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アルコール依存症からの回復と社会復帰|再発防止の工夫と働き方

この記事の内容
はじめに
アルコール依存症は「やめたいのにやめられない」病気であり、本人だけでなく家族・職場・社会に大きな影響を与えます。
厚生労働省の調査によれば、日本には数十万人規模の依存症者が存在するとされ、就労の継続や社会復帰が大きな課題となっています。
依存症を抱える人の多くが「仕事を失うのではないか」「社会に居場所がないのではないか」と不安を抱えますが、実際には治療と支援を組み合わせることで安定した就労は可能です。
本記事では、回復のステップから再発防止の工夫、働き方や活用できる支援制度まで徹底解説します。
回復のステップ

治療開始(入院・外来)
アルコール依存症の回復は、まず 医学的サポートを受けることから始まります。
依存症は「意志の力だけでは克服が難しい病気」であるため、専門的な治療環境が不可欠です。
入院治療
- 対象:重度の依存症、長年の飲酒で肝障害や神経症状が進んでいる人、離脱症状が強く危険なケース。
- 目的:安全に断酒を開始し、合併症を防ぐ。
- 流れ:
- 解毒治療(離脱症状の緩和、ビタミン投与など)
- 身体の安定後、心理教育やカウンセリング
- 自助グループとのつながりづくり
- 解毒治療(離脱症状の緩和、ビタミン投与など)
入院は「酒を完全に断つ環境」に身を置くことで、まずリセットを図れるのが大きな利点です。
外来治療
- 対象:比較的軽度の依存症や、入院の必要がないと判断された人。
- 内容:
- 抗酒薬(飲むと体調が悪くなる薬)や抗渇望薬(飲酒欲求を弱める薬)の処方
- 定期的な血液検査で肝機能をチェック
- 心理士や医師によるカウンセリングで「飲みたい衝動」への対処法を学ぶ
- 抗酒薬(飲むと体調が悪くなる薬)や抗渇望薬(飲酒欲求を弱める薬)の処方
外来の利点は「仕事や家庭生活を続けながら治療できる」こと。ただし、日常的にお酒の誘惑があるため、家族や支援者のサポートが欠かせません。
家族の関わり方

- 入院の場合:面会や医師との面談で「家族の対応方法」を学ぶ機会がある
- 外来の場合:診察に同席して「治療方針を共有」することで、家庭でも同じ方向で支援できる
- 注意点:「本人任せにしない」こと。依存症は否認の病気であり、家族が治療に関与することで再発予防につながります。
治療中の注意点
- 途中でやめない:症状が改善しても「もう大丈夫」と自己判断して通院をやめると再発リスクが高まる
- 環境調整:治療中は酒を買いやすい環境(コンビニ・居酒屋通い)を避ける工夫が必要
- 小さな成功を積み重ねる:「今日は飲まなかった」「通院を続けられた」といった達成感を大切にする
実例
40代男性。仕事のストレスで毎晩飲酒し、休職に追い込まれる。
→ 入院で離脱症状を安全に乗り越え、退院後は外来で抗渇望薬を使用。
→ 並行してAAに参加し、半年後に段階的に職場復帰。
→ 「仕事・治療・仲間の支援」を並行させたことで再発せずに生活を継続
断酒継続と自助グループ
治療で一時的に断酒できても、その後の継続が最大の課題です。
- 自助グループ(AA=アルコホーリクス・アノニマス、断酒会など)は同じ経験を持つ仲間とつながる場。孤立感を減らし「一人ではない」と感じられることが継続につながります。
- 定期通院と組み合わせることで、医療と仲間支援の両輪が断酒維持を支えます。
再発防止の工夫
アルコール依存症は慢性再発性の病気であり、「一度断酒できた=完全に治った」ではありません。医学的には糖尿病や高血圧と同じく、長期的な管理が必要な疾患です。そのため、日常生活の中に「飲まない仕組み」を組み込むことが極めて重要です。
トリガーを避ける
依存症の再発には「引き金(トリガー)」が存在します。
- 人間関係のトリガー:同僚との飲み会、家族との口論
- 環境のトリガー:帰り道の居酒屋やコンビニの酒売り場
- 感情のトリガー:ストレス、不安、孤独、退屈
工夫例
- 飲み会は「体調が悪い」「通院がある」と正直に断る
- 帰宅ルートを変え、酒を売っている店の前を通らない
- 強いストレスを感じたら「一人で抱え込まずに早めに相談」する
家族は「お酒がある場所に誘わない」「飲み会に無理に行かせない」ことでサポートできます。
代替行動を持つ
「飲みたい」と思った瞬間に、すぐに置き換えられる行動を準備しておくことが有効です。
- 身体を動かす:散歩、ストレッチ、軽い筋トレ
- 口寂しさを埋める:炭酸水、ノンアル飲料、ハーブティー
- 気持ちを共有する:家族や支援者、AAの仲間に「今飲みたい気持ちが強い」と連絡
ポイント:「衝動は波のようにやがて消える」。5〜10分やり過ごせば欲求が弱まるケースが多いです。
生活リズムを整える
規則正しい生活は「飲酒欲求を生みにくい身体と心」を作ります。
- 睡眠:毎日同じ時間に就寝・起床し、夜更かしを避ける
- 食事:欠食を防ぎ、血糖値の乱高下による渇望感を防ぐ
- 運動:ウォーキングや軽いジョギングはストレス軽減と気分の安定に効果的
家族ができること:「一緒に朝食をとる」「散歩に誘う」など、自然に生活リズムを支える関わり方。
再発を防ぐ“セルフモニタリング”
- 飲酒欲求日記をつけ、「飲みたくなった状況」を振り返る
- 欲求が強い時は「HALT(Hungry, Angry, Lonely, Tired)」をチェック
→ 空腹、怒り、孤独、疲労は再発の大きなサイン
実例
50代女性。毎晩の孤独が引き金で飲酒していたが、趣味のガーデニングを始めたことで「夕方=植物の世話」の習慣ができた。結果、飲酒欲求が出にくくなり、再発を防止できている。
40代男性。仕事終わりに酒売り場を避けるため、帰宅ルートを変更。帰宅後はオンライン自助グループに参加する習慣を作り、断酒が安定。
ポイントまとめ
- 再発は「本人の弱さ」ではなく病気の特性
- トリガーを避け、代替行動を持ち、生活リズムを整えることが防止策
- 家族や仲間の支えがあると、工夫が長続きしやすい
仕事への影響
アルコール依存症は、生活だけでなく職場にも深刻な影響を与えます。仕事のパフォーマンス低下、同僚との関係悪化、さらには懲戒処分や解雇につながることもあります。
依存症による欠勤・懲戒の事例
依存症が進行すると、次のような職場トラブルが増えていきます。
- 遅刻・欠勤:二日酔いで出社できない、午前中の集中力が著しく低下する。
- 職務怠慢:酒気残りのまま勤務し、判断力や注意力が落ちる。
- 安全リスク:飲酒運転、工場での事故、医療現場での判断ミスなど。
- 懲戒や解雇:業務に支障をきたし続けると、最終的に処分対象となる。
事例
営業職の男性。接待での深酒が常態化し、取引先への遅刻・欠勤が増加。顧客からの信頼も失い、懲戒処分に。治療後に「酒席中心の営業スタイル」を避け、事務職に転職して安定を取り戻した。
事例
看護師の女性。夜勤明けに飲酒し、勤務中も酒気残りが続いたことで医療ミスを起こし、停職処分に。医療機関の依存症外来で治療を開始し、その後は日勤中心の部署に異動して就労継続。
社会的偏見
依存症に対しては今もなお 「怠け」「自己管理不足」 というレッテルが強く残っています。
- 背景:日本では飲酒が「文化」として容認される一方で、「酒に溺れる人」は弱い人とみなされやすい。
- 結果:治療を受けていても「依存症=信用できない人」という誤解を持たれやすい。
- 影響:本人が病気を隠し、職場でサポートを得られないまま再発を繰り返す。
WHOや厚労省は「アルコール依存症は脳の病気である」と明確に位置づけていますが、この認識はまだ社会に十分浸透していません。
職場での理解不足
上司や同僚が病気の特性を知らないと、本人に対して 「やる気がない」「また失敗したのか」 と否定的に接してしまい、本人が孤立する悪循環を招きます。
よくある誤解
- 「強い意志があればやめられる」
- 「病気にかこつけて怠けている」
- 「治療しても結局また飲むだろう」
本来の理解のあり方
- 依存症は慢性疾患であり再発も病気の一部
- 本人を責めるより、再発した時にどう立て直すかを職場全体で考えることが大切
- 「合理的配慮」(通院時間の確保、飲み会の強制回避など)をすることで長期的な就労が可能になる
職場改善の取り組み例
- 人事部が「依存症理解研修」を実施し、管理職に正しい知識を共有。
- 通院や自助グループ参加を理由とする勤務調整を認め、本人が安心して働ける環境を整備。
- 飲み会に代わる「ランチミーティング」「ノンアル懇親会」を導入。
まとめポイント
- 依存症は仕事に深刻な影響を及ぼすが、それは「意思の弱さ」ではなく病気の症状。
- 偏見や理解不足が回復の大きな妨げになる。
- 正しい知識と合理的配慮があれば、依存症の人も職場で安定して働き続けられる。
復職・就職に向けた工夫
リワークプログラム
リワークとは、休職者が職場復帰に必要な体力や集中力を回復するための訓練プログラムです。
- 通勤練習や模擬業務を通じて生活リズムを整える
- グループワークで人間関係の練習を行う
例:休職後、リワークを3か月受けた会社員が「午前中勤務から段階的に復帰」し、安定した就労を継続。
合理的配慮の例
障害者雇用促進法では、依存症を含む精神疾患に対して「合理的配慮」を行う義務があります。
- 通院時間の確保
- 過度な飲み会への参加強制を避ける
- 業務量の段階的調整
就労支援制度の活用
- 就労移行支援:生活リズムや職業スキルを整えるための訓練。
- ジョブコーチ制度:職場に支援員が入り、就労定着をサポート。
- ハローワークの専門窓口:依存症に理解ある求人を紹介してくれる。
向いている仕事と避けるべき仕事
向いている仕事
- 飲酒環境が少ない仕事:事務職、工場作業、IT業務など
- ルーチン作業が中心の仕事:規則性があり、生活リズムを整えやすい
避けるべき仕事
- 接待や飲酒機会が多い職場(営業・飲食業)
- 夜勤や長時間労働:生活リズムが崩れ、再発リスクが高い
実例:元依存症者が夜勤の多いタクシー運転手を辞め、昼間の倉庫作業に転職したところ、断酒が継続できた。
支援制度
障害者雇用枠
精神障害者保健福祉手帳を取得すると、障害者雇用枠で応募可能に。配慮を受けながら働ける環境を選びやすくなります。
就労移行支援
働く準備を整えるための福祉サービス。生活訓練やビジネスマナー、職場体験を通じて就労を支援。
障害年金(重度の場合)
症状が重く長期的に働けない場合、障害年金の対象になることもあります。生活費の基盤を確保しながら治療を続けられます。
まとめ

アルコール依存症は「治らない病気」ではなく、回復と社会復帰が可能な病気です。
- 治療によって断酒は可能
- 自助グループや支援制度を活用すれば継続できる
- 就労においても配慮や支援を受けながら安定して働ける
メッセージ
アルコール依存症は、あなたの努力や人格の問題ではありません。
「やめたいのにやめられない」苦しさを抱えるのは、病気の症状です。
治療を受け、支援とつながり、小さな一歩を重ねれば、必ず回復への道が開けます。
仕事や社会で再び役割を持ち、誇りを取り戻すことは決して夢ではありません。あなたは一人ではありません。
どうか「助けを求める勇気」から始めてください。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。









