2025/08/27
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後天性障害を抱えて生きる|「受け入れられない」から一歩前に進むために

はじめに

人生の途中で、突然の病気や事故によって障害を負う人は決して少なくありません。厚生労働省の調査でも、脳卒中や交通事故による障害を新たに抱える方は毎年一定数発生しており、誰にでも起こりうる現実です。

そのとき、多くの人が口にする言葉があります。
「どうして自分が…」
「現実を受け入れられない」

これは異常なことではなく、むしろ自然な心理反応です。人生が突然変わってしまう現実に直面すれば、心が混乱し、否定の気持ちが湧くのは当然のことだからです。

本記事では、後天性障害に直面した方やそのご家族に向けて、「受け入れられない」という気持ちとどのように向き合えばよいのか、そして一歩前に進むための考え方やヒントを紹介します。


後天性障害とは

先天性との違い(突然の変化が心理に与える影響)

障害には大きく分けて「先天性」と「後天性」があります。先天性障害は生まれつき、または幼少期から抱えているため、本人や家族は時間をかけて生活に順応していくことができます。

一方で後天性障害は、病気や事故などによって「ある日突然」それまでの生活が大きく変わってしまうのが特徴です。昨日まで当たり前にできていたことが、今日からは難しくなる。この急激な変化が、本人の心に強い衝撃を与え、「受け入れられない」という感情を引き起こします。

心理的な影響としては、以下のような段階を経ることもあります。

  • 否認:「そんなはずはない」と現実を否定する
  • 怒り:「なぜ自分が」と怒りや不公平感が強くなる
  • 抑うつ:絶望や喪失感に押しつぶされそうになる
  • 受容:少しずつ現実を受け入れ、前を向けるようになる

このプロセスは人それぞれであり、時間の長さも異なります。焦らず、自分のペースで向き合うことが大切です。

代表的な原因

後天性障害をもたらす原因にはさまざまなものがあります。代表的な例を挙げると以下の通りです。

  • 交通事故・脊髄損傷
     車やバイクによる交通事故、転落事故などで脊髄を損傷し、下半身や全身に麻痺が残るケースは多くあります。
  • 脳卒中・外傷性脳損傷による高次脳機能障害
     脳出血や脳梗塞などの脳卒中、または強い衝撃による外傷性脳損傷により、記憶・注意・判断力などに障害が残る場合があります。
  • 難病(ALS・脊髄小脳変性症など)
     発症の原因が不明で進行性の病気も、後天的に障害を抱える要因です。ALS(筋萎縮性側索硬化症)や脊髄小脳変性症は、徐々に筋力や運動機能が低下し、日常生活に大きな制約が生じます。

このように「突然の事故」「突発的な発症」「進行する難病」など、原因は多岐にわたりますが、共通するのは「想定外の変化が人生に訪れる」という点です。


「受け入れられない」心理の正体

失ったものの大きさに直面する喪失感

後天性障害に直面したとき、多くの人が最初に感じるのは 「喪失感」 です。
仕事、趣味、スポーツ、移動の自由…。これまで当たり前にできていたことができなくなる現実は、人生の一部を突然奪われたかのように感じられます。

この喪失感は、身体機能だけでなく「未来への展望」にも及びます。
「今後、働けるのか」
「家族と普通の生活を送れるのか」
こうした不安が積み重なり、現実を受け止められない感情につながっていきます。

アイデンティティの揺らぎ(「以前の自分」とのギャップ)

後天性障害は、自分自身のアイデンティティにも深く影響を与えます。昨日まで「働き盛りの会社員」や「子育て中の親」としての役割を果たしていたのに、今日からは「障害を持つ人」として見られる。

このギャップは自己否定感を生み、「以前の自分に戻りたい」という強い気持ちを抱かせます。自分の存在価値や社会での役割が揺らぐため、気持ちが不安定になるのは自然なことです。

周囲の言葉や期待が負担になることも

善意でかけられる言葉が、時にプレッシャーになることもあります。
「頑張ればまた元の生活に戻れるよ」
「気持ち次第でどうにでもなる」

励ましのつもりでも、本人にとっては「受け入れられない現実を無理に押し付けられている」と感じることがあります。期待と現実の間で苦しむのも、後天性障害に向き合う心理的な特徴の一つです。


家族・周囲が抱える葛藤

介護や生活支援への不安

障害を負った本人だけでなく、家族もまた大きな不安を抱えます。介護や生活支援が日常に加わることで、経済的・時間的・精神的な負担が一気に増すからです。特に「この生活がいつまで続くのか」という先の見えない不安は大きなストレスになります。

「励ます」ことと「寄り添う」ことの違い

家族は「前向きにさせなければ」と考えがちですが、無理に励ますことは逆効果になる場合があります。大切なのは「寄り添うこと」。本人の気持ちを否定せず、悲しみや怒りをそのまま受け止めることが、長期的には回復の力になります。

家族も支援を受ける大切さ

介護する側も孤立してしまうと心身に大きな負担がかかります。自治体の福祉サービスやカウンセリング、家族会などを活用し、「支える人自身も支援を受ける」ことが必要です。家族が疲弊してしまえば、本人を支える力も弱まってしまうからです。


社会生活で直面する壁

仕事やキャリアとの両立の難しさ

後天性障害は、働き方やキャリア設計にも大きな影響を及ぼします。長時間勤務が難しい、通勤が困難になるといった課題に直面し、これまでの仕事を続けられないケースも少なくありません。リモートワークや障害者雇用制度を活用するなど、新しい働き方の模索が必要です。

人間関係や孤立感

障害によって生活のリズムが変わると、友人や同僚との交流が減り、孤立感を抱きやすくなります。周囲との温度差が生じることで「自分は取り残されている」と感じることもあります。地域活動やオンラインコミュニティなどを通じ、無理のない範囲で人とのつながりを持つことが重要です。

生活環境のバリア(住居・交通・情報アクセスなど)

物理的な環境の壁も、日常生活を難しくします。段差の多い住居やエレベーターのない建物、交通機関のバリア、さらには情報のデジタル化による「情報格差」など、さまざまな制約が存在します。

これらのバリアに直面することで「社会から切り離されている」と感じることも少なくありません。しかし近年は、バリアフリー住宅改修や交通機関の整備、障害者差別解消法などの施策も進んでおり、支援制度を知ることが解決の一歩になります。

一歩前に進むためのサポートと工夫

心理的サポート(カウンセリング・ピアサポート)

後天性障害を負った直後は、強い喪失感や孤独感に押しつぶされそうになることがあります。こうした心理的な負担を軽減するために役立つのが カウンセリング や、同じ経験を持つ人との ピアサポート です。
専門家による心理療法は、気持ちの整理やストレス緩和に効果的であり、同じ境遇にある人との交流は「自分だけじゃない」という安心感をもたらしてくれます。

リハビリの役割(身体と心の回復)

リハビリは「身体機能の回復」というイメージが強いですが、実は 心の回復 にも大きな役割を果たします。できなかった動作が少しずつできるようになることで、「まだ自分にはできることがある」という前向きな気持ちが芽生えます。理学療法士・作業療法士などの専門職と二人三脚で進めるリハビリは、生活の再構築につながる大切なプロセスです。

社会制度の活用(障害者手帳・年金・就労支援)

日本には、後天性障害を持つ人を支える制度が多数整備されています。

  • 障害者手帳:医療費控除や交通機関の割引、福祉サービス利用などのサポートを受けやすくなる
  • 障害年金:働けなくなった場合の生活費を支える収入源となる
  • 就労支援サービス:障害者雇用枠や職業訓練、就労移行支援を通じて働く機会を広げられる

これらの制度をうまく活用することが、生活の安定と自立への大きな後押しになります。

小さな「できる」を積み重ねる(自己効力感の回復)

「今日は外に出られた」「料理を一品作れた」――一見するとささやかなことに思えるかもしれません。しかし、後天性障害に直面した人にとっては、これらは “大きな一歩” です。

なぜなら、失ったものやできなくなったことに目が向きがちな中で、「自分にまだできることがある」と実感できる瞬間だからです。この感覚は心理学で 自己効力感(self-efficacy) と呼ばれ、再び前を向くためのエネルギー源となります。

大切なのは、周囲と比べることではありません。昨日の自分と比べて「少しできた」という事実を積み重ねることです。

  • 今日は5分だけ散歩できた
  • 新しいレシピに挑戦できた
  • 家族に「ありがとう」と言えた

こうした小さな行動が、やがて「できることリスト」になり、自分の強みや自信へとつながっていきます。

また、この積み重ねは 孤立感の解消 にも役立ちます。「今日はこれができた」と家族や友人に伝えることで、共感や励ましを受け、自分の変化を共有できるからです。さらに、同じ境遇にある人へ体験を発信することで、「あなたの一歩が誰かの希望になる」という循環も生まれます。

後天性障害を抱えると、どうしても「失ったもの」に心が奪われがちです。しかし、その一方で「残っているもの」「新しくできるようになったこと」に目を向けることが、心を前進させる原動力となります。

小さな「できる」を大切にすること。それは未来を変える最初の一歩であり、あなた自身の人生を再構築するための最強の武器なのです。


実際の体験談(ケーススタディ)

事故で車いす生活になった男性の受容プロセス

交通事故で下半身に麻痺が残り、車いす生活を余儀なくされた40代男性は、当初「すべてを失った」と絶望しました。しかし、リハビリと職場復帰支援を経て、自分に合った新しい働き方を見つけました。現在は在宅勤務を中心に働きながら、車いすでできるスポーツにも挑戦しています。

脳卒中後に職場復帰した女性の工夫

50代で脳卒中を発症し、高次脳機能障害が残った女性は、復職に大きな不安を抱えていました。会社と相談し、短時間勤務や仕事内容の調整を行うことで徐々に仕事を再開。支援制度を活用しながら、無理なく働き続けることに成功しました。

難病と共に生きる男性が見つけた新しい役割

ALSを発症した男性は、身体機能が徐々に失われるなかで、「働けなくなったら自分の価値がない」と思い込んでいました。しかし、闘病生活をブログやSNSで発信することで、多くの人に勇気を与えています。今では「支援される立場」であると同時に「支援を広げる存在」として新たな役割を果たしています。


前を向くための考え方

「受け入れる」より「折り合いをつける」視点

「受け入れなければならない」と無理に思い込む必要はありません。完全に受け入れるのは、多くの人にとってほとんど不可能に近いことです。だからこそ大切なのは、「現実と折り合いをつけながら生きる」 という柔軟な視点です。

「以前の自分に戻れない」ことを認めるのは辛いですが、「今の自分でもできることはある」「どうすればこの状況で少しでも前に進めるか」と考えるだけで、心の重さはほんの少し軽くなります。その積み重ねが、いつか確かな前進につながります。

自分のペースで社会とつながる(就労・趣味・地域活動)

孤立は、心を弱らせてしまう最大の要因です。だからこそ、どんな小さな形でも社会とつながることが大切 です。

それは必ずしも就労でなくても構いません。趣味のサークル、地域のボランティア、オンラインのコミュニティ――「ここに自分の居場所がある」と思えるだけで、人は前を向けるのです。

無理に大きな一歩を踏み出す必要はありません。まずは「今日は誰かと一言話した」「SNSで自分の気持ちを投稿できた」など、心が少し温かくなるつながりを増やすことが第一歩です。その積み重ねが「自分も社会の一員だ」という確かな実感を育てていきます。

経験を発信する勇気(SNS・講演・支援活動)

後天性障害を抱えた経験は、時に「弱み」に見えるかもしれません。しかしそれを言葉にして発信することで、誰かにとっては大きな「希望の光」 になります。

SNSで日常をシェアする、講演で自分の体験を語る、支援活動に参加する――そのどれもが、同じ境遇で悩む人に勇気を与える行動です。そして何より、発信することは自分自身の心を整理し、「生きる意味」を再発見するきっかけにもなります。

最初は小さな一歩で構いません。「自分の経験なんて価値があるのだろうか」と迷うかもしれませんが、あなたの言葉を必要としている人は必ず存在します。その一歩が、自分の未来を変えるだけでなく、誰かの未来も照らすことになるのです。


まとめ

後天性障害は、誰にとっても突然訪れる可能性があります。事故や病気によって、それまでの生活が一変し、「受け入れられない」という気持ちに押しつぶされそうになる――これは決して異常なことではなく、ごく自然な反応です。

大切なのは、「受け入れられない自分を責めないこと」。その気持ちはむしろ、人生をもう一度見つめ直し、新しい歩みを始めるための出発点です。

これまでできていたことの多くが難しくなるかもしれません。しかし、失ったものに目を向けるだけではなく、「今の自分にできること」 を見つけていくことが未来を切り開く力になります。小さな成功体験を重ねることで、「自分にはまだ可能性がある」と実感できる瞬間は必ず訪れます。

また、その一歩は決して一人で踏み出す必要はありません。家族や友人、医療や福祉の専門家、同じ経験を持つ仲間――あなたを支えてくれる存在は必ず身近にいます。そして、社会には障害者手帳や年金、就労支援などの制度も整っており、それらを活用することで暮らしを安定させる道も広がっています。

無理に「すべてを受け入れる」必要はありません。
「現実とどう折り合いをつけていくか」という視点で、自分のペースで一歩を踏み出せばよいのです。その一歩がどんなに小さくても、それは確かに前進です。最後に、この記事を読んでいるあなたへ。
「できることをひとつずつ増やしていく」ことから始めてみてください。今日の小さな一歩が、明日の大きな希望となり、未来を大きく変えていきます。あなたの歩みは、必ず意味のあるものになります。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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