2025/08/22
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脊髄小脳変性症と障害者雇用|企業が知るべき配慮と実際の事例

はじめに

脊髄小脳変性症(SCD)は、進行性の神経難病に分類されます。歩行や発音、手先の動きなどに影響が出ることが多い一方で、「働き続けたい」「社会とつながりたい」という強い意欲を持つ方も少なくありません。
しかし、企業側からすると「どんな配慮が必要なのか」「職場で受け入れられるのか」と不安を抱きやすいのも事実です。

本記事では、脊髄小脳変性症の基礎知識と、仕事における影響や配慮のポイント、実際の雇用事例を解説します。企業が理解を深めることで、安心して受け入れ、戦力として活躍してもらえる環境づくりにつながります。


脊髄小脳変性症とは?企業が理解しておきたい基礎知識

どんな病気か

脊髄小脳変性症(SCD)は、小脳や脊髄の神経細胞が徐々に変性し、運動機能に障害が出る病気です。進行性であり、時間の経過とともに症状が変化する点が特徴です。

主な症状

  • 歩行のふらつき・転倒しやすさ
  • 手の震えや不器用さ
  • 発音が不明瞭になる(構音障害)
  • 食べ物や水分を飲み込みにくい(嚥下障害)

これらは日常生活だけでなく、仕事の遂行や職場でのコミュニケーションにも影響することがあります。

進行の個人差が大きい

脊髄小脳変性症(SCD)の特徴として、症状の進行スピードや出方が人によって大きく異なるという点があります。
同じ診断名であっても、

  • ほとんど症状が出ないまま長期間働き続ける方
  • 軽度のふらつきはあるが工夫や配慮で就労を継続できる方
  • 発症から比較的短期間でサポートが必要になる方
    など、その経過は実にさまざまです。

企業としては「SCD=すぐに働けなくなる」と一律に考えるのではなく、本人の現在の状態や得意分野を確認し、柔軟に業務を調整する姿勢が重要です。

また、進行が緩やかな場合には、適切な環境調整や制度の活用によって10年、20年と安定して就労を続けるケースもあります。
このように「個人差が大きい」という理解を持つことは、採用可否の判断においても先入観をなくし、結果として企業にとっても優秀な人材を確保できるチャンスにつながります。

体調の波を前提に考える

脊髄小脳変性症の大きな特徴のひとつは、体調に波があることです。
例えば「今日は元気に歩けるのに、翌日は疲労やふらつきで動くのがつらい」といったように、日ごと、あるいは時間帯によってパフォーマンスが変わるケースがあります。

この体調の変動は、本人の努力や意思だけではコントロールできない部分も多いため、企業側が「波があることを前提にした働き方」を認めることが重要です。

具体的な配慮例としては、

  • 時短勤務やフレックス制度で出勤時間・退勤時間を調整できるようにする
  • 在宅勤務の併用により、体調がすぐれない日でも就労を継続できるようにする
  • 業務の繁忙調整(納期に余裕を持たせる、チームで分担するなど)で無理を減らす
  • 休暇制度の柔軟な活用(時間単位休暇、半日休暇など)で体調に応じた休み方を選べるようにする

こうした制度や職場文化が整っていると、従業員は「無理して働き続ける」のではなく「長く働き続けられる」ようになります。
つまり、体調の波を理解し柔軟な勤務調整を認めることは、離職防止・定着率向上につながる投資でもあるのです。


仕事に影響しやすい症状と課題

移動・通勤の負担

歩行のふらつきやバランス障害により、通勤が大きな負担になるケースがあります。駅から職場までの距離や階段の有無、車椅子利用時の動線などを確認することが望ましいです。

長時間労働の困難

体力の低下や疲労の蓄積により、長時間労働や残業が難しい場合があります。時短勤務・フレックスタイム・在宅勤務を選択肢に入れることで、安定した就労につながります。

発音障害によるコミュニケーション課題

声が聞き取りにくくなる場合があり、電話応対や接客が難しいこともあります。代替手段として、メールやチャットツールでのやり取りを中心にする工夫が有効です。

手先の不器用さで細かい作業が難しいケース

字を書く、ボタンを押す、細かい部品を扱うといった作業が難しい場合もあります。ここではアシストツールの導入や作業内容の一部調整が求められます。

企業が知るべき就労配慮ポイント

脊髄小脳変性症(SCD)のある方が安心して働けるようにするためには、勤務形態・職場環境・業務内容・勤務時間・コミュニケーションの5つの視点から配慮を検討することが大切です。

通勤・勤務形態の工夫

SCDの症状には歩行のふらつきや体力低下があるため、毎日の通勤が大きな負担になることがあります。

  • 車通勤を認めることで、公共交通機関での転倒リスクを減らせます。
  • 在宅勤務やテレワークを選択肢に加えると、体調の波に応じて柔軟に就労でき、長期的な安定雇用につながります。

職場環境の改善

物理的な環境整備は、安全性と安心感を高めます。

  • 通路を広く取り、車いすや歩行器でも移動しやすいレイアウトにする
  • 手すりの設置、段差の解消などのバリアフリー化を進める
    こうした取り組みは、SCDに限らず全社員にとって働きやすい職場環境づくりにもなります。

業務内容の調整

無理のない範囲で能力を発揮できるよう、業務内容の調整も重要です。

  • 体力を必要としない業務(書類整理、データ入力、電話・メール対応など)
  • PC作業や事務補助など、正確さや集中力が評価される業務
    適材適所の配置により、本人のモチベーションも高まります。

勤務時間・休憩の柔軟性

SCDは体調の波があるため、勤務時間の調整が効果的です。

  • 時短勤務制度やフレックス勤務を導入する
  • 休憩を細かく取れるようにする
    これにより、疲労や転倒のリスクを減らし、結果的に生産性の向上につながります。

コミュニケーションの補助

発音障害(構音障害)がある場合、電話や会議で意思疎通が難しいことがあります。

  • メールやチャットツールの活用
  • 議事録やメモによる共有
    といった代替手段を取り入れることで、スムーズなコミュニケーションが可能になります。

脊髄小脳変性症に向いている仕事の例

症状の進行度合いや得意分野によって異なりますが、以下のような仕事は比較的続けやすいとされています。

  • デスクワーク(事務補助、データ入力)
    座って行える作業は身体的負担が少なく、正確性を活かせます。
  • 在宅ワーク(ライティング、デザイン、システム開発補助など)
    移動の負担がないため、体調に合わせて柔軟に働けます。
  • 専門性を活かす業務(CAD、研究補助など)
    これまでの経験や資格を活かすことで、症状があっても強みを発揮できます。
  • 負担が少なく正確さが求められる作業
    チェック業務や書類確認など、丁寧さを活かせる仕事は適性が高いといえます。

避けたほうがよい仕事の例

一方で、以下のような仕事は症状により負担が大きく、事故や体調悪化のリスクが高いため注意が必要です。

  • 長時間の立ち仕事(販売、接客など)
    転倒リスクが高まり、体力的にも継続が難しくなりやすいです。
  • 危険を伴う作業(工場での重機操作、ライン作業など)
    ふらつきや動作の遅れが重大な事故につながる可能性があります。
  • 夜勤やシフト勤務
    不規則な生活や睡眠不足は症状を悪化させる要因となります。

実際の事例|脊髄小脳変性症の方が働く現場

事務職で配慮を受けながら継続勤務している事例

ある企業では、脊髄小脳変性症の社員が事務補助業務に従事しています。
歩行の不安定さに対しては 最寄駅からの車通勤を許可し、職場内には手すりやバリアフリー環境を整備。さらに、フレックスタイム制度を導入して、体調に合わせて勤務時間を調整できるようにしています。
この結果、長期的に安定して勤務を継続できており、企業側も「丁寧で正確な業務遂行力」を高く評価しています。

在宅ワークで専門スキルを発揮している事例

別の事例では、在宅勤務を中心にライティングやデザイン業務を担当している方がいます。
発音障害による電話応対の負担を避けるため、メールやチャットツールでのコミュニケーションを徹底。移動のストレスがないことで、持っているスキルを最大限に発揮し、安定したパフォーマンスを出し続けています。

支援機関と連携して定着につながった事例

就労移行支援事業所やジョブコーチと企業が連携したケースでは、職場での困りごとを第三者がサポートすることで、社員本人も企業も安心して働ける環境を実現しています。
「業務内容の調整方法」や「体調変化への対応」などを支援機関が一緒に考えることで、結果的に離職を防ぎ、定着率が向上しました。


支援制度を活用した雇用の安定化

障害者雇用枠の活用

脊髄小脳変性症は指定難病であり、障害者手帳を取得できるケースがあります。障害者雇用枠を活用すれば、法定雇用率を満たすだけでなく、安定的な雇用関係の構築につながります。

ジョブコーチ制度での職場支援

ジョブコーチが職場に入り、業務指導や人間関係の調整をサポートする仕組みです。特に初期の定着支援に効果があり、企業側の不安も軽減できます。

医療・福祉制度(難病医療費助成、障害者手帳による支援)

  • 難病医療費助成制度:高額になりやすい医療費の自己負担を軽減
  • 障害者手帳による支援:税制優遇、交通機関の割引、雇用上の合理的配慮が受けやすい

これらの制度を併用することで、本人・企業双方にとって安心できる雇用環境が実現します。


まとめ|配慮があれば十分に力を発揮できる

脊髄小脳変性症は「働けない病気」ではありません。
適切な配慮や制度の活用があれば、多くの方が自分の力を活かして社会に貢献しています。

  • 配慮の有無で働きやすさは大きく変わる
  • 企業にとっては、ダイバーシティ推進や人材活用の観点で大きな価値がある
  • 社会全体にとっても、多様性を受け入れる風土づくりにつながる

企業が一歩踏み出して環境を整えれば、本人は「安心して力を発揮できる存在」となり、結果として組織全体の成長にも直結します。

そして、当事者の方へ。
体調の波や進行の個人差はあっても、あなたの意欲やスキルは必ず社会で必要とされています。
「無理をして働き続ける」ではなく、「支援や配慮を受けながら長く活躍する」ことがゴールです。脊髄小脳変性症に向き合う人と企業が手を取り合うことで、「働きたい」と「活躍してほしい」が両立する未来は必ず実現できます。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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