2025/08/29
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企業に求められるジョブコーチ活用|定着率を上げる配慮と導入のポイント

はじめに

障害者雇用の現場では「採用はできても定着しない」という課題を抱える企業が少なくありません。厚生労働省の統計でも、障害者雇用における離職率は一般雇用に比べて高い傾向が示されています。採用にかけた時間やコストが無駄になるだけでなく、社内の人間関係や業務の流れにも影響を与えるため、企業にとっては深刻な問題です。

その解決策のひとつが「ジョブコーチ(職場適応援助者)」の活用です。ジョブコーチは障害者本人だけでなく、企業側のサポートも担う存在であり、安定した雇用関係の構築に大きく貢献します。

本記事では、企業がジョブコーチをどのように活用すれば定着率を上げられるのかを詳しく解説します。これから障害者雇用を進めたい、または既に雇用しているが定着に課題を感じている企業担当者の方に役立つ内容です。


ジョブコーチとは?企業が知っておくべき基礎知識

ジョブコーチの役割

ジョブコーチとは、厚生労働省が定める「職場適応援助者」のことを指します。障害のある社員と企業の間に立ち、働きやすい環境づくりを支援する専門職です。

具体的には、以下のような役割を担います。

  • 障害のある社員が業務を覚えるための工夫やトレーニングを行う
  • 上司や同僚に対して障害特性を説明し、理解を促す
  • 定期的に職場を訪問し、不安や課題を早期に解消する
  • 企業に対して「働きやすさを高める仕組み」づくりを助言する

ジョブコーチは、単に「本人の支援者」というだけでなく、企業の人材定着戦略を支えるパートナーでもあるのです。

支援の対象

ジョブコーチの支援対象は幅広く、次のような障害に対応しています。

  • 精神障害(うつ病、統合失調症、不安障害など)
  • 発達障害(自閉スペクトラム症、ADHDなど)
  • 知的障害
  • 身体障害(肢体不自由、内部障害など)

障害の種類や特性に応じて、支援内容は柔軟に調整されます。たとえば発達障害のある社員には「手順書の導入」、精神障害のある社員には「勤務時間の柔軟な調整」など、個別の状況に応じたサポートが行われます。

企業にとってのメリット

ジョブコーチを活用することで、企業側には次のようなメリットがあります。

  • 定着率の向上:初期離職を防ぎ、長期雇用につなげられる
  • 職場の理解促進:上司や同僚が障害特性を理解することで、トラブルを未然に防ぐ
  • 採用コスト削減:離職による再採用の繰り返しを減らせる
  • 社内の働きやすさ改善:業務マニュアルの整備や環境改善が進み、健常者社員にとってもプラスになる

企業に求められるジョブコーチ活用の意義

採用後の「3か月以内の離職」を防ぐ

障害のある社員が就職後に直面しやすいのは、いわゆる「最初の3か月の壁」です。新しい職場環境に慣れ、業務を覚え、人間関係を築く──この短期間に大きなハードルが集中しています。特に障害の特性によっては、

  • 指示の理解に時間がかかる
  • 生活リズムの変化で体調が崩れやすい
  • 周囲とのコミュニケーションに不安を抱える

といった課題が顕在化しやすく、結果的に「せっかく採用したのにすぐ辞めてしまった」という状況が発生しやすいのです。

ジョブコーチはこの就労初期に重点的なフォローを行い、本人の不安を軽減しつつ、上司や同僚にも具体的な配慮方法を伝えます。こうして「定着の土台」を早期に築くことで、離職リスクを大幅に下げる役割を果たします。


職場環境の改善が、結果的に健常者社員にもプラスになる

ジョブコーチが企業に助言する取り組みは、障害者雇用にとどまらず職場全体に恩恵をもたらすのが特徴です。

たとえば、

  • 業務手順を「見える化」してマニュアルやチェックリストを整備する
  • 定期的な面談やフィードバックの仕組みを導入する
  • 上司・同僚の声掛けルールを明確にする

といった工夫は、障害のある社員にとって分かりやすく働きやすい環境をつくると同時に、健常者社員にとっても業務効率の改善やコミュニケーションの円滑化につながります。

実際、ジョブコーチの助言をきっかけに「新人教育の手順が整備された」「報告・連絡・相談がスムーズになった」といった副次的な効果を得る企業も少なくありません。結果的に、障害者雇用を進めることが職場全体の生産性向上や離職率低下につながるのです。


ジョブコーチは「外部の専門家」として客観的な視点をもたらす

ジョブコーチの大きな価値は、「外部の専門家」=第3の目として、客観的な視点を職場に持ち込める点にあります。

企業内部だけでは、どうしても「今までのやり方」にとらわれてしまい、課題を見過ごすこともあります。そこでジョブコーチが入ると、

  • 職場に潜む課題やリスクを早期に発見できる
  • 他社での成功事例を参考に改善策を提案してもらえる
  • 障害者本人だけでなく、企業にとっても「気づき」を得られる

といった効果が期待できます。

つまり、ジョブコーチは障害者雇用のための存在であると同時に、企業の成長を促す「変革のパートナー」でもあるのです。


ジョブコーチ活用でできる具体的な配慮

業務習得のサポート

  • 写真や図解を活用したマニュアル作成
  • チェックリストによる進捗確認やセルフチェック
    これにより業務習得がスムーズになり、教育担当者の負担も軽減できます。

コミュニケーション支援

  • 上司や同僚に障害特性を伝え、誤解や不安を解消
  • 本人には「困ったときの相談方法」や「伝え方の工夫」を一緒に考える
    これにより職場での人間関係トラブルを防ぎ、安心感を高めます。

勤務条件の調整

  • 時短勤務やフレックス勤務の提案
  • 在宅勤務を組み合わせた柔軟な働き方の導入
    障害の特性や体調に合わせた調整が可能になり、長期就労を後押しします。

企業側への助言

  • 配慮の仕組みづくり(声掛けルール、業務分担の工夫など)
  • 定期面談の体制構築
    ジョブコーチが伴走することで、企業が自走できる障害者雇用体制を築けます。

ジョブコーチを導入する流れと相談先

導入のステップ

ジョブコーチの導入は、次のような流れで進みます。

  1. 採用決定
    障害のある社員の採用が決まった段階で、職場定着に不安があれば早めに相談を検討します。
  2. 支援機関に相談
    ハローワークや地域障害者職業センターなどに相談し、ジョブコーチ支援の必要性を確認します。
  3. 支援計画作成
    本人・企業・支援機関の三者で面談を行い、業務習得や勤務条件の調整、コミュニケーション方法などを盛り込んだ計画を作成します。
  4. 支援開始
    就労後、ジョブコーチが定期的に職場を訪問し、フォローアップや改善提案を行います。

早めに動くことで、スムーズに支援を受けられ、定着率アップにつながります。

相談できる機関

ジョブコーチ支援は、以下の公的機関や事業所を通じて利用できます。

  • ハローワーク:採用相談からジョブコーチ制度の案内まで幅広く対応
  • 地域障害者職業センター:専門スタッフが職場適応をサポート
  • 就労支援事業所:企業と連携しながら、定着支援を実施

まずは最寄りの機関に相談することで、自社に合った支援方法を紹介してもらえます。

費用について

ジョブコーチの利用は原則無料です。費用は国や自治体が負担しているため、企業側に追加の経済的負担はありません。「予算がかかるのでは」と懸念する必要はなく、安心して導入できます。


ジョブコーチ活用の成功事例

精神障害のある社員が短時間勤務からフルタイムへ安定した例

ある企業では、うつ病のある社員がフルタイム勤務に不安を抱えていました。ジョブコーチが関わり、短時間勤務から段階的にシフトアップする形を提案。本人の体調に合わせて無理なく働ける仕組みを整えた結果、半年後には安定してフルタイム勤務を続けられるようになりました。

発達障害の社員が手順書導入で業務を習得できた例

ASD(自閉スペクトラム症)の社員は、口頭指示だと混乱しやすい課題を抱えていました。ジョブコーチが写真付きの手順書やチェックリストを導入し、業務内容を「見える化」。結果として、作業効率が大幅に向上し、本人も自信を持って業務をこなせるようになりました。

身体障害の社員がバリアフリー対応+テレワークで定着した例

車いす利用の社員が通勤や職場環境に不安を感じていました。ジョブコーチが企業と連携し、バリアフリー改修とテレワーク制度を導入。働きやすい環境が整ったことで、長期的な就労が可能になり、企業にとっても戦力となっています。


企業が活用する際の注意点

支援期間は3〜6か月程度と限定的

ジョブコーチの支援は、原則として3〜6か月程度に限られています。この間に環境を整えられなければ、支援が終了した後に元の課題が再び浮き彫りになる可能性もあります。
そのため企業は「ジョブコーチがいる間に仕組みを学び、自社に定着させる」姿勢を持つことが重要です。支援を一時的なものではなく“ノウハウの蓄積期間”として捉えることがポイントです。


ジョブコーチに丸投げせず、企業内の理解・配慮体制を整える必要がある

ジョブコーチはあくまで「伴走者」であり、すべてを任せきりにできる存在ではありません。

  • 上司や同僚が障害特性を理解する
  • 社内で「相談できる雰囲気」を意識的に育てる
  • 配慮の仕組みを仕組み化して継続する

こうした取り組みは、ジョブコーチが離れた後も企業が主体的に進めなければ意味がありません。企業が学んだ配慮を「次の採用」にも活かしていくことで、障害者雇用のノウハウが社内に蓄積し、組織として強くなるのです。


本人の自立支援をゴールとする視点を忘れない

ジョブコーチの役割は「永続的に支援すること」ではなく、本人が自分の力で働き続けられる状態をつくることです。
そのため企業も「依存させる」のではなく「自立を促す」視点を持つことが大切です。例えば、

  • 困った時にどう相談すればよいか、本人と一緒に考える
  • 自己管理できるように段階的に業務を任せていく
  • 定期的に面談を設け、課題が大きくなる前に共有できる関係を築く

こうしたプロセスを意識することで、社員が自信を持って長期的に働けるようになります。


企業に求められる姿勢

ジョブコーチの活用は単なる「一人の雇用」だけにとどまりません。

  • 支援を通じて学んだことを社内の仕組み化につなげる
  • それを基盤に次の採用にも活かす
  • 障害者雇用の取り組みを会社全体の成長戦略と結びつける

この姿勢を持つことで、結果的に職場環境は改善され、社員全体の働きやすさが増し、企業の売上や成果にもつながっていきます

さらに、ジョブコーチが関わる期間だけでなく、日常的に「困ったことがあれば相談できる」関係性を築いておくことも欠かせません。これは障害のある社員だけでなく、すべての社員にとって働きやすい環境づくりにつながります。


まとめ|ジョブコーチを企業の戦力定着に活かそう

ジョブコーチは、障害者雇用における「採用から定着までを支える伴走者」です。業務習得、人間関係、勤務条件、環境改善といった幅広い課題を支援することで、離職リスクを下げ、安定した就労を実現します。

しかし重要なのは、「ジョブコーチをどう使うかは企業次第」という点です。

  • 気軽に相談すること
  • 困ったときや不安があるときに迷わず頼ること
  • 必要な場面で積極的に支援を取り入れること

これらを意識するだけでも、企業の障害者雇用はぐっと進めやすくなります。

さらに、導入して終わりではなく、「使った結果を検証する姿勢」も大切です。

  • 定着率が上がったのは、どの工夫が効いたのか?
  • 社内の雰囲気が変わったのは、どの取り組みが要因だったのか?

こうした振り返りを行うことで、得られたノウハウを次の採用や組織改善に活かすことができます。

ジョブコーチは「義務的に利用する制度」ではなく、企業の成長を加速させる資源です。
採用だけでなく定着を見据え、気軽に相談し、活用し、成果を検証して次につなげていく──その積み重ねこそが、障害者も健常者も働きやすい職場をつくり、ひいては企業全体の力を強くしていくのです。


👉 最後に企業担当者へのメッセージ
「不安があったり、配慮の仕方を学びたいと思ったときこそ、ジョブコーチを使うチャンスです。気軽に相談し、得られた成果を社内の成長につなげていきましょう。」

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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