2025/09/08
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バリアフリーは本当に足りている?車椅子ユーザーのリアルなあるある体験

はじめに

「バリアフリー対応」と聞くと、多くの人は「安心して利用できる環境が整っている」と考えがちです。ところが、実際に車椅子ユーザーの立場から見てみると、その“バリアフリー”は形式的な整備にとどまり、実用性に欠ける場面が少なくありません。

例えば、スロープがあっても角度が急で使えなかったり、「バリアフリー対応」と表記されていても実際には通路が狭くて入れなかったりします。こうした現実とのギャップは、利用者にとって大きな負担や失望につながっています。

本記事では、車椅子ユーザーが日常で直面しているリアルな「あるある体験」を紹介します。単なる不便さではなく、社会や職場環境の改善につながる課題として捉え、企業や自治体が「当事者目線」で考えるきっかけになることを目的としています。


車椅子ユーザーが直面する日常のバリア(あるある体験)

移動に関する課題

小さな段差が大きな壁になる

数センチの段差でも車椅子では通行が困難になります。スロープが設置されていても角度が急すぎると、むしろ危険を伴います。

バリアフリー表記でも実際には入れない店舗

「バリアフリー対応」と表記されていても、実際には入口に段差があったり、通路が狭すぎて入れないことがあります。看板の言葉と現実のギャップは利用者を大きく落胆させます。

公共交通機関の利用ハードル

駅のエレベーターが遠く離れている、点検中で使用できない、バスのスロープが正常に使えない──こうした事例は少なくありません。通勤や通学といった日常移動に大きなストレスを与えています。

重たい扉や引き戸の負担

バリアフリー仕様の建物であっても、入口の扉が重かったり、自動ドアではなく手動の引き戸だったりすると、開け閉めが大きな負担になります。わずかな工夫や自動ドア化で改善できる部分でありながら、意外と見落とされやすい課題のひとつです。

生活上の不便

トイレのバリアフリーが不十分

多目的トイレが狭すぎたり、清掃道具や備品が置かれていて十分に使えないケースがあります。また、設置数が少なく場所も限られているため、見つけにくいという課題もあります。せっかく外出しても「使えるトイレがない」となると、不安や行動制限につながり、安心して社会参加することが難しくなってしまいます。

自動ドアや押しボタンに手が届かない

エレベーターのボタン位置が高すぎる、自動ドアのセンサーが反応しない──「あるのに使えない」設備は、かえって障害になります。

人との関わりにおける課題

話しかける位置・目線の違い

常に見下ろされる位置関係や、死角から突然声をかけられることは心理的なストレスになります。

配慮のつもりが逆効果になることも

「頑張ってて感動した」といった言葉は、好意であっても“特別視されている”と感じる人も多いのです。


企業や自治体が見落としがちなポイント

形式的な整備と実用性のギャップ

法律や基準をクリアしていても、実際にユーザーが快適に利用できるとは限りません。机上の整備と現場の使いやすさの間にはしばしば大きな溝があります。

その理由の一つは、設計段階に当事者の意見が十分に取り入れられていないことです。図面上では「基準を満たしている」ように見えても、実際に車椅子で利用すると狭すぎたり、動線が複雑で不便だったりします。

もう一つは、管理や運用面での想定不足です。たとえばエレベーターが設置されていても点検中は代替手段がない、トイレがあっても利用可能時間が制限されているなど、現場の利用者ニーズと乖離してしまうのです。

利用者目線の欠如

設計段階に当事者が関わっていないケースは非常に多く、その結果「あるけど使えない」設備が生まれています。形式的な整備ではなく、実際に利用する人の声を反映させることが必要です。

近年では、自治体や企業の一部でユニバーサルデザインの考え方を取り入れる動きが広がりつつあります。設計段階から車椅子ユーザーや高齢者、ベビーカー利用者など多様な人を参加させる「ワークショップ型の設計」や、完成前に当事者が実際に試す「ユーザーテスト」を導入する事例も出てきています。

まだ一部にとどまりますが、こうした取り組みが広がれば、形式的な整備ではなく、誰もが本当に使える環境づくりに近づいていくでしょう。


人事担当者・企業にできること

職場環境での配慮

通路幅の確保や段差解消、多目的トイレの設置は基本です。ただし、多目的トイレについては新築や大規模改修なら導入できますが、既存のオフィスビルや社屋では後からの設置が難しい場合も少なくありません。

そのようなとき、既存の建物で大掛かりな改修が難しい場合には、トイレ内のスペースを広げる小規模な改装や、手すりや姿勢保持のための補助器具の設置といった部分的な改善から取り組むことが現実的です。

すぐに理想の環境を整えるのは難しくても、「今ある環境を少しでも改善しよう」という姿勢が、車椅子ユーザーにとって安心感につながります。

採用・就労時の対応

面接前に職場環境のバリアフリー状況を開示する、配慮事項を本人と丁寧にすり合わせることで、双方にとって安心できる採用プロセスが実現します。

従業員全体への啓発

「どう接してよいかわからない」という社員の不安は、研修や当事者の声の共有で解消できます。自然なサポートが職場に根付くことが理想です。


共感を呼ぶリアルな声(事例紹介)

  • 「バリアフリーと書いてあったのに、段差で入れずに帰るしかなかった」
     → 飲食店や公共施設でよくあるケースです。ホームページや入口に「バリアフリー対応」と掲示されていても、実際には入口に数段の階段があり、スロープがなかったために利用できなかった、という体験です。期待して行った分、落胆が大きくなります。
  • 「トイレが遠くて、休憩時間内に戻れなかった」
     → 車椅子ユーザーは移動に時間がかかるうえ、多目的トイレの設置場所が限られています。そのため、健常者なら5分で済む移動が、10分以上かかることもあります。決して「配慮を超えた要求」ではなく、職場の休憩時間や動線設計が想定していないだけの問題です。勤務制度やスケジュールに少し工夫を加えるだけで解決できることもあります。
  • 「配慮された設備があったものの、傾斜が急すぎたり、手すりの位置が合わなかったりして、結局使えず困った」

→ 「あるのに使えない」という状況は、期待した分ショックが大きく、改善の余地を強く感じさせます。

こうした声は特別なものではなく、日常的に起きているリアルな体験です。企業や自治体が「自分たちの環境でも同じことが起きていないか」と振り返るきっかけになります。


まとめ

バリアフリーは「あるかどうか」ではなく、利用者が本当に使えるかどうかが重要です。
段差や重たい扉、遠すぎるトイレなど──表面的には整備されていても、実際の利用者にとっては依然として高いハードルが残っています。

こうした「あるけど使えない」現状は、決して車椅子ユーザーだけの問題ではありません。高齢者、妊婦、ベビーカーを押す親、けがをした人など、誰にとっても起こりうる課題です。

企業や自治体にとって大切なのは、当事者目線を取り入れることです。設計段階から声を反映させる、運用や制度に柔軟性を持たせる、といった小さな積み重ねが「安心して働ける」「安心して利用できる」環境をつくります。

そして人事担当者にとっては、これらの視点が採用や職場づくりに直結します。バリアフリーを「義務的な整備」から「働きやすさ・定着率を高める投資」へと捉え直すことが、企業の持続的な成長につながるはずです。本当の意味での共生社会は、法律や基準を満たすだけでは実現できません。
「できる限り現場の声に寄り添い、今ある環境で最善の工夫をする」──その姿勢こそが、社会全体をより豊かにしていく第一歩なのです。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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