2025/08/13
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高次脳機能障害でも働ける!記憶障害への対応・向いている仕事・職場での工夫事例

はじめに

高次脳機能障害は、脳の損傷によって記憶・注意・判断・感情コントロールなどの機能に影響が出る障害です。発症のきっかけはさまざまですが、日本では交通事故や脳卒中後に後天的に発症するケースが多く報告されています。突然の発症により、これまで問題なく行えていた業務が難しくなることもあり、就労継続や職場復帰に不安を感じる人は少なくありません。

しかし近年、職場での配慮や適切な工夫を取り入れることで、発症後も働き続けている事例が増えています。たとえば、脳出血後に短期記憶が低下したAさんは、写真付きマニュアルを活用して業務を習得し、製造業での検品業務を継続しています。また、交通事故後に注意障害が残ったBさんは、ジョブコーチの支援を受けながら事務補助の仕事に就き、安定して勤務を続けています。

高次脳機能障害は、工夫とサポート次第で**「できる仕事」を広げられる可能性**があります。本記事では、特に記憶障害や注意障害に焦点を当て、起こりやすい困りごと・適した作業習得法・向いている仕事や実践事例を解説します。


仕事で起きやすい困りごと

作業内容を覚えにくい

高次脳機能障害の中でも短期記憶の障害は、業務習得に大きな影響を与えます。たとえば、新しい作業手順を口頭で説明されても、数分後には忘れてしまい、何度も確認しなければならないことがあります。
特に、単発で行う作業や不定期に発生する業務は記憶に残りにくく、業務効率の低下につながります。

作業手順を忘れる

複雑な工程がある作業や、複数の手順を順番通りに行う業務では、手順の抜けや順番の間違いが起きやすくなります。
例えば製造ラインでの組立作業では、「部品の向きを確認 → ネジを締める → 検品」という手順が必要ですが、途中の工程を飛ばしてしまい、不良品が発生するケースがあります。これが繰り返されると、本人の自信喪失や職場での信頼低下につながることもあります。

ミスや物忘れによる自信低下

ミスを繰り返すことで「自分は仕事ができないのではないか」という自己否定感が強まり、モチベーション低下や職場への不安が大きくなります。
心理的負担は集中力をさらに下げ、ミスの増加という悪循環を招く可能性があります。そのため、早期に原因を特定し、ミスを防ぐ仕組みを整えることが重要です。


特性に合った作業習得法

反復動作で体に覚えさせる

記憶障害がある場合、反復練習による「体で覚える」習得法が有効です。
例として、製品検品の作業を習得する場合は以下のステップが有効です。

  1. 手順を一つずつ実演しながら説明
  2. 本人に同じ作業を数回繰り返してもらう
  3. 翌日も同じ工程からスタートし、定着度を確認
  4. できるようになったら少しずつ作業量を増やす

繰り返すことで、記憶に頼らず体の動きとして作業が定着しやすくなります。

視覚的資料(絵入りマニュアル・動画)の利用

文字だけのマニュアルでは記憶に残りにくい場合、写真や図解、動画を使った資料が効果的です。
作り方のポイントは以下の通りです。

  • 各手順を写真で撮影し、番号を付けて並べる
  • 動画マニュアルは1工程ごとに短く区切る
  • 色や矢印で注意点を強調する

実際に、飲食店で働くCさんは、調理手順を写真付きでファイル化し、作業場に常備することで、手順を忘れた際もすぐ確認できる環境を整えています。

作業を小さく分けて練習

一度に多くの情報を覚えるのは困難なため、作業を細かく分割し、少しずつ習得します。
例えば事務作業であれば、「書類整理 → データ入力 → チェック作業」のように工程を区切り、1日の学習量を調整することで負担を軽減できます。

向いている職種

反復作業系(製品検品・組み立て)

高次脳機能障害のある方にとって、工程や作業手順が固定されており、毎日同じ動作を繰り返す仕事は習得しやすく、安定した就労が期待できます。
特に製造業のライン作業は、一定のペースで同じ作業を行うため、反復練習による定着効果が高いのが特徴です。

工場ラインでの成功事例

交通事故で記憶障害を負ったDさんは、ネジ締め工程を担当。最初は順序を飛ばすミスがありましたが、ジョブコーチの提案で手順ごとに色分けされた作業マットを導入。視覚的な手がかりにより、数週間で安定した作業ができるようになり、現在も長期勤務を続けています。


シンプルな事務補助

事務作業の中でも、パターン化できる業務や短時間で完結する作業は適性が高い傾向にあります。たとえば、データ入力や書類整理は手順がシンプルで、作業のチェックポイントを明確化しやすいのが強みです。

データ入力・書類整理の工夫

記憶障害があるEさんは、入力項目を色でグループ分けし、入力漏れを防止。さらに1時間ごとに休憩を挟み、入力内容を自分で再確認する習慣を取り入れた結果、入力ミスが大幅に減少しました。


農作業・清掃業務

屋外作業や体を動かす仕事は、集中力を保ちやすく、精神的なリフレッシュ効果も期待できます。農作業や清掃業務は、工程を決めて反復するため、高次脳機能障害の特性に合いやすい職種です。

屋外作業での体調管理方法

夏場は熱中症リスクが高いため、作業時間を短く区切る・水分補給のタイミングをアラームで通知するといった工夫が効果的です。実際に農業に従事するFさんは、スマートウォッチを活用し、休憩時間と作業再開のアラームを設定して安全に業務を継続しています。


職場での工夫事例

チェックリストの導入

作業の抜けやミスを防ぐには、チェックリストが有効です。紙ベースとデジタル、それぞれにメリットがあります。

紙・デジタルの使い分け

  • 紙のメリット:手元で常に確認でき、視覚的に達成感を得やすい
  • デジタルのメリット:修正・更新が簡単で、通知機能や共有が可能

製造現場では紙を、事務作業ではタブレットやPCを活用するなど、業務内容に応じて併用する事例もあります。


作業順序を色分け

色分けは、視覚的な手がかりとして手順の混乱を防ぐ効果があります。特に複数の工程を行う作業では、色でグループ分けすることで、次の行動が明確になります。

色覚配慮とデザインの工夫

色分けを行う際は、色覚特性に配慮し、色だけでなく形や記号も組み合わせるのが望ましいです。例えば、「赤色+三角マーク」「青色+丸マーク」といった組み合わせにより、色覚に左右されず情報が伝わります。


確認作業をペアで実施

作業の完了チェックや検品を2人1組で行うことで、ミス防止と安全性向上の両方を実現できます。

ペア作業の安全性向上効果

Gさんが勤務する倉庫では、出荷前の検品を必ずペアで実施。1人目が作業、2人目がチェックを行い、ミス率が約70%減少しました。また、同僚との関わりが増えることで、孤立感の軽減や職場定着にもつながっています。

避けるべき職種

突発対応が多い職種

高次脳機能障害の特性上、急な予定変更や予測できない対応が必要な業務は負担が大きくなります。特に記憶障害や注意障害がある場合、突発的な状況に対応するための情報処理速度や判断力が追いつかず、ストレスやミスの原因となります。

接客業・コールセンターでの課題

飲食店のホールスタッフやコンビニなどの接客業、コールセンター業務は、顧客からの問い合わせやクレームなど即時対応が求められる場面が多く、状況判断と記憶の両方に負荷がかかります。結果として、業務中に混乱したり、対応漏れが発生するリスクが高くなります。


危険作業・重機操作

建設現場や工場での大型機械の操作などは、一瞬の判断ミスが重大事故につながる可能性があります。記憶障害や注意障害があると、安全確認の手順を飛ばしてしまったり、注意が他に向いてしまうことがあります。

安全管理上のリスク説明

例えば、フォークリフトやクレーン操作では、操作レバーの順序や安全確認のタイミングを忘れると、作業員や周囲の人に危険を及ぼすことがあります。そのため、こうした職種は原則として避け、安全性が高い業務に配置転換することが望まれます。


支援と継続のための環境

ジョブコーチによるサポート

ジョブコーチ(職場適応援助者)は、障害のある人が職場に適応できるよう、業務習得や人間関係の構築を支援する専門職です。

導入方法と企業側のメリット

ハローワークや就労移行支援事業所を通じて申請すれば、一定期間ジョブコーチが職場に同行し、作業方法の工夫や職場との橋渡しを行います。
企業にとっては、離職率の低下やミスの減少など、長期的な人材定着というメリットがあります。


職場内支援員の配置

職場内支援員は、日常業務の中で声かけや確認を行う役割を担います。

日常的な声かけ・確認の効果

例えば、「次はこの工程ですよ」「昼休憩の時間になりました」など、短い言葉で指示や確認を行うことで、ミスや混乱を防げます。支援員が近くにいることで心理的な安心感も生まれ、作業効率と定着率の向上が期待できます。


障害者雇用枠の活用

障害者雇用枠を利用することで、配慮のある職場環境を確保しやすくなります。

応募〜採用までの流れと書類準備

  1. ハローワークや求人サイトで「障害者雇用枠」の求人を探す
  2. 履歴書・職務経歴書に加え、障害者手帳や医師の診断書を準備
  3. 面接では必要な配慮事項を具体的に伝える(例:作業手順の可視化、定期的な確認)

こうした準備を整えることで、採用後も安定した就労が可能になります。


まとめ

高次脳機能障害があっても、視覚的サポートや反復練習を取り入れることで、多くの業務に対応できます。
また、ジョブコーチや職場内支援員の活用、障害者雇用枠の利用など、制度と環境調整を組み合わせることで、長期的な安定就労が実現しやすくなります。重要なのは、「できないこと」ではなく「できること」に注目し、得意を活かせる環境を整えること。適切なサポートを受けながら、自分らしい働き方を続けるための一歩を踏み出しましょう。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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