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障害を持つ社員の育児・介護両立支援:長期定着のための合理的配慮と戦略

この記事の内容
はじめに:「育児・介護」と「障害」が重なる複合的な壁

近年、企業には育児・介護休業法をはじめとする法定制度の遵守に加え、社員一人ひとりの多様な事情に応じた柔軟な対応が求められています。その中でも、障害を持つ社員が育児や家族の介護を担う場合は、健常者が直面する課題に加え、「障害特性」に起因する複合的かつ深刻な困難が立ちはだかります。
人事・上司の皆様は、この「複合的な壁」を理解し、適切な戦略をもって長期定着を支援する必要があります。
障害を持つ社員が育児や介護で直面する身体的・精神的負担
障害を持つ社員にとって、育児や介護は、健常者のそれよりも遥かに大きな身体的・精神的負担を伴います。
- 身体的負担の増幅: 身体障害を持つ社員が要介護者を抱きかかえる、あるいは重い介護用品を運ぶ際、健常者以上の疲労や、自身の症状悪化のリスクに直面します。
- 情報保障の欠如と不安: 聴覚障害を持つ社員が子どもの体調不良に関する保育園からの電話連絡に対応できない、あるいは介護の専門家との複雑な会話についていけないなど、情報保障の不足が、生命や安全に関わる不安を増幅させます。
- 「二重の責任」による疲弊: 「障害者として働くことの負荷」に加え、「家族の世話をする責任」が重なることで、精神的な疲弊が極度に高まり、燃え尽き症候群や休職リスクへと直結します。
この負荷を軽減し、社員が安心して業務を継続できる環境を提供することが、企業の持続的な成長に不可欠です。
記事の結論:法的な遵守と個別の合理的配慮の組み合わせが長期定着を保証する
本記事の結論は、障害を持つ社員の育児・介護両立支援において、企業は法定制度の遵守(育児・介護休業法など)と、障害特性に基づいた個別の合理的配慮を組み合わせて提供することが、社員の長期定着を保証する唯一の戦略であるということです。
法定制度は「最低限の土台」であり、それに加えて、社員の障害特性(例:聴覚障害ゆえの情報保障の必要性、身体障害ゆえの身体的負担)に応じた柔軟な制度運用や環境調整を行うことが、真のサポートとなります。この柔軟な対応こそが、社員の企業へのロイヤリティ(忠誠心)を高め、離職を防ぐ鍵となります。
本記事の構成とインタビュー対象者(Cさん:聴覚障害、育児・介護の両立)
本稿では、聴覚障害を持ちながら、育児と親の介護を両立しているCさんの体験談を交えながら、企業が直面する課題への具体的な解決策と、長期定着のための戦略を解説します。
【インタビュー対象者】
- Cさん(聴覚障害): 事務職。育児中の子どもの緊急時の連絡や、介護施設との連絡において聴覚障害特有の課題に直面し、企業側との対話により、情報保障の配慮を得て両立を実現。
以下のステップを通じて、複合的な壁を乗り越えるための具体的な戦略を提示します。
- 当事者の課題: 障害特性が育児・介護にもたらす具体的な困難。
- 柔軟な合理的配慮: 制度と情報保障の工夫による具体的な支援事例。
- 長期定着戦略: 企業文化と制度整備による心理的安全性の構築。
1.当事者の課題:育児・介護で直面した「見えない困難」のリアル
障害を持つ社員が育児や介護に直面する際、その困難は表面化しにくく、「見えない困難」として当事者に深刻な疲弊をもたらします。企業が適切な合理的配慮を行うためには、まずこの障害特性と家族ケアの課題が複合するリアルを深く理解する必要があります。
障害特性が育児・介護にもたらす具体的な課題とリスク
育児や介護の場面では、突発的な事態への対応や、身体的なサポートが日常的に発生します。ここで障害特性が関わると、リスクは一気に高まります。
聴覚障害者が子どもの体調不良や緊急連絡に対応する際の課題(情報保障の欠如)
聴覚障害を持つ親にとって、子どもの体調不良や保育園・学校からの緊急連絡は、健常者の親とは比較にならないほどの高いハードルとなります。
- 体調急変への気づき: 夜間の子どもの急な発熱や夜泣き、呼吸音の異変などに、聴覚を通じて気づきにくいという課題があります。
- 電話連絡の対応不能: 保育園や病院からの急な電話連絡(インフルエンザ流行、発熱による迎え要請など)に、即座に対応できないことが、最も大きな不安要因となります。これは、情報保障が確保されていない環境下では、業務遂行だけでなく、子どもの安全にも関わる深刻なリスクとなります。
Cさんの声: 「保育園から電話が来ても取れない、取れても内容が理解できないということが続き、常にスマホのメールやチャット通知を気にしながら仕事をしていました。子どもの命に関わるかもしれないという不安が、仕事中も頭から離れず、集中力が大幅に落ちていました。」
身体障害者が要介護者の移動・入浴補助などで感じる過度な身体的負担
身体障害を持つ社員が、高齢の親などの要介護者の介護を担う場合、その身体的な負担は健常者以上に過酷なものとなります。
- 移動・移乗の困難: 要介護者を車椅子に乗せる、ベッドから起こすといった「移乗」の際、社員自身の身体的な制約(肢体不自由など)により、転倒リスクや自身の障害の悪化を招く可能性があります。
- 疲労の蓄積: 介護による日常的な疲労が、自身の障害特性による疲労と相まって過度に蓄積し、結果的に業務時間中のパフォーマンス低下や欠勤に繋がります。
企業は、このような「二重の負荷」があることを理解し、業務負荷の調整や福祉サービスの併用を促す支援が必要です。
育児・介護制度の利用に対する心理的ハードル
法定の育児・介護制度が整備されていても、障害を持つ社員が制度の利用に踏み切れないケースが多く見られます。これは、「配慮を求めること」が自身の評価に直結するという、強い心理的ハードルがあるためです。
「配慮を求めすぎると評価に響くのでは?」という評価への懸念
障害者雇用で働く社員は、「自分は合理的配慮を受けている」という認識から、さらに育児・介護の配慮を求めることに強い抵抗を感じます。
- キャリアへの影響: 「これ以上配慮を求めると、昇進・昇給の機会を失うのではないか」「『配慮ばかり求める社員』というレッテルを貼られ、キャリアが閉ざされるのではないか」といった評価への懸念から、無理をして制度利用を避けてしまいがちです。
- 努力の否定: 障害特性に合わせて仕事の進め方を工夫している当事者にとって、育児・介護の配慮を求めることは、「自分の努力や工夫が足りていない」と自己否定に繋がる場合もあります。
制度利用がチームに迷惑をかけるという「罪悪感」と自己抑制
育児・介護制度を利用すること、特に突発的な休暇や短時間勤務を申請することが、チームや同僚に迷惑をかけるという罪悪感も、大きな心理的ハードルとなります。
- Cさんの声: 「子の看護休暇を取る際、『ただでさえ情報保障で手間をかけているのに、これ以上休んだらチームの仕事が回らなくなる』と常に考えてしまい、極力、体調不良の子を連れて出勤しようとしていました。その結果、自分自身が体調を崩してしまいました。」
企業は、育児や介護に関する制度利用は、個人の権利であり、チーム全員でカバーし合うべき「相互扶助」であることを明確に示し、この罪悪感を取り除く必要があります。制度が形骸化しないよう、上司が積極的に利用を推奨する文化の醸成が求められます。
2.企業が実践すべき「柔軟な合理的配慮」の具体的事例

障害を持つ社員の育児・介護両立支援は、単に法律で定められた制度を「用意する」だけでなく、「障害特性に合わせて柔軟に運用する」ことに真価があります。ここでは、長期定着を支援するために企業が実践すべき、具体的な合理的配慮の事例を紹介します。
既存制度の「柔軟な適用」と「情報保障」の工夫
法定の育児・介護関連制度を、障害を持つ社員が不安なく利用できるように、運用方法やコミュニケーション手段に工夫を加えることが重要です。
聴覚障害と子の看護休暇:電話連絡をチャットやメールに統一した配慮事例
聴覚障害を持つ社員にとって、子どもの体調不良時の情報伝達は最大の課題です。ここで企業側が情報保障の工夫をすることで、安心して子の看護休暇を利用できるようになります。
- コミュニケーション手段の統一: 子の看護休暇を取得・利用する際、保育園や病院との連絡、および上司への報告など、全ての緊急連絡手段を、電話ではなくチャット(ビジネスチャットツール)やメール、SMSに統一します。
- 上司の役割: 連絡が必要な際に、聴覚障害を持つ社員の代わりに上司が電話を受けるのではなく、「文字情報でのやり取り」を基本とするよう、社内・社外の関係者に周知徹底します。
- Cさんの事例: Cさんの企業では、保育園の緊急連絡先リストに、担当上司のメールアドレスを併記し、電話連絡が困難な場合は「必ず文字情報で連絡する」よう、事前承諾を得ました。これにより、Cさんは安心して育児と仕事に向き合えるようになりました。
身体障害と短時間勤務:介護による疲労軽減のため短時間勤務を柔軟に認めた事例
介護は身体的疲労が蓄積しやすく、身体障害を持つ社員にとっては、その疲労が自身の症状を悪化させるリスクがあります。
- 短時間勤務の柔軟な適用: 法定では育児や介護のための短時間勤務制度が定められていますが、これを「障害特性による疲労軽減」という観点から柔軟に適用します。例えば、介護者の移動補助など、身体的負荷が高い作業を行った翌日は、短時間勤務を利用しやすい環境を整えます。
- 時間帯の調整: 介護のために通院が必要な時間帯だけでなく、「介護後の休息*を目的とした午後半休や、始業・終業時間の調整を認めることで、社員の健康状態の維持を優先します。
福祉サービスとの「併用」を促す積極的な支援
育児や介護の負担は、企業側の配慮だけで全てを解決できるものではありません。行政や地域の福祉サービスとの併用を促すことが、両立の鍵となります。
育児・介護休業制度だけでなく、行政の居宅介護サービスやファミリーサポートの活用情報提供
企業は、社員が利用できる外部サービスについて、積極的な情報提供を行うべきです。
- 情報提供の義務: 育児・介護休業法だけでなく、市区町村が提供する居宅介護サービス、訪問看護、ファミリーサポート、ショートステイなど、福祉サービスの情報を提供します。
- 介護保険制度の解説: 介護保険制度の利用手順や、要介護認定の申請方法など、複雑な行政手続きに関する情報提供や相談窓口を設けます。これらのサービスの活用は、社員の物理的な負担を大幅に軽減し、離職を防ぐセーフティネットとなります。
企業が行政サービスや地域の支援情報を収集し、社員に提供する窓口の設置
社員自身が多忙な業務や介護の合間に、複雑な福祉サービス情報を収集するのは大きな負担です。企業が代わりに情報を収集し、ワンストップの窓口を設けることで、社員の負担を軽減します。
- 専門家の活用: 産業医や、社会保険労務士、または外部の専門家(ケアマネジャーなど)と連携し、社員の状況に応じた福祉サービスを提案できる体制を整えます。
- インフォーマルな情報の共有: 地域の保育園の状況や、利用しやすい病児保育の情報など、インフォーマルな情報についても、社員が気軽に聞ける窓口や社内コミュニティを設置することで、育児・介護の不安解消をサポートします。
3.長期定着を支える「企業文化」と「制度」の整備戦略
障害を持つ社員が育児や介護と仕事を両立し、長期にわたって貢献するためには、個別の合理的配慮だけでなく、企業全体の制度理解と文化的な土壌を整備することが不可欠です。制度の利用をためらわせない「心理的安全性」こそが、最終的に社員の定着率を大きく左右します。
法的義務の再確認と柔軟な対応が企業にもたらすメリット
育児・介護休業に関する法的な義務を再確認し、それを上回る柔軟な対応を取ることは、コンプライアンスの遵守を超えて、企業に明確なビジネスメリットをもたらします。
育児・介護休業法は全ての社員に適用されることの周知徹底
まず、育児・介護休業法や子の看護休暇、介護休暇といった法定制度は、障害者雇用枠の社員を含む、全ての社員に適用されることを、社内全体に周知徹底する必要があります。
- 誤解の払拭: 「障害者雇用だから、これ以上の配慮は難しい」という誤った認識を管理職や人事から排除することが重要です。法定制度の利用は、障害の有無にかかわらず社員の当然の権利です。
- 情報提供: 法定制度の概要や、企業独自の制度利用ルールについて、分かりやすいマニュアルやイントラネットを通じて情報提供を行い、社員が安心して権利を行使できる環境を整えます。
柔軟な配慮が社員のロイヤリティを高め、離職率低下につながるビジネスメリット
企業が障害特性に合わせた柔軟な配慮を提供することは、短期的なコストではなく、長期的な人材戦略として機能します。
- ロイヤリティ(忠誠心)の向上: 複合的な困難に直面した社員に対し、企業が真摯に個別配慮を行う姿勢は、「自分は企業に大切にされている」という強い実感を生み出します。この高いロイヤリティは、多少の困難があっても離職せず、企業に貢献し続けたいという意欲に繋がります。
- 採用コストの削減: 障害を持つ社員が育児や介護を理由に離職することは、その社員が持つ専門性や経験を失うことになり、新たな採用や育成に大きなコストが発生します。柔軟な配慮による離職率の低下は、結果として最も費用対効果の高い人材投資となります。
制度の利用をためらわせない「心理的安全性」の構築
制度の利用をためらわせる最大の原因である「罪悪感」や「評価への懸念」を取り除くには、心理的安全性の高い職場文化を構築する必要があります。
管理職向けの研修で「育児・介護は当然の権利」という意識を浸透させる重要性
社員の制度利用に対する最終的な承認や、チーム内での業務調整を行う管理職の意識改革が不可欠です。
- 意識の統一: 管理職研修において、「育児・介護休業や休暇の利用は、制度上の当然の権利であり、評価に影響を及ぼさない」というメッセージをトップダウンで浸透させます。
- アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の是正: 管理職が抱きがちな「両立は甘えだ」「自己管理ができていない」といった無意識の偏見を認識させ、柔軟な対応がチーム全体の生産性を守るという視点を持たせます。
制度利用の相談窓口を人事や産業医に限定し、プライバシーを守る仕組み
デリケートな育児・介護の状況や、それが障害特性と結びついた情報を開示する際、社員のプライバシーを保護し、安心して相談できる環境が必要です。
- 窓口の一元化: 制度の利用に関する相談窓口を、守秘義務が徹底されている人事部門や産業医に限定します。直属の上司に相談しにくい社員でも、専門的なサポートを受けられるようにします。
- 情報開示の制御: 相談窓口で得た情報(病名や介護の詳細)は、本人の同意なく他の社員やチームメンバーに開示されないルールを明確化します。チームメンバーに共有するのは、「〇〇さんは育児/介護のための配慮を必要としています」という事実と、「業務上の調整事項」のみに限定します。この仕組みが、社員の安心感を生み出します。
4.成功事例の深掘り:聴覚障害を持つCさんの育児・介護両立ノウハウ

「聴覚障害を持つCさん(育児・介護の両立)」のケースは、障害特性による困難に対し、ITデバイスの活用と職場との戦略的な連携によって、いかに不安を解消し、長期定着を実現できるかを示す成功事例です。このノウハウは、他の障害を持つ社員の支援にも応用が可能です。
Cさんが実践した「家庭内での情報保障」と職場の連携
聴覚障害を持つCさんが育児において最も不安だった「緊急時の連絡」と「子どもの異変の察知」について、具体的なテクノロジーとルールの工夫で解決しました。
聴覚障害を持つ親が子どもの体調を把握するためのデバイス活用と家庭内の工夫
子どもの体調管理において、聴覚に頼れない部分を、視覚や触覚に訴えるデバイスでカバーしました。
- 体調急変への対応: Cさんは、子どもの夜泣きや急な咳、呼吸音の変化などを察知するため、振動や光で知らせる特殊なベビーモニターや、子どもの体温を継続的に測定し、異常な高熱をスマートフォンに通知するスマート体温計を活用しました。これにより、深夜の予期せぬ事態にも迅速に対応できる安心感が得られました。
- 家庭内の情報保障: 育児・介護における重要な会話(配偶者やヘルパーとの情報共有)は、音声認識アプリを用いてリアルタイムで文字化する習慣をつけ、情報の聞き逃しや誤解を防ぐように努めました。
緊急連絡手段を文字情報に統一することで、職場との連携を実現した具体的手順
職場との連携において、Cさんは配慮を求めるだけでなく、企業が対応しやすい具体的な手順を提示しました。
- 連絡手段の特定と合意: 会社(上司、人事)とCさんの間で、子の看護休暇や介護休暇中の緊急連絡は、電話不可とし、ビジネスチャット(Slack, Teamsなど)またはメールに限定することを合意しました。
- 外部関係者への働きかけ: Cさんは、保育園や介護施設に対し、「緊急連絡は必ずCさんの配偶者へ連絡するか、文字情報(メール)でCCにCさんと上司の連絡先を入れて送信すること」を依頼しました。
- 上司の役割明確化: Cさんの上司は、外部からの文字連絡がCさんに届いた際、Cさんの確認が遅れていないかをチャットでフォローする役割を担いました。これにより、Cさんは「連絡を見落としていないか」という不安から解放され、業務に集中できるようになりました。
身体的な負担を軽減するための介護リソースの活用術
身体障害を持つ社員が介護を担う場合、その負担は自身の健康に直結します。企業と社員が連携し、外部リソースを最大限に活用することが重要です。
身体障害の特性に合わせた福祉用具の導入支援と、介護支援専門員との連携
介護による身体的負担を軽減するため、福祉用具の導入は不可欠ですが、その選定には専門的な知識が必要です。
- 福祉用具の導入支援: 企業は、介護休業制度の取得時などに、社員の身体障害の特性(例:車椅子利用、上肢の不自由)と、要介護者の状態を考慮した福祉用具(リフト、移動用スロープなど)の導入に関する情報提供や、購入・レンタルのための補助金制度に関する情報提供を積極的に行います。
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)との連携: 社員に対して、地域のケアマネジャー(介護サービス計画の専門家)への相談を促します。ケアマネジャーは、社員の障害特性を加味した上で、最適な介護サービスや福祉用具を選定・導入するサポートを提供します。
介護離職を避けるために会社と共有すべき「介護負荷のデータ」
介護離職の多くは、社員が介護の負担を一人で抱え込み、疲弊した結果として起こります。これを防ぐためには、会社が「介護負荷の定量化されたデータ」を把握することが重要です。
- 介護負荷の可視化: 社員は、介護に必要な「時間(週に何時間)」「身体的負荷のレベル(高・中・低)」「突発的な対応の頻度」といったデータを上司や人事に共有します。これは詳細なプライバシー情報ではなく、「業務調整のための客観的な情報」として扱います。
- 配慮の根拠: このデータに基づき、会社は「この負荷を軽減するためには、週に2日の在宅勤務と、月1回の時間単位年休が必要である」といった合理的配慮の根拠を持つことができます。このデータに基づいた対話が、感情論を排し、長期的な両立のための計画的な支援を実現します。
5.まとめ:「両立できる」という安心感をキャリアの土台に
本コラムを通じて、障害を持つ社員が育児や介護と仕事を両立する際に直面する「複合的な壁」と、その壁を乗り越えるための具体的な戦略を解説しました。企業側の柔軟な対応と、当事者自身の積極的なリソース活用が結びつくことで、社員は「働き続けられる」という確固たる安心感をキャリアの土台に置くことができます。
記事の要約:障害特性を持つ社員の両立支援には、柔軟な制度運用と福祉サービスとの連携が鍵である
障害特性を持つ社員の両立支援は、単なる善意や法令遵守で終わらせず、人材の長期定着と生産性維持のための戦略として位置づけるべきです。
- 複合的困難の理解: 聴覚障害による情報保障の課題や、身体障害による介護負荷の増幅など、障害特性が育児・介護にもたらす具体的な困難をまず企業が認識すること。
- 制度の柔軟化と情報保障: 法定の育児・介護制度を、障害特性に合わせて柔軟に運用すること(例:緊急連絡手段の文字情報への統一)。この情報保障の工夫こそが、社員の不安を根本から解消します。
- 福祉サービスとの連携: 企業側が行政の介護サービスや地域の支援情報を提供し、社員が外部リソースを最大限に併用することを促す支援が、過度な負担による離職を防ぐセーフティネットとなること。
- 文化の整備: 管理職研修などを通じて、「育児・介護は当然の権利であり、評価に影響しない」という心理的安全性を担保し、制度利用の「罪悪感」を取り除くことが長期定着を支える土壌となること。
読者へのメッセージ:障害や家族の状況を理由にキャリアを諦めず、制度と企業の配慮を戦略的に活用するよう促す
障害を持ちながら育児・介護に奮闘する社員の皆様、そしてその両立をサポートする人事・上司の皆様へ。
【社員の方へ】 あなたの育児・介護の困難は、あなたの能力や努力不足によるものではありません。家族を支えながら働くことは、最大限の責任感と努力の証です。障害や家族の状況を理由に、キャリアを諦める必要はありません。企業の提供する制度や合理的配慮、そして地域の福祉サービスを「甘え」ではなく、「プロとして働き続けるための戦略的ツール」として最大限に活用してください。声を上げ、必要な情報(業務への影響)を建設的に伝える勇気が、あなたのキャリアを拓きます。
【人事・上司の方へ】 社員が安心して育児・介護を行える環境は、そのまま「高い集中力で業務に取り組める環境」と同義です。障害を持つ社員を「配慮の対象」として見るのではなく、「柔軟な支援によって必ず貢献してくれる優秀な戦力」として見てください。法定義務を上回る柔軟な配慮は、社員のロイヤリティを高め、離職を防ぎ、企業イメージと生産性を向上させる、最も賢明な人材戦略です。
相互理解と信頼に基づいた支援こそが、持続可能な組織を築く土台となります。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







