2025/11/17
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【人事戦略】障害者雇用は「正社員」か「パート」か?人件費・雇用率・定着率を最大化する戦略

この記事の内容

はじめに:雇用率の達成と「人件費・定着率」のジレンマ。戦略的雇用の必要性

企業の社会的責任(CSR)とコンプライアンスの観点から、障害者雇用は不可欠な経営課題です。しかし、人事担当者の皆様は、法定雇用率の義務を果たす中で、常に一つのジレンマに直面しています。

記事の導入:企業が直面する「正社員(コスト)かパート(人数)」という雇用形態選択のジレンマ

法定雇用率の義務を果たす中で、企業が直面するジレンマとは、「正社員(フルタイム)で安定した戦力を確保するか、それともパート(短時間)で雇用率上の人数を確保するか」という選択です。

  • 正社員雇用: 高い人件費(給与、社会保険料)と大きな雇用リスクを伴いますが、雇用率カウントは1.0人で済み、専門性への期待値は高くなります。
  • パート雇用: 人件費は抑えられますが、雇用率カウントは0.5人となり、多くの人数を雇用する必要があるため、管理工数が増加します。

この選択を間違えると、高コスト早期離職といったリスクに直結してしまいます。

記事の結論:最適解は「人材の特性」と「企業の事業戦略」で決まる

このジレンマの最適解は、一律ではありません。雇用形態は、「採用する人材の特性」と「企業の事業戦略」によって最適解が異なります。

  • 特性の考慮: 体調の波が大きい精神障害者にはパートの柔軟性が適し、専門スキルを持つ身体障害者には正社員の安定性が適するといった違いがあります。
  • 戦略的な判断が費用対効果を最大化する鍵となります。雇用形態を「単なるコスト」ではなく、「定着と貢献を最大化するための戦略」として捉え直すことが必要です。

この記事で得られること

本記事は、人事担当者の皆様が、合理的かつ戦略的な判断を下すための具体的な情報を提供します。

  1. 雇用率の正確な算定方法:カウント数とコストの基礎知識。
  2. 雇用形態別のコスト比較:人件費、社会保険料、管理工数。
  3. 定着率を高めるための戦略:特性に合わせた最適な雇用形態の選び方。

戦略的な雇用形態の選択を通じて、貴社の費用対効果定着率を最大化しましょう。


1. 雇用率算定の基本ルール:「週の労働時間」で決まるカウント数

企業が障害者雇用戦略を立てる上で、最も基本的なルールが「雇用率のカウント方法」です。障害者雇用では、「何人雇用したか」ではなく、「週に何時間働いてもらったか」によって、雇用率上の人数が計算されます。この正確な理解が、適切な雇用形態を選ぶための土台となります。

雇用率のカウント方法の正確な理解

障害者雇用促進法に基づき、障害者のカウント数は週の労働時間によって明確に定められています。

  • フルタイム(週30時間以上)は1.0人カウント:
    • 原則として、週の所定労働時間が30時間以上の障害者社員は、1人としてカウントされます。これは一般のフルタイム社員と同等の扱いです。
  • 短時間(週20時間以上30時間未満)は0.5人カウント:
    • 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の社員は、0.5人としてカウントされます。
  • 週20時間未満はカウント対象外:
    • 週の所定労働時間が20時間未満の社員は、原則として雇用率の算定対象外となります。

ポイント: 雇用率を効率よく達成したい場合、1.0人カウントとなるフルタイム(週30時間以上)での雇用が最も効率的です。


パート雇用で雇用率を達成する難しさ

雇用率の人数だけを考えれば短時間パート雇用は一見容易に思えますが、実際には管理面でのコストが大きく増加するリスクがあります。

  • パート・短時間社員を増やすほど、管理コストが増加するリスク:
    • 単純な計算: 1.0人分を確保するために、短時間パート社員(0.5人カウント)を2人雇用する必要があります。
    • 管理工数: 雇用する人数が増えれば、それに伴い採用手続き、入社後のOJT(研修)、勤怠管理、給与計算、合理的配慮の調整といった管理工数が2倍発生します。
    • 定着率のリスク: パート雇用は一般的に正社員に比べて定着率が低い傾向があるため、離職が発生するたびに再採用コストがかさむリスクがあります。

戦略的視点: パート雇用は、体調の波が大きく、長時間の勤務が難しい社員には適していますが、企業全体で見た場合の費用対効果を最大化するには、正社員の採用も並行して検討する必要があります。


2. 雇用形態別:人件費と法定コストの徹底比較

障害者雇用における「正社員(フルタイム)」と「パート(短時間)」の選択は、企業の費用対効果に直結します。ここでは、給与だけでなく、社会保険料や管理にかかる工数といった隠れたコストを含めて、それぞれの構造を比較します。


① 正社員雇用のコスト構造(1.0人カウント)

正社員雇用は給与水準が高いため、人件費は高くなりますが、安定した雇用高い貢献度を期待できます。

  • 給与は高額だが、社会保険料負担が大きく、キャリアパスの整備が必要なコスト:
    • 高額な費用: 正社員は月給制であり、パート社員に比べて給与水準が高くなります。また、企業は健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険といった社会保険料の折半額を負担するため、給与以外のコストも大きくなります。
    • キャリアパスのコスト: 長期雇用を前提とするため、昇給、賞与、退職金制度、そしてキャリアアップのための研修制度といった、将来の成長を見据えたコスト(投資)が必要です。
    • メリット: コストは高いですが、雇用率カウントは1.0人であり、専門性の高いコア業務への高いコミットメント(責任感)が期待できます。

② パート・短時間雇用のコスト構造(0.5人カウント)

パート・短時間雇用は給与が抑えられますが、雇用率達成のためには人数を増やす必要があり、管理コストが大きな課題となります。

  • 給与・社会保険料の負担は抑えられるが、「人数」と「管理工数」が増えるコスト:
    • 費用削減: 時給制が中心となるため、給与額自体は抑えられます。また、週の労働時間が短い場合、社会保険(健康保険・厚生年金)の加入義務が発生しないケースもあるため、法定コストも軽減されます。
    • 管理工数: 雇用率1.0人分を確保するためには2人のパート社員が必要であり、その分、採用活動、入社手続き、OJT、勤怠管理、年末調整などの管理工数が倍増します。
    • 定着率リスク: 収入が不安定になりやすく、離職率が高いと、継続的な再採用コストがかさみます。

③ 納付金制度への影響

雇用率の達成状況に応じて、企業は「納付金」または「調整金・報奨金」という形で、経済的な影響を受けます。

  • 納付金制度の仕組み: 企業全体で法定雇用率(2.5%など)を未達成の場合、不足する人数分に対して障害者雇用納付金を支払う義務が生じます。逆に、法定雇用率を超過達成した場合、国から調整金(一定人数以上の場合)または報奨金(一定人数未満の場合)が支給されます。
  • 戦略的利用: 納付金が発生するラインギリギリで雇用形態を選択する企業は多く、この制度は雇用形態の選択に直接的な影響を与えます。短時間パート(0.5人)の採用が増えるのは、納付金の支払いリスクを回避しつつ、人件費を抑えるための最小限のリスクヘッジ戦略であると言えます。

戦略的な雇用形態の選択は、これらのコストとメリットを総合的に判断して行う必要があります。

3. キャリア戦略:「正社員」と「パート」がもたらす定着率の違い

障害者雇用の成功は、採用人数ではなく「社員がどれだけ長く、安定して貢献してくれるか」、すなわち定着率にかかっています。雇用形態の選択は、社員のエンゲージメント(貢献意欲)精神的な安定に直結するため、定着率に大きな影響を与えます。


正社員:定着率が高い理由

正社員という安定した枠組みは、障害を持つ社員にとって将来への安心感となり、結果として定着率の高さに繋がります。

  • 安定した収入とキャリアパスへの期待が、社員のエンゲージメントと長期定着に繋がる:
    • 経済的安定: 正社員は月給制であり、賞与や昇給の機会もあるため、経済的な安定性が高まります。これは、体調の波が不安になりやすい精神障害を持つ方にとって、最大の安心材料となります。
    • キャリアへの期待: 昇進・昇格といった明確なキャリアパスがあることで、社員は会社での将来を描きやすく、仕事への意欲(エンゲージメント)が高まり、長期的な定着に繋がります。
    • 企業の覚悟: 企業側も正社員として採用することで、「長く育成する」という覚悟を示すことになり、手厚い教育や合理的配慮の提供につながりやすくなります。

パート:定着率が低いリスク

パート・短時間雇用は柔軟性がある一方で、不安定さが社員のモチベーションを低下させ、離職リスクを高めます。

  • 契約期間や収入の不安定さから、モチベーション維持や長期継続が難しくなるリスク:
    • 収入の不安定さ: 時給制かつ労働時間が短い場合、収入が不安定になりやすく、生活基盤の不安からモチベーションが低下しやすくなります。
    • キャリアの見えにくさ: パート職は一般的にコア業務を任されにくく、明確なキャリアアップの道筋が見えにくい傾向があります。これが「一時的な仕事」という意識を生み、長期的な継続意欲を削ぐ要因となります。
    • 離職リスク: 契約更新のたびに雇用の不安定さを感じやすく、体調の波などが発生した際、「辞めた方が楽だ」という選択に繋がりやすいリスクがあります。

成果を求めるなら正社員が有利な理由

企業が高い専門性や成果を求める業務を任せる場合、正社員での雇用が不可欠です。

  • コア業務や専門職は、責任感とコミットメントが高い正社員が適している:
    • 責任の範囲: 正社員は、企業のコアとなる業務や、守秘義務や法的責任を伴う専門職(経理、法務、IT開発など)を任せられます。これは、高い責任感企業への強いコミットメントが求められるためです。
    • 投資回収: 専門性の高い人材に投資し、長期的に貢献してもらうことを考えた場合、育成コストを確実に回収できる正社員雇用が、企業にとって最も有利な選択となります。

雇用形態を選ぶ際は、「雇用率」「コスト」だけでなく、「社員の心と将来に対する投資」という観点から、定着率を高める戦略を練ることが重要です。


4. 雇用戦略の最適解:障害特性と業務内容による使い分け戦略 

障害者雇用において、雇用形態は「コスト」や「雇用率」だけでなく、「採用する人材の能力を最大限に引き出し、長期的に定着させるためのツール」として活用すべきです。最適な雇用戦略は、障害特性と業務内容の適合性によって決まります。


正社員雇用が適する特性と職務

企業への貢献度と専門性の発揮に高いコミットメントが必要なケースでは、正社員雇用が適しています。

  • 高い専門スキルを持つ身体障害者、論理的思考力が活きるIT・経理職など、能力発揮に高いコミットメントが必要なケース:
    • 適性: 身体障害を持つ方や、症状が比較的安定している内部障害を持つ方など、体力的な移動や長期の休みが少ないことが見込める場合。
    • 職務: ITエンジニア、経理・財務、法務など、資格や専門知識が求められ、プロジェクトの継続性や機密性が重要なコア業務
    • 理由: 専門職は知識の蓄積と責任感が不可欠であり、安定したキャリアパスと高い報酬(正社員のメリット)を提供することで、社員の高いエンゲージメントを引き出し、企業への貢献度を最大化できます。

パート雇用が適する特性と職務

体調の波が業務に影響しやすい、あるいはライフスタイル上の柔軟性を優先したいケースでは、パート雇用が有効です。

  • 精神障害者、難病など、体調の波が大きく、柔軟な勤務調整を最優先するケース:
    • 適性: 精神障害(うつ病、双極性障害など)や難病などで、通院や体調不良による欠勤・早退のリスクが高く、週の労働時間を調整することが不可欠な場合。
    • 職務: データ入力、事務サポート、軽作業など、突発的な欠員が出ても業務の継続性に大きな影響が出にくい、比較的定型的な業務。
    • 理由: パート雇用は、時間や日数の調整が容易なため、社員が体調管理を最優先に働くことができ、早期離職の防止に繋がります。社員の負担を軽減することで、安定的な稼働率を目指す戦略です。

ステップアップを前提としたパート活用

パート雇用を一時的な試用期間として位置づけ、本人の能力と定着度を評価した上で、正社員への移行を促す戦略です。

  • パートで安定性を証明した後、正社員登用を目指す「トライアル期間」としての活用:
    • 戦略: 企業は採用時のコストとリスクを抑えつつ、社員は「まずは短時間で無理なく働けるか」を試すことができます。
    • 移行条件: パート社員として1年~2年間、「安定した勤務実績(高い出勤率)」「業務への習熟度」「長期就労への意欲」を明確に評価基準として定め、これをクリアした場合に正社員登用を行う制度を構築します。
    • 効果: 社員はモチベーションを維持しやすく、企業は定着率と貢献度が高い社員だけを厳選して正社員に引き上げることが可能となり、双方にとって最もリスクの少ない理想的な採用戦略となります。

雇用形態は、単なるコストの区分ではなく、人材の特性と能力を最大限に引き出すための「合理的な配慮」の一種として機能させるべきです。


5. パート社員の定着率を向上させる具体的な施策

パート・短時間雇用は、体調の波が大きな課題となる社員にとって有効な選択肢ですが、その反面、定着率が低いというリスクを企業は抱えます。このリスクを克服し、パート社員のモチベーションとエンゲージメントを高めるための具体的な施策を解説します。


処遇改善戦略:経済的・心理的な安定を提供

パート社員に「この会社で長く働きたい」と思ってもらうためには、給与や福利厚生面で「大切にされている」という実感を伴う処遇改善が必要です。

  • 時給を地域平均より高く設定する:
    • 戦略: 単に法定最低賃金に合わせるのではなく、時給を地域の平均相場より高く設定することで、「高い能力への投資」と位置づけ、社員のモチベーションと忠誠心を高めます。
  • 正社員と共通の福利厚生を一部適用する:
    • 戦略: 正社員と完全に同一である必要はありませんが、社員食堂の利用、健康診断の充実、慶弔休暇など、生活に直結する福利厚生を一部適用することで、「同じ会社の仲間である」という帰属意識(エンゲージメント)を高めます。
    • 効果: 処遇の改善は、収入の不安定さというパート雇用の最大のデメリットを補完し、長期的な定着への動機付けとなります。

勤務調整の柔軟性:体調の波を許容する仕組み

体調の波が大きい社員にとって、「休める安心感」は、「働く意欲」以上に重要です。

  • 急な欠勤や早退への柔軟な対応ルール:
    • 戦略: クローン病や精神障害など、症状の波が予測不能な社員がいる場合、「口頭ではなく、チャットやメールで連絡するだけで欠勤・早退を認める」という、手続きの負荷が低いルールを設けます。
    • 効果: 社員は、体調不良を隠して無理をするリスクを避けられ、症状が悪化する前に休むことが可能になります。これは、早期離職の防止に直結する最も効果的な配慮です。
  • 業務内容の細分化による精神的負荷の軽減:
    • 戦略: パート社員の業務を小さな単位に細分化し、「誰でもすぐに引き継げる」体制を構築します。
    • 効果: 社員が「休んでも誰にも迷惑をかけない」という安心感を得られるため、精神的なプレッシャーが軽減され、結果として安定した稼働率に繋がります。

これらの施策を通じて、パート雇用を「単なる労働力の確保」ではなく、「高い定着率とモチベーションを持つ人材の確保」という、費用対効果の高い戦略へと転換できます。

6. まとめ:雇用形態は「目的」と「特性」で戦略的に選択する 

本記事を通じて、障害者雇用における雇用形態の選択が、単なる「雇用率達成」ではなく、企業の費用対効果と長期的な成長に直結する戦略的な意思決定であることを解説しました。


記事の要約:雇用率、コスト、定着率のバランス

雇用戦略の最適解は、「雇用率カウント」「人件費(コスト)」、そして「定着率」という三つの要素を総合的に判断し、採用する人材の特性に合わせることにあります。

  • 正社員(1.0人カウント): 高い費用を伴いますが、専門職コア業務への高いコミットメントと、高い定着率が期待できます。
  • パート(0.5人カウント): 費用は抑えられますが、管理工数が増加し、体調の波が大きい社員の柔軟な勤務調整に最適な形です。
  • 最大の効果: パートを正社員登用への「トライアル期間」として活用し、処遇改善を行うことで、定着率を高め、雇用戦略の費用対効果を最大化できます。

読者へのメッセージ:企業の成長に繋がる戦略的選択

雇用形態は、目的を達成するための手段であり、戦略的な選択が企業の成長に繋がります。

人事担当者の皆様は、「障害者雇用はコスト」という考え方から脱却し、「特性に合った最適な働き方を提供することで、社員の能力と定着率を最大化する」という戦略的視点を持ってください。この賢明な選択が、貴社の持続的な成長エンジンとなります。


次のステップ:行動を起こす

  1. 雇用形態別のコスト分析: 自社の給与体系に基づき、正社員1.0人パート2人(1.0人カウント)の年間総コストを詳細に比較分析しましょう。
  2. 処遇改善の検討: パート社員に対し、時給を地域平均より高く設定したり、福利厚生の一部を適用したりといった、定着率向上のための処遇改善策を検討しましょう。

トライアル期間の構築: パート社員を正社員登用へと繋げるための、明確な評価基準とステップを構築し、戦略的な採用サイクルを確立しましょう。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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