2025/08/17
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家族が知っておくべきアルコール依存症の対応法|接し方・支援機関・共倒れ防止のポイント

はじめに

アルコール依存症は本人だけでなく、家族に深刻な影響を及ぼす病気です。家庭内で暴言や暴力、金銭トラブルが起きることもあり、支える側の心身が疲弊して「共倒れ」になるケースも少なくありません。

本記事の目的は、家族や支援者が正しい知識を持ち、「本人を支える力」と「自分を守る力」を両立させることです。


病気としての依存症

アルコール依存症は「意志の弱さ」や「性格の問題」ではなく、脳の働きが変化することによって生じる病気です。


脳の報酬系と依存

アルコールを飲むと、脳内で「ドーパミン」という快感物質が大量に分泌されます。

  • 通常の人は「楽しい出来事」や「達成感」で分泌されるドーパミンが、アルコール依存症の人では「飲酒=快感の最短ルート」として強く結びついてしまいます。
  • 結果、脳が「飲まないと満足できない」「飲めばすぐ楽になる」と誤学習し、生活全体が飲酒に支配されるのです。

コントロール不能になる理由

アルコール依存症になると、脳の「前頭前野(理性や判断力を司る部分)」の働きが低下し、「やめたい」という思考よりも「飲みたい」という衝動が優先されてしまいます


なぜ「やめられない」のか

  • 理性より衝動が強くなる
    通常なら「健康に悪い」「仕事に支障が出る」と判断して飲酒を控えられますが、依存症では快楽を求める「大脳辺縁系」が過剰に活性化し、理性を押しのけてしまいます。
  • 習慣化の力
    飲酒が長期間続くことで、脳が「飲むのが当たり前」と学習し、歯磨きや入浴のように自動化された行動になります。
  • 短期的な快楽と長期的な不利益のバランス崩壊
    本来、人は「今の快楽」と「将来の健康」を天秤にかけます。しかし依存症では前頭前野が弱り、「今すぐ飲むこと」しか考えられなくなります。

悪循環の例

  1. :「昨日飲みすぎたから今日はやめよう」と決意
  2. 夕方:疲れやストレスが高まる → 強い飲酒欲求が発生
  3. :「一杯だけ」と飲む → 止まらず深酒
  4. 翌朝:自己嫌悪と後悔 → ストレス増加 → 再び飲酒で解消

この繰り返しが「コントロール不能」の典型的な流れです。


家族が理解すべきこと

  • 本人は“やめたい気持ち”を持っている
    → 依存症者の多くが「やめたい」と感じているが、脳の働きに阻まれている。
  • 意思の問題ではなく、病気の症状
    → 「根性が足りない」と責めるのは誤り。治療や支援なしで克服するのは困難。
  • サポートの方向性
    → 「やめる努力が足りない」と批判するより、「専門医療や支援につながる環境づくり」が回復の第一歩。

つまり、「やめられない」のは性格や努力不足ではなく、脳の機能変化が生む“病気のサイン”なのです。


離脱症状のメカニズム

長期の飲酒で体がアルコールに慣れると、飲まない時に「離脱症状」が現れます。

  • 身体的症状:手の震え、発汗、動悸、吐き気
  • 精神的症状:強い不安、不眠、イライラ、時に幻覚やけいれん

これらの症状を「酒を飲めば治まる」と体が覚えてしまうため、本人は「飲まざるを得ない」という悪循環に陥ります。


家族が理解しておくべきポイント

  • 責めても解決しない
    → 意志が弱いからではなく、病気の仕組みとして「やめられない」状態にある
  • 治療が必要な病気
    → 糖尿病や高血圧と同じように、医療と生活習慣の改善が必要
  • 本人も苦しんでいる
    → 「やめたいのにやめられない」葛藤を抱えており、家族の理解と支援が不可欠

飲酒量と依存の関係

「毎日飲んでいるから依存症」「たまにだから大丈夫」と単純に区別はできません。

  • 飲酒量よりも“コントロールできるか”が重要
    例:「今日は1杯だけ」と決めても止まらず、ボトルが空になるまで飲んでしまう。
  • 時間の支配
    例:朝から飲まないと落ち着かない、飲酒中心に生活が回ってしまう。

家族が「飲む量」だけで判断すると、依存症を見逃す恐れがあります。


依存症を否認する心理

多くの依存症患者は「自分はまだ大丈夫」と考えます。これは病気の特徴であり、本人が意図的に嘘をついているわけではありません。

  • 比較の心理:「自分は友達より少ない」「仕事も行けているから問題ない」
  • 言い訳の心理:「ストレス解消のため」「飲んだ方がリラックスできる」
  • 恐怖の心理:「病気と認めると治療が必要になるのが怖い」

家族が「否認も病気の一部」と理解すると、冷静に対応しやすくなります。


家族が直面する課題

暴言・暴力

アルコールは感情の抑制を弱めるため、依存症が進むと家庭内で暴言や暴力が増えることがあります。

  • 具体例:飲酒後に「金をよこせ」と怒鳴る、手を挙げる、物に当たる。
  • 家族の対応の原則:無理に止めようとせず、身の安全を最優先にし、必要なら警察や専門機関に相談。

金銭トラブル

依存が進むと飲酒費用に多額を使い込み、借金や生活費不足に陥るケースがあります。

  • 具体例:給料日前に財布が空になる、クレジットカードの使い込み、消費者金融からの借入。
  • 家族の対応の原則:肩代わりせず、必要に応じて法的支援(債務整理)を利用する。

家族の孤立とストレス

依存症のある家庭は「恥ずかしい」「他人に知られたくない」と孤立しがちです。

  • 結果として家族が一人で抱え込み、心身の不調(不眠・うつ状態)に陥ることも。
  • 具体例:妻が相談できずに疲弊、子どもが家庭内でストレスを抱え学業不振に。

この時点で家族自身の支援が不可欠になります。次のブロックでは、具体的な支援機関や共倒れを防ぐ工夫を解説していきます。

適切な対応法

アルコール依存症の家族にとって最も難しいのは、「どのように接すればよいか」です。間違った対応は依存を悪化させることがあるため、正しい姿勢を理解しておくことが重要です。


責めずに「病気」として理解する

アルコール依存症は「意志の弱さ」や「だらしなさ」ではなく、脳の仕組みが変化してしまった病気です。
本人は「やめたいのにやめられない」という葛藤を抱えており、家族から責められることで自己嫌悪や孤立感がさらに強まります。


責めると逆効果になる理由

  • 罪悪感で再飲酒につながる
    「ダメだ」と言われる → 自己嫌悪が募る → その苦しさをまた飲酒で紛らわそうとする。
  • 信頼関係の悪化
    「どうせ自分は理解されない」と思い込み、治療や相談を避けてしまう。
  • 隠れ飲酒が進む
    責められるのを恐れて、家族に隠れて飲むようになる → 問題が見えにくくなり、発見が遅れる。

望ましい関わり方の例

  • 共感を示す
    「やめたいのに苦しいんだよね」と気持ちを代弁する。
  • 選択肢を一緒に考える
    「治療を受けたら少し楽になるかも。一緒に相談してみない?」と提案型の声かけをする。
  • 小さな変化を認める
    「昨日は飲まなかったね」「病院に行けたね」と前向きな行動を評価する。

実際の声かけ例

  • ❌「また飲んだの?いい加減にして!」
  • ⭕「飲みたい気持ちが強いんだね。どうやったら一緒に乗り越えられるかな?」

家族が理解すべき視点

  • 本人を「敵」として責めるのではなく、**「病気と闘う仲間」**として支えることが重要。
  • 家族が安全な存在だと感じられると、本人は安心して弱さを打ち明けやすくなる。
  • その積み重ねが、治療や支援機関につながる大きなきっかけになります。

ポイントまとめ

  • 責めることは「依存の悪循環」を強める
  • 共感と支援の姿勢が「回復の循環」を生む
  • 家族が「味方」と感じてもらえることが、治療開始の一歩になる

共依存を避けるための工夫

共依存とは、家族が本人を過剰に庇いすぎることで、結果的に依存を支えてしまう状態を指します。

  • ❌「飲酒代を肩代わりする」
  • ❌「職場に嘘の言い訳をする」
  • ⭕「本人の責任は本人に戻す」

家族が「支える」と「背負う」を混同しないことが、長期的には本人の回復を促します。


利用できる支援

アルコール依存症の回復には、家族と本人が外部の支援につながることが不可欠です。


医療機関(精神科・心療内科)

  • 専門医による診断・断酒治療・薬物療法を受けられる
  • 入院治療で安全に離脱症状を乗り越えることも可能

断酒会・AA(アルコホーリクス・アノニマス)

  • 経験者同士で体験を語り合い、孤独感を和らげる
  • 「再発しても受け入れてもらえる環境」が継続支援の大きな力になる

Al-Anon(家族会)

  • アルコール依存症者の家族が集まり、体験を共有する会
  • 「自分だけではない」と気づき、心の負担が軽くなる
  • 共依存から抜け出すための実践的なヒントが得られる

家族自身のセルフケア

家族が疲弊してしまっては、本人を支える余力がなくなります。自分を守ること=長期的に支えるための戦略です。

一人で抱え込まない

  • 相談先を“事前に”3つ持つ(医療機関/地域の精神保健福祉センター/家族会など)。
  • 危機時フローを書面化
    1. 身体の安全確保 → 2) 落ち着ける場所へ移動 → 3) 相談先に連絡(平日/夜間・休日で分ける)。
  • SOSカード(財布・スマホケースに):本人名、家族連絡先、主治医、服薬、アレルギー、緊急時の希望。

相談できる仲間を持つ

  • 同じ経験者コミュニティ
    • 家族会(Al-Anon 等)、断酒会家族部、地域の家族教室。
    • 参加目的は「正解探し」より孤立感の軽減具体的なコツの交換
  • オンライン活用時の注意
    • 医療情報は鵜呑みにしない/個人情報は出さない/気持ちが乱れる投稿からは距離を取る。

ストレス解消・休息の重要性

  • 毎日の“マイクロ休息”:1〜3分の呼吸法、軽いストレッチ、温かい飲み物を“意図して”取る。
  • 週単位の“自分の予定”を先に入れる(友人との約束/趣味/運動)。「空いたら休む」では休めません。
  • 睡眠衛生の基本:就寝・起床時刻を固定/寝る前1時間はブルーライトを避ける/就寝前のアルコール・カフェインは控える。

共倒れを防ぐための“境界線(バウンダリー)”

  • 金銭:飲酒費の肩代わりはしない/家計と本人財布を完全分離。
  • 時間:深夜の長電話・口論はしない(“中断の合図”を家族で決める)。
  • 約束:守れなかった時の一貫した対応を事前合意(例:暴言時は会話を終了→翌日、素面で話す)。
  • フレーズ例(非対立・Iメッセージ)
    • 「あなたを助けたい。でも飲酒の問題は私一人では解決できない。専門家と一緒に考えたい。」
    • 「私は安全を大切にする。暴言が続くなら、今夜は別室で休むね。」

家族の“セルフチェック”と受診の目安

  • 燃え尽きサイン:不眠/食欲低下または過食/涙もろさ/無力感/仕事・育児への集中困難。
  • 2週間以上続く場合は、家族自身も心療内科・カウンセリングを検討。
  • 子どもがいる家庭:子の情緒不安・不登校・攻撃性の増加は優先ケア対象。学校・相談機関と早めに連携。

危機(クライシス)に備える

  • レッドフラッグ:連日泥酔/禁酒時のけいれん・幻覚/暴力・自傷他害の示唆/飲酒運転の兆候。
  • 対応原則:身の安全>説得。安全確保→第三者/専門機関へ連絡。
  • 家の環境:割れ物・刃物・鍵の管理/子どもの避難先を事前に家族で共有。

情報整理テンプレ(家族用)

  • 主治医・相談先・家族会の連絡先一覧
  • 服薬・既往歴・アレルギー
  • 危機時フロー(平日/夜間・休日の2パターン)
  • 法的・家計書類の保管場所(家族もアクセス可能に)

具体的な1週間ルーティン例

  • :家族会orオンラインミーティング参加(60分)
  • :30分ウォーキング+呼吸法5分
  • :自分の趣味時間を確保(90分/予定表に先入れ)
  • :来週の危機対応フローと相談先を再確認/家族内ミーティング(15分)

まとめ

アルコール依存症は「回復可能な病気」です。
そして、その回復の第一歩は 家族の理解と支援 から始まります。

  • 家族が「責めずに支える姿勢」を持つこと
  • 医療や支援機関とつながること
  • そして「自分自身のケア」を忘れないこと

メッセージ
あなたは一人ではありません。やめたいと思いながら苦しんでいる気持ちは、多くの人が経験してきました。支援を受け、家族と共に少しずつ歩めば、依存のない新しい生活を取り戻すことができます。💬 家族へのメッセージ
支えることは簡単ではありませんが、「無理をしすぎない支え方」が長続きします。あなた自身も支援を受けながら、一歩ずつ伴走してください。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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