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性同一性障害(性別違和)とは?診断・症状・治療・就職や生活の工夫まで徹底解説

この記事の内容
はじめに
「性同一性障害(Gender Identity Disorder)」や「性別違和(Gender Dysphoria)」という言葉を耳にしたことがある方は多いかもしれません。しかし、両者の違いを正しく理解している人はまだ少なく、社会には多くの誤解や偏見が存在しています。
かつて「性同一性障害」という名称が用いられていましたが、現在は国際的に「性別違和(Gender Dysphoria)」という表現に変わってきています。これは「障害」としてではなく、「本人が抱える強い違和感や心理的苦痛」に焦点をあてるためです。
本記事では、性同一性障害(性別違和)の定義や症状、診断基準、治療方法についてわかりやすく解説します。さらに、日常生活や就労における工夫についても触れ、当事者だけでなく家族や支援者、企業が理解を深められる内容を目指します。
性同一性障害とは

定義(DSM-5)
アメリカ精神医学会が定める「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)」では、性別違和(Gender Dysphoria)として分類されています。ここでは「出生時に割り当てられた性別」と「本人が自認する性別」の間に不一致があること、そしてそれによって強い心理的苦痛や日常生活への支障が生じていることが診断の要件です。
心と体の性の不一致
性別違和の核心は「心の性」と「体の性」のズレにあります。例えば、戸籍上は男性であっても、自分の性自認は女性であると強く感じるケースです。この不一致は単なる趣味や好みではなく、アイデンティティそのものに関わる深刻な問題です。
- 例:幼少期からスカートを好み、「自分は女の子だ」と自然に思っていたが、成長とともに周囲から「男の子らしくしなさい」と言われ続け、強い苦痛を抱えるようになった。
このように、本人の意思ではコントロールできない深い感覚が関係しています。
発症率と背景
統計によって差はありますが、一般的には人口の0.3〜0.6%程度が性別違和を抱えているとされています。つまり日本国内でも数十万人規模の当事者が存在する計算です。
背景要因は一つではなく、遺伝的要素や胎児期のホルモン環境、社会的要因が複雑に関与すると考えられています。ただし、現時点では「これが原因」と断定できるものはありません。
症状と特徴

幼少期に表れるサイン
性別違和は、幼少期から兆候が見られることがあります。例えば、以下のような行動や発言が挙げられます。
- 本人が「自分は違う性だ」と語る
- 異性の服装や遊びを強く好む
- 鏡を見て体の性別的特徴に違和感を持つ
- 異性の役割を演じるごっこ遊びを好む
- 「大人になったら〇〇(反対の性別)になる」と自然に語る
ただし、幼少期の子どもは好奇心からさまざまな役割を試すため、一時的に異性の服装や遊びを楽しむことは珍しくありません。重要なのは、「その行動が本人にとって自然な自己表現であり、同時に現在の性別に対して強い苦痛や拒否感を伴っているかどうか」です。
研究によると、性別違和を抱える子どもの一部は思春期以降も違和感が継続しますが、中には成長過程で自然に落ち着くケースもあります。そのため、早急に断定するのではなく、本人の感覚や苦痛の程度を丁寧に見守ることが大切です。
思春期で強まる違和感
思春期は、性別違和の自覚が一層強まる時期です。声変わりや胸の発達など二次性徴が始まると、自分の体が「望まない方向に変化していく」ことへの強い不安や嫌悪感を覚えやすくなります。
- 男性として生まれた人が、声変わりやヒゲの発生に強い抵抗を示す
- 女性として生まれた人が、胸の膨らみや月経に耐えがたい苦痛を感じる
- 体育の授業や制服で性別が分けられることに強いストレスを抱く
- 自分の体を隠すために極端にゆったりした服を選ぶ
このような状況が続くと、学校生活への参加が困難になり、不登校や引きこもりにつながることもあります。日本の調査でも、性別違和を抱える若者の中には、うつ症状や強い自殺念慮を経験する割合が高いことが報告されています。
また、この時期に周囲からのからかいやいじめに直面することもあり、孤立感や不安感がさらに強まる傾向があります。そのため、家庭や学校が正しい理解を持ち、本人の安心できる環境を整えることが極めて重要です。
成人後の心理的苦痛
性別違和は成人後も続き、本人の生活全般に影響します。
- 職場や家庭で「戸籍上の性別」として振る舞うことを求められる
- 公的書類や健康診断での性別表記が苦痛になる
- 結婚・出産といったライフイベントに強い葛藤を抱く
- 日常的に「どちらのトイレを使うか」で悩む
- 外見と戸籍の性別の不一致から、採用や昇進で不利を受ける不安を抱く
こうした状況は、抑うつ、不安障害、さらには自殺念慮へとつながるリスクが高く、実際に海外の調査では「トランスジェンダーの人の約40%が一度は自殺を真剣に考えたことがある」という報告もあります。
一方で、本人の性自認が尊重される環境(服装や名前の使用が自由、職場や家庭での理解があるなど)が整うと、心理的ストレスは大幅に軽減され、社会生活を安定して送れるケースが多いことも明らかになっています。
このように「症状と特徴」はライフステージによって表れ方が異なり、特に幼少期から成人までの一貫した支援と理解が重要であることがわかります。
診断と医療
診断基準(DSM-5・ICD-11)
DSM-5では以下のような要素が診断基準として示されています。
- 少なくとも6か月以上続く「性別に対する強い不一致」
- 自分の身体的特徴に対する強い嫌悪感
- 社会的・職業的機能に支障をきたすレベルの苦痛
また、WHOが定めるICD-11では「性同一性障害」という病名は廃止され、「性別不一致(Gender Incongruence)」として扱われ、精神疾患のカテゴリーから外されました。これは「病気ではなく多様な性のあり方」と捉える流れを反映しています。
カウンセリング・精神科受診
診断にあたっては、精神科や心療内科でのカウンセリングが重要です。本人の感じている違和感や生活への影響を丁寧に聞き取り、他の疾患との鑑別も行います。
- カウンセリング例:自分の性別に関する違和感の強さや持続性を確認
- 心理テスト:性自認や心理的ストレスの度合いを数値化
早期に専門医とつながることで、本人の負担を軽減し、必要に応じた治療へつなげやすくなります。
ホルモン療法・外科的治療
性別違和に対する医療介入としては、ホルモン療法や外科的治療があります。
- ホルモン療法:男性ホルモンや女性ホルモンを投与し、体を希望する性に近づける。
例:男性ホルモン投与で声が低くなり、ひげが生える/女性ホルモン投与で胸が膨らみ、体毛が薄くなる。 - 外科的治療:乳房切除、性別適合手術(SRS)など。
ただし、日本では手術を受けるには「性同一性障害特例法」に基づき、20歳以上・未婚・子がいないなど厳しい条件があります。経済的負担も大きく、現実には治療を受けられない人も少なくありません。
日常生活の課題

学校での性別役割
学校生活は、性別によって区切られる場面が非常に多い場所です。体育の授業で男女別の更衣室を使う、制服が男女で分かれている、合唱や運動会で男女の役割が分けられる――こうした「性別による区別」は、性別違和を抱える生徒にとって大きなストレス源となります。
- 女子制服を着ることが強制され、毎朝着替えが苦痛で登校がつらくなる
- 男子チームへの参加を求められるが「自分はそこに居場所がない」と感じる
- 出席簿や呼名で「本当の自分の名前や性で呼ばれない」ことに違和感を持つ
学校現場では「選択制の制服」「ジェンダーレス制服の導入」「本人の希望に沿った呼称の使用」などの取り組みが広がりつつありますが、まだ十分に普及していません。
職場での戸籍上の性の問題
成人すると、今度は職場で戸籍上の性別に縛られることが課題になります。
- 健康診断や社会保険の書類に、戸籍上の性別を記入せざるを得ない
- 戸籍上の性別が原因で希望する制服が認められない
- 就業規則により「男女別トイレ」の使用をめぐって葛藤が生じる
近年、ダイバーシティ推進に取り組む企業では「通称名の使用」「性自認に沿った制服選択」「ジェンダーレストイレの設置」などの配慮が進んでいます。しかし、多くの企業では依然として戸籍上の性別が優先されるのが現状です。
恋愛・結婚・家庭生活
恋愛や結婚、家庭生活もまた、性別違和を抱える人にとっては大きなテーマです。
- 恋人に性自認をどう伝えるか悩む
- 戸籍上の性別のままでは結婚が認められない(日本は同性婚が未承認)
- 将来、子どもを持ちたいという希望との折り合い
近年はパートナーシップ制度を導入する自治体が増え、法的効力は限定的ながら「社会的に認められる関係」として支援が広がっています。それでも結婚・出産に関しては法的制約が強く、精神的な葛藤を抱える人が多いのが実情です。
仕事との関わり
職場で起こりやすい困りごと
制服・更衣室問題
企業によっては制服が男女で分けられており、「自認する性別の制服を着たい」と希望しても認められないことがあります。更衣室の使用についても「男女どちらを使うべきか」という深刻な問題に直面します。
呼称・人間関係
職場での呼び方(さん付け、くん付けなど)が性別で区別される場合、本人の望まない呼称を使われ続けると心理的負担が大きくなります。また、同僚や上司の理解不足から誤解や偏見にさらされることもあります。
向いている職場環境
性別違和を抱える人にとって働きやすい職場には、以下の特徴があります。
- 制服や服装が自由、または選択制である
- ジェンダーレストイレや個室トイレが用意されている
- チームワークよりも個人のスキルを発揮できる職種(IT・デザイン・研究など)
- ダイバーシティ方針が明確に示されている企業
環境が整っているだけでなく、同僚や上司が「本人の希望を尊重する姿勢」を持つことで、日々の働きやすさは大きく変わります。
就職・転職時の工夫
就職や転職を考える際には、以下の点に配慮すると安心です。
- 履歴書には戸籍上の名前を記載しつつ、面接時に希望する呼称を伝える
- 企業のダイバーシティ推進方針を事前に調べる
- LGBT関連の取り組みを評価する「PRIDE指標」を参考にする
- 支援団体や専門エージェントを通して応募する
事前に自分に合った職場環境を見極めることで、就労後のミスマッチを減らし、長期的に安心して働ける可能性が高まります。
支援制度
性別変更の手続き(戸籍)
日本では「性同一性障害特例法」に基づき、戸籍上の性別変更が可能です。ただし以下の要件があります。
- 20歳以上である
- 婚姻していない
- 未成年の子がいない
- 生殖腺がない、または生殖能力が永続的に欠如している
- 身体が希望する性別に近い状態である
これらは国際的にも厳しい条件とされ、見直しを求める声が強まっています。2023年には最高裁で「生殖腺除去の要件は違憲」との判断が示され、今後制度改正が進む可能性があります。
障害者雇用枠の対象か?
性別違和はDSM-5で「性別違和」、ICD-11で「性別不一致」とされ、精神疾患ではなく健康状態に関わる特性として扱われる方向にあります。そのため、基本的には障害者雇用枠の対象には含まれません。
ただし、性別違和に伴ううつ病や不安障害など二次的な精神疾患を抱える場合には、障害者手帳を取得し、雇用枠を活用できるケースもあります。
民間団体・LGBTQ+支援団体
公的制度だけでなく、民間団体によるサポートも増えています。
- NPO法人:カウンセリング、交流会、就労支援を提供
- 企業支援団体:LGBTフレンドリー企業の認証制度を展開
- コミュニティ:同じ経験を持つ仲間と交流し、孤立を防ぐ
こうした団体を活用することで、社会的孤立を和らげ、安心して暮らすための具体的な情報や支援につながります。
まとめ
性同一性障害(性別違和)は、単なる「個人の趣味や選択」ではなく、人生の根幹に関わる深い問題です。学校や職場、家庭生活のあらゆる場面で課題が存在し、それに伴う心理的苦痛は大きなものです。
一方で、正しい理解と社会的配慮が広がれば、誰もが安心して自分らしく生きることができます。
メッセージ
もし今、あなたが強い違和感や生きづらさを抱えているとしても、あなたは一人ではありません。あなたの存在や感じていることは「間違い」ではなく、確かなあなた自身の一部です。
支援してくれる医療機関や団体、そして理解してくれる仲間は必ずいます。焦らず、自分のペースで、自分らしく生きる道を選んでください。社会は少しずつですが確実に変わりつつあります。
「あなたの感じている違和感は、理解されてよいもの」――そのことを忘れずに、安心できる場所を探して進んでいきましょう。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。









