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【公平な評価】合理的配慮を前提とした人事評価制度の作り方と定着への効果

この記事の内容
はじめに:なぜ「時間」で評価すると不公平になるのか?

人事担当者の皆様にとって、多様な働き方を受け入れる現代において、評価の公平性を保つことは最大の課題です。特に、精神・発達障害を持つ社員に対する評価は、その根幹が問われます。
記事の導入:従来の評価制度が招く不公平感
時短勤務や在宅勤務といった合理的配慮が普及する中で、勤務時間や出社日数で評価する従来の仕組みが、障害者社員にとって不公平感とモチベーション低下を招く現状があります。
- 課題: 合理的配慮により「勤務時間が短い」「体調不良で休むことがある」という事実が、評価の際に「貢献度が低い」と結びつけられがちです。
- ジレンマ: 企業側は配慮を提供しているにもかかわらず、社員は「自分は正当に評価されていない」と感じ、努力が報われないことからモチベーションを失い、離職につながるケースが後を絶ちません。
記事の結論:「成果」と「貢献度」への評価転換が鍵
この悪循環を断ち切るには、評価の軸を根本から見直す必要があります。
- 「時間」ではなく「成果」と「貢献度」に焦点を当てた評価制度へ転換することが、定着率向上と戦力化の鍵であると断言できます。
- 本記事では、勤務時間や体調の波といった要因に左右されない、公平で客観的な評価制度の具体的な設計方法を解説します。
1. 従来の評価制度が引き起こす「不公平感」の正体
合理的配慮として時短勤務や在宅勤務を提供しても、評価制度が古いままでは、障害者社員のモチベーションと企業への信頼は低下します。従来の「時間主義」や「プロセス重視」の評価が引き起こす、根本的な不公平感を理解することが、制度改革の出発点です。
課題1:時間と成果の不一致
評価を「オフィスにいる時間」に依存させると、高い能力を持つ社員が不当に評価されなくなります。
- 時短勤務者は、たとえ高い成果を出しても「時間」が少ないことで昇給・昇格から除外されやすい:
- 時間主義の弊害: 多くの企業の評価制度は、「勤務時間」「出勤日数」「残業時間」といった「投入量(インプット)」を暗黙のうちに評価基準に含んでいます。
- 不公平の発生: たとえ時短勤務の社員が、フルタイムの社員の80%の勤務時間で100%の成果を出したとしても、「勤務時間が短い」という理由だけで昇給・昇格の候補から外されがちです。これは、「能力ではなく、時間で判断されている」という強い不公平感を社員に与え、離職の大きな原因となります。
- 結論: 合理的配慮によって勤務時間というインプットを調整している以上、評価も「成果」というアウトプットに完全に移行させる必要があります。
課題2:努力が評価されない構造
精神・発達障害を持つ社員にとって、「安定して働き続けるための努力」こそが最大の業務貢献ですが、これが評価対象外となっています。
- 体調管理や自己研鑽といった「見えない努力」が評価項目に入らず、モチベーションが維持できない:
- 見えない努力: 精神障害を持つ社員は、体調の波を管理するための日々の記録(体調ログ)、通院、服薬の徹底、睡眠サイクルの維持といった、「安定稼働」という成果を生むための膨大な努力を行っています。
- 評価の欠如: 従来の評価制度では、これらの努力は**「私的な行為」**と見なされ、評価項目に反映されません。
- 結果: 努力が正当に評価されないと、社員は「仕事を続けるための最も大切な活動」の意欲を失い、自己管理が崩れて体調を崩しやすくなります。「安定して働き続けること」を「業務貢献」と捉え、評価に組み込む制度が必要です。
2. 公平な評価のための「ジョブディスクリプション(職務記述書)」の徹底
合理的配慮を提供する社員を公平に評価するためには、曖昧さを排除し、「何をもって成果とするか」を明確に定義したジョブディスクリプション(JD:職務記述書)が不可欠です。JDの徹底が、評価の土台となります。
評価基準の細分化と明文化
感情や主観が入りやすい「態度」や「意欲」といった項目を評価から排除し、客観的な成果指標に置き換えます。
- 「勤務態度」などの曖昧な項目を排除し、「エラー発見率」「データ処理件数」「マニュアル更新数」など、具体的な成果指標に分解する:
- 曖昧な項目の排除: 「協調性」「積極性」「勤務態度」などは、精神障害や発達障害の特性(例:苦手なコミュニケーション、体調の波)と誤解されやすく、主観的な低評価に繋がりやすい項目です。これらを評価から外し、行動や成果に直結する指標に分解します。
- 細分化された評価指標の例:
- 品質: エラー発見率、納品後の修正率、監査業務における不備の件数。
- 生産性: データ処理件数(時間当たり)、作成したマニュアルのページ数。
- 貢献度: マニュアルの更新数、業務フロー改善提案の件数。
- 効果: 評価が誰が見ても明確な数字や事実に基づいているため、評価結果に対する社員の納得度が向上し、「不公平感」を解消できます。
「能力」と「特性」の分離
合理的配慮を提供している事実が、評価を歪める原因とならないよう、評価対象を明確に分離します。
- 評価を「障害特性によって生じる困難さ」と「職務遂行に必要な能力」から分離して評価する仕組みの構築:
- 分離の必要性: 企業は、本来評価すべき「職務遂行能力」ではなく、「配慮のコスト」や「体調の波による負担」を「低い能力」として評価に反映させてしまいがちです。
- 分離の構造:
- 評価対象外(特性): 時短勤務、休憩の回数、リモートワークの頻度など、合理的配慮として認められた困難さは評価対象から完全に外します。
- 評価対象(能力): 業務の正確性、目標達成度、課題解決能力など、職務遂行に直接関わる能力のみを評価します。
- 効果: これにより、社員は「配慮を受けているから評価が下がる」という懸念を持たずに、自身の能力発揮に集中できるようになり、結果として長期定着に繋がります。
3. 勤務時間や日数に左右されない「成果評価」の具体的指標

公平な評価制度を構築するには、「時間」ではなく「アウトプットの質と量」を測定する具体的指標が必要です。ここでは、精神障害と発達障害の特性を活かし、高付加価値な成果に焦点を当てた評価指標を解説します。
発達障害(ASD/ADHD)の特性を活かした評価指標
発達障害を持つ社員は、ルール遵守、パターン認識、論理的思考といった特性において高い能力を発揮することが多いため、その緻密さを評価に直結させます。
| 評価指標 | 評価の焦点 | 評価の意義 |
| ルールの遵守率 | 定められた手順からの逸脱件数 | ミスなく業務を遂行する信頼性を評価 |
| 監査業務での不備発見率 | データやコードのチェックで発見したエラー件数 | 緻密な集中力が、企業の品質リスク低減に貢献した点を評価 |
| 手順書作成における網羅性 | 業務マニュアルの作成・更新時の不足項目や曖昧な表現の解消件数 | 業務の標準化と組織の知的資産への貢献を評価 |
精神障害の特性を考慮した評価指標
精神障害を持つ社員の特性を考慮する場合、「安定性」を貢献の一部と捉えつつ、体調の波の中でいかに集中力を発揮したかという「質」に焦点を当てます。
| 評価指標 | 評価の焦点 | 評価の意義 |
| 定時内の生産性(集中作業量) | 勤務時間に対する成果物の量と質 | 短時間でも高い集中力を発揮した点を評価(長時間労働との比較を避ける) |
| 体調管理の安定性 | 体調ログの継続、体調不良の事前報告件数 | 自己管理を組織に貢献する「職務遂行能力」の一部として評価 |
| 業務の緊急度判断 | 突発的な業務に対し、冷静に優先順位を判断し対応できたか | 精神的な安定を保ちつつ、業務のボトルネックを防いだ点を評価 |
「貢献度」評価への転換
与えられた業務をこなすだけでなく、組織全体の生産性を高めるための行動を評価対象に組み入れます。
- 定型業務を超えた「組織的な業務改善への貢献」を評価対象に含める:
- 評価対象: 担当業務範囲を超えて、「非効率な業務フローの改善提案」「VBA/マクロによる自動化の実現」「全社的なデジタルツールの活用支援」といった、知識や特性を活かした組織への貢献を評価します。
- 意義: これは、障害特性を持つ社員の「能力」と「問題解決意欲」を評価するものであり、社員が「自分は組織に必要とされている」と感じることで、モチベーションと企業への帰属意識が大きく向上し、定着に繋がります。
4. 評価を定着に繋げるための「フィードバック」と「育成計画」
公平な評価制度は、運用方法と連動して初めて効果を発揮します。評価結果を単なる「成績」として伝えるだけでなく、社員の体調や特性に寄り添ったフィードバックと、具体的なキャリアパスを示すことが、定着への最後の鍵です。
定期的な個別フィードバック
評価結果を体調の波や業務負荷と関連付け、改善点を具体的に指導する「合理的配慮会議」の運用が不可欠です。
- 「合理的配慮会議」の運用: 評価面談を、「不足点の指摘の場」ではなく「次の目標設定と配慮内容の調整の場」と位置づけます。
- 面談内容の焦点: 達成できなかった成果指標について、「能力不足」と断定するのではなく、「前回の評価期間の体調の波や業務負荷が、どのように影響したか」を本人とマネージャーが一緒に分析します。
- 具体的な指導: 「今期の課題はデータ処理の正確性だったため、次期はチェックリストの項目を増やし、締切を2日前倒しする配慮を組み込みましょう」といった、具体的かつ建設的な改善策を指導します。
- 効果: 評価が「個人の責任」ではなく、「組織と個人の協働による改善点」として捉えられるため、社員は心理的な負担を感じずに前向きに課題に取り組めます。
スキルアップを昇給・昇格に直結させる
社員の努力を賃金や地位に反映させることで、長期的なモチベーションを維持させます。
- 資格取得や新しいデジタルスキル習得を「等級基準」に組み入れ、キャリアアップへの道筋を示す:
- 等級基準の見直し: 「勤続年数」や「フルタイム勤務経験」といった項目を排除し、代わりに「MOS Expert資格の取得」「VBAを用いた業務自動化の実現」「BIツールでのデータ分析報告書の作成経験」といったデジタルスキルを等級昇格の必須条件に設定します。
- キャリアパスの明確化: 短時間勤務や在宅勤務といった合理的配慮を受けていても、専門スキルさえ習得すれば、管理職や専門職へと昇格できる明確なキャリアアップの道筋を示します。
- 効果: 「配慮を受けているから昇格は無理」という諦めを払拭し、社員の自己成長意欲を最大限に引き出します。社員の能力向上は、そのまま企業の高付加価値業務を支える力となり、離職率の改善に直結します。
5. まとめ:公平な評価制度は最大の定着戦略である

本記事で解説したように、合理的配慮を受けて働く精神・発達障害を持つ社員の定着を確実にするには、「時間」を基準とした従来の評価制度を根本から転換する必要があります。公平な評価制度は、単なる人事制度のアップデートではなく、社員のモチベーションと企業への信頼という、最も重要な資産を育むための戦略的投資です。
記事の要約:成果評価への転換こそが公平性の土台
評価基準を「時間」から「成果」へ転換し、ジョブディスクリプションを細分化することが、公平性の土台となります。
- 転換の必要性: 時短勤務や在宅勤務といった配慮を受けている社員を、勤務時間で評価することは、不公平感を生み、努力を無駄にします。
- 公平性の土台: ジョブディスクリプション(JD)を徹底し、評価基準を「エラー発見率」「データ処理件数」「マニュアル更新数」といった客観的な成果指標に細分化することが、評価の公平性を担保します。
- 特性の活用: 発達障害の緻密さや、精神障害の体調管理の安定性といった「見えない貢献」を評価項目に組み込むことで、社員は「自分は正当に評価され、必要とされている」と感じることができます。
読者へのメッセージ:公平な評価は最強の定着戦略
公平な評価は、社員のモチベーションと企業への信頼を高め、結果として離職率を大幅に改善する最強の定着戦略であることを強調します。
- 社員が「時間ではなく、自身の能力と成果で評価される」と確信できたとき、彼らは最大限のパフォーマンスを発揮します。
- この信頼感とモチベーションこそが、体調の波があっても職場に留まり続ける強い意思となり、結果として離職率を大幅に改善します。公平な評価制度の構築は、企業の持続的な成長に不可欠な人的資本への戦略的投資です。
次のステップ:評価制度の見直しに着手する
- JDの細分化: 現場マネージャーと連携し、現在担当している業務の「成果指標」を数値化・文書化する作業に着手しましょう。
- 昇格基準の見直し: 「等級基準」から「勤務日数」や「残業時間」といった項目を排除し、デジタルスキルや成果に基づいた項目に置き換える準備を進めましょう。
合理的配慮会議の導入: 次回の評価面談から、評価結果と体調の波を関連付けた建設的なフィードバックを行うための「合理的配慮会議(面談)」の運用を試験的に開始しましょう。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







