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障害者雇用の退職理由に多い「パワハラ」|当事者の本音と企業が改善できること
はじめに
近年、障害者雇用の枠は拡大し、多様な人材が企業で働くようになっています。しかし、その一方で「長く働き続けられない」という課題も浮き彫りになっています。特に、障害者雇用における退職理由として多いのが 「人間関係・パワハラ」 です。
「仕事ができないから辞める」のではなく、実際には 働きにくい職場環境や人間関係の摩擦 が原因となるケースが目立ちます。
本記事では、障害当事者の声や退職理由の背景を整理するとともに、企業がどのように職場環境を改善できるのかを考えていきます。障害者雇用を単なる「法定雇用率の達成」に留めず、安心して働き続けられる環境づくり の参考にしてください。
障害者雇用でよくある退職理由とは

障害者が職場を辞める理由はさまざまですが、大きく分けると以下の3つに整理できます。
体調や障害特性によるもの
障害や持病に伴う体調不良は、どうしても避けられない退職理由のひとつです。
たとえば、通勤による疲労、季節や天候による体調変動、精神的ストレスによる症状悪化などが挙げられます。企業側に柔軟な勤務制度や理解がなければ、無理をして働き続けることが難しくなります。
仕事内容やスキルのミスマッチ
採用時の説明と実際の業務内容が異なっていたり、本人のスキルや特性と仕事が合わなかったりするケースもあります。
「事務補助と聞いていたのに実際は高度なExcel作業が必要だった」「黙々と作業すると思っていたが接客を求められた」など、想定とのギャップが退職に直結します。採用段階での仕事内容の明確化が欠かせません。
人間関係・パワハラ(最も深刻な理由)
もっとも深刻なのが 人間関係の悪化やパワハラ です。
「障害があるのに同じ仕事量を押しつけられる」「配慮を求めたら甘えと捉えられた」「上司から高圧的な態度を取られた」などの体験談は少なくありません。こうした状況は精神的なダメージを与え、最終的に退職に追い込まれる大きな要因になります。
パワハラが起きやすい背景

では、なぜ障害者雇用の現場でパワハラが起きやすいのでしょうか。背景にはいくつかの要因があります。
上司・同僚が障害特性を理解していない
障害の特性や必要な配慮について、職場全体に十分な理解が浸透していないケースが多く見られます。そのため、無意識の言動がハラスメントになってしまうこともあります。知識不足による誤解や偏見が、摩擦を生む原因となります。
「即戦力」を求められ、プレッシャーになる
人手不足の企業では、障害者雇用でも即戦力を期待されることがあります。しかし、慣れるまでに時間が必要な人も多く、その期待とのギャップが過度なプレッシャーにつながり、結果的にハラスメント的な対応を招いてしまいます。
指示の伝え方や評価基準が不明確
「なぜ叱られているのか分からない」「どこまでできれば合格なのかが不明確」という声はよく聞かれます。曖昧な指示や基準は、障害の有無にかかわらずストレスになりますが、特性を持つ人にとっては特に大きな負担となり、誤解やトラブルの火種になります。
障害を開示していても配慮が形骸化している
面接時や入社時には「配慮します」と言われても、実際には制度だけが存在していて現場で機能していないことがあります。たとえば「短時間勤務の制度はあるが実際には使いづらい雰囲気」「上司が変わった途端に配慮がなくなった」など、形骸化したサポートは不満や不信感を生みます。
当事者の本音(ケース・事例)
ここでは、実際に退職や転職を経験した障害当事者の声を、匿名・仮想事例として紹介します。具体的な体験談を知ることで、問題のリアルな一面が見えてきます。
指示をきつく言われ続けてストレスで退職
ある発達障害のある方は、上司から常に強い口調で指示を受けていました。ミスを減らすために注意されているつもりでも、繰り返される厳しい言葉に精神的な負担が積み重なり、結果的に体調を崩して退職せざるを得ませんでした。
→ 「指示の仕方」ひとつで働きやすさは大きく変わる ことが分かります。
休職や通院に理解がなく「やる気がない」と誤解された
慢性的な疾患を抱えている方は、定期的な通院や急な体調不良による休職が必要でした。しかし上司からは「やる気がないのでは」と誤解され、周囲からも冷たい視線を浴びるようになりました。サポートよりも疑いの目を向けられる環境では、長く働き続けることは困難です。
「特別扱いだ」と陰口を言われ孤立
配慮として時短勤務を利用していた方は、同僚から「特別扱いされている」と陰口を言われました。その結果、職場で孤立感が強まり、自信を失って退職につながりました。制度が整っていても、周囲の理解不足が配慮を逆効果にしてしまう 典型例です。
企業が改善できること
企業ができる改善策は、一部の善意や努力に任せるのではなく、制度や仕組みとして整備すること が重要です。属人的な対応に頼らず「組織としての対応力」を高めることで、誰が上司になっても働きやすい職場環境を維持できます。
定期面談でのフォローアップ
定期的な1on1面談を実施することで、日々の業務での困りごとや負担を早期にキャッチできます。
「最近どう?」という雑談レベルの対話でも、表情や言葉の端々から不安や疲労のサインを拾うことができます。
また、キャリアの希望や配慮の必要性を継続的に確認できる場 を設けることは、本人にとっても「相談していいのだ」と安心できるメッセージになります。
ジョブコーチ・外部支援機関の活用
企業内だけで対応しきれない課題は、ハローワークや地域障害者職業センターのジョブコーチを活用しましょう。
ジョブコーチは、本人の特性を踏まえた働き方の工夫や、企業側への具体的なアドバイスを提供してくれます。外部支援者が介在することで、「本人 vs 上司」という対立構造を防ぎ、中立的な視点で解決策を模索できる のが大きな利点です。
上司・同僚への「障害理解研修」
配慮の制度を整えるだけでは十分ではありません。現場で接する上司や同僚が、障害特性を正しく理解しなければ、誤解や偏見からパワハラ的な言動が生じやすくなります。
研修内容としては、
- 障害の種類ごとの特徴
- 困りごとを軽減する具体的な配慮方法
- 「やさしさ」ではなく「職場の合理的配慮」として取り組む姿勢
が重要です。知識を共有することで、職場全体に「支え合う文化」を浸透させることができます。
相談窓口・ハラスメント防止体制の強化
「誰に相談すればいいか分からない」状況は、問題を深刻化させます。
そのため、社内外に相談窓口を設け、匿名相談も可能にする仕組み が不可欠です。
例えば、外部の専門相談機関と契約し、社員が安心して連絡できるホットラインを整備するのも有効です。相談体制を明示するだけでも「会社はきちんと対応してくれる」という信頼感が生まれ、未然に退職を防ぐ効果があります。
当事者ができる工夫

企業の取り組みと並行して、当事者自身もできる工夫があります。小さな準備や行動が、トラブルから自分を守り、働きやすさを高める助けとなります。
配慮が必要な点を具体的に伝える
「疲れやすいので午後は業務量を軽くしてほしい」「月1回は通院で休みが必要」など、曖昧ではなく具体的に伝えること が大切です。
伝える際には「できること」と「難しいこと」をセットで説明すると、上司も判断しやすくなります。
→ 例:「入力作業は問題なくできるが、電話対応は苦手なので控えたい」
相談できる第三者を確保
社内の人事担当者や信頼できる上司だけでなく、ジョブコーチや支援機関の職員など、社外にも相談できる相手を持っておくこと が安心につながります。困ったときに複数の相談ルートを確保しておくことで、「一人で抱え込まない」仕組みができます。
記録を残しておく
日々の指示内容やトラブルの出来事をメモや日報に残しておくことは、自分を守る大きな武器になります。
後から「言った・言わない」で揉めることを防ぎ、必要に応じて相談機関や上司に客観的に説明する材料となります。
特に精神的なストレスやハラスメントの事例は、記録があるかどうかで対応のスピードと信頼性が大きく変わる ため、日常的に習慣化することをおすすめします。
就職・転職活動で気をつけたいこと
職場を選ぶ段階で、できるだけトラブルを回避する工夫も大切です。
求人票だけでなく「企業文化」を見る
求人票に書かれた条件だけで判断せず、実際の企業文化や社員の声に注目しましょう。口コミサイトや支援機関を通じて情報を得ることも有効です。
面接での確認ポイント
面接時には「配慮制度があるか」「相談窓口は機能しているか」などを具体的に確認することをおすすめします。形だけでなく、実際に使いやすいかを見極めることが大切です。
転職エージェントや支援機関を通じて企業の内情を知る
転職エージェントや就労支援機関は、企業の内部事情に詳しいケースが多くあります。直接は聞きにくい情報も得られるため、入社後のミスマッチを防ぐ手段になります。
まとめ
障害者雇用における退職理由の多くは、決して「本人の能力不足」や「努力不足」だけではありません。むしろ、職場環境や人間関係の課題、パワハラなどの外的要因 が大きな割合を占めています。
企業にとっても、パワハラ防止や職場改善は単なるコンプライアンス対応にとどまりません。
それは、離職防止=人材の定着=戦力確保 につながる経営上の大きなテーマです。働きやすい環境を整えることは、障害のある社員だけでなく、全社員にとってメリットがあります。結果的に組織全体の生産性向上や企業価値の向上にも直結します。
一方、当事者側も「自分を守る工夫」を意識することが重要です。具体的な配慮の伝え方、相談先の確保、記録の習慣など、小さな行動が自分を守る大きな力となります。「我慢すること」ではなく「適切に伝えて工夫すること」が、長く働き続けるためのポイントです。
つまり、障害者雇用を成功させるカギは、企業と当事者の双方が歩み寄り、お互いにできる工夫を積み重ねること にあります。
- 企業は「理解と配慮を仕組み化」すること
- 当事者は「自分を守る工夫」を実践すること
この両輪がそろうことで、障害者雇用は「雇う・雇われる」という関係を超えて、“共に働き、成長する”パートナーシップ に変わっていきます。
障害者雇用は「辞めさせない工夫」から始まります。小さな改善や対話の積み重ねが、定着率を高め、誰もが安心して働ける社会をつくる第一歩となるのです。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







