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企業が知るべき車いす利用者の就労課題|バリアフリーと配慮の重要性

この記事の内容
はじめに
日本の労働市場では「働きたいのに働けない」車いす利用者が少なくありません。厚生労働省の障害者雇用状況調査でも、身体障害者の中で下肢障害や脊髄損傷による車いす利用者は一定数を占めていますが、就労率は依然として低い水準にあります。
企業側にとっても、法定雇用率の達成やダイバーシティ推進の観点から、車いす利用者の雇用は重要なテーマです。しかし現場では「環境整備が大変」「任せられる仕事が少ない」といった誤解や先入観が壁となり、雇用機会の拡大を阻んでいます。
本記事では、企業が理解すべき車いす利用者の就労課題と、バリアフリー・配慮の実践ポイントを解説します。採用を進める企業にとって、持続的な人材活用のヒントとなる内容です。
車いす利用者の就労現状と課題

身体障害者雇用の割合と統計データ
最新の統計によると、身体障害者の雇用は増加傾向にありますが、その中で「車いすを利用する人」の就労は依然として制約が大きいのが現状です。特に中小企業ではバリアフリー化が不十分なケースが多く、採用に至らない背景となっています。
法定雇用率を達成している企業の多くは、比較的規模の大きな企業や公共機関に集中しており、中小規模の事業者では未達成率が高い状況です。この差を埋めるためにも、車いす利用者が直面する課題を理解することが欠かせません。
代表的な課題
通勤手段の制約
多くの職場は「電車+徒歩」での通勤を前提としていますが、駅から遠い、駐車場がない、車通勤不可などの条件は大きな障壁になります。特に地方では、車いす利用者にとって公共交通機関だけでの移動は現実的でないケースも少なくありません。
バリアフリー未整備
小さな段差や狭い通路、車いすが利用できないトイレ環境は、就労意欲を削ぐ大きな要因です。職場環境が整っていないために採用に至らない、あるいは採用されても早期離職につながるケースもあります。
在宅勤務や柔軟勤務の制限
新型コロナを契機に在宅勤務が広がりましたが、「障害者雇用枠では出社が基本」と考える企業も依然多いです。通勤が困難な人材でも、在宅勤務やハイブリッド勤務を活用すれば十分に戦力化できるにもかかわらず、制度や運用が追いついていない現状があります。
2階事務所・エレベーターなしのケース
中小企業で特に多いのが「事務所が2階にあるが、エレベーターがない」という状況です。この場合、現実的に導入可能な対策は限られています。
- 1階に執務スペースを確保(×)
理想的ではありますが、空きスペースや改修予算の確保が難しい企業が多いのが実情です。 - 階段昇降機を設置(×)
100〜200万円程度で導入できますが、スペース制約や安全面の懸念から導入を見送る企業がほとんどです。 - サテライトオフィス・共有オフィスを活用(△)
一部業務を任せる方法は可能ですが、コストや管理面の負担から現実的に導入できる企業は限られます。
結果として、このようなケースでは**「在宅勤務・リモートワークの導入」が最も現実的な解決策**となります。IT環境を整えれば、オフィスの構造を大きく変えずに雇用を実現できます。
当事者の声
実際の車いす利用者からは「スキルや意欲はあるのに、通勤や職場環境が整っていないために働けない」「出社さえできれば十分に力を発揮できるのに機会がない」といった声が多く寄せられています。つまり、就労を阻んでいるのは本人の能力不足ではなく企業側の環境整備や制度運用の遅れであることが明確です。
企業が誤解しがちなポイント

「車いすだからできない仕事が多い」という思い込み
実際には、パソコンを使う事務・経理・データ入力、リモートでのカスタマーサポートやライティング業務など、多くの職種において車いす利用は全く支障になりません。企業が先入観で「できない」と判断してしまうことが、大きな機会損失を招いています。
この誤解の背景には、**「立てない=業務ができない」「歩けない=移動できない」**という短絡的なイメージがあります。現場作業や立ち仕事と混同し、オフィスワークなどでも困難だろうと誤解されやすいのです。しかし実際には座位で行える業務は数多くあり、現代のIT環境では障壁はほとんどありません。
設備投資が大変だという先入観
「エレベーターを設置しないと雇えないのでは」と考える企業もありますが、実際にはスロープ設置や机の高さ調整といった低コストの改善で解決できる場合が多いです。
例えば簡易スロープなら 数万円〜10万円程度、常設型でも 20〜50万円程度で導入できます。大規模なエレベーター設置(数百万円〜数千万円)と比べれば、はるかに現実的です。さらに国や自治体のバリアフリー改修助成金を活用すれば、実質負担は半分以下になることもあります。
小さな配慮で可能になるケース
固定デスクからフリーアドレスに変更するだけで車いす利用者が動きやすくなる、通勤ラッシュを避ける時差出勤を認めるだけで負担が大幅に軽減される――こうした小さな配慮が、雇用の可能性を大きく広げます。
車いす利用者が働ける職種と環境
オフィスワーク(事務・経理・データ入力)
一般的なオフィスワークは、車いす利用者にとって取り組みやすい分野です。必要なのは机や通路のレイアウト調整といった物理的な配慮だけであり、大きな投資を伴わないケースも多いです。
在宅ワーク(ライティング・デザイン・カスタマーサポート)
パソコン一つで完結する業務は、在宅ワークとの親和性が高く、車いす利用者がスキルを発揮しやすい分野です。企業にとってもオフィスコスト削減や人材確保の観点から有益です。
特にライティング業務は幅広く、具体的には以下のような仕事があります。
- Web記事・コラム執筆:企業のオウンドメディアや専門コラム記事をSEOを意識して作成
- 商品・サービス紹介文作成:ECサイトの商品説明文、キャッチコピーの執筆
- マニュアルや研修資料のライティング:ソフトウェアの操作手順書や教育テキスト
- 広告コピーやランディングページ文章:新製品PR記事やSNS広告用の短いコピー
- インタビュー記事化:Zoomやメールでの取材内容を整理し、広報記事にまとめる
- FAQやカスタマーサポート文面:定型回答文やチャットボット用スクリプトの作成
このように「ライティング」と一口に言っても、実際は企業の広報・販売・採用活動を支える重要な業務領域であり、在宅勤務で十分に担える仕事です。
専門職・資格職(研究・プログラマー・カウンセラー)
専門知識や資格を活かす職種では、車いす利用が不利になる要素は少なく、実力次第で活躍できる場が広がるのが特徴です。
実例紹介|バリアフリーが整った企業での活躍事例
ある大手IT企業では、オフィス全体をバリアフリー設計にした結果、複数の車いす利用者がエンジニアやカスタマーサポートとして活躍しています。企業にとってもダイバーシティ推進の成功事例となり、社外評価の向上にもつながっています。
企業が整えるべきバリアフリー環境
物理的環境の改善
まず基本となるのは、物理的なバリアフリー環境の整備です。これが整っていなければ、いくら制度やサポートを導入しても「働きやすい職場」にはなりません。
段差解消・スロープ設置
数センチの段差でも車いす利用者にとっては大きな障壁となります。アルミ製の簡易スロープであれば数万円から導入可能で、補助金を活用すれば企業負担も軽減できます。
エレベーター・自動ドア・多目的トイレ
中長期的には、誰もが使えるユニバーサルな環境が望まれます。エレベーターや自動ドア、多目的トイレは「障害者のためだけ」ではなく、来客や高齢社員にも有益です。投資効果は決して限定的ではありません。
通勤面での配慮
職場だけでなく通勤環境への配慮も欠かせません。
車通勤の許可
多くの企業では「公共交通機関での通勤」を前提としていますが、車いす利用者にとっては現実的ではないケースもあります。駐車場の確保や車通勤許可は、就労機会を広げる大きなポイントです。
送迎や交通費支援
一部の企業では、最寄り駅からの送迎やタクシー利用補助などを導入しています。交通費支援を柔軟に運用することで、通勤のハードルを下げることが可能です。
業務環境の工夫
オフィス内での業務環境調整も重要です。
机・通路のスペース確保
机の高さを調整する、通路幅を広げるといった工夫だけで車いす利用者が快適に働ける環境が整います。これらは大掛かりな投資を必要とせず「小さな改善」で実現できるケースが多いです。
オンライン会議やリモートツールの導入
移動が難しい場合でも、オンライン会議やチャットツールを活用すれば、情報共有や業務連携に支障はありません。デジタル環境の整備は、障害の有無を問わず全社員にメリットがあります。
企業ができる配慮とサポート体制
柔軟な勤務制度(フレックス・在宅・時差出勤)
勤務時間を柔軟に調整できる制度は、通勤負担の軽減や体調に合わせた働き方を可能にします。特に在宅勤務は、2階事務所など物理的にアクセスできない職場でも雇用を実現するカギとなります。
相談できる窓口・支援員の配置
「困ったことがあっても誰に相談していいかわからない」という状況は、早期離職の大きな要因です。人事部門や専門の相談窓口を設けるだけで、安心感が大きく変わります。
ジョブコーチ制度や社内メンター制度の活用
厚生労働省のジョブコーチ制度を活用すれば、外部専門家が職場に入り、業務定着を支援してくれます。加えて社内メンターを配置することで、日常的に相談できる環境が整い、働きやすさが高まります。
同僚への啓発・研修で理解を深める
いくら環境や制度を整えても、現場の理解がなければ効果は限定的です。障害特性や合理的配慮に関する社内研修を実施し、誤解や偏見をなくすことが不可欠です。これは車いす利用者だけでなく、多様な人材が働きやすい企業文化をつくる第一歩でもあります。
助成金・制度を活用した取り組み
障害者雇用納付金制度と助成金
一定規模以上の企業には「障害者雇用率制度」に基づく雇用義務があります。未達成企業は納付金を納める一方、雇用や環境整備を進めた企業には助成金の支給があります。
例:障害者のための職場改善や設備投資に対する助成、就労継続を支えるための助成など。これらを積極的に活用することで、企業の金銭的負担を大幅に軽減できます。
バリアフリー改修の補助金
国や自治体では、段差解消・スロープ設置・多目的トイレ設置などのバリアフリー改修に補助金を設けています。例えば小規模なスロープ設置は数万円から導入可能で、補助金を使えば企業負担はさらに抑えられます。
大規模なエレベーター設置までは不要でも、「小さな改修」で大きな効果を生むことができるのです。
雇用継続のための支援制度(職場適応援助者〈ジョブコーチ〉など)
「採用しても長続きしないのでは」と不安を抱える企業も多いですが、ジョブコーチ制度を利用すれば専門家が職場に入り、本人と周囲の橋渡し役を担ってくれます。
これにより早期離職を防ぎ、定着率を高めることが可能です。企業にとっても「採用コスト・教育コストの削減」につながる有効な制度です。
企業が得られるメリット

多様な人材の活躍による組織の活性化
車いす利用者の採用は、単なる「雇用義務の達成」ではありません。多様な視点を持つ人材が加わることで、社内のコミュニケーションや課題解決の幅が広がり、組織の活性化につながります。
CSR・企業ブランドの向上
障害者雇用やバリアフリー化は、社会的責任(CSR)の一環として社外から高く評価されます。近年は投資家や求職者も「ダイバーシティへの取り組み」を重視しており、企業ブランドや採用競争力の強化につながります。
従業員全体にとって働きやすい環境改善につながる
合理的配慮やバリアフリー化は、車いす利用者だけでなく、全従業員にとってもメリットがあります。広い通路やフレックス勤務は、育児・介護を担う社員や高齢社員にとっても働きやすさを高める要素です。
まとめ|車いす利用者が力を発揮できる職場を
車いす利用者の就労課題は「能力」ではなく、環境・配慮の不足によるものです。企業がバリアフリー整備や柔軟な勤務制度を導入すれば、活躍できる場は確実に広がります。障害者雇用は「義務」ではありますが、それ以上に企業の成長戦略として大きな価値を持ちます。
人材不足が続く社会において、車いす利用者を含む多様な人材が安心して働ける環境を整えることは、企業の持続的成長と競争力強化につながるのです。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。








