2025/08/28
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中小企業でも特例子会社は作れる?設立のハードルと現実的な代替手段

はじめに

「特例子会社」という言葉を耳にすると、多くの人がトヨタやソニー、NTTなど大手企業を思い浮かべるのではないでしょうか。実際、特例子会社は大企業を中心に設立されており、ニュースや採用情報で目にする機会も多い仕組みです。

しかし、ここで疑問が浮かびます。「中小企業でも特例子会社を作れるのか?」 という点です。
特例子会社は障害者雇用促進法に基づく制度であり、大企業にとっては法定雇用率を達成するための有効な手段ですが、中小企業にとってはどうなのでしょうか。

本記事では、特例子会社の制度概要や大手企業で設立が進む背景を整理したうえで、中小企業が検討する際のメリット・課題、そして現実的な代替手段について解説します。


特例子会社とは?中小企業に関係あるの?

制度の基本概要

特例子会社は、障害者雇用促進法に基づき設立される「特別な子会社」です。
通常、企業は本体(親会社)だけで法定雇用率を計算しますが、特例子会社として厚生労働省の認定を受けると、親会社と子会社を一体として雇用率を算定できるというメリットがあります。

この仕組みにより、企業グループ全体で障害者を計画的に雇用・配置でき、安定した就労環境を整えやすくなります。


大手企業で設立が多い理由

特例子会社の設立は、大企業で多く見られるのが現実です。その理由は以下のとおりです。

  • 雇用人数が多い
    大規模企業は従業員数が数千〜数万人規模となるため、法定雇用率を満たすためには数百人単位の障害者雇用が必要になります。
  • 業務を切り出しやすい
    グループ全体でバックオフィス業務や軽作業、データ処理などを切り出し、特例子会社に集約できる点が大きな強みです。
  • 資本力がある
    障害者が働きやすいように職場をバリアフリー化したり、支援員を配置したりするにはコストがかかります。大手企業は投資余力があるため、安定運営がしやすいのです。

このように、特例子会社は大企業にとって「雇用率達成」と「組織全体の効率化」を同時に実現できる仕組みとなっています。


中小企業が設立を検討する背景

では、中小企業にとって特例子会社はまったく関係がないのでしょうか?必ずしもそうではありません。

  • CSRや地域社会への貢献を示したい
    地域に根差した中小企業が「障害者雇用に積極的な企業」としてブランド価値を高めるために、特例子会社の設立を検討するケースもあります。
  • 障害者雇用の安定化を図りたい
    法定雇用率の義務がある企業にとっては、雇用を維持・拡大するための手段のひとつとして注目されることもあります。

ただし、実際には資金力や人員規模の問題から、中小企業単独で設立するのは容易ではなく、次章以降で触れるように「ハードルの高さ」と「代替手段」が重要な論点となります。

中小企業が特例子会社を設立する際のハードル

特例子会社は障害者雇用を安定的に進める有効な手段ですが、中小企業が単独で設立する場合にはいくつもの壁があります。大企業と比べると資本や人材リソースに限りがあるため、制度を活用するのは簡単ではありません。ここでは代表的なハードルを整理します。


資本要件と人員規模

特例子会社として認定を受けるには、親会社が子会社に過半数以上出資していること、さらに経営や人事において一体性があることが必要です。
大企業の場合は複数の子会社を持つことが一般的ですが、中小企業では「親会社」と「子会社」という関係自体を構築していないケースが多く、そもそも設立の前提を満たすことが難しいのです。

また、障害者雇用を支えるには一定規模の従業員数やサポート体制も必要となり、小規模な組織では体制構築の負担が大きくなります。


運営コストの負担

特例子会社を安定運営するには、以下のような初期投資や固定費が発生します。

  • 人件費(障害者社員+支援員の配置)
  • バリアフリー対応のための職場改修費用
  • IT機器や作業補助ツールの導入費

大手企業であればこれらの投資は「CSRの一環」として吸収できますが、資金的余裕が限られる中小企業にとっては大きな負担です。特に支援員の人件費や設備投資は長期的に固定費として重くのしかかるため、採算性を確保するのが難しいといえます。


業務の切り出しが難しい

特例子会社は、親会社の業務を切り出して担う形が基本です。大企業であれば人事・経理・印刷・物流など多様な業務をまとめて移管できますが、中小企業ではそもそも「任せられる業務」が限られています。

さらに、障害者雇用の安定には一定の仕事量を維持することが欠かせません。仕事が断続的であったり、景気変動で業務量が減ったりすると、子会社の採算がすぐに悪化してしまいます。


制度的ハードル

特例子会社として認定されるためには、厚生労働省へ申請し、さまざまな基準を満たす必要があります。

  • 親会社との資本・人事関係を証明する書類
  • 障害者雇用環境の整備状況(バリアフリー・支援体制など)
  • 継続的に雇用を維持できる経営計画

こうした書類作成や認定手続きは専門知識が必要であり、社内に人事や労務の専任担当がいない中小企業にとっては大きな負担となります。

中小企業にとって現実的な代替手段

特例子会社の設立は中小企業にとってハードルが高いのが現実です。しかし、障害者雇用を実現する方法は特例子会社だけではありません。ここでは、中小企業にとって現実的かつ持続可能な代替手段を紹介します。


特例子会社ではなく「障害者雇用枠」で直接雇用

もっともシンプルな方法は、自社の障害者雇用枠で直接採用することです。
転職エージェントや就労支援サービスを活用することで、自社に合う人材を効率的に採用できるため、採用の負担を減らすことができます。

また、在宅勤務や短時間勤務の導入により、通勤や体調への負担を軽減し、柔軟な雇用が可能になります。
さらに、ジョブコーチや地域の支援機関を活用すれば、定着率を高めつつ安心して採用を進められます。

中小企業でも取り組みやすく、実際に成功事例も多い方法です。


地域の就労支援機関や福祉サービスとの連携

自社で障害者を直接雇用するのが難しい場合は、地域の就労支援機関や福祉サービスを活用する方法があります。

たとえば、A型事業所やB型事業所に業務を委託するケースです。これは「出向」や「直接雇用」ではなく、外注に近い仕組みで、企業が事務作業や軽作業などの一部を事業所に依頼し、そこに通う利用者(障害者)が実際に作業を行います。
企業側は効率的に業務を進められ、事業所側は利用者に「実際の仕事の機会」を提供できるため、双方にメリットがあります。

また、就労移行支援事業所と連携して人材を紹介してもらう方法もあります。必要なスキルを習得した人材とマッチングできるため、採用後の定着率を高めやすいのが特徴です。


複数の企業で共同出資する「共同型特例子会社」

近年は、地域の中小企業が連携して設立する「共同型特例子会社(Joint Special Subsidiary:JSS)」も注目されています。
これは、複数の企業が資金を出し合い、業務を持ち寄って子会社を運営する仕組みです。

この形態を取ることで、コストやリスクを分散できるため、中小企業単独では難しい場合でも設立が可能になります。
さらに、そこで雇用された障害者は、出資比率に応じて各親会社の障害者雇用率にカウントされるため、制度上も有効な仕組みです。

自治体や商工会議所が間に入って調整を行うケースもあり、地域全体で障害者雇用を進めるモデルとして徐々に広がりつつあります。


助成金・補助金の活用

障害者雇用には、多くの支援制度が整備されています。中小企業にとってはコスト面が最大のハードルになりやすいですが、助成金や補助金をうまく活用することで大幅に負担を軽減できます。

  • 障害者雇用納付金制度に基づく助成金
    法定雇用率を超えて障害者を雇用している企業には「障害者雇用調整金」や「報奨金」が支給されます。
    また、雇用環境の改善(在宅勤務環境整備・作業補助機器導入など)に対しても支援金を受けられる制度があります。
  • ジョブコーチ(職場適応援助者)制度
    専門スタッフが一定期間、現場に入り、障害者本人と企業双方をサポートしてくれる仕組みです。
    派遣型ジョブコーチであれば企業側の費用負担はなく、無料で利用可能です。初めて障害者雇用に取り組む企業でも安心して導入できます。
    さらに、自社社員をジョブコーチとして養成する「企業在籍型ジョブコーチ」の場合は研修費などが発生しますが、こちらも助成金でサポートされます。
  • バリアフリー設備投資や職場改善のための補助金
    トイレや出入口の段差解消、作業スペースの改修など、バリアフリー化のための投資費用を補助。安心して働ける職場づくりを後押しします。
  • 人材育成や職場改善に使える国や自治体の助成金
    厚生労働省の「特定求職者雇用開発助成金」では、障害者を新規に雇用した際に中小企業なら最大240万円が支給されます。
    自治体によっては独自の補助金もあり、研修費や人材育成プログラムの費用をサポートするケースもあります。

これらを活用することで、採用・定着・環境整備にかかる費用を抑えつつ、持続可能な障害者雇用を実現できるのです。


事例紹介|中小企業の障害者雇用の工夫

実際に中小企業でも、工夫を凝らして障害者雇用を実現している例があります。

  • 地域の印刷会社:就労移行支援事業所と連携し、人材を受け入れてデータ入力業務を依頼。
  • 製造業の中小企業:短時間勤務の障害者を複数名採用し、助成金を活用して安定雇用を実現。
  • IT系中小企業:リモート勤務可能な障害者を採用し、開発補助業務やテスト作業を担当してもらう事例も。

こうした工夫により、「無理に特例子会社を作らなくても雇用は可能」であることが分かります。


まとめ|中小企業は「無理に特例子会社を作らなくてもよい」

特例子会社は障害者雇用を進める有効な仕組みですが、実際には大企業向けの制度といえます。
中小企業にとっては「資本要件」「業務量」「運営コスト」といった大きなハードルがあり、単独での設立は容易ではありません。

しかし、これは「障害者雇用をあきらめるべき」という意味ではありません。
むしろ中小企業こそ、以下のような現実的な代替手段を柔軟に活用できます。

  • 直接雇用+柔軟な働き方(短時間勤務・在宅勤務)
  • 転職エージェントやジョブコーチの活用で採用・定着をサポート
  • A型・B型事業所への業務委託による地域連携
  • 共同型特例子会社(Joint Special Subsidiary:JSS)で複数社による設立
  • 助成金・補助金の活用(障害者雇用納付金制度、特定求職者雇用開発助成金、バリアフリー化補助など)

これらを組み合わせれば、資金面・人材面の負担を軽減しながら、持続可能な障害者雇用を実現することができます。

さらに、近年はDXやリモート業務の広がりにより、データ処理やシステムサポートといった専門性を活かせる業務領域も拡大しています。
これにより、中小企業でも「単純作業だけではない雇用モデル」を取り入れる余地が生まれています。👉 人事担当者や経営者へのメッセージ:
「特例子会社を作るかどうか」にこだわる必要はありません。大切なのは、自社の規模や業務に合った持続可能な仕組みを選び、障害者が安心して働ける環境を整えることです。
その取り組みこそが、企業のCSRや地域社会への貢献につながり、結果的に企業のブランド力や競争力の向上にも結びついていくのです。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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