由という障害は、手足や体幹の機能に制限があるため、日常生活や就労において特別な配慮が必要です。しかし、現在では社会の理解が深まり、障害者の就労を支援する制度やサービスも充実してきています。
働く意思があれば、自分に合った働き方や職場環境を見つけることは可能です。大切なのは、「できないこと」ではなく、「できること」に焦点を当て、自分に合った道を選ぶこと。本稿では、肢体不自由のある方が就職・転職活動を進める上で知っておきたい情報を、段階的にご紹介していきます。
肢体不自由の定義と日常生活への影響
まずは、「肢体不自由」とはどういう状態を指すのか、そしてそれが日常生活や働くうえでどのような影響を与えるのかを明確に理解しておきましょう。
肢体不自由の種類と特徴
「肢体不自由」とは、四肢(腕・脚)または体幹(胴体)の運動機能に制限がある状態を指します。障害の程度や原因は人それぞれであり、代表的な例は以下の通りです。
- 脳性まひ:脳の障害により、手足の動きに支障が出る。バランス感覚や筋肉の緊張にも影響。
- 脊髄損傷:交通事故や転倒などによって、運動や感覚が部分的または完全に失われる。
- 筋ジストロフィー:筋肉の進行性の萎縮により、運動機能が徐々に低下していく病気。
- 切断や先天性疾患:上肢や下肢が欠損している場合や、生まれつき手足の機能が制限されているケース。
症状の出方は多様で、歩行が困難な方、車椅子を利用している方、補助具を使用している方など、それぞれに必要な配慮や支援も異なります。
日常生活や就労における課題
肢体不自由があることで、日々の生活や職場で次のような課題に直面することがあります。
■ 通勤・移動に関する課題
- 駅や建物のバリアフリー化が不十分
- 車椅子での移動に不向きな路面や階段
- 通勤ラッシュ時の混雑によるリスク
このため、自宅から職場までの移動距離やアクセス方法をあらかじめ検討しておくことが重要です。
■ 職場環境の物理的制約
- トイレや出入口の狭さ
- エレベーターやスロープの有無
- 作業スペースが車椅子での移動に適しているか
こうした物理的な環境要因は、日常業務に大きな影響を与えるため、事前に職場見学や確認を行うことが理想的です。
■ 業務内容に対する制限
- 手先の細かな動きが求められる作業が難しい
- 長時間の立ち仕事、肉体労働が困難
- 緊急時に迅速な対応が求められる職場ではリスクが高い
このような制約を理解したうえで、自分に合った仕事や業務を選ぶことが、長く働くための第一歩です。
自分の状態を正しく理解しよう

就職・転職活動を始めるにあたっては、まず「自己理解」が不可欠です。
- 自分の障害の程度はどれくらいか
- どんな支援や配慮が必要か
- どのような作業が得意か/苦手か
- 日常生活や勤務時間の中で無理のないスケジュールは?
これらを明確にし、履歴書や面接時に具体的に説明できるようにしておくことで、企業側の理解や配慮も得やすくなります。
支援制度やサービスの活用を
現在、日本には障害者の就労を支えるための支援制度やサービスが多く用意されています。以下は代表的なものです。
- ハローワークの障害者専門窓口:職業相談や求人紹介、職場実習などを通じた支援
- 就労移行支援事業所:就職に必要なスキルやビジネスマナーを学べる施設。2年間の利用が可能
- 障害者就業・生活支援センター(ナカポツ):生活面と就労面を総合的にサポート
- 障害者雇用専門エージェント:非公開求人の紹介や、面接同行、職場への条件交渉などを支援
これらの機関を活用することで、自分一人で悩まず、プロと一緒に働き方を考えることができます。
就職活動で大切な3つの視点

1. 適職選びの視点
肢体不自由がある方に向いている職種の一例:
- 一般事務、データ入力、経理
- カスタマーサポート、コールセンター
- Webライター、グラフィックデザイナー、プログラマー
- 在宅勤務可能な職種(フルリモート型企業)
いずれも、身体的負担が比較的少ないこと、設備に左右されにくいことが特徴です。
2. 企業選びの視点
- 障害者雇用に実績のある企業か
- バリアフリー設計が進んでいるか
- 働き方に柔軟性があるか(時短勤務・リモートなど)
- 障害に対する理解があるか(定期面談・配慮の実例)
応募前に、企業のウェブサイトや口コミをチェックし、「働きやすさ」の実態を把握しておきましょう。
3. 面接での伝え方
- 「どのような配慮があれば働けるか」を具体的に伝える
- 「これまでどのような業務を経験してきたか」を強みに変えて話す
- 「体調を管理しながら働く工夫」や「自己管理能力」もアピールポイントに
前向きな姿勢と誠実な伝え方が、企業側の安心感にもつながります。
肢体不自由のある方が仕事で直面する困難

「働きたい」という強い思いがあっても、肢体不自由という障害があることで、働く環境や働き方に多くの工夫が必要になることは事実です。障害そのものよりも、それに伴って生じる社会的な障壁や配慮の不足が、就労の大きなハードルになるケースも少なくありません。
肢体不自由のある方が安心して働き続けるためには、まずどのような場面で困難が生じやすいのかを把握しておくことが重要です。本稿では、代表的な4つの課題について具体的に解説し、それぞれに向けた対策や配慮の必要性について触れていきます。
移動と通勤の問題
肢体不自由のある方にとって、職場に「たどり着くまで」が大きな壁となることがあります。
■ 公共交通機関の利用の困難
- 駅やバス停にエレベーターがない
- バリアフリー対応がされていない古い施設
- 通勤ラッシュの時間帯の混雑による転倒リスク
こうした物理的障壁は、通勤そのものを躊躇させてしまう要因になり得ます。エレベーターの設置や駅員の介助体制の充実、優先座席の運用改善など、交通インフラ側の対応も進んでいますが、まだ十分とは言えません。
■ 雨天や積雪時の移動の不安
車椅子利用者にとっては、路面状況が悪化するだけで通勤が著しく困難になることもあります。タクシー移動を余儀なくされる場合は、経済的負担も重なります。
対策の方向性
- テレワークや時差出勤を導入する企業の選択
- 通勤手当だけでなく、移動補助の実費支給を行っている職場の検討
- 駅近のオフィスなど、アクセスに配慮された勤務地の求人を優先
業務範囲の制限
肢体不自由があると、身体的に対応が難しい業務内容がある場合もあります。
■ 手足を使った作業の制約
- 立ち仕事や長時間の歩行ができない
- 物品の持ち運びが困難
- タイピングや細かい手作業に支障がある場合も
これらの制限により、事務職、接客、製造業などでも担当できる業務が限定されてしまうことがあります。
■ 緊急時対応のハードル
火災や災害など非常時に避難が必要になった際、「他の人と同じスピードで動けない」ことへの不安から業務に制限を設けられることもあります。
対策の方向性
- 業務を細分化し、担当範囲を明確にすることで、無理のない分担が可能
- パフォーマンス評価を結果重視型に切り替えることで、身体能力に依存しない働き方を促進
- 技術支援(音声入力、支援ソフトなど)を活用したPC操作の効率化
職場環境における物理的な壁
職場の設備や導線が身体に合っていないと、それだけで働きにくさを感じることが多くなります。
■ バリアフリー化の不十分さ
- 段差や狭い通路、スロープの欠如
- 洋式トイレがない/広さが足りない
- オフィスの机・椅子の高さが調整できない
これらは業務への集中力を損なうだけでなく、慢性的なストレスの原因にもなります。
■ 会議室や休憩室のレイアウト
共用スペースが使いづらいことで孤立感を感じたり、業務外のコミュニケーションが取りづらくなることもあります。
対策の方向性
- 在宅勤務を可能にする設備支援(通信環境・PC貸与など)
- オフィス改修時にユニバーサルデザインを導入
- バリアフリー診断を行っている企業の求人を優先的にチェック
心理的な負担と周囲との関係性
物理的な問題以上に深刻なのが、心理的なプレッシャーや孤立感です。
■ 自分の障害をどう説明するかの葛藤
「どこまで伝えるべきか」「同情されたくない」「迷惑をかけたくない」といった感情から、必要な配慮を言い出せないまま無理をしてしまうケースが多くあります。
■ 周囲の理解不足
障害に対する正しい知識がないことで、心ない言葉や偏見にさらされることもあります。「甘えている」「仕事が遅い」などの誤解は、当事者の自信や意欲を削いでしまいます。
■ 孤立によるストレス
チームから取り残されたように感じる、ランチや雑談に参加しにくいなど、業務外でのコミュニケーションの断絶も大きな課題です。
対策の方向性
- 上司や人事担当者との定期面談で状況を共有
- 障害者雇用に実績のある企業で、研修やサポート体制が整っている職場を選ぶ
- メンター制度や社内コミュニティに参加しやすい環境を選ぶ
肢体不自由があるからこそ、働く上では多くの課題と向き合う必要があります。しかし、それは「できない理由」ではなく、「どうすれば働きやすくなるか」を見つけていくプロセスです。
課題を理解し、自分に合った企業・仕事を選ぶことで、無理のない、安心できるキャリアが築けます。働くことは、自己実現と社会とのつながりを得るための大切な一歩。必要な配慮を受けながら、自分らしく働ける職場を一緒に探していきましょう。
肢体不自由のある方に適した職種と働き方

「肢体不自由があっても、自分らしく働ける職場があるだろうか」「体力に不安があるけれど、仕事を通して社会とつながっていたい」
そんな悩みや希望をお持ちの方へ——
現代の働き方は多様化し、身体的な制約があっても活躍できる職種が大きく広がっています。特にITの進化や在宅勤務の普及により、移動の負担を軽減しつつ、能力を存分に発揮できる環境も整いつつあります。
本稿では、肢体不自由のある方におすすめの職種や働き方を、実際の業務内容や必要なスキルとともにご紹介します。自分の体に無理のない働き方を見つけ、安心して一歩を踏み出す参考にしてください。
デスクワーク中心の職種
肢体に不自由があっても、オフィスや在宅で座って取り組める業務は数多く存在します。以下に代表的な職種をご紹介します。
■ 事務職
事務職は、定型業務が中心であり、体力的な負担が少ない点が魅力です。仕事内容には、データ入力、資料作成、電話対応、スケジュール管理などがあります。最近ではクラウドベースの業務管理ソフトが普及しており、在宅勤務や時短勤務にも柔軟に対応できる職場が増えています。
また、車椅子利用者にも対応したオフィスレイアウトが進んでいる企業も多く、障害者雇用に積極的な企業では配慮の整った環境で働くことができます。
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■ エンジニア
システム開発やプログラミング業務は、スキルがあれば在宅での勤務も可能で、通勤の負担がありません。多くのIT企業ではフレックス制度やリモートワーク体制が整っており、肢体不自由のある方にとって理想的な職場環境と言えるでしょう。
必要なスキルとしては、Java、Python、PHPなどのプログラミング言語や、クラウドサービス(AWS、Azure等)の知識が挙げられます。未経験から学べる研修制度を備えた企業も増えており、キャリア形成もしやすい分野です。
■ デザイナー
グラフィックデザインやWebデザイン、DTPオペレーターなどの職種は、身体的な負荷が少なく、創造力を活かせる仕事として人気です。IllustratorやPhotoshopなどのツールを使用し、広告や販促物、WEBページなどの制作を行います。
ポートフォリオを通じて実力を示すことができるため、経験やスキル次第では在宅フリーランスとして活躍する道も開かれています。企業によっては在宅ワークやフルリモートも導入しており、働き方の自由度が高い職種です。
在宅勤務が可能な仕事
通勤や移動に不安がある方にとって、在宅勤務は大きな安心材料です。現在では多くの業界でテレワークが導入されており、以下のような仕事で在宅勤務が可能です。
- データ入力/チェック業務
- Webライティング/編集
- オンラインカスタマーサポート
- 在宅営業/オンライン商談
- 翻訳/校正業務
在宅勤務であれば、自分の体調に合わせて休憩をとることも可能ですし、自宅環境を自分にとって最適な形に整えることができる点もメリットです。通勤が難しい地方在住の方や、移動に制限がある方にとっては非常に働きやすい選択肢となります。
コールセンター業務
コールセンター業務は、座ったまま対応ができ、定型的なやりとりが多いため、肢体不自由のある方にも取り組みやすい職種です。仕事内容は主に以下のようなものがあります。
- お客様からの問い合わせ対応(インバウンド)
- 商品やサービスの案内(アウトバウンド)
- チャットやメールでの対応(ノンボイス)
音声通話だけでなく、チャット対応専門の求人もあり、タイピングが得意な方にも適しています。研修制度が整っている企業も多く、未経験からスタートしやすい点も大きな魅力です。また、一部のコールセンターでは在宅対応を導入しており、テレワークでの勤務が可能な求人もあります。
個々の能力を活かせる特殊技能職
特定の資格やスキルを活かして働く「専門職」も、肢体不自由のある方が自信を持って挑戦できる分野です。自分の強みを発揮できれば、身体的制限を超えて評価される可能性も高まります。
■ 例として挙げられる職種
- 税理士・会計士・社労士:自宅での書類作成やオンライン相談も可能
- CADオペレーター・建築士:設計ソフトを使用して図面作成
- IT講師・プログラミング教育者:オンライン教育市場の拡大により需要増
- 作家・イラストレーター・漫画家:創作活動を通じた独立も可能
これらの職種は、時間や場所に縛られず働けることが多く、自分の生活スタイルを大切にしながらキャリアを築けます。
肢体不自由があることで、向いていない仕事もあるかもしれません。しかし、それ以上に「向いている仕事」や「働きやすい環境」は確実に存在します。大切なのは、自分の体に無理なく働けるスタイルを見つけ、安心して働ける職場を選ぶこと。
仕事は、社会との接点であり、自己表現の場でもあります。体の制約があっても、自分の力を発揮できるフィールドで、自信と誇りを持って働ける——そんな未来を一緒に描いていきましょう。
働きやすい環境と企業選びのポイント
障害を持つ方にとって、「どこで働くか」という企業選びは、職種や収入以上に重要なテーマです。なぜなら、仕事内容が自分に合っていても、職場環境や支援体制が整っていなければ、長く働き続けることが難しくなるからです。
特に肢体不自由のある方にとっては、「通勤しやすいか」「オフィスはバリアフリーか」「必要な配慮が得られるか」など、事前に確認しておきたい要素が数多くあります。働きやすさは、仕事の成果にも直結し、何よりも日々の安心と自信に繋がります。
本稿では、障害のある方が「ここなら安心して働ける」と思える企業を見つけるために、確認すべき4つの視点をご紹介します。
バリアフリー設備の整備状況
まず確認したいのは、物理的な働きやすさ、すなわち「オフィス空間のバリアフリー化」が進んでいるかどうかです。
■ 主な確認ポイント
- 段差のないフロア構成:車椅子や杖を使う方もスムーズに移動できる構造か
- 広めの通路・扉幅:移動やすれ違いがストレスなくできるか
- エレベーターの設置とサイズ:全フロアへ問題なくアクセスできるか
- バリアフリートイレの有無:車椅子利用や介助が必要な方にも配慮があるか
- 休憩スペースの確保:疲れたときにすぐに休める空間があるか
また、社屋だけでなく、通勤路も含めたバリアチェックができると安心です。企業によっては、面接時にオフィス見学の時間を設けてくれる場合もあるので、事前に希望を伝えておくとよいでしょう。
柔軟な勤務形態の有無
身体状況や体調によって働ける時間帯・日数・場所に限りがある場合、勤務形態に柔軟性があるかどうかは非常に大切な判断軸になります。
■ 柔軟な勤務形態の例
- 時短勤務制度:1日4〜6時間など短時間勤務が可能
- フレックスタイム制度:通院や体調に合わせて出退勤時間を調整できる
- 週3〜4日勤務:通院やリハビリと両立しやすい
- テレワーク・在宅勤務制度:移動の負担を軽減し、体調に合わせた働き方ができる
- 中抜け制度:昼間に通院や休憩時間を自由に取れる柔軟さ
このような制度は、障害のある方だけでなく、多様な働き方を求めるすべての社員にとって有効な仕組みです。企業として働き方改革を進めているかどうかを見ることで、長期的な視点で働けるかが見えてきます。
障害者雇用に対する企業の姿勢と理解
制度があっても、それを支える企業の「姿勢」が伴っていなければ、働きやすい環境は実現しません。障害者雇用に対してどのような方針を持っているか、企業文化や取り組みを事前に調べておくことが重要です。
■ チェックポイント
- 障害者雇用の実績があるか:障害のある社員が在籍しており、長く勤めている実績がある
- 雇用方針を明記しているか:企業のWebサイトや採用ページに「多様性」や「インクルージョン」の方針が書かれている
- 障害理解に関する社内研修を実施しているか:上司や同僚が適切な知識を持って接してくれるかがカギ
- 合理的配慮の提供に積極的か:配慮内容をしっかりヒアリングし、対応に前向きであるかどうか
「障害者枠」としての採用であっても、必要以上に線を引かれず、社員の一人として同じフィールドで成長できる環境かを見極めましょう。
職場のサポート体制
実際に働き始めてからの“安心”を支えるのが、職場内のサポート体制です。制度だけでなく、「困ったときに相談できる人がいるか」「配慮を継続的に受けられるか」が、定着率にも大きく関わってきます。
■ 代表的なサポート例
- 人事担当者・障害者雇用担当者による定期面談:業務内容や体調の相談を気軽にできる環境
- ジョブコーチの配置:専門知識を持つ支援者が、職場適応や人間関係の調整をサポート
- 相談窓口の設置:体調悪化や職場トラブルの際に頼れる体制
- メンター制度の導入:先輩社員によるサポートが、職場への早期適応に役立つ
サポート体制があることで、安心感を持って働き始めることができ、「続ける」ための土台が生まれます。
企業選びの際には、求人票に書かれている仕事内容や待遇だけでなく、「どのように働けるか」「どのように支えてくれるか」にも目を向けてみてください。長く安心して働くためには、自分にとって“本当に働きやすい場所”を選ぶことが何よりも大切です。
肢体不自由のある方向けの就職支援サービス
「働きたい気持ちはあるけれど、どうやって仕事を探したらいいかわからない」
「自分の身体の状態に合った職場が見つかるのか不安」
そんな悩みを抱えている肢体不自由のある方は少なくありません。ですが、近年では就労を希望する障害者のために、さまざまな公的・民間の支援サービスが整備されてきています。
支援機関をうまく活用すれば、就職活動における「迷い」や「不安」を大きく軽減し、自分に合った仕事を見つけることが可能になります。本稿では、肢体不自由のある方が利用できる主な就職支援サービスを、公的・民間の2つの視点から詳しく解説していきます。
公的機関による支援
公的機関が提供する支援サービスは、誰でも無料で利用でき、地域に根ざしたきめ細かなサポートが受けられる点が魅力です。以下の3つは、就労支援の中核的な役割を果たしている重要な機関です。
■ ハローワーク
全国各地にあるハローワークには、「障害者専門の窓口」が設置されています。専任の相談員が、障害特性に応じた求人紹介を行うだけでなく、応募書類の添削や面接練習、企業とのマッチングまで丁寧にサポートしてくれます。
また、企業見学や職場実習の提案を通じて、ミスマッチを防ぐ働きかけも積極的に行われています。障害者手帳を持っている方はもちろん、手帳を取得していない方も利用可能です。
■ 地域障害者職業センター
各都道府県に1カ所以上設置されている地域障害者職業センターでは、より専門的な職業リハビリテーションが提供されています。たとえば、職業評価や職場適応訓練、就労能力に関するアセスメントなどを通じて、「どんな仕事が向いているか」を明らかにする支援が受けられます。
また、企業への支援も行っており、職場での配慮事項や受け入れ体制の整備についてもアドバイスを提供しています。
■ 障害者就業・生活支援センター(ナカポツ)
「働くこと」と「生活すること」を一体的に支援してくれるのが、障害者就業・生活支援センター(通称:ナカポツ)です。就労相談だけでなく、金銭管理、医療との連携、日常生活上の困りごとにも対応してくれます。
特に初めての就職を目指す方や、長いブランクがある方にとって、生活面のサポートも受けられるナカポツは心強い存在です。全国に400カ所以上あり、地域によって特色のある支援が展開されています。
民間の就労支援サービス
民間の支援サービスは、より専門性が高く、即戦力として働きたい方や、希望職種が明確な方に特におすすめです。就労に特化したサポートが受けられるため、効率的に就職活動を進めたい方に向いています。
■ 就労移行支援事業所
就労移行支援は、障害のある方が一般企業への就職を目指すために設けられた福祉サービスです。原則2年間、通所型で支援を受けることができ、ビジネスマナーやPCスキルの習得、履歴書の作成、模擬面接など、実践的なトレーニングが提供されます。
事業所によっては、実際の企業での実習や職場体験も組み込まれており、「働く感覚」を身につけることが可能です。また、就職後の定着支援まで行っている点も大きな魅力です。
■ 障害者向け人材紹介エージェント
民間の人材紹介会社でも、障害者専門の転職エージェントが増えています。キャリアアドバイザーが個別に対応し、希望やスキルに合った求人を紹介してくれるほか、書類添削や面接同行、企業への配慮事項の説明代行など、手厚いサポートが受けられます。
特にエージェントの強みは、非公開求人を多く取り扱っていること。障害者雇用に理解のある優良企業を紹介してもらえる可能性が高まります。
■ 障害者雇用に特化した求人サイトの利用
障害者雇用に特化したオンライン求人サイトも、非常に有用なツールです。障害内容や配慮事項をあらかじめ登録しておくと、自分に合った求人が絞り込まれて表示される仕組みを採用しているサイトもあります。
また、「バリアフリー完備」「在宅勤務可」「時短勤務可」などの条件で検索できるため、肢体不自由のある方にとっては大きな助けになります。応募から面接までオンラインで完結できる企業も増えており、自宅でじっくり活動できる点も魅力です。
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▶ バリアフリー対応・在宅可の求人を見る
就職活動を一人で進める必要はありません。自分に合った支援機関やサービスを活用することで、より前向きに、より自信を持って働く準備ができます。
障害があることを「働けない理由」にするのではなく、「自分に合った働き方を見つけるきっかけ」に変える。そのために、支援サービスはあなたの力強い味方です。
就職に向けた準備と心構え

就職活動を始めるにあたり、肢体不自由などの障害を抱える方にとっては、体調管理や職場とのマッチング、適切なサポート体制の確保など、一般的な就職活動とは異なる課題も伴います。しかし、それらを乗り越えるための準備と心構えがしっかりできていれば、自分に合った職場で長く安定して働くことは十分に可能です。
ここでは、障害のある方が就職に臨むうえで大切な3つの視点——「自己理解」「スキル習得」「伝え方」についてご紹介します。
自己分析と適性の把握
まず最初に行いたいのが、自分の障害や体調の特徴を踏まえた自己分析です。「どんな業務なら無理なく続けられるか」「どの時間帯が一番体調が安定しているか」「苦手な作業は何か」など、自分の生活リズムや身体的な制限を明確にすることが、職場とのミスマッチを防ぐカギになります。
さらに、過去の経験から得たスキルや得意なことを棚卸しすることで、適職の方向性も見えてきます。自己分析の結果は、就職活動の際に提出する履歴書や面接での自己PRにも活用できる大切な情報です。
職業訓練と技能習得
次に重要なのが、「できる仕事の幅を広げるための準備」です。各地の公共職業訓練校や就労移行支援事業所では、障害のある方向けの職業訓練を提供しています。たとえば以下のような内容があります。
- PCスキルの習得(Word、Excel、データ入力など)
- 接客・事務マナーの研修
- 軽作業や製造業務の基本操作訓練
- 在宅ワーク向けのITスキル研修
このような訓練を通じて、就職後に必要なスキルを身につけるだけでなく、自分の得意・不得意を実践の中で見極めることもできます。近年ではeラーニングや在宅受講も可能になっており、通所が難しい方でも利用しやすくなっています。
障害特性の説明と必要な配慮の伝え方
就職活動の成功には、「自分にとって必要な配慮を、適切な形で企業に伝える」ことが欠かせません。面接で自分の障害について話すことは勇気がいるかもしれませんが、働き始めてからの誤解やトラブルを防ぐためにも、可能な範囲での説明は非常に有効です。
具体的には、以下のような内容を整理しておきましょう。
- 障害の種類と等級(必要であれば診断書の提示も)
- 業務で支障が出やすい状況(例:長時間の立ち仕事が困難、階段の使用ができない など)
- 配慮してもらいたい事項(例:休憩時間の調整、トイレに近い席、段差のないフロア)
面接時に話しにくい場合は、支援者やエージェントを通して企業に説明してもらうこともできます。無理をして隠すのではなく、オープンに共有することで、安心して働ける環境が築けるはずです。
利用可能な手当と支援制度

就職に向けて準備を進める中で、公的な支援制度をうまく活用することも忘れてはいけません。経済的な安心や就労継続のサポートとして、活用できる制度は複数あります。
障害者手帳の取得
まず最初に確認したいのが、「障害者手帳」の取得についてです。肢体不自由のある方は、身体障害者手帳の対象となることが多く、等級に応じて各種サービスや支援を受けることができます。
取得しておくことで、
- 障害者雇用枠への応募
- 公共交通機関の割引
- 医療費の軽減
- 雇用主が受けられる助成金制度
など、さまざまなメリットがあります。まだ手帳を取得していない方は、お住まいの自治体窓口に相談してみると良いでしょう。
各種手当と年金制度
身体障害者が利用できる代表的な給付制度には、以下のようなものがあります。
- 障害基礎年金・障害厚生年金:働きながらでも一定の条件で受給可能
- 特別障害者手当:重度の障害を持つ方に支給される手当
- 自立支援医療:通院にかかる医療費の自己負担を軽減
これらの制度を利用することで、収入面や医療費の負担を軽減し、無理のない生活と就労の両立が実現できます。
職場適応のための助成金
企業側が障害者を雇用する際に活用できる助成金も多数あります。これらの制度を理解しておくことで、企業にとってもあなたを採用することのメリットが明確になります。
たとえば、
- トライアル雇用助成金(障害者コース)
- 障害者雇用納付金制度に基づく調整金
- 職場適応援助者(ジョブコーチ)活用支援
などがあり、職場での配慮を企業に求める際の根拠にもなります。支援者と相談しながら、適切な制度の案内ができると良いでしょう。
まとめ
障害があっても、自分らしく働きたい。その思いを実現するためには、丁寧な準備と、支援制度を正しく活用することが何よりも大切です。
自己分析を通じて自分を知り、スキルを身につけ、必要な配慮を企業と共有する。そして、手帳や各種手当・助成制度を通じて「働くことの安心」を手に入れる。それらすべてが、より良い職場環境とキャリア形成へとつながっていきます。
「不安」や「できないこと」に目を向けるのではなく、「できること」「支えてくれる仕組み」を活かして、一歩ずつ前に進んでいきましょう。