2025/08/27
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突然の病気や事故で障害者に|事実を受け入れられないときの心理とサポート

この記事の内容

はじめに

誰にとっても、病気や事故は突然やってくるものです。昨日まで当たり前のようにできていたことが、今日からはできなくなる。そんな大きな変化によって「障害者」として生きる現実に直面したとき、多くの人が強い心理的ショックを受けます。
体の変化だけでなく、心にも深い影響を及ぼし、今後の生活や人生の見通しが大きく揺らぐのは自然なことです。

本記事では、「事実を受け入れられない心理の背景」と「回復や前進につながるサポート方法」について解説します。今まさに悩んでいる本人だけでなく、家族や支援者の方にとっても理解を深めるヒントになるでしょう。


突然の障害がもたらす心理的ショック

アイデンティティの揺らぎ

「昨日までは普通に歩けていたのに、今日からは車椅子生活になる」「これまでできていた仕事が続けられない」。
こうした急激な変化は、自分の存在そのものを揺るがすような感覚をもたらします。これまで築いてきたキャリアやライフスタイルが一瞬で崩れることにより、「自分は何者なのか」というアイデンティティが大きく揺らぐのです。

障害を喪失体験として捉える心理

心理学者エリザベス・キューブラー=ロスが提唱した「悲嘆のプロセス」でも説明されるように、人は大きな喪失に直面すると、次のような段階を経ることが多いとされています。

  • 否認:「そんなはずはない」「一時的なものだ」と現実を受け入れられない
  • 怒り:「なぜ自分が」「どうして自分だけが」と不公平感に苦しむ
  • 抑うつ:将来への不安や喪失感から気力が低下する
  • 受容:徐々に現実と向き合い、生活を再構築していく

このプロセスは人それぞれのスピードで進み、行きつ戻りつすることも珍しくありません。大切なのは「無理に受け入れようとしなくてもよい」という視点です。

社会的役割の喪失感

突然の障害によって、これまで担ってきた社会的な役割を果たせなくなるケースも少なくありません。

  • 仕事ができなくなり、収入を得られない不安
  • 家族を養えない、支えられないというプレッシャー
  • 趣味やコミュニティ活動に参加できない孤立感

こうした状況は、「社会の中で必要とされないのでは」という無力感につながりやすく、心理的ダメージをさらに大きくしてしまいます。

家族や周囲が直面する葛藤

介護・支援に伴う不安

障害を負った本人だけでなく、家族や周囲の人もまた大きなストレスを抱えます。生活の介護や経済的な負担、将来の見通しの不透明さなどが重なり、「どう支えればいいのか」「自分にできることは限られているのではないか」という不安を抱えるケースが多くあります。特に介護が長期化すると、支援する側の心身の疲労も深刻になりがちです。

「励ますこと」が逆効果になるケース

「頑張って」「前向きになって」と励ます言葉は一見前向きに聞こえますが、本人にとってはプレッシャーとなり、かえって追い込まれてしまうこともあります。「寄り添い」「聞く姿勢」が何より大切であり、無理にポジティブを押し付けないことが支援の第一歩となります。

家族も支援を受ける必要がある理由

家族自身が疲弊してしまえば、継続的なサポートは困難になります。そのため、家族支援のための相談窓口やカウンセリングを活用することも重要です。本人と同じように、家族もまた支援を必要としていることを社会全体が理解する必要があります。


受け入れが難しいときの典型的な症状・行動

現実否認(障害を「一時的なもの」と思い込む)

「きっと時間が経てば治る」「リハビリすれば元通りになる」と、障害を一時的なものと考え続けてしまうケースがあります。否認は心を守る自然な反応ですが、長く続くと前に進めなくなるリスクがあります。

抑うつ・無気力状態

強い喪失感や無力感から、生活への意欲を失い、うつ症状や無気力が目立つ場合もあります。これは特に「未来が見えない」と感じるときに表れやすく、専門的な介入が必要になることもあります。

怒りや攻撃性が強くなるケース

現実への不満や理不尽さから、家族や支援者に怒りをぶつける行動が見られることもあります。本人の性格によるものではなく、ショックや苦しみの表れであることを理解することが大切です。

孤立や社会的引きこもり

人との関わりを避け、社会から距離を置いてしまうケースも少なくありません。孤立はさらに抑うつや不安を深めるため、早期に地域活動やピアサポートへつなげることが望まれます。


障害を受け入れるための心理的サポート

カウンセリング・心理療法

心理士や精神科医によるカウンセリングは、気持ちの整理や思考のリフレーミングに役立ちます。特に認知行動療法(CBT)は「できること」に目を向け直す効果が期待できます。

ピアサポート(同じ経験者との交流)

同じ境遇を経験した仲間との交流は、孤独感を和らげ、希望を見出す大きな力になります。実際に障害を乗り越えた人の声は、専門家の言葉以上に心に響くことも多いのです。

グループワークやリワークプログラム

病院や就労支援機関では、グループワークやリワークプログラムが提供されていることがあります。集団で取り組むことで社会参加の第一歩を踏み出しやすくなり、安心感も得られます。

医療従事者との連携による心理的ケア

医師・看護師・リハビリスタッフが連携することで、心身両面にアプローチできます。「体と心を切り離さないケア」が重要です。


生活再建のためのリハビリと工夫

身体機能リハビリ(作業療法・理学療法)

身体機能の回復や維持を目的としたリハビリは、生活の質を高める基盤になります。日常動作の再獲得は、自立への第一歩です。

高次脳機能障害など認知面の訓練

記憶や注意力に課題がある場合、専門的な認知リハビリが有効です。繰り返しの訓練によって、徐々に日常生活に適応しやすくなります。

日常生活の工夫(メモ・アラーム・補助具の活用)

障害によって記憶力や集中力が低下したり、体の機能に制約が生じることがあります。その結果、「やるべきことを忘れてしまう」「日常動作に時間がかかる」といった不安が生まれやすくなります。

こうした不安を和らげるために役立つのが、メモ・アラーム・補助具の活用です。

  • メモの活用
    ・買い物リストを書いて持ち歩く
    ・一日の予定や服薬スケジュールを紙やノートに記録する
    ・やることを目に見える形にすることで、忘れやすい不安を減らせる
  • アラームの活用
    ・スマホのアラームで「服薬の時間」「通院の時間」を通知
    ・リマインダー機能で「洗濯物を取り込む」など生活動作をサポート
    ・時間管理が難しい人でも、音や通知によって生活のリズムを整えられる
  • 補助具の活用
    ・歩行器や杖で移動の安全性を高める
    ・専用の食器やペンを使って日常動作を楽にする
    ・身体の負担を減らすことで「できること」を広げる

このように工夫することで、「忘れてしまうかも」「一人でできないかも」という不安が軽減され、自分で生活をコントロールできている感覚を取り戻せます。これは心理的な安定や自信の回復につながる大切なステップです。

小さな達成体験の積み重ねで自信を回復

「今日は階段を一段登れた」「買い物に行けた」など、小さな成功を積み重ねることで自己効力感を回復できます。「できないこと」ではなく「できたこと」に注目する姿勢が、生活再建の鍵となります。

社会的支援と利用できる制度

障害者手帳の取得とメリット(税制優遇・交通費減免など)

障害者手帳を取得すると、税制優遇、公共交通機関の割引、自動車税の減免、携帯電話料金の割引など、生活を支えるさまざまな制度を利用できます。経済的負担の軽減だけでなく、移動や外出のハードルを下げる効果もあり、生活の選択肢を広げる重要な支援です。

障害年金・自立支援医療制度

長期にわたって働けなくなった場合、障害年金が生活費を支える大きな柱となります。また、通院や治療が必要な人には自立支援医療制度が適用され、医療費の自己負担が軽減されます。これらの制度は「安心して治療や生活を続ける」ために欠かせません。

就労支援(就労移行支援・ジョブコーチ制度・障害者雇用枠)

働きたい人に向けては、就労移行支援事業所での訓練や、職場に適応するためのジョブコーチ制度が利用できます。また、企業の障害者雇用枠を活用することで、無理なく働ける環境を見つけやすくなります。

地域の相談窓口・支援団体

各自治体には障害者相談支援センターや地域包括支援センターなどがあり、生活・就労・福祉制度の利用方法を相談できます。支援団体やNPOも多く存在し、同じ境遇の人とつながる場を提供しています。


事例紹介|「受け入れられなかった」から「一歩踏み出せた」まで

出産時の合併症で下肢に障害を負った30代女性のケース

子どもを出産した直後に合併症で歩行が難しくなり、「子育てすらできないのでは」と絶望していました。しかし、地域の母子支援センターや訪問看護のサポートを受ける中で、「助けを借りながらでも母親でいられる」と気づきました。今では同じ境遇の母親向けの交流会を立ち上げ、前向きに子育てと生活を両立しています。

交通事故で上肢に障害を負った40代男性のケース

事故後、仕事で必要な手作業ができなくなり、「もう職場に戻れない」と気持ちが塞ぎ込みました。ところが、職業リハビリテーションでパソコンスキルを学び直し、事務職へとキャリアチェンジ。ジョブコーチの伴走支援があったことで、新しい働き方に自信を持てるようになりました。

難病によって視覚障害を発症した50代女性のケース

突然視力を失い、「一人で生活できない」と強い孤独感を抱えていました。しかし、点字や音声読み上げソフトを学ぶことで日常生活が徐々に安定。さらに視覚障害者のピアサポートグループに参加したことで「自分の経験も誰かの役に立つ」と実感し、再び地域活動に参加できるようになりました。


前向きに生きるための考え方

「受け入れる」より「折り合いをつける」という発想

突然の障害を「完全に受け入れる」ことは、多くの人にとって非常に難しいことです。心のどこかで「以前の自分に戻りたい」という思いが残るのは自然な反応です。
大切なのは「無理に受け入れる」ことではなく、現実と折り合いをつけながら、自分に合った新しい生活の形を探していくことです。
たとえば、「長距離を歩くのは難しいけれど、車いすを使えば外出できる」「以前の仕事はできないけれど、新しいスキルを学べば別の働き方ができる」といった視点の転換が、前を向く一歩につながります。

社会参加の重要性(ボランティア・趣味・就労など)

障害によって人とのつながりが減ると、孤立感や無力感が強まりやすくなります。だからこそ、小さな形でも社会に関わることが大切です。
たとえば――

  • 地域のボランティア活動に参加する
  • 趣味のサークルやオンラインコミュニティに顔を出す
  • 就労支援を通じて短時間の仕事から始める

こうした関わりは「自分も誰かの役に立っている」「社会の一員として存在している」という実感を得る機会になります。これは心の安定だけでなく、生きがいを再発見することにもつながります。

小さな成功体験を積み重ねる意味

前向きな気持ちを取り戻すためには、大きな成果ではなく、小さな成功の積み重ねが重要です。
たとえば――

  • 「今日は一人で買い物に行けた」
  • 「リハビリで少し長く歩けるようになった」
  • 「新しい料理に挑戦してみた」

こうした日々の達成感は、「できないこと」よりも「できること」に目を向ける習慣を育てます。積み重ねた経験が自信となり、次の挑戦へのエネルギーになります。


まとめ

突然の病気や事故によって障害を負うことは、本人にとっても家族にとっても計り知れないショックです。これまでの生活が一変し、「なぜ自分が」「これからどうすればいいのか」という思いに押しつぶされそうになるのは自然な反応です。

大切なのは、「受け入れられない自分」を否定しないことです。受容には時間がかかりますし、誰もが同じようにすぐに前を向けるわけではありません。「今は受け入れられない」こと自体が、心の回復に必要な過程なのです。

一人で抱え込む必要はありません。障害者手帳や年金制度といった社会保障、就労支援やリハビリなどの専門的なサポート、そして家族や仲間の存在が、必ずあなたの支えとなります。

そして、前を向くためのきっかけは大きな出来事でなくても構いません。「今日は外に出られた」「人と話せた」――そんな小さな一歩の積み重ねが、やがて自分らしい生活を取り戻す力になります。最後に、この記事を読んでいるあなたへ。
「今は受け入れられなくても大丈夫」です。焦らず、支えを借りながら、自分のペースで前に進んでください。小さな一歩でも、それは確かな前進です。そしてその歩みが、未来の大きな希望へとつながっていきます。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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