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【二次障害の罠】「なぜ気づかなかった?」大人になってから発達障害(ADHD・ASD)が判明するメカニズム

この記事の内容
はじめに:増える「大人になってからの発達障害」診断の現実

近年、メンタルクリニックや心療内科を受診する成人の間で、ある傾向が顕著になっています。それは、うつ病や適応障害といった精神疾患の治療を受ける中で、その根本原因として、発達障害(ADHD: 注意欠如・多動症、ASD: 自閉スペクトラム症)が初めて判明するケースが急増しているという現実です。
記事の導入:背後に隠された根本原因
近年、うつ病や適応障害で受診した後に、根本原因としてADHDやASDと診断されるケースが急増している現状を指摘します。
- 診断の連鎖: 最初は「仕事のストレス」「燃え尽き症候群」として処理されがちですが、薬物治療や休養を経ても「生きづらさ」や「仕事での失敗」が解消されないため、詳細な検査に踏み切り、初めて自身の脳の特性に気づくのです。
- 読者の疑問: なぜ、幼少期や学生時代といった早期の段階で気づかれず、成人し、心身が限界を迎えた「二次障害」をきっかけとしてしか、自分の特性を知ることができないのでしょうか。
記事の結論:二次障害への「3つの罠」
「二次障害」を入り口として初めて発達障害に気づくこのメカニズムは、社会環境、特性のカモフラージュ、診断基準の3つの要因によって引き起こされます。
- 3つの要因:
- 社会環境の変化: 複雑化し、曖昧なルールが増えた現代社会の環境が、特性を際立たせる。
- 特性のカモフラージュ(擬態): 自身の高い知能や努力によって特性を隠し、表面上は適応できていた。
- 診断の重複: うつ病の症状が発達障害の特性を覆い隠してしまい、診断を遅らせてしまう。
このコラムでは、この「二次障害の罠」のメカニズムを深く掘り下げ、早期の気づきと適切なサポートに繋げるための知識を提供します。
1. 「二次障害」とは何か?心身が限界を迎えるメカニズム
発達障害を持つ人々が大人になってから心身の限界を迎えるとき、その多くは「二次障害」という形で現れます。この二次障害とは、発達障害の特性そのものではなく、その特性を持つがゆえに社会生活で直面する困難やストレスが原因で引き起こされる精神的な不調のことです。
発達障害と二次障害の関係
二次障害のほとんどは、ADHDやASDの特性が社会環境と衝突することによって生じます。これらの特性が、不適切な環境下で慢性的なストレス源となることが根本原因です。
- ADHD(不注意、多動性、衝動性)の特性:
- 不注意:仕事でのケアレスミスや期限忘れが続き、上司や同僚からの叱責や信頼の低下を招きます。
- 多動性・衝動性:会議中に集中できなかったり、発言を遮ったりすることで、対人関係での摩擦や孤立を生みます。
- ASD(対人コミュニケーションの困難さ、強いこだわり)の特性:
- 対人コミュニケーションの困難さ:職場の暗黙のルールや行間を読むことができず、意図せず人間関係をこじらせ、孤立感を深めます。
- 強いこだわり:急な業務変更やマニュアル外の対応に強いストレスを感じ、業務遂行が困難になることで自信を失います。
このように、特性自体が問題なのではなく、特性によって引き起こされる「社会からのフィードバック」や「継続的な失敗体験」が、二次障害の引き金となります。
精神的な負担の連鎖:二次障害発症のメカニズム
発達障害を持つ人々は、特性ゆえの失敗を、「自分の努力不足」や「性格の問題」として自己解釈しがちです。これが以下の連鎖を生み出します。
- 失敗体験の蓄積:仕事や人間関係でのミスが続きます。
- 自尊心の低下:失敗の原因を「自分自身の努力や能力が足りないせいだ」と責めることで、自己肯定感(セルフ・エスティーム)が著しく低下します。
- 慢性的なストレス:失敗を恐れ、常に高い緊張状態で「普通の人を装おう(カモフラージュ)」と努力し続けることで、心身に負荷がかかり続けます。
- うつ病・不安障害の発症:この慢性的で過剰なストレスが脳の許容範囲を超えた結果、最も多い二次障害であるうつ病、適応障害、不安障害(全般性不安障害、社会不安障害など)を発症します。
二次障害は、「これ以上、カモフラージュし続けることはできない」という、心身が発するSOS信号であると言えます。
2. 子ども時代に「気づかれなかった」3つの理由

発達障害の特性が大人になってから初めて顕在化する最大の原因は、「カモフラージュ(擬態)」と「社会のルールの変化」、そして「診断基準と専門家の偏り」にあります。特に学生時代は環境が安定しているため、特性が表面化しにくい傾向があります。
理由1:知的能力によるカモフラージュ(擬態)
これは、高い知的能力や言語能力を持つ発達障害者が、自身の特性を意識的・無意識的に隠してしまう現象です。
- 特に高IQのケースで、努力により暗黙のルールを暗記し、定型発達者を装ってしまうこと:
- メカニズム: 発達障害を持つ人(特にASD)は、「空気を読む」「雑談する」といった定型発達者が自然に行う暗黙のルールを、論理的に分析し、マニュアル化して模倣します。「この状況では笑顔で頷く」「目を見て話すのは3秒まで」といったルールを、膨大な努力と意識をもって実行します。
- 周囲の認識: 成績や知能が高いため、「変わっているが、優秀な人」と評価され、「困っている状態」として認識されません。結果として、支援が必要なサインを見過ごされてしまいます。
カモフラージュの限界
- 社会人になり、業務負荷や人間関係が複雑になると、擬態による「燃え尽き」が発生すること:
- 環境の複雑化: 社会人になると、人間関係が多岐にわたり、業務内容が絶えず変化し、抽象的な指示やマルチタスクが一気に増えます。この複雑な環境下で、四六時中「定型発達者」を演じ続ける精神的エネルギーが枯渇し、限界を迎えた結果が二次障害(うつ病)として現れます。
理由2:社会環境の変化
現代社会が求めるスキルや対応能力が、発達障害の特性と衝突しやすくなっていることも原因の一つです。
- 幼少期よりも曖昧なルールやマルチタスクを求められる現代社会の環境が、特性を際立たせること:
- 昔の環境: 終身雇用、縦割り組織が中心の時代は、決まったルールの中で集中力を発揮すれば、特性が問題になりにくい側面がありました。
- 現代の環境: ホウレンソウのタイミングやリモートワークでのコミュニケーションなど、マニュアル化されていない暗黙の了解が増え、ADHDの不注意や、ASDの曖昧さの苦手さが、学生時代とは比較にならないほど業務に支障をきたすようになり、「大人になってから急に仕事ができない人になった」と見なされてしまいます。
理由3:診断基準と専門家の問題(制度側の課題)
医療・教育側の制度的な要因が、特に女性や内面化しやすい特性を持つケースの診断を遅らせてきました。
- 児童期の診断基準が「学校生活での顕著な問題行動」に焦点が当たりすぎ、内面化しやすいASDや女性のADHDが見過ごされやすかったこと:
- 診断の偏り: 従来の診断基準は、ADHDの「多動性・衝動性」といった外向きの問題行動に焦点を当てる傾向がありました。その結果、特性が内面化しやすいASDや、「不注意優勢型」のADHDが見過ごされてきました。
女性特有のカモフラージュ
- 女性は「場の空気を読む」よう社会的に求められ、特性を隠す擬態能力が男性より高い傾向にあること:
- 文化的要因: 女性は幼い頃から、共感性や協調性を強く求められる文化的圧力にさらされます。これにより、特性が強く出ていても、過剰な努力によって「人間関係の苦手さ」を補う擬態(補償行動)を発達させやすいことが、診断の遅れに繋がっています。この擬態も、社会人になって初めて「燃え尽き」という形で限界を迎えるのです。
3. 大人の診断を難しくする「二次障害」の症状
成人の発達障害の診断が遅れる最大の要因は、発達障害の特性と二次障害(うつ病や不安障害)の症状が極めて似ているため、両者の区別がつきにくいことにあります。
症状の重複:見分けがつかないサイン
うつ病の「集中力の低下」や「倦怠感」が、ADHDの「不注意」と区別しにくいことが、診断の初期段階で大きな混乱を招きます。
- うつ病の症状:
- 集中力の低下:「何も考えられない」「頭がぼーっとする」といった形で現れ、業務のミスや期限遅れに繋がります。
- 倦怠感: 強い疲労感や意欲の低下から、タスクの着手や完了が困難になります。
- ADHDの特性:
- 不注意: 興味のないタスクに対する継続的な集中力が欠け、ミスや忘れ物が多くなります。
- 鑑別の難しさ: 診察の際、医師が訴えを聞くと、「集中できない」「何もやる気が出ない」という症状がまず前面に出ます。これが、うつ病や適応障害の典型的な症状であるため、発達障害の専門的な問診や幼少期の履歴確認が行われないと、二次障害が「本体」であると誤診されてしまうリスクが高まります。
| 症状 | うつ病の場合 (二次障害) | ADHDの場合 (特性) |
| 集中力 | ストレスや抑うつ気分によって「後天的に低下」したもの。 | 生来の脳機能特性として「持続的な集中が苦手」。 |
| 倦怠感 | 心身の疲弊による「エネルギー切れ」。 | 興味のない作業に対する「エネルギー投入の困難さ」。 |
医療機関への受診の経緯:入口が二次障害であること
「生きづらさ」や「気分」の悩みが先行するため、発達障害の専門医ではなく、一般的な精神科医を訪れることが、診断の遅れに繋がります。
- 受診の動機:
多くの成人が医療機関を訪れるのは、「昔から忘れっぽい」という特性の悩みではなく、「朝起きられない」「会社に行きたくない」「漠然と不安だ」といった、うつ病や適応障害に特有の「つらい気分」がきっかけです。 - 専門家の分断: これらの「気分の不調」は、精神科医が専門とする領域であるため、まずは抗うつ薬や睡眠薬などの対症療法が中心となり、特性に特化した詳細な生育歴のヒアリングや知能検査(WAISなど)が後回しにされがちです。
- 診断の発見: うつ病の治療を進める中で、気分の落ち込みは改善したものの、「仕事のミスや片付けの苦手さだけは治らない」という事実に直面し、そこで初めて「根本原因は別のところにあるのではないか」という疑いが生じ、発達障害の専門機関へと繋がっていくのです。
4. 診断後のキャリア戦略:特性を強みに変えるには
大人になってから発達障害が判明することは、一見ショックかもしれませんが、それは「長年の生きづらさの根本原因」が明確になった瞬間でもあります。診断は、「病気」ではなく「自分の取扱説明書」を手に入れたということ。ここからは、特性を「障害」ではなく「強み」に変えるための戦略的なキャリア構築が始まります。
治療の優先順位:まずは「土台」を固める
発達障害の診断に至った背景には、うつ病や適応障害といった二次障害が潜んでいることがほとんどです。キャリア戦略を考える前に、まず心身の安定を図ることが最も重要です。
- まずはうつ病などの二次障害の治療を優先し、体調を安定させることが重要:
- 土台の安定: 発達障害の特性自体は治りませんが、二次障害は適切な治療(薬物療法、休養、認知行動療法など)で改善が見込めます。抑うつ気分や強い不安が残っている状態では、自己分析や職場への配慮の交渉といった次のステップに進むためのエネルギーがありません。
- 治療の目的: 治療の目的は、「発達障害の特性」が引き起こすストレス反応を沈静化させ、「カモフラージュ」に費やしていたエネルギーを「特性を活かすための建設的な活動」に振り向けることができる状態に戻すことです。
特性を活かすジョブデザイン:強みと配慮の一致
心身が安定したら、次は自身の特性と業務内容を意図的に一致させる「ジョブデザイン」に取り組みます。これは、合理的配慮の活用と配置転換が核となります。
- ASDの緻密性、ADHDの集中力を活かせる業務への配置転換と合理的配慮の活用:
- ASDの緻密性・論理性を活かす:
- 特性: ルールを厳守し、細部に強いこだわりを持つ。パターン認識能力が高い。
- 適した業務: データ入力・分析、監査業務、品質管理、プログラミング(VBA/SQLなど)、専門性の高いマニュアル作成。
- 合理的配慮: 曖昧な指示を排除し、明確な文書化されたマニュアルでの業務遂行を依頼する。
- ADHDの集中力・瞬発力を活かす:
- 特性: 興味のあることへの過集中、危機的状況や緊急性の高いタスクへの瞬発的な対応力。
- 適した業務: 短期集中型プロジェクト、トラブルシューティング、クリエイティブな企画立案(アイデア出し)、興味関心が持続する専門分野の学習・研究。
- 合理的配慮: マルチタスクを極力避け、シングルタスクに集中できる環境を提供する。定期的な休憩や運動を取り入れることを許可する。
- 企業側のアクション: 人事担当者や上司は、本人の希望と特性を丁寧にヒアリングし、業務の切り出しや再構築(ジョブデザイン)を行うことで、「苦手なこと」で評価を下げるのではなく、「得意なこと」で高い成果を出せる環境を設計します。
- ASDの緻密性・論理性を活かす:
5. まとめ:早期発見と適切な理解のために

本記事では、「なぜ大人になってから発達障害(ADHD・ASD)が判明するのか」という疑問に対し、カモフラージュ(擬態)の限界と二次障害というメカニズムからその理由を解説しました。この知識は、当事者自身の自己理解と、周囲の適切なサポートに繋がります。
記事の要約:二次障害の背後にある発達障害
二次障害の背後には発達障害が隠れている可能性を常に念頭に置くことが重要です。
- 真の原因の究明: うつ病や適応障害は、単なるストレスや疲労の結果ではなく、発達障害の特性と社会環境との間で生じた慢性的な衝突が原因で引き起こされている可能性があります。
- カモフラージュの終焉: 子ども時代に高い知的能力で特性を隠せていたとしても、社会生活の複雑化によりそのエネルギーが枯渇し、心身の限界として二次障害が現れます。診断は、その「生きづらさ」の根源を特定するための第一歩です。
- 希望への転換: 診断が下りた後は、まず二次障害の治療に専念し、心身が安定してから特性を活かせるジョブデザインや合理的配慮を適用することで、特性を「弱み」から「強み」へと転換させる道が開かれます。
読者へのメッセージ:安易な「努力不足」で片付けない
生きづらさを感じた際に、安易に「努力不足」で片付けず、専門機関への相談を促します。
- 自己否定の停止: 長年の「生きづらさ」や「失敗の多さ」を「自分の努力不足」や「性格の欠陥」として責める必要はもうありません。問題は、あなたの「努力」ではなく、あなたの「脳の特性」と「環境」のミスマッチにあったのです。
- 専門家への相談を: もしあなたが「うつ病は改善したのに、仕事のミスや人間関係の困難だけは続く」と感じているなら、それは発達障害の特性が隠れているサインかもしれません。安易に自己判断せず、発達障害の診断に詳しい専門機関(発達障害者支援センター、専門の精神科・心療内科)に相談してください。
次のステップ:行動を起こす
- 自己理解の深化: 自身の特性が「カモフラージュ」で隠されていないか、幼少期の通知表や家族からのフィードバックなどを集め、自己理解を深めましょう。
専門機関の検索: 現在通院している医療機関に対し、「発達障害の二次障害の可能性」について相談し、必要に応じて知能検査(WAIS-IVなど)が可能な専門医や機関を紹介してもらいましょう。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







