2025/11/24
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【健常者向け】障害者と働く職場の心理的安全性ガイド|戸惑いを解消する3つの接し方と組織ケア

この記事の内容

はじめに:戸惑いから始まる共生社会。健常者が知るべき「心構え」

近年、企業のダイバーシティ推進に伴い、障害を持つ同僚と働く機会が増えています。これは共生社会の素晴らしい一歩ですが、多くの方が「どう接するのが正解なのか」という、複雑な戸惑いを抱えています。

記事の導入:初めて障害を持つ同僚と働く健常者が抱える「何をすべきか分からない」「特別扱いになるのではないか」という戸惑いに共感する

「良かれと思って手伝ったら、かえって自立を妨げてしまうのではないか」「配慮の仕方が分からず、失礼なことを言ってしまうのではないか」「特定の社員だけを特別扱いしていると、他の社員が不満に思うのではないか」—こうした戸惑いは、相手を尊重したいという「優しさ」と、知識不足からくるものです。この戸惑いが、不必要な壁を作り、職場でのコミュニケーションを停滞させてしまいます。

記事の結論:戸惑いは「優しさ」の裏返し。正しい知識と心構えを持つことで、職場の心理的安全性が高まり、組織全体の成長に繋がる

この戸惑いを乗り越える鍵は、「正しい知識と心構え」を持つことです。

  • 心構え: 障害を特別視せず、一人の「プロフェッショナルな同僚」として対等に向き合うこと。
  • 効果: 健常者が適切なコミュニケーションを学ぶことで、職場の心理的安全性が高まり、社員全員が本音で話し、能力を最大限に発揮できるインクルーシブな環境が構築されます。その結果、組織全体の生産性と定着率の向上に繋がります。

1. 健常者が抱える3つの戸惑いの正体:「知る」と「やる」の壁

初めて障害を持つ同僚と働く際、健常者が感じる戸惑いは、「知識不足」と「実践への不安」から生まれます。これらの戸惑いを解消することが、職場の心理的安全性を高める第一歩となります。


戸惑い1:「見えない障害」への対応不安

外見では判断できない障害への対応は、健常者にとって最大の難しさの一つです。

  • 精神障害や発達障害など、外見から判断できない困難への声かけの難しさ:
    • 課題: 身体障害のように物理的なサポート(例:車いすを押す)は明確ですが、精神障害(パニック、強い倦怠感)や発達障害(聴覚過敏、集中力の困難)は外見から分かりません。そのため、「声をかけて良いのか」「体調が悪そうに見えるが、詮索になるのではないか」という声かけのタイミング方法に戸惑いが生じます。
    • リスク: この不安から「何もしない」という選択をしてしまい、結果的に社員を孤立させてしまうリスクがあります。

戸惑い2:配慮の「公平性」への疑問

特定の社員への合理的配慮が、他の社員の不満不公平感に繋がることがあります。

  • 特定の社員への配慮が、他の社員にとって「特別扱い」と感じられるリスクとその解消法:
    • 課題: 「なぜあの人だけ残業を免除されるのか」「なぜあの人だけ静かな席を使えるのか」といった疑問が、チーム内の不公平感人間関係の軋轢を生む原因となります。
    • 解消法: この疑問は、「配慮は、ハンデを埋めるためのものではなく、スタートラインを合わせるためのもの」という合理的配慮の普遍的な意義を組織全体で理解し、配慮の目的(安定稼働のため)を明確に共有することで解消されます(ただし、本人の同意が必要)。

戸惑い3:コミュニケーションの不安

日常の些細なやり取りにおける「正解」が分からないことが、大きなストレスとなります。

  • どう話せばいいか、どこまで尋ねていいかという線引きの難しさ:
    • 課題: 「病状についてどこまで聞いていいのか」「聴覚障害の方には筆談でいいのか」「発達障害の方に口頭で指示を出してしまっていいのか」といった、コミュニケーションの線引きに戸惑いが生じます。
    • リスク: この不安から会話が減り、必要な業務連絡すら滞るという「コミュニケーションのバリア」が生まれるリスクがあります。
    • 解決の糸口: 「分からないことは、丁寧に尋ねる」という基本マナーを組織全体で共有することが、不安を解消する鍵となります。

2. 障害の「社会モデル」理解:意識を変える第一歩

障害を持つ同僚と働く上で、健常者がまず理解すべきは、「障害とは何か」という定義です。この意識の転換こそが、戸惑いを解消し、適切なサポートを行うための土台となります。


障害は「個人」の特性ではなく「社会の壁」

従来の考え方から脱却し、問題の所在を個人から環境へと移すことが、共生社会の基本です。

  • 障害の「社会モデル」を解説。問題は個人の能力ではなく、環境(制度、文化)にあるという視点の重要性:
    • 旧モデル(医学モデル): 障害は個人の病気や機能の欠損に起因し、治療やリハビリで「個人が社会に合わせるべき」という考え方。
    • 新モデル(社会モデル): 障害は、個人の特性と、社会の側にある「バリア」(段差、無理解な制度、不親切なマニュアルなど)との間に生まれる摩擦である、という考え方。
    • 意識の転換: 問題は社員の「集中力が続かないこと」ではなく、「集中力を阻害するオフィスの騒音」という環境にあると捉え直すことで、「個人を治す」のではなく、「環境(制度、文化)を変える」という建設的な行動に繋がります。

合理的配慮は「義務」であり「ユニバーサルデザイン」

合理的配慮は、単なる「善意」ではなく、組織全体の効率と公平性を高めるための手段です。

  • 配慮は特別なものではなく、誰もが働きやすい環境(UD)につながることを説明:
    • 法的な義務: 合理的配慮は、障害者雇用促進法に基づく法的義務です。これは、組織にとってコンプライアンスの基礎となります。
    • ユニバーサルデザイン(UD)への昇華: 特定の社員のために導入した配慮が、最終的にすべての社員の働きやすさに繋がることを理解しましょう。
      • UDの例: 発達障害の社員のために業務指示を「文書化」した結果、他の健常者社員の聞き間違いやミスも減り、部署全体の正確性が向上した、など。
    • 結論: 配慮は「特別扱い」ではなく、「全社員の生産性を高めるための、普遍的な業務改善策」として捉えるべきです。

3. 【実践編】明日からできる障害者への3つの接し方

「障害の社会モデル」を理解したら、次はそれを具体的な行動に移すことが重要です。明日から実践できる、戸惑いを解消し、信頼関係を築くための3つの接し方を解説します。


接し方1:一人の「プロ」として対等に接する

支援が必要な状況でも、同僚はあくまで「仕事のプロフェッショナル」として尊重することが不可欠です。

  • 障害に注目せず、能力と役割に焦点を当てる。同僚として対等に接することの重要性:
    • 意識の転換: 障害を持つ同僚を「支援の対象」としてではなく、「同じ目標を持つチームの仲間」として対等に接しましょう。
    • 具体的な行動: 業務に関する会話では、障害に触れず「業務の進捗」「役割」「能力」に焦点を当てます。専門スキル(例:Excelの知識、データ整理能力)を持つ社員であれば、その能力を正当に頼る姿勢を見せることで、相手の自己肯定感を高めます。
    • NG行為: 過度に気を遣いすぎて、能力に見合った仕事挑戦の機会を与えない「過剰な優しさ」は、かえって成長を妨げるため避けましょう。

接し方2:勝手な判断をせず「尋ねる」

サポートが必要な場面での行動は、相手の意思確認から始め、尊厳を尊重することがマナーです。

  • 安易に手伝うのではなく、「何かお手伝いできることはありますか?」「具体的に何をすればいいですか?」と尋ねるマナー:
    • 鉄則: 車いすを押す、荷物を持つ、杖を勝手に触るといった無許可の行動は、相手の自立を妨げたり、転倒のリスクを生んだりするため、絶対に避けましょう。
    • 具体的な声かけ: 困っているように見えても、「お手伝いしましょうか?」と尋ねることが第一歩です。
    • 尋ねるマナー: 介助の許可を得たら、「この段差、どうするのが一番安全ですか?」「何を持ってほしいですか?」と、具体的な方法を尋ね、相手の指示に従いましょう。これは、相手の自己決定権を尊重する行為です。

接し方3:「伝達方法」を合わせる

コミュニケーションの壁は、「話す側」が「聞く側」に合わせる工夫で解消されます。

  • 聴覚障害には筆談、発達障害には業務指示の文書化など、相手の特性に合ったコミュニケーション手法を選ぶ:
    • 聴覚障害: 騒がしい場所やマスク着用時は、筆談(メモ、スマートフォン)やチャットツールを積極的に使い、情報が視覚的に伝わるように配慮します。
    • 発達障害(ASD/ADHD): 業務上の指示やフィードバックは、口頭ではなくメールやチャット文書化することを徹底します。これにより、指示の聞き漏らしや誤解を防ぎ、正確な業務遂行をサポートします。
    • 原則: 相手の「聞く・理解する」特性に合わせた「伝達方法」を選ぶことが、コミュニケーションのバリアを解消します。

4. 組織の安定化戦略:人事・マネージャーが取るべきケア

合理的配慮の成功は、障害を持つ社員へのサポートだけでなく、既存の健常者社員の「負担」を軽減し、モチベーションを維持する組織的なケアにかかっています。人事と現場マネージャーが取るべき具体的なアクションを解説します。


ケア1:一般社員の「負荷」への配慮

合理的配慮に伴って発生する間接的な業務を、特定の社員に押し付けず、組織全体で対応するための仕組みづくりが必要です。

  • 合理的配慮によって増えた業務(例:マニュアル作成、引き継ぎ)に対して、既存社員の業務量調整を組織的に行う:
    • 負荷の特定: 合理的配慮によって増える業務とは、「業務指示の文書化」「急な欠勤時の引き継ぎサポート」「複雑なマニュアルの作成・更新」などです。これらの業務は、通常、直属の上司や隣の同僚に集中しがちです。
    • 業務量調整: 人事部門は、これらの「配慮に伴う業務」公式な業務として認識し、担当者の評価項目に組み入れたり、他の業務を減らしたりする業務量調整を組織的に行います。
    • 戦略: サポート業務をチーム全体で分担し、特定の個人に負担が集中しないようにすることで、既存社員の不満や疲労を未然に防ぎます。

ケア2:配慮内容の「オープン化」

配慮を「誰でも実行できる共通ルール」に変え、職場の心理的安全性を高めます。

  • 社員の同意のもと、配慮の内容をチーム内で共有し、「特定の個人の善意」に頼らない仕組みを構築:
    • オープン化: 障害を持つ社員の同意を得た上で、「ノイズキャンセリングイヤホンは集中力維持のため使用が許可されている」「口頭指示ではなくチャットでお願いします」といった配慮の内容と理由を、チーム内で共有します。
    • 目的: これにより、配慮が「特定の社員への優遇」ではなく、「この社員が能力を最大限に発揮するための業務上のルール」としてチーム全体に浸透します。
    • 仕組み化: 配慮の実行が特定の個人の善意に依存する状態(属人化)を避け、チーム全体でサポートする仕組み(例:休暇時の引き継ぎマニュアル作成を全員で分担)を構築します。

組織的なケアを通じて、「誰もが助け合い、成長できる」という、インクルーシブな職場文化が醸成されます。


5. 心理的安全性を高める「インクルーシブな職場文化」

定着率の高い職場は、制度だけでなく、社員が安心して本音で働ける「インクルーシブな文化」を築いています。この文化こそが、合理的配慮を機能させ、組織全体の生産性を高める基盤となります。


ピアサポート・メンター制度の活用

障害を持つ社員同士の横のつながりは、人事や上司には話しにくい「本音の悩み」「生活上の工夫」を共有し、孤立を防ぐ最も有効な手段です。

  • 障害を持つ社員同士の交流を促し、当事者の悩みを共有・解決できる仕組み:
    • ピアサポート(Peer Support): 既に長期定着している障害を持つ社員をメンター(支援役)として任命し、新入社員のサポートを担当してもらいます。
    • メリット: 新入社員は、「同じ経験をした先輩」に体調管理のコツや、職場の「暗黙のルール」を気兼ねなく尋ねることができます。これにより、孤独感が解消され、「自分も長く働ける」という希望と自信を得られます。
    • 人事の役割: 人事は、このピアサポート活動を公式な業務として認め、活動時間や予算を確保することで、この文化を定着させます。

「失敗の許容」を文化にする

ミスや症状の波を「個人の責任」として追求する文化は、社員の心理的安全性を破壊し、再発リスクを高めます。

  • ミスを個人責にせず、業務フローの改善に活かすことで、社員全員の心理的安全性を高める:
    • 戦略: 失敗が発生した場合、原因を「誰がミスをしたか」ではなく、「ミスを防げなかった業務フローのどこに問題があったか」という「仕組み」に求めます。
    • 具体的な行動: 「再発防止会議」を開き、曖昧な業務指示、マニュアルの不備、配慮の不足といった構造的な課題をチーム全体で分析します。
    • 効果: 社員は、体調の異変や業務上の小さなミスを隠さずに報告できるようになります(心理的安全性の向上)。この「早期の報告」こそが、問題が深刻化する前の予防線となり、組織全体の定着率と業務品質の安定に繋がります。

6. まとめ:戸惑いを乗り越え、共に成長する組織へ

本記事を通じて、障害者雇用における成功の鍵は、「制度」という土台の上で築かれる「インクルーシブな職場文化」にあることを解説しました。


記事の要約:文化こそが定着の成否を決める

障害者雇用は、制度だけでなく「文化」で定着が決まること、そして健常者の意識改革が重要であることを再確認します。

  • 制度の限界: フレックスタイム制やリモートワークがあっても、「特別扱い」と捉える文化が残ると、制度は機能しません。
  • 文化の核心: 定着率を高めるのは、「失敗や症状の波を許容し、チームでサポートする」という心理的安全性の高い文化です。
  • 成功への鍵: 健常者側が、障害の「社会モデル」を理解し、「知らないことを尋ねる勇気」を持つことが、この文化を築くための第一歩です。

 読者へのメッセージ:戸惑いを恐れず、知識と共感をもって一歩踏み出すことが組織の成長に繋がる

初めて障害を持つ同僚と働く際の「戸惑い」は、決して悪い感情ではありません。それは、相手を尊重したいという「優しさ」の裏返しです。

この優しさを「適切な行動」に変えるために、知識と共感を持ちましょう。一人のプロフェッショナルとして対等に接し、「何かお手伝いできることはありますか?」と具体的に尋ねる一歩が、同僚の心理的負担を解消し、組織全体の定着率と生産性を高めることに繋がります。


次のステップ:行動を始める

  1. 「共感の輪」を広げる: 職場の同僚に、この記事で学んだ「3つの接し方」を共有し、正しい知識に基づいたコミュニケーションを促しましょう。
  2. 「相談しやすい環境」を作る: マネージャーは、「上司との定期面談」を心理的安全性を高める場と位置づけ、社員が本音で話せる時間を作りましょう。

環境をチェック: オフィス内で、ノイズキャンセリングイヤホンの使用など、合理的配慮のツールが特別視されずに活用されているかを確認しましょう。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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