2025/08/16
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解離性障害とは?原因・症状・治療法・日常生活と仕事への影響まで徹底解説

はじめに

近年、SNSやメディアで「解離性障害」という言葉を耳にする機会が増えてきました。しかし、その実態や症状について正しく理解している人はまだ多くありません。
「多重人格」といった映画やドラマのイメージで誤解されがちですが、解離性障害は現実に存在する精神疾患であり、日常生活や仕事に大きな影響を与える場合があります。
本記事では、解離性障害の定義・原因・発症メカニズムから、治療法、そして日常生活や職場での対応方法まで、最新の知見をもとにわかりやすく解説します。正しい理解を持つことで、本人や周囲のサポートがより的確になり、生活の質を高めることにつながります。


解離性障害とは

定義(WHO・DSM-5)

解離性障害とは、意識・記憶・自己認識・感覚・行動が一時的に分断される精神疾患の総称です。

  • WHO(世界保健機関)のICD-11では、「通常は統合されている意識、記憶、同一性、感情、知覚、身体表象、運動制御の機能が分離する障害」と定義されています。
  • DSM-5(米国精神医学会の診断基準)では、解離性健忘、解離性同一症、離人感・現実感喪失症候群など複数の下位分類が含まれています。

解離は軽度な形で多くの人に見られる現象でもあります。たとえば「運転中に無意識のうちに目的地に着いていた」「講義中に頭が真っ白になって内容を覚えていない」などは、健康な人にも起こる軽度の解離です。しかし、これが頻繁に起こり、生活や仕事に支障をきたすレベルになると「解離性障害」と診断されます。


発症のきっかけ

心理的トラウマ

多くのケースで、強い心理的ストレスや心的外傷(トラウマ)が発症の引き金になります。特に、身を守るために心が無意識に「記憶」や「感情」を切り離してしまう防衛反応が背景にあります。

  • 例:暴力や虐待を受けた経験を、意識から切り離して記憶できなくなる
  • 例:重大事故や事件に巻き込まれた後、その場面の記憶が途切れる

虐待・事故・災害

  • 虐待(身体的・性的・心理的)
    幼少期の長期的な虐待は、自己認識や記憶の統合を妨げ、複数の人格や記憶の分断を引き起こすことがあります。
  • 事故や災害
    自動車事故、火災、地震など命の危険を感じる出来事が発症契機になる場合があります。
  • 戦争体験や犯罪被害
    強い恐怖や無力感を伴う出来事は、脳の情報処理を分断させ、現実感の喪失や記憶障害をもたらします。

発症率と年齢層

解離性障害は比較的まれな疾患とされますが、外来精神科患者の約1〜5%が該当するとする報告もあります。

  • 男女比では女性にやや多い傾向がありますが、男性でも発症します。
  • 発症年齢は思春期〜青年期に多く、特に幼少期にトラウマ体験がある場合はリスクが高まります。
  • 日本国内では認知度が低いため、うつ病や不安障害と誤診されるケースも少なくありません。

種類と特徴

解離性健忘

重要な記憶を失う

解離性健忘は、特定の期間や出来事に関する重要な記憶が部分的または完全に失われる症状です。
一般的な物忘れと異なり、記憶の抜け落ちはストレスやトラウマ体験に関連しており、脳が無意識にその情報を遮断してしまうと考えられています。

  • 例:事故の直前から病院に運ばれるまでの記憶が全くない
  • 例:過去の虐待体験について、本人は何も覚えていない

解離性同一性障害(DID)

複数の人格が交代する

DIDは、かつて「多重人格」と呼ばれていた障害で、複数の独立した人格(アイデンティティ)が存在し、それぞれが交代で行動や発言を担う状態です。
人格ごとに年齢や性別、口調、記憶、趣味が異なることもあります。交代のきっかけは、ストレスや特定の刺激である場合が多いです。

  • 例:仕事中に突然口調が変わり、別の人物のようになる
  • 例:ある人格が行った行動を、別の人格は全く覚えていない

離人感・現実感消失症

自分や世界が現実でない感覚

この症状では、自分の身体や感情から切り離されたような感覚(離人感)や、周囲の世界が現実ではないように感じる(現実感消失)ことが繰り返し起こります。

  • 例:鏡に映る自分が自分でないように感じる
  • 例:目の前の光景が映画のワンシーンのように遠く感じる

解離性昏迷・運動障害

突然、言葉や動作がほとんどできなくなる状態です。外的な刺激に反応できない、動作が極端に遅くなるなどの症状が現れます。これは脳が極端なストレスに対して防衛的に活動を抑制していると考えられます。


原因とメカニズム

強いストレスと脳の防衛反応

解離性障害の多くは、耐えがたいストレスやトラウマに直面したときの脳の防衛反応として起こります。脳は心的ダメージを最小限にするため、記憶や感情を一時的に切り離します。

幼少期の虐待やネグレクト

幼少期の発達段階で長期間の虐待やネグレクト(養育放棄)を受けると、自己の一貫性を保つ機能が十分に育たず、解離が慢性化しやすくなります。特にDIDの背景にはこの要因が多く報告されています。

脳内ネットワークの異常

神経科学的研究では、記憶・感情・自己認識に関わる脳のネットワーク(扁桃体、前頭前野、海馬など)の活動や連携に異常が見られることが分かっています。ストレスホルモンの過剰分泌も症状の持続に関与します。


主な症状と日常生活への影響

記憶の抜け落ち

日常の一部が「空白」になり、本人が覚えていない行動をとっている場合があります。これにより、仕事や学業の進行に支障が出たり、生活の安全に影響することもあります。

感情・行動の変化

突然気分が変わる、行動パターンが変わるなど、本人や周囲が混乱することがあります。特にDIDでは人格交代が日常生活に予期せぬ影響を与えます。

人間関係・仕事への支障

  • 会議中の記憶が抜け落ちる
  • 指示を受けても覚えていられない
  • 人格交代や感覚の変化により、職場での誤解や不信感を招く

これらの影響により、解離性障害を持つ人は仕事や学業を続ける上で特別な配慮や支援が必要になる場合があります。

診断と検査

診断基準

解離性障害は、DSM-5(米国精神医学会)やICD-11(WHO)などの国際的な診断基準に基づいて診断されます。
主な診断要件としては、

  • 意識・記憶・自己認識・感情・知覚などが一時的に分断されていること
  • その症状が社会生活や職業生活に著しい支障を与えていること
  • 他の疾患や物質(薬物・アルコール等)の影響では説明できないこと
    が挙げられます。

心理検査(DESスケール)

Dissociative Experiences Scale(DESスケール)は、解離症状の有無や程度を自己評価するための質問紙です。
例えば「自分が他人のように感じることがあるか」「出来事の一部を全く思い出せないことがあるか」といった質問に答えることで、解離傾向を数値化できます。

他の疾患との鑑別

うつ病、統合失調症、てんかん、認知症なども記憶障害や意識変容を伴うことがあるため、医師は面接や神経学的検査を通じて慎重に鑑別します。誤診防止のためにも、症状の経過や発症のきっかけを正確に伝えることが重要です。


治療法

心理療法(トラウマ焦点療法、EMDR)

解離性障害の治療の中心は心理療法です。

  • トラウマ焦点療法:過去の心的外傷体験を安全な環境で整理し、感情や記憶の統合を促します。
  • EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法):眼球運動やタッピングを用いて、トラウマ記憶の負担を軽減する方法です。

薬物療法(併発症状の緩和)

解離性障害そのものに特効薬はありませんが、不安や抑うつ、不眠などの併発症状に対して抗うつ薬や抗不安薬が処方されることがあります。

セルフケア(グラウンディング)

グラウンディングは「今ここ」に意識を戻すためのセルフケア法です。

  • 5-4-3-2-1法(見えるもの5つ、触れられるもの4つ、聞こえる音3つ…と順に意識する)
  • 深呼吸や冷たい水で手を洗う
    これらは離人感や現実感の喪失が強いときに有効です。

仕事との関わり

発作や記憶抜けがある場合の課題

突然の記憶の途切れや意識変容は、業務上のミスや安全面のリスクにつながります。特に、

  • 高所作業
  • 重機や危険機械の操作
  • 細かい確認作業を伴う業務(医療、製造ライン、検査など)
    では重大な事故やトラブルにつながる可能性があります。

例えば、製造現場で部品の取り付け順序を飛ばしてしまったり、接客中に会話内容を忘れてしまい顧客対応に支障が出るなど、職種によっては直接的な損失や信用低下につながるケースもあります。


向いている職場環境

  • 静かで落ち着いた環境
    周囲の騒音や頻繁な呼び出しが少ない職場は集中を保ちやすく、症状の誘発リスクを減らせます。
    例:図書館業務、資料整理、データ入力など
  • ルーチン化された作業が多い業務
    毎日同じ流れで作業できる環境は、記憶の抜け落ちや混乱を減らします。
    例:商品の検品・梱包、定型フォームのデータ処理
  • 急な対応や長時間労働が少ない職場
    スケジュールが安定しており、残業や夜勤がない職場は心身の負担を軽減できます。
    例:事務補助、軽作業(シフト固定)

職場での配慮例

  • 業務内容やスケジュールを文書で共有する
    口頭指示だけでなく、メールや共有シートなどで確認できるようにすることで、記憶抜けによるミスを減らせます。
    例:日次タスクリスト、チェックリストの活用
  • 作業手順のマニュアル化
    写真や図解付きの手順書があると、症状が出た後でも作業に復帰しやすくなります。
    例:倉庫作業の手順書、接客時の会話スクリプト
  • 必要に応じて短時間勤務や在宅勤務を導入する
    発作や疲労が予想される場合、通勤負担を減らし、自宅でできる業務に切り替えることで就労継続が可能になります。
    例:週数回のリモートワーク、午前のみの勤務

支援制度

障害者雇用枠

障害者手帳を取得している場合、配慮を受けながら働ける障害者雇用枠を利用できます。面接時に必要な配慮事項を事前に共有しやすいメリットがあります。

就労支援事業所

就労移行支援や就労継続支援(A型・B型)を通じて、職業訓練や職場定着支援を受けられます。

自立支援医療制度

医療費の自己負担を軽減できる制度です。精神科通院や薬代が対象となり、長期治療の経済的負担を減らせます。


まとめ

解離性障害は、外からはわかりにくい症状のため誤解されやすいですが、適切な治療と周囲の理解、そして本人のセルフケアによって安定した生活を送ることは十分可能です。
もしあなたや身近な人が同じような症状に悩んでいるなら、「一人で抱え込まない」ことを大切にしてください。専門家や支援制度を活用し、少しずつでも生活の安定を取り戻すことができます。
あなたの経験や存在には価値があり、支援を受けながらでも社会とつながり続ける道は必ずあります。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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