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なぜ発達障害の人は忘れっぽい?マルチタスクが苦手?行動の理由と特性を脳のメカニズムから解説

この記事の内容
はじめに
「ちゃんとやらなきゃと思っているのに、なぜかできない」
「頑張ってメモしたはずなのに、気づいたら忘れている」
そんな悩みを日常的に抱えている方は、もしかすると発達障害の特性が関係しているかもしれません。特に、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の方に多く見られる“忘れっぽさ”や“マルチタスクが苦手”という行動傾向には、脳の仕組みや情報処理の違いが影響しています。
本記事では、こうした発達障害の特性に「なぜそうなるのか?」という視点から迫り、理解を深めることを目的としています。背景を知ることで、「どう対処すればよいか」「どんな働き方が合っているか」といった工夫にもつながるはずです。
発達障害とは?ADHDとASDの違いと共通点
ADHD(注意欠如・多動性障害)とは?
ADHDは「Attention Deficit Hyperactivity Disorder」の略で、日本語では「注意欠如・多動症」と呼ばれます。主に以下のような3つの特性が知られています。
- 不注意:ケアレスミスが多い、物をよく失くす、話を最後まで聞けない
- 多動性:じっとしていられない、動き回る、しゃべり続けてしまう(ただし大人では目立ちにくい)
- 衝動性:思ったことをすぐ口に出す、順番を待てない、感情のコントロールが苦手
大人のADHDでは、「多動性」は目立たなくなることが多く、代わりに「注意が散りやすい」「忘れ物や予定ミスが多い」といった不注意傾向が強く表れます。また、計画を立てて順序立てて行動するのが苦手な人も多くいます。
仕事や日常での影響
- スケジュールを忘れてしまう
- 書類をどこに置いたか思い出せない
- 複数の作業を同時に頼まれるとパニックになる
こうした「ミスが多い人」「だらしない人」と誤解されやすい点も、ADHDの大きな生きづらさです。
ASD(自閉スペクトラム症)とは?
ASDは「Autism Spectrum Disorder」の略称で、社会的コミュニケーションの困難さや、強いこだわり、感覚の過敏さなどが特徴です。以前は「アスペルガー症候群」と呼ばれていた分類も、現在ではASDの一部として扱われています。
ASDの主な特徴は次の通りです:
- 対人コミュニケーションの苦手さ:あいまいな表現や空気を読むことが難しい、雑談が苦手
- こだわりやルールへの強い固執:予定の変更がストレスになる、独自の手順を崩したくない
- 感覚の過敏さ・鈍麻:音・光・匂い・肌触りなどに強く反応する/逆に鈍感な場合もある
忘れっぽさやマルチタスクとの関係
ASDの方も、情報の取捨選択が苦手だったり、ひとつのことに強く集中しすぎて他のことを忘れてしまったりすることがあります。また、予想外の出来事に弱く、複数のタスクを一度に処理するのが難しいケースも見られます。
ADHDとASDの“グレーゾーン”も多い
実際には「ADHD」「ASD」ときっぱり分けられないケースも多く、特性が重なる人も少なくありません。たとえば、
- 物事への強いこだわり(ASD)+ 忘れっぽさや衝動性(ADHD)
- 一見会話はできるが、細かい社会的ルールが苦手(両方の特性)
といったように、「グレーゾーン」や「併存(併発)」という状態で診断される方もいます。
このような場合、「自分はどっちなのか」と悩むよりも、「自分にはどんな特性があるか」「その特性にどう対処していくか」にフォーカスすることが大切です。
よくある発達障害の特性とその理由

発達障害(主にADHD・ASD)のある方が日常で困りやすい行動には、実はそれぞれ脳のメカニズムに裏付けがあります。ここでは、代表的な5つの特性とその理由、そして具体的な対策方法を解説します。
1. 衝動的に行動してしまう
特徴
- 考える前にすぐに行動してしまう
- 場の空気を読まずに思ったことをそのまま口に出してしまう
- 自分でも「やっちゃった…」と後悔することが多い
脳のメカニズム
衝動性に関与するのは、脳の「前頭前野」という部分です。この領域は、本来「行動のブレーキ役」として働きます。しかし、ADHD傾向のある方では、この前頭前野の抑制機能が弱いため、感情や思考がそのまま行動として表れやすいのです。
対策
- 「一呼吸おく」習慣を意識する
- 行動前にルールやステップで判断基準を設ける(例:発言する前に3秒数える)
- 「やっていいこと/いけないこと」を事前に紙に書いて可視化
2. 忘れっぽい、物をよくなくす
特徴
- さっきまで手に持っていたものが見当たらない
- 会議や予定をうっかり忘れてしまう
- メールの返信やタスク抜けが多発する
脳のメカニズム
「ワーキングメモリ」と呼ばれる短期的な記憶の保持・操作に関わる機能が弱い傾向があります。このため、「今、覚えておく必要があること」が頭からすぐに抜けてしまい、注意がそれた瞬間に忘れてしまうのです。
対策
- メモではなく「貼り紙」「スマホのリマインダー」など視覚化
- 物の置き場所を決めて固定(例:鍵は玄関のフックにしか置かない)
- タスクリストは紙・スマホ問わず「目に入る場所」に常設
3. 優先順位をつけるのが苦手
特徴
- 締切間近のタスクを後回しにして、不要な作業に時間をかけてしまう
- 「やることは分かってるけど、何から手をつけていいか分からない」
- 書類をまとめようとして片付けを始めてしまう、など脱線しやすい
脳のメカニズム
計画立てや判断を担う「実行機能」が関係しています。この機能も前頭葉にあり、弱いと「重要なこと」と「すぐやりたくなること」を見分ける力が低下し、順序立てた行動が難しくなります。
対策
- ToDoリストに「所要時間」「緊急度」「重要度」を数値で記載し、視覚化
- 1日の始まりに「やる順番」を決めておく
- 信頼できる人と一緒に優先順位を確認(ダブルチェック)する仕組みづくり
4. マルチタスクが苦手
特徴
- 複数の作業を同時に頼まれると頭が混乱する
- 作業中に話しかけられると、元の作業に戻れなくなる
- 同時進行が求められる場面でパフォーマンスが落ちる
脳のメカニズム
脳の「注意の切り替え」や「同時処理能力」が低下しているとされ、2つ以上のことを並行して進めると、情報が混線しやすくなります。ASD・ADHDどちらのタイプにも見られることがあります。
対策
- 一度に1つの作業に集中できる環境を整える(静かな場所・ノイズキャンセリングなど)
- 口頭指示ではなく、1つずつ書面でタスクを提示してもらう
- タスク終了時にチェックを入れる「1ステップずつの可視化」
5. 人との会話がうまくいかない
特徴
- 話しすぎてしまう/沈黙が読めない/会話が一方通行になる
- 相手がどう感じているか分からない
- 話の焦点がずれて、相手が困惑する
脳のメカニズム
ASDの特性に多く見られるのが「社会的認知(ソーシャル・スキル)」の困難さです。これは、相手の視点や感情を推測する力であり、日常会話において非常に重要な能力ですが、この認知機能が弱いため「ズレ」が生じやすくなります。
対策
- 会話の「型(スクリプト)」を決めておく(例:「挨拶→要件→締め」など)
- 話す前に「これ言って大丈夫かな?」と自問するクセをつける
- アイコンタクトや相手の表情・声のトーンに注目して反応を見る練習をする
自分の特性を知ることで変わること

発達障害がある方にとって、日々の「うまくいかないこと」は、自分を責めてしまう原因にもなりがちです。「なぜ自分だけできないのか」「社会に適応できていないのか」といった自己否定に陥る人も少なくありません。しかし、脳の特性を知ることで、その見え方は大きく変わります。
特性は「努力不足」ではない
発達障害の特性によるミスや行動の難しさは、本人の努力不足ではなく、「脳の情報処理の違い」によるものです。
たとえば、忘れ物が多い人やマルチタスクが苦手な人に対して、「もっとしっかりしなさい」と言ってしまいがちですが、これは実は“能力の問題”ではなく、“仕組みの違い”です。
脳の前頭前野やワーキングメモリの働きが一般的な人と異なるため、本人がどれだけ気をつけようとしても、同じミスが繰り返されてしまうことがあります。
この背景を知ることで、「できない自分」を責めるのではなく、「できる方法を見つける」方向に意識を向けられるようになります。これが、自分の特性を知る最大のメリットです。
失敗=性格ではなく、仕組みの問題
発達障害のある人が抱える「困りごと」の多くは、工夫や環境調整によって軽減・改善が可能です。つまり、「性格の問題」ではなく、「環境との相性の問題」と言えるのです。
たとえば、以下のようなケースはよくあります。
| よくある困りごと | 工夫・配慮で変えられること |
| 口頭指示をすぐに忘れる | メモや図解にしてもらう/リマインダーを活用 |
| 作業順序が混乱する | 手順表を用意する/チェックリストを作る |
| 周囲の音が気になって集中できない | 静かな作業スペース/イヤーマフ・ノイズキャンセリングを活用 |
このように、ほんの少しの工夫や配慮で「働きやすさ」は大きく変わります。だからこそ、自分の特性を正しく理解し、「自分に必要な配慮は何か」を言語化できるようになることが大切です。
発達障害がある人の職場での困りごとと配慮例

発達障害のある方が社会で働くうえで直面しやすい困難は、業務スキルではなく「環境とのミスマッチ」に起因することが多いです。ここでは、よくある職場での悩みと、実際に行われている配慮の例をご紹介します。
職場でよくある悩み
- 口頭での指示がわかりにくい
→ 一度に多くのことを言われると混乱する/聞き漏らしてしまう - スケジュールの管理が苦手
→ 締切や納期が頭から抜けやすく、ギリギリになるまで動けない - 雑談や朝礼などが苦痛
→ 曖昧な会話が苦手で、何を話せばいいか分からず疲れてしまう
これらの困りごとは「努力」だけでは改善しにくく、周囲の理解やちょっとした配慮が非常に重要になります。
実際の配慮例
発達障害のある方が安心して働ける職場づくりのためには、個々の特性に応じた対応が求められます。実際の現場で行われている配慮の一部をご紹介します。
- 口頭指示が苦手な人には…
→ 指示をメモで残してもらう/図や表で視覚的に整理してもらう - 締切管理が不安な人には…
→ 実際の締切より早めに「社内締切日」を設定して伝える
→ リマインダー通知やカレンダー共有を活用 - 集中できる環境が必要な人には…
→ 静かな作業スペース(個別ブース・離席の自由)を提供
→ イヤホン・耳栓などの使用許可 - 時間管理が苦手な人には…
→ フレックスタイム制や時差出勤制度を活用
→ 始業時間に余裕をもたせることで精神的負担を軽減
こうした配慮は、「特別扱い」ではなく、「働きやすさのための合理的配慮」です。企業や上司に伝えることをためらう方も多いですが、近年は「配慮事項の事前共有」が一般的になってきています。
支援制度を活用して「働きにくさ」を軽減する方法
「忘れっぽい」「マルチタスクが苦手」といった特性があると、職場での業務がスムーズに進まないことがあります。しかし、そうした“働きにくさ”を軽減するための制度や支援サービスが、実は多く用意されているのです。
ここでは、発達障害がある方が活用できる主な支援制度と、診断を受けていない方でも利用できるサポートについてご紹介します。
診断を受けたら使える支援
発達障害の診断を受けたことで、「障害者雇用」や「福祉制度」の対象となり、より働きやすい環境づくりに向けた支援が受けやすくなります。
主な制度とサポート
- 精神障害者保健福祉手帳
→ 一定の診断要件を満たすと申請可能。就労支援や税制優遇、交通機関の割引などが利用できる。 - 障害者雇用枠での就職・転職
→ 働きやすさを考慮した職務内容・業務調整・配慮体制のある企業で働ける可能性が高まる。 - 合理的配慮の申し出
→ 法的に企業には「本人の申し出があった場合、合理的配慮を提供する義務」がある。例:口頭指示をメモで出してもらう、静かな作業場所の確保など。 - ジョブコーチ支援(職場適応援助者)
→ 就職後に職場での人間関係や業務に不安がある場合、ジョブコーチが間に入り、定着支援を行ってくれる。 - 就労移行支援事業所の活用
→ 働くための準備や職業訓練を行う施設。ビジネスマナーから実習まで段階的に支援してくれる。
これらの支援を活用することで、就職や職場適応のハードルを大きく下げることができます。「診断を受けるのが怖い」と感じる方もいるかもしれませんが、正しく理解し、使える制度を知ることで、前向きな一歩につながります。
診断を受けていなくても使えるサポート
「自分は発達障害かもしれないけれど、診断は受けていない」
そんな方でも、利用できるサポートや自己理解のための取り組みは多くあります。
主な取り組み・支援方法
- 自己理解を深めるワークシート・書籍の活用
→ 自分の強み・弱み・得意不得意を「見える化」することで、働き方の改善につながる - タスク管理や環境調整の工夫
→ 付箋、スマホアプリ、ノイズキャンセリングなどの道具を使い、日々の生活や仕事を整理整頓 - 地域の相談支援機関の活用
→ 発達障害者支援センター、ハローワークの専門窓口、NPO法人などで無料相談を受けられることも多い - 障害者雇用枠の求人情報に目を通す
→ たとえ診断がなくても「働きやすい環境」にこだわっている企業は多数存在。求人情報から職場選びの参考になる
診断がすべてのスタートではありません。まずは「働きにくさ」や「困りごと」があれば、遠慮せずに相談してみること。それが、自分らしい働き方への第一歩になります。
おわりに|「できる自分」を取り戻すために
発達障害の特性としての「忘れっぽさ」や「マルチタスクの苦手さ」は、決して「怠け」や「努力不足」ではありません。脳のメカニズムという“理由”があるからこそ、適切な工夫と支援が効果を発揮するのです。
大切なのは、自分を責めることではなく、自分の“働き方”を見直すこと。
そして、使える制度や支援を上手に活用して、「できる自分」を少しずつ取り戻していくことです。
無理をしない。
一人で抱え込まない。
自分に合った働き方を見つけていく。
それが、発達障害の特性を理解しながら、自分らしく働き続けるための最良の方法です。あなたが自分自身と向き合い、一歩を踏み出すためのヒントになれば幸いです。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。









