2025/12/05
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【組織戦略の差】精神・発達障害の雇用定着を分ける「仕組み化」と「投資」

はじめに:「受け入れの二極化」の現実。定着を文化に変える必要性

精神障害や発達障害を持つ社員の雇用は、近年、企業にとって重要なテーマとなっています。しかし、その取り組みは企業間で大きな差を生み出しており、成功例と失敗例の「二極化」が鮮明になっています。

記事の導入:定着を分ける「二極化」の現状

精神・発達障害者の採用が増える一方で、「すぐ辞めてしまう企業」と「5年以上定着する企業」の二極化が進んでいる現状があります。

  • 失敗のパターン: 一方では、入社から1年以内に体調を崩して離職するケースが頻発し、「精神障害者の雇用は難しい」という負の認識が広がる企業があります。
  • 成功のパターン: 他方では、特性を活かした高い生産性を実現し、5年以上の長期定着に成功している企業も存在します。
  • 課題: この差は、社員個人の能力病状の重さだけでは説明できません。

記事の結論:定着の差は「仕組み」と「投資」にあり

この差は、「個人の特性」ではなく、「企業が特性を活かす『仕組み』への投資」にあることを明確に主張します。

  • 古い認識: 多くの企業は、合理的配慮を「特定の社員に対する善意」「一時的な負担」と捉えていますが、これは属人化を招き、定着失敗の最大の原因となります。
  • 戦略的解決: 定着率の高い企業は、配慮を「組織全体の生産性を高める仕組み」として捉え、ジョブデザインの再構築、教育体制への投資、心理的安全性の醸成にコミットしています。

このコラムでは、定着率90%を実現するための、具体的な組織戦略を解説します。


1. 「受け入れが困難」と感じる企業が持つ3つの誤解

精神障害や発達障害を持つ社員の採用に消極的な企業は、その困難さについて誤った前提を抱いています。これらの誤解を解き、組織的な仕組みで解決することが、定着率向上への第一歩となります。


誤解1:「体調の波は予測不可能である」

企業が最も恐れる「急な欠勤リスク」は、社員の緻密な自己管理によって大幅に軽減できます。

  • 実際には体調ログや自己管理で予測・予防が可能であることを解説:
    • 企業の懸念: 精神障害者の体調の波は、急で予測ができないため、業務計画が立てにくい。
    • 真実: 当事者は、睡眠時間、疲労度、気分の変化などを記録する「体調ログ」を日々つけています。これにより、症状が悪化する「予兆」を客観的に把握し、フレックスタイムを利用して予防的に休息を取ることが可能です。
    • 戦略: 企業は、社員の自己管理能力を信頼し、「体調ログの提出」を合理的配慮の前提とする仕組みを導入すべきです。

誤解2:「特別なコストがかかる」

合理的配慮の多くは、高額な設備投資ではなく、運用やルールの柔軟な変更で対応可能です。

  • ノイズキャンセリングや休憩の柔軟性など、コストが低い配慮で解決できること:
    • 企業の懸念: 障害者雇用には、専用の機器導入や大規模なオフィス改修といった高額な費用がかかる。
    • 真実: 精神・発達障害者に必要な配慮の多くは、低コストで実現できます。
      1. 環境: ノイズキャンセリングヘッドホンの使用許可、壁際の静かな席への配置。
      2. 制度: 休憩時間の柔軟な取得(疲労を感じたらすぐに席を離れる)、指示の文書化(チャット利用)。
    • 戦略: これらの配慮は、組織全体の集中力向上コミュニケーションの正確性にも繋がり、費用対効果が高い投資となります。

誤解3:「指導ノウハウが属人化する」

「教える手間」が組織に蓄積されないため、現場マネージャーの負担が増大し、採用に消極的になります。

  • 育成を特定の社員の善意に頼り、ノウハウを組織に蓄積しない:
    • 企業の懸念: 新人教育が、特定の「優しい」先輩社員の善意に依存し、その社員が異動・退職すると、教育ノウハウが失われる
    • 真実: 育成ノウハウは、「マニュアルの視覚化」や「ピアサポート制度」(先輩社員をメンターにする)といった仕組みで組織全体に分散できます。
    • 戦略: 教育を個人の善意に頼るのではなく、組織の正式な業務としてマネージャーの評価に組み込み、ノウハウをナレッジとして文書化することで、継続的な育成を可能にする土壌を作ることが必要です。

2. 定着率90%の企業に共通する「戦略的仕組み」

精神・発達障害者の雇用で高い定着率を実現している企業は、個人の努力や善意に頼らず、組織全体で社員の安定を支える仕組みを構築しています。この「仕組み」への戦略的な投資こそが、二極化を分ける真の要因です。


仕組み1:配慮の「標準化」と「文書化」

合理的配慮が「特定の優しい上司の配慮」で終わらないよう、組織の正式なルールとして運用します。

  • 特定の個人に依存せず、マニュアルとして配慮を仕組み化:
    • 課題: 配慮が特定の社員に依存すると、その社員が不在の際に業務が滞り、当事者も不安を感じてしまいます。
    • 戦略: 定着成功企業は、「合理的配慮チェックリスト」や「特性別対応マニュアル」を整備し、配慮を文書化します。これにより、上司が交代しても、一貫したサポートが提供されます。
    • 効果: 配慮が「特別なこと」から「標準的な業務フロー」に変わり、現場の心理的な抵抗が薄れます。

仕組み2:「失敗の許容」を文化にする

ミスや体調の波が、社員の離職に直結しないよう、組織全体で受け止める文化を醸成します。

  • ミスや症状の波を「個人の責任」ではなく「業務フローの課題」として分析する文化:
    • 従来の対応: 障害者社員がミスや体調不良で休むと、「本人の努力不足」「能力の限界」として処理されがちです。
    • 成功企業の対応: 定着率の高い企業では、ミスや欠勤があった際、「なぜそのミスが発生したか」「体調不良の予兆をチームで把握できなかったか」を、感情を交えずに業務フローの視点から分析します。
    • 具体例: 指示漏れ → 「口頭指示だけでなく、全てチャットで確認するフロー」に変更。この改善が、組織全体のコミュニケーションミスも減らします。

仕組み3:定着を「マネージャーの評価」に組み込む

現場のマネージャーに責任感とコミットメントを持たせることが、育成成功の鍵です。

  • 現場責任者の人事評価に「障害者社員の定着率」を組み入れ、育成を促す:
    • 課題: 採用は人事が行いますが、定着の責任は現場マネージャーにあります。しかし、マネージャーの評価項目に「障害者社員の育成」が含まれていないと、育成の優先順位が下がってしまいます。
    • 戦略: 定着成功企業は、「担当する障害者社員の定着率」や「スキルアップの実績」をマネージャーのMBO(目標管理)や人事評価に組み入れます。
    • 効果: これにより、マネージャーは育成を「義務」から「目標達成」と捉え、積極的にノウハウを学び、配慮を仕組み化する動機が生まれます。

3. 業務創出戦略:特性を「戦力」に変えるジョブデザイン 

精神・発達障害者の雇用成功は、単なる「配慮」ではなく、社員の独自の特性を最大限に活かせる業務を組織側が「創出」できるかにかかっています。特性をマイナスではなく、高付加価値な戦力として組み込むジョブデザイン戦略が必要です。


発達障害(ASD/ADHD)の特性活用

発達障害(特にASD:自閉スペクトラム症、ADHD:注意欠如・多動症)の特性は、定型業務や分析業務において、定型社員を上回る生産性を発揮することが可能です。

  • QA/監査、マニュアル標準化など、緻密さと論理が活きる高付加価値業務を創出:
    • ASDの特性活用(緻密性・集中力): 細かいルールやパターンを見つけ出す能力、高い集中力定型業務の継続力を活かし、品質管理(QA)、データの監査・チェック、ソフトウェアのバグ検証といった業務を任せます。これらの業務は、高い精度と継続性を要求され、人為的なミスが許されないため、組織にとって価値が高いです。
    • ADHDの特性活用(多動性・集中力): 興味の対象に対する瞬発的な集中力や、新しいアイデアを生み出す発想力を活かし、特定のプロジェクト資料の作成や、社内データの効率化に向けたツール開発など、短期間で完了する業務にアサインします。
    • ジョブデザインのポイント: 業務の「境界線」を明確にし、曖昧さを徹底的に排除することが、特性を活かす大前提となります。

精神障害の特性活用

精神障害を持つ社員は、体調の波が伴うことがありますが、その特性を配慮した環境を提供することで、安定した生産性を確保できます。

  • リモートワークやフレックス制を前提とした、対人負荷の少ないデータ管理業務へのアサイン:
    • 安定性を最優先: 易疲労性対人関係への負荷を考慮し、「非同期コミュニケーション」を前提とした業務設計を行います。
      • 具体例: 請求書・契約書の電子データ化、顧客データのクリーニング、Webサイトコンテンツの更新・管理など、一人で集中して完結できる定型的なデータ管理業務
    • リモート・フレックスの活用: 体調の波に対応し、通勤負担による疲労を避けるため、週に数日のリモートワークコアタイムの短いフレックスタイム制を積極的に適用します。
    • 効果: 体調が安定しやすい環境で働くことで、結果として定着率業務の質が向上し、戦力化が実現します。

4. 現場と人事の連携:育成の負担を組織で分散する方法 

障害者雇用の育成が困難となる最大の原因は、「教育ノウハウの属人化」「現場マネージャーへの負荷集中」です。この負担を組織全体で分散し、育成を仕組み化するための連携戦略を解説します。


現場マネージャーへの指導強化

育成を「個人の善意」ではなく「公式な業務」と位置づけ、現場マネージャーの指導レベルとコミットメントを高めます。

  • マネージャーを育成責任者とし、特性に関する指導ノウハウを共有:
    • 役割: 人事は、マネージャーを「育成責任者」として明確に位置づけ、新人教育やマニュアル作成を正式な業務として評価に組み入れます。
    • 指導ノウハウの提供: マネージャーは、発達障害、精神障害など自社で多く採用する特性に関する基礎知識と、具体的な「指導技術」(例:指示の文書化、タスクの細分化)を学ぶ研修を必須とします。
    • 効果: 育成に時間を割くことが「評価に繋がる」という認識が広がり、現場の育成へのモチベーション責任感が高まります。

ピアサポート・外部機関の活用

現場マネージャーの直接的な指導負荷を軽減し、専門的なサポートで育成の質を担保します。

  • ジョブコーチ、就労移行支援、先輩社員(ピアサポーター)を活用し、現場の指導負荷を分散:
    1. ジョブコーチの活用: 地域障害者職業センターが提供するジョブコーチ(職場適応援助者)を、OJTの初期段階で活用します。ジョブコーチは、障害特性への専門的な理解と指導ノウハウを現場に移植し、現場マネージャーの指導負荷を大幅に軽減します。
    2. ピアサポート制度: 長期定着している障害を持つ社員をメンター(先輩社員)に任命し、新入社員の業務外の悩み体調管理の工夫について相談に乗ってもらいます。
    3. メリット: 現場マネージャーの工数を削減しつつ、新入社員の心理的な安心感定着率を高めることができます。ピアサポート活動を正式な業務として評価することも重要です。
    4. 就労移行支援の連携: 就職後も、就労移行支援事業所の支援員と連携を継続し、体調の波業務上の課題が発生した際に、迅速にサポートを受けられる体制を整えます。

これらの連携体制を通じて、育成の負担を組織全体で分散し、育成を持続可能な仕組みへと変革させます。


5. まとめ:戦略的投資が「定着」という最大の利益を生む

本記事を通じて、精神・発達障害者の雇用において、「業務が切り出せない」「育成が難しい」という壁は、決して乗り越えられないものではないことを解説しました。この課題を解決し、定着率を高める鍵は、組織的な「仕組み化」と「未来への投資」にあります。


記事の要約:思い込みの壁を壊し、仕組み化に投資せよ

精神・発達障害の雇用成功は、「思い込みの壁」を壊し、「仕組み化と投資」で育成にコミットすることにあります。

  • 課題の核心の転換: 「障害者には単純作業しかできない」という経営層の思い込みこそが、業務切り出しを困難にしています。DX後の時代に価値があるのは、AIが苦手な「緻密なチェック(監査)」「論理的な言語化(マニュアル)」といった、特性が活きる高付加価値な職務です。
  • 戦略的な解決: 育成の困難さは、OJTの属人化にあります。これを解消するため、ピアサポート制度の導入、ジョブコーチの活用、そしてExcel VBAなどの専門スキルへの継続的な研修投資が不可欠です。
  • リターン: この戦略的投資は、早期離職による採用コスト納付金の支払いを削減し、定着という最大の利益を企業にもたらします。

読者へのメッセージ:戦略的な仕組みづくりで成長エンジンを駆動せよ

人事担当者の皆様へ、戦略的な仕組みづくりに着手することが、企業の持続的な成長に繋がることを力強く促します。

精神・発達障害者の雇用は、コストではなく、組織の柔軟性競争優位性を高めるための未来への投資です。育成へのコミットメントを明確にし、本日からこの仕組みづくりに着手することで、貴社の雇用を安定した成長エンジンへと変革させてください。


次のステップ:行動を起こす

  1. 育成担当者の強化: 現場マネージャーを「育成責任者」として明確に位置づけ、特性に関する指導ノウハウの研修を必須化しましょう。
  2. ナレッジの仕組み化: 最も単純な業務からで構いません。業務手順の「視覚的マニュアル化」に着手し、指導の負担を軽減しましょう。

ジョブコーチの活用: 外部支援機関を活用し、初期のOJTにおける指導負荷を軽減する体制を整えましょう。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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