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【人事発】精神・発達障害者が「入社前に習得すべき」デジタルスキルと学習戦略

この記事の内容
はじめに:DX時代、障害者雇用で「デジタルスキル」が必須の理由

人事担当者の皆様は、近年、障害者雇用における採用基準が劇的に変化していることを実感されているのではないでしょうか。かつて主流だった「書類のファイリング」や「簡単な入力作業」といった定型業務は、急速に減少しています。
記事の導入:求められるスキルは「デジタル活用」へ
定型業務がRPA・AIに代替され、求められるスキルが「単純作業」から「デジタル活用」へと変化している現状があります。
- 自動化の波: RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIの導入により、反復性が高く、マニュアル化された単純なデータ入力は、人間の手から機械へと移り変わっています。
- 求められる役割: 障害者雇用部門の社員に求められる役割は、「手足」としての単純作業員から、「頭脳」としてデジタルツールを使いこなし、データを加工・分析し、業務効率化を担う専門職へと移行しています。
課題の明確化:スキル不足が採用を見送る原因に
この時代の変化に対応できず、スキル不足が原因で、採用が見送られるケースが増加していることが、企業と求職者の双方にとって大きな課題となっています。
- 企業の懸念: 企業は「定着」だけでなく、「生産性」を強く求め始めています。「障害者雇用枠だから」という理由だけで、デジタルリテラシーが低い人材を採用する余裕はなくなっています。
- 求職者の課題: 障害特性(特に精神・発達障害)を持つ求職者が、Excel中級スキルやチャットツールの活用といった、DX時代に必須の基礎スキルを十分に習得していないケースが多いのが現状です。
記事の結論:戦略的なロードマップを示す
求職者が入社前に何を習得し、企業が入社後にどう育成するかという、戦略的なロードマップを示すことが急務です。
- 本記事では、企業が「入社前に最低限習得しておいてほしいスキル」の優先順位を明確にし、採用後の育成にコミットするための具体的な戦略を提示します。
1. 企業が求める「デジタルスキル」の優先順位TOP5と特性との関連

RPAやAIが単純作業を担う現代において、障害者雇用で戦力となる人材には、デジタルツールを「使いこなす能力」が不可欠です。ここでは、企業が求めるスキルの優先順位TOP5と、それが精神・発達障害の特性とどう関連するかを解説します。
第1位:Excelによるデータ加工・分析
Excelは、多くの企業の業務効率化と意思決定を支える「ビジネス言語」であり、デジタルスキルの中で最も優先度が高いです。
- VLOOKUP、ピボットテーブル、条件付き書式など、データ処理・分析に必須の機能が求められます。
- 特に、データの整形、集計、グラフ化といった中級以上の機能を使えることで、単純な入力係から「データ分析補助」といった高付加価値業務へ移行できます。
発達障害との親和性
- 定型的な処理や緻密なルール適用が得意な特性を活かせます。
- Excelはルールに基づいた論理的な作業であり、ASD(自閉スペクトラム症)の方が持つ「緻密性」「パターン認識力」や「集中力」が活かされやすい環境です。複雑な関数やロジックを正確に適用する能力が、極めて高い生産性に繋がります。
第2位:非同期コミュニケーションツールの活用
体調の波や、指示の聞き間違いを防ぐ上で、デジタルツールを使った「文書化」が不可欠です。
- Slack, Teams, Chatworkなど、指示の文書化とタスク管理の徹底が求められます。
- 単にメッセージを送るだけでなく、メンション(@)の活用、スレッド機能での履歴管理、タスク管理機能の利用など、デジタルでのビジネスマナーを理解していることが重要です。
精神障害との親和性
- 体調の波に左右されず、自分のペースで指示を見返せるメリットがあります。
- 精神障害を持つ社員は、記憶力や集中力に波があることが多いため、口頭指示では聞き漏らしや不安が生じやすいです。これらのツールは、指示や決定事項を「文字として永続的に記録」できるため、体調が優れない時でも自分のペースで確認でき、不安を解消し安定稼働を支えます。
第3位:セキュリティ・ITリテラシーの基礎
リモートワークやデジタル化が進むほど、セキュリティ意識の高さは職種に関わらず必須となります。
- パスワード管理、フィッシング詐欺対策など、情報保護意識の高さが求められます。
- 情報漏洩は企業の信頼に関わるため、情報保護の重要性を理解し、安易なクリックやデータの持ち出しといったリスクを回避できるITリテラシーは、信頼性の証明に繋がります。
第4位:VBA/マクロによる業務自動化の基礎
業務効率化意識と論理的思考力のアピールに繋がります。
- 論理的思考力が必要な定型作業の自動化スキルです。
- VBAやマクロの学習は、「面倒な定型作業を効率化しようとする意欲」と「論理的・構造的な思考力」を示す強力な武器となります。特に発達障害の特性を持つ方は、プログラムのルールやエラーの特定といった論理的な作業に強い親和性を持つことが多いです。
第5位:Web会議システム(Zoom/Teams)の基本操作
コロナ禍以降、リモートワークやオンライン面接で必須となった基礎スキルです。
- リモートワークやオンライン面接で必須となるマイク、カメラ操作、画面共有などが求められます。
- 単なる操作だけでなく、適切な背景設定、マイクのオンオフ管理など、オンラインでのビジネスマナーを理解し、スムーズに会議に参加できる能力が必要です。
2. 【入社前】求職者に推奨したい具体的学習ロードマップ
企業が求めるデジタルスキルは、一朝一夕には身につきません。採用を見送るリスクを減らし、早期の戦力化を実現するためには、求職者が入社前に計画的かつ戦略的に学習を進めるよう推奨することが重要です。
ステップ1:基礎定着と客観的な証明
デジタルスキルを習得する第一歩は、基礎を固め、それを客観的な指標で証明することです。
- MOS資格(Excel Expert)など、スキルを客観的に証明する資格の取得を推奨する:
- 推奨理由: 障害者雇用枠での選考において、求職者のスキルレベルを人事担当者や現場マネージャーが正確に把握することは困難です。MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)資格は、その人がExcelの基本機能から応用機能までを習得していることを第三者的に証明する最も強力なツールとなります。
資格取得のメリット
- 企業へのスキル証明と、学習への継続的なコミットメントを示すことができる:
- 信頼性の向上: 資格は、スキルレベルだけでなく、「目標を設定し、計画的に学習を継続できる」という自己管理能力と学習意欲を証明します。
- 配属先の決定: 資格があることで、企業側も安心してVLOOKUPやピボットテーブルを使うデータ加工業務など、高付加価値な業務に配属しやすくなります。
ステップ2:特性を活かすプログラミングの基礎
論理的な思考力や緻密な作業が得意な特性を持つ場合、プログラミングの基礎知識は、事務職の業務効率化(自動化)において大きな武器になります。
- VBA/マクロやSQLなど、集中力・論理性が活かせる分野の学習を推奨する:
- VBA/マクロ: Excel内での定型作業の自動化に直結し、業務効率化の提案力に繋がります。
- SQL: データベースからのデータ抽出・集計の基礎を学ぶことで、データ分析補助といった専門性の高い職務への門戸が開かれます。
- 特性との親和性: これらのプログラミング言語は、曖昧さを許さない論理的なルールで構成されているため、発達障害(ASD)の特性が持つ論理的な思考力やパターン認識力を活かしやすい分野です。
推奨学習ツールとコスト
- 就労移行支援事業所、無料のオンライン学習プラットフォーム(Progate, YouTube)の具体的な活用法:
- 就労移行支援事業所: 専門のスタッフが常駐しており、特性に合わせたペースで学習を進められます。また、履歴書への記載や企業との連携といった就職支援も受けられる最大のメリットがあります。
- オンライン学習: Progate、Udemy、YouTubeなどのプラットフォームは、低コスト(または無料)でVBAやSQLの基礎を学べる豊富なコンテンツを提供しています。自宅で自分のペースで集中して学習したい方に適しています。
ステップ3:ビジネス実務での応用訓練
資格取得と並行して、実際の業務で「使える」力を身につけることが重要です。
- 実際の業務を想定したケーススタディを通じた訓練の重要性:
- 訓練内容: 「架空の売上データ」を渡され、「ピボットテーブルで地域別・商品別に集計し、上位5件をグラフ化せよ」といった、具体的なビジネス課題を解決する訓練が不可欠です。
- 目的: 現場で求められるのは、知識ではなく「問題解決力」です。この訓練を通じて、ツールの使い方だけでなく、報告書の形式、納期管理、業務の優先順位付けといったビジネススキルを同時に習得させます。
3. 【入社後】企業がコミットすべき育成とOJT戦略

入社前のスキル習得はあくまでスタートラインです。定着率の高い企業は、入社後に継続的な育成と適切なOJT環境を提供することで、社員の能力を最大限に引き出し、高付加価値業務への配置転換を目指します。
育成戦略1:研修予算の確保と専門スキルへの投資
社員を単純な事務作業者に留めず、専門スキルを持った人材へと育成するための戦略的な投資が不可欠です。
- Python, BIツール(Tableauなど)への研修予算を確保し、高付加価値業務への配置転換を目指す:
- 投資対象: 基礎的なExcelスキルに加え、Python(データ分析・簡単なプログラミング)やBI(ビジネスインテリジェンス)ツール(Tableau、Power BIなど)といった一歩先の専門スキルの研修費用を確保します。
- 目的: これらのスキルを習得させることで、社員を定型業務のサポート役から、データに基づいた課題解決や業務改善を担う専門職へと配置転換し、より高い生産性を実現します。
投資対効果の測定
- スキルアップが、自動化率やデータ処理速度にどう貢献したかを評価する仕組みを導入します。
- 投資の正当性を証明するため、研修後の社員に対し、「自動化された業務の数」「データ処理にかかる時間の短縮率」「エラー率の減少」といった具体的な指標(KPI)を設定し、投資対効果(ROI)を測定・評価します。
育成戦略2:マニュアルと動画の活用
特性に配慮した情報伝達方法を用いることで、OJTにおける指導者の負荷を軽減し、学習効率を高めます。
- 特性に合わせて、テキストだけでなく動画を用いた業務マニュアルを作成し、OJTの負荷を軽減する:
- テキストの限界: 特に発達障害(ASD)の社員は、抽象的な指示や長文のテキストマニュアルだけでは理解に時間を要したり、不安を感じたりすることがあります。
- 動画の活用: PCの操作画面を録画した動画マニュアルや、手順を図解化した視覚的なマニュアルを作成します。これにより、社員は自分のペースで、何度でも、視覚的に手順を確認できるため、指導者が何度も同じことを教えるOJTの負荷を大幅に軽減できます。
育成戦略3:メンター制度の構築
現場でのデジタルツール利用の「不安」を解消し、心理的な定着を支援します。
- 先輩社員によるピアサポートを通じ、デジタルツール活用の不安解消を支援する:
- メンターの役割: 職場に慣れた先輩社員や、同じ障害特性を持つ社員をメンター(ピアサポーター)として任命します。
- 目的: 新しいデジタルツールの導入時や、チャットでのコミュニケーションの不安、「こんな簡単なことを聞いてもいいのか」という心理的な壁を取り除き、気軽に相談できる関係性を構築します。
ピアサポートの役割
- 専門的なスキルの指導ではなく、「現場でのツールの使い方」に関する不安解消に焦点を当てる。
- ピアサポートは、VBAのコードレビューといった専門的な指導ではなく、「Teamsのどのチャンネルで質問すれば良いか」「体調が悪い時のチャットの書き方」といった、職場の暗黙のルールや運用のノラウハを教える役割に徹することで、高い効果を発揮します。
4. まとめ:デジタルスキルへの投資は「戦力化」への最短ルート
本記事を通じて、DXの波が障害者雇用にもたらした変化、すなわち「単純作業の消滅」と「デジタルスキル習得の必然性」を解説しました。採用の成功と定着、そして戦力化の鍵は、企業が学習と育成にどれだけ戦略的にコミットするかにかかっています。
記事の要約:単純労働者から専門職へ
デジタルスキル習得は、障害者社員を「単純労働者」から「専門職」へと転換させる鍵であること。
- 転換の必要性: RPAやAIの普及により、Excelの入力やファイリングといった定型業務は急速に価値を失っています。これからの障害者雇用で求められるのは、Excelのデータ加工・分析、VBAによる自動化、非同期ツールの活用といったデジタルリテラシーです。
- 特性の活用: 精神・発達障害の社員が持つ論理的思考力や高い集中力は、VBA/マクロやデータ分析といった専門スキル習得に非常に高い親和性を示します。適切な投資をすることで、彼らを「高付加価値なデジタル専門職」へと育成できます。
人事へのメッセージ:投資が生む高い生産性というリターン
企業が学習への投資とサポートを行うことで、高い生産性というリターンが得られることを強調します。
- 投資対効果(ROI): 障害者社員へのデジタルスキル研修への投資は、決してコストではありません。これは、「単純な事務処理の自動化率向上」「データ分析業務の効率化」といった明確なリターンを生む、最も費用対効果の高い「戦力化」への投資です。
- 組織の柔軟性: メンター制度や動画マニュアルの整備といった育成戦略は、OJTの負荷を軽減し、組織全体の学習効率を高めるという普遍的なメリットももたらします。
次のステップ:いますぐ始めるべき具体的な育成へのコミットメント
人事担当者の皆様は、優秀なデジタル人材を確保し、定着させるために、以下の行動にいますぐ着手してください。
- 研修予算の確保: BIツール(Tableauなど)やVBA/マクロといった専門スキル研修の費用を、来期の育成予算として優先的に確保しましょう。
- 評価制度のアップデート: スキルアップが昇給やキャリアアップに直結するよう、人事評価項目に「デジタルスキルの習得・活用度」を明確に組み込みましょう。
外部連携の強化: 就労移行支援事業所と連携し、「入社前にMOS資格取得を前提とした人材」を紹介してもらう採用戦略へと切り替えましょう。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







