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精神障害・身体障害と仕事|企業が見落としがちな「一人称で働くこと」の難しさ

この記事の内容
はじめに
日本では障害者雇用促進法の改正や法定雇用率の引き上げにより、企業における障害者雇用は年々拡大しています。
一方で、多くの企業が「障害者も即戦力として働いてほしい」「できれば一人で業務を完結してほしい」といった期待を抱いているのも事実です。
ここでいう「一人称で働く」とは、上司や同僚のサポートを最小限にし、自らの判断で業務を進め、成果を出す力を指します。一般雇用においては当たり前とされるスキルですが、精神障害や身体障害を抱える方にとっては、状況によって大きなハードルとなり得ます。
本記事では、
- 「一人称で働く」とは何を意味するのか
- 一般雇用と障害者雇用での期待値の違い
- 企業がなぜ「一人称で働ける人材」を求めやすいのか
について解説し、障害者雇用をより持続可能なものにするために企業が配慮すべきポイントを整理していきます。
障害者雇用で期待される「一人称で働く」とは?

「即戦力」と「自立的業務遂行」の意味
企業が使う「即戦力」という言葉には、教育や訓練に時間をかけずに成果を出せる人材というニュアンスがあります。
さらに「一人称で働ける」とは、単に作業ができるだけでなく、次の要素を含むことが多いです。
- 指示を待たずに自ら判断して動ける
- 問題が起きても自分で解決策を考えられる
- 成果物を最後まで責任を持って仕上げられる
つまり、業務のスタートからゴールまでを自己完結できる力を期待しているのです。
一般雇用と障害者雇用の期待値の違い
一般雇用では「一人称で仕事をすること」が当然視されますが、障害者雇用では状況が異なります。
精神障害や身体障害がある場合、
- 体調の波によって集中力が変動する
- 特定の作業に制限がある
- 判断や意思決定に時間がかかる
といった特徴があり、常に「一人称」で働くことは難しいケースが多いのです。
そのため障害者雇用では、本来 「配慮を前提にした共同作業」や「サポート付きの業務遂行」 が現実的な働き方といえます。
なぜ企業は「一人称で働ける人材」を求めがちなのか
企業が「一人称で働ける人材」を強く求める背景には、次のような事情があります。
- 人員不足
多くの企業は慢性的な人材不足に直面しています。特に中小企業では教育担当者やサポートスタッフを十分に配置できず、「採用したらすぐに現場で活躍してほしい」という期待が生じやすくなります。 - 効率性の追求
グローバル競争や市場の変化が激しい中、経営側は「短期間で成果を出す」ことを重視します。新人教育やサポートに時間を割くよりも、即戦力として業務を完結できる人材を採用する方が、コスト面でも効率的だと考えられがちです。 - 誤解や認識不足
障害者雇用における合理的配慮や特性理解が不足していると、「障害があっても健常者と同じように働けるはず」という誤った前提で評価してしまいます。特に精神障害や内部障害など“目に見えにくい障害”の場合、理解不足から過度な自立性を求める傾向があります。 - 人事評価制度の影響
多くの企業は「自己完結できる人材=評価が高い」という人事評価制度を採用しています。そのため、障害者であっても「一人称で成果を出せること」が理想とされ、採用や配置の場面で過度な期待がかかりやすくなります。 - 周囲のサポート負担への懸念
「誰かが常にフォローしなければならないと、チーム全体の生産性が落ちるのではないか」という不安も背景にあります。この懸念が、結果的に「サポートが要らない=一人称で働ける人材」を好む傾向につながっています。
こうした要因が重なることで、企業は「障害者であっても一人称で働いてほしい」と考えがちです。
しかしこれは現実と乖離した期待であり、結果的に採用後のミスマッチや早期離職を招く大きな要因となります。持続可能な障害者雇用のためには、企業側の意識改革と合理的配慮の導入が不可欠です。
精神障害がある人にとっての難しさ
体調の波と業務継続の難しさ
精神障害のある人にとって最大の課題の一つが、体調の波による業務継続の難しさです。
- うつ病・双極性障害では、エネルギーや集中力の浮き沈みが大きく、ある日は通常の業務を問題なくこなせても、翌日は起き上がることさえ難しい場合があります。
- 不安障害・パニック障害では、突発的な発作や過度の緊張により、予定通りに業務を進められないこともあります。
このように、業務の「安定性」を重視する企業にとっては予測が難しく見える一方、当事者にとっても「毎日同じペースで成果を出す」こと自体が大きな負担となり得ます。
コミュニケーションの困難
精神障害には人との関わり方に影響する特性も多く含まれます。
- ASD(自閉スペクトラム症)の場合、曖昧な指示や「空気を読む」ようなやり取りが苦手で、意図を誤解してしまうことがあります。
- 社交不安障害では、人前で話すことや上司・同僚に報告すること自体に強い緊張を覚え、結果的にコミュニケーション不足と評価されるケースがあります。
こうした困難が積み重なると、「自分は職場に馴染めないのではないか」と感じ、孤立や離職につながりやすくなります。
「一人称業務」が二次障害を引き起こすケース
精神障害がある人に過度な「一人称業務」を求めると、二次障害が生じるリスクがあります。
例えば、うつ病の人が「常に自分で判断して進めなければならない業務」を任されると、判断に迷うたびに自己否定感が強まり、症状が悪化することがあります。
本来は配慮や分担で防げるはずの負担が、「一人称での遂行」を強要されることで症状を深めてしまうのです。
身体障害がある人にとっての難しさ
目に見える障害と見えない障害
身体障害は目に見える障害と目に見えない障害に大別されます。
- 車椅子利用者は移動や作業環境に制限があり、段差や机の高さといった物理的環境が直接的なハードルになります。
- 内部障害(心臓疾患・腎臓疾患など)は外見では分かりにくいため、周囲の理解が得られにくい一方で、体調面では大きな制約を抱えています。
体力・持久力に影響する症状
身体障害に伴う症状は、長時間労働や夜勤といった勤務形態に直結して影響します。
心臓疾患のある人が夜勤を続けると発作リスクが高まる、腎臓疾患のある人が透析後に長時間勤務を続けるのは困難、など具体的な制約が存在します。
精神的負担が体調悪化に直結するリスク
身体障害を持つ人は、精神的なストレスが体調に直結するリスクも抱えています。
「健常者と同じように働かなければならない」というプレッシャーは、体調悪化を招きやすく、欠勤や長期療養につながることも少なくありません。
企業と当事者のギャップ

企業が「できるはず」と思う理由
企業側が「障害があっても一人称で働けるはず」と考えてしまうのには、いくつかの背景があります。
- 健常者基準での評価
多くの管理職や人事担当者は、自分自身や周囲の「健常者」を基準に仕事を評価してしまいがちです。
例えば「この程度の事務作業は誰でもできる」「一度覚えたら同じようにこなせるはず」といった思い込みが典型例です。しかし、障害のある人にとっては体調や特性によって「毎回同じようにできる」とは限らないのです。 - 障害特性の理解不足
精神障害や内部障害など“目に見えにくい障害”は、外見から分かりにくいため、周囲がその制約を想像しにくいという特徴があります。
「外見上は健康そうだから普通に働けるだろう」と誤解されやすく、合理的配慮の必要性が軽視されがちです。 - 成功例の過大評価
一部の障害者が「一人称で問題なく働けている事例」だけが強調され、それが「障害者全体にも当てはまる」と誤解されることがあります。結果として、本来必要なサポートや環境調整を省いてしまう傾向につながります。 - サポート=コストという意識
「人員を割いてサポートすると効率が下がる」「他の社員の負担が増える」といった考え方も根強く残っています。こうした“コスト視点”が先行すると、サポートよりも「自立して働けること」を過度に重視してしまいます。
当事者が抱える現実
一方、障害のある当事者は現場で次のような現実に直面しています。
- 無理をして働き、体調を崩す
「周囲に迷惑をかけたくない」「期待に応えなければならない」という気持ちから、必要な休養や配慮を伝えられず、結果的に体調を崩してしまうケースが多く見られます。その結果、短期間での離職につながりやすくなります。 - 自己肯定感の低下
「みんなはできるのに、自分だけできない」「会社に迷惑をかけているのではないか」と考え続けることで、自己肯定感が下がり、二次障害(うつ病・不安障害など)を併発するリスクも高まります。 - 適切に力を発揮できない環境
本来は能力を発揮できる分野があるにも関わらず、「一人称で業務を完結させること」が前提になっていると、自分の強みを活かすチャンスを失ってしまいます。結果として「働けない人」というレッテルを貼られやすくなります。
ギャップが生むもの
このように、企業の思い込みと当事者の現実の間には大きなギャップがあります。
企業が「できるはず」と思い込み、当事者が「無理をして合わせよう」とすることで、両者のすれ違いは深刻化し、
- 採用しても定着しない
- 本来の能力が活かされない
- 職場の信頼関係が崩れる
といった問題を引き起こします。
このギャップを埋めることこそが、障害者雇用を持続可能にする最大のカギです。企業が「一人称で働けるかどうか」だけで判断するのではなく、配慮を前提にした協働スタイルを設計することで、当事者の力を引き出し、結果的に企業全体の成長にもつながります。
一人称ではなく「チームで支える働き方」が必要

業務の切り出しと役割分担
障害者雇用で成果を出すには、「一人ですべて完結させる」のではなく、業務を適切に切り出し、役割分担することが重要です。
例えば、
- タスクの分割:集中力を要する業務を「入力」「確認」「提出」と細かいステップに分け、当事者が得意な部分を担当する。
- 負担の調整:体調に影響を受けにくい軽作業やルーティンワークを中心に任せ、波のある作業はチームで補完する。
- ペアワークや共同作業:一人で抱え込むのではなく、同僚とペアで進めることで安心感と業務効率を高める。
こうした業務の再設計により、「一人称で完結する」ことが難しい人でも、チームの一員として確実に成果に貢献できる仕組みを作ることができます。
さらに、役割分担は当事者だけのためではなく、チーム全体の強みを活かすマネジメントにもつながります。得意・不得意を考慮した配置によって、健常者も含めて全員が働きやすい環境を築くことが可能です。
サポート役や相談窓口の設置
現場に「サポート担当者」や「相談窓口」を設置することで、困ったときにすぐ相談できる環境が整います。孤立を防ぎ、業務の停滞を最小限に抑えられるため、当事者だけでなくチーム全体にとってもプラスになります。
合理的配慮の導入事例
企業が実践できる合理的配慮の例としては、以下のような取り組みがあります。
- マニュアル・チェックリストの活用:業務手順を可視化することで、確認の負担を軽減
- 在宅勤務・時短勤務:体調の波や通勤負担を軽減し、働き続けやすい環境を整備
これらの工夫は、障害の有無に関わらず従業員全体の業務効率向上にもつながります。
企業が取るべき取り組み
障害特性を理解する研修
管理職やチームメンバーに対して、障害特性や合理的配慮に関する研修を実施することで、誤解や偏見を防ぎ、現場での円滑な協働が進みます。
研修内容の具体例としては、以下のようなテーマが挙げられます。
- 障害の基礎理解
精神障害・身体障害・発達障害などの特徴を学び、「できること」と「難しいこと」の両面を正しく理解する。 - 合理的配慮の具体例
在宅勤務や時短勤務、業務の切り出し方、マニュアル活用など、現場で取り入れやすい工夫を紹介。 - コミュニケーション方法
・ASDの人には「曖昧な指示」ではなく「具体的な表現」で伝える
・精神障害のある人には「励ましすぎず、安心感を与える声かけ」をする
といった、特性に応じた配慮の仕方を実践的に学ぶ。 - ロールプレイやケーススタディ
「発作が起きたとき」「業務で行き詰まったとき」などを想定したシナリオを用い、チームとしてどのように対応するかをシミュレーション。 - 成功事例・失敗事例の共有
実際に社内外であった取り組みを紹介し、「どのような工夫が定着につながったか」「逆にうまくいかなかった理由は何か」を学ぶ。
このような研修を行うことで、管理職は人事評価や業務設計に活かせる知識を得られ、現場の社員も「どう接すればいいのか」という不安を解消できます。結果として、組織全体の受け入れ力が高まり、障害者雇用が持続可能なものになるのです。
ジョブコーチや外部支援機関との連携
ジョブコーチや就労移行支援事業所など、外部機関と連携することで専門的なサポートを受けられます。企業単独では対応が難しい部分も、外部支援を組み合わせることで解決できます。
定期面談による早期対応
定期的に面談を行い、体調や業務負担を確認することで、問題が大きくなる前に対応できます。これは離職防止に直結する重要な取り組みです。
取り組み方の具体例
- 月1回など定期的なスケジュール設定:体調や業務の進捗を確認する「チェックの場」を習慣化する。
- 本人が話しやすい形式を工夫:口頭だけでなく、チェックリストや簡単なアンケートを用意すると「言いにくいこと」も可視化しやすい。
- 小さな変化を拾う:欠勤が増えていないか、集中力の低下がないかなど、早期にサインを発見する。
- 人事担当やジョブコーチも同席:上司だけでなく、第三者が同席することで安心感を持って相談できる。
このように「相談できる仕組み」があることで、本人も無理を抱え込まずに済み、結果として長期的な就労につながります。
成功事例の共有で職場全体の意識を変える
実際に「チームで支える働き方」で成果を出した事例を社内で共有すると、他部署や社員の理解も深まり、組織全体の受け入れ体制が進みます。
取り組み方の具体例
- 社内報やミーティングで紹介:具体的な配慮や工夫を、事例として社内に発信する。
- “できたこと”に焦点を当てる:障害者本人の成長や成果を強調することで、ポジティブな雰囲気を醸成。
- 事例を標準化する:うまくいった配慮や工夫をマニュアル化し、他部署でも同じように実践できるようにする。
- 当事者の声を直接伝える:本人に体験談を話してもらうと、抽象的な説明よりも理解が深まる。
成功事例を共有することは、単に「良い話」として終わるのではなく、職場文化そのものを変える力を持っています。これにより、障害のある社員も健常者も「支え合って働く」意識が根付き、長期的に安定した雇用につながります。
本人ができる工夫
自分の特性を整理して伝える
自分の得意・不得意、配慮してほしい点を整理し、職場に伝えることで誤解や負担を減らせます。
セルフケア(睡眠・服薬・ストレス対策)
安定して働くためには、生活リズムを整えるセルフケアが欠かせません。睡眠・服薬の管理、ストレス対策など、日常の習慣づけが職場でのパフォーマンスに直結します。
支援制度を活用する
- 障害者雇用枠:配慮ある職場で働ける可能性が高まる
- 就労移行支援:就職準備や職場定着をサポート
- 自立支援医療制度:医療費の自己負担を軽減し、治療と就労の両立を後押し
制度を積極的に利用することで、安心して働き続けられる環境を築けます。
まとめ|「一人称」を求めすぎない働き方へ

精神障害・身体障害のある人に「一人称で働け」と過度に求めることは、現実的ではありません。
必要なのは、「個人の即戦力」ではなく「チーム全体の力」で成果を出す仕組みです。
- 企業は、合理的配慮や支援体制を取り入れ、誰もが働きやすい環境をつくること
- 当事者は、無理をせず支援を受けながら、自分に合った「続けられる働き方」を模索すること
この両者の歩み寄りがあってこそ、障害者雇用は「義務」ではなく「企業の成長戦略」として根付いていきます。
「一人で働く」のではなく、「支え合いながら働く」社会をつくることこそ、持続可能な雇用の鍵となるのです。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。









