2025/12/23
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「ずっと平社員」で終わらせない障害者雇用|キャリアアップを実現する評価制度と、組織を強くする「障害者リーダー」の育成

この記事の内容

はじめに:定着の「その先」へ。障害者社員のモチベーションをどう維持するか

障害者雇用をスタートさせて数年が経過し、無事に定着が進んだ企業が次に向き合うべき壁があります。それは、社員の「成長」と「処遇」のバランスです。

「定着してくれているだけでありがたい」というフェーズを過ぎたとき、現場では「ずっと同じ作業、同じ給与でいいのだろうか?」という疑問が生まれ始めます。一方で、障害者社員本人もまた、自分の仕事が正当に評価され、ステップアップしていく未来を求めています。


長期雇用企業が直面する「キャリアの踊り場」という課題

長年雇用を続けている企業ほど、障害者社員のキャリアが「踊り場」に停滞してしまう傾向があります。

  • 役割の固定化: 「彼はこの作業が得意だから」と、5年、10年と同じ業務を任せ続けてしまう。
  • 評価基準の不在: 障害者雇用枠だからと、昇進や昇給のテーブルから暗黙のうちに除外されている。
  • 周囲の遠慮: 「責任を負わせると負担になるのではないか」という過度な配慮が、本人の成長機会を奪っている。

こうした状態が続くと、組織に「期待されていない」という空気が蔓延し、職場全体が活力を失う原因となります。

「給与が上がらない、役割が変わらない」が招く、優秀層の離職

今、労働市場では「経験のある障害者」の市場価値が非常に高まっています。

特に、今の職場で真面目に働き、スキルを身につけた優秀な人材ほど、「ここではこれ以上の成長は望めない」「給与がずっと横ばいである」と判断した瞬間、キャリアアップを求めて他社へ転職してしまいます。 企業にとっては、多大なコストをかけて教育し、現場の信頼も厚い中核人材を失うという、大きな損失になります。

記事のゴール:障害者社員を「補助的な労働力」から「組織の核」へ育てる仕組みを知る

本記事のゴールは、障害者社員を「単なる手伝い」から「自律した戦力」、さらには「周囲を牽引するリーダー」へと引き上げるための具体的なキャリア設計図を提示することです。

「作業の速さ」だけではない新しい評価の軸、そして障害者社員が後輩を指導する「メンター」としての可能性。愛知の先進的な優良企業が取り入れ始めている、「定着の先にある活躍」を創出するための人事戦略を紐解いていきます。

1.「作業の量」ではなく「責任の範囲」で評価する仕組み

障害者社員の給与を上げる際、多くの現場リーダーが「健常者と同じスピードで作業できないから、評価を上げにくい」というジレンマに陥ります。しかし、キャリアアップの鍵は「速さ」ではなく、仕事の「重み」や「広がり」にあります。


身体・精神の特性により「作業スピード」には限界がある

障害特性によっては、どれほど習熟しても物理的・認知的に作業スピードを上げることが難しい場合があります。

  • 身体的制約: 肢体不自由により、動作の速さには物理的な限界がある。
  • 精神的・知的制約: 疲れやすさ(疲れの自覚のしにくさ)や、丁寧さを優先するあまりスピードが出にくい。

これらを「作業量」だけで評価してしまうと、本人は「いくら頑張っても報われない」と感じ、モチベーションが枯渇してしまいます。

評価軸の転換:手順書の作成、品質チェック、後輩指導を評価対象に

評価の視点を「自分の作業」から「組織への貢献」へと転換しましょう。作業スピードが並であっても、以下のような役割を担うことで市場価値は高まります。

  • 手順書(マニュアル)の整備: 自分が習得したノウハウを言語化し、誰でもできる仕組みを作る。
  • 一次品質チェック: 後輩の成果物を点検し、ミスを未然に防ぐ「ゲートキーパー」の役割。
  • 業務改善の提案: 現場の無駄に気づき、効率化のアイデアを出す。

職能資格制度への組み込み:障害者専用ではない、地続きのキャリアパス

「障害者専用の評価基準」を作ると、かえって壁を作ることになります。 一般社員と同じ職能資格制度の中で、「定型業務のスペシャリスト」や「工程リーダー」といったランクを明確に定義し、そこへ到達するための条件を提示することが重要です。これにより、障害者社員は自分が組織の正当な一員であるという実感を持ち、地続きのキャリアを描くことができます。

「納得感」を生むための、数値化されたフィードバックの工夫

評価への納得感を高めるためには、抽象的な「頑張り」ではなく、事実に基づくフィードバックが不可欠です。

  • スキルの見える化: 「マニュアルなしで遂行できる業務が〇件」「ミス率が〇%以下」といった項目をレーダーチャート化し、次のランクに何が足りないかを視覚的に伝えます。
  • 多面的な評価: 現場のリーダーだけでなく、他部署や支援機関からのフィードバックも交え、「あなたのこの行動が、チームの助けになった」と具体的事実を積み上げます。

2.障害者社員を「指導員(メンター)」として育成するメリット

「障害者社員に教える側を任せるのはまだ早い」と考えていませんか?実は、彼らを指導員(メンター)に抜擢することは、教えられる側だけでなく、組織全体に驚くべきポジティブな変化をもたらします。


最強のロールモデル:新入社員(障害者・健常者問わず)への心理的安全性

新しく入社した障害者社員にとって、同じ障害を持つ先輩がイキイキと働き、自分を指導してくれる姿ほど心強いものはありません。「自分もあんなふうになれる」という「将来の自分」を視覚化できることが、最大の定着支援になります。

また、健常者の新入社員にとっても、障害のある先輩から質の高い指導を受ける経験は、「能力に障害は関係ない」というダイバーシティの本質を肌で感じる機会となり、組織全体の心理的安全性を高めます。

業務の「言語化・標準化」の伝道師としての役割

第2章でも触れた通り、障害者社員は「曖昧な指示」で苦労した経験があるからこそ、「誰にでもわかる説明」を構築する能力に長けています。

  • 教えることで深まる理解: 後輩に教える過程で、本人の業務理解がさらに深まり、曖昧だった手順が再定義されます。
  • マニュアルのブラッシュアップ: 「ここが分かりにくいようです」という指導現場からのフィードバックにより、現場の標準化が加速します。

役職(リーダー・主任)を与えることで生まれる、プロ意識の覚醒

「リーダー」や「主任」という明確な肩書きを与えることは、本人の自覚を劇的に変えます。

  • 「配慮される側」からの脱却: 責任ある立場に就くことで、自身の体調管理や行動に対する意識が「一人のプロフェッショナル」として研ぎ澄まされます。
  • 周囲の視線の変化: 肩書きがあることで、他の社員も彼らを「支援対象」ではなく「頼れる上司・先輩」として正当にリスペクトするようになります。

愛知の製造現場で進む「障害者マイスター」制度の事例

愛知県内の大手製造業やその協力会社では、高度な技術や深い専門知識を持つ障害者社員を「マイスター」として認定する動きが広がっています。 これは、マネジメント(管理職)への道だけでなく、「技術の伝承者」というスペシャリストとしてのキャリアパスを確立するものです。マイスターとして若手を育てる姿は、現場の士気を高める象徴となっています。

3.定年まで生き生きと働いてもらうための、ライフステージ別フォロー

障害者雇用の成功は、入社時のマッチングだけでは決まりません。数十年という長い年月の中で、本人の身体状況やライフステージは変化します。特に、長く勤めてくれる優秀な社員ほど、加齢に伴う変化に企業がどう寄り添うかが、定年まで完走してもらうための鍵となります。


加齢に伴う特性の変化と、二次障害の予防

健常者と同様に、障害のある社員も加齢とともに体力や認知機能の変化を経験しますが、障害特性によってはその変化が顕著に現れる「早期老化」の課題に直面することもあります。

  • 身体的負担の蓄積: 長年の立ち仕事や同じ動作の繰り返しにより、関節痛などの二次的な障害が発生しやすくなります。
  • 精神的な疲れやすさ: 若い頃は気力でカバーできていた対人関係のストレスや環境変化への適応が、40代・50代以降に「疲れやすさ」として表面化することがあります。 企業側は、定期的な面談で「昔はできていたから」という固定観念を捨て、現在のコンディションを把握し続ける必要があります。

40代・50代からの「柔軟な働き方」へのシフト:時短・職種変更の選択肢

「全か無か(フルタイムか退職か)」の二択を迫るのではなく、変化に合わせてグラデーションのある働き方を提示することが、熟練した戦力を手放さないコツです。

  • 勤務時間の調整: 体力の低下に合わせて、週30時間の短時間勤務へ移行する選択肢を用意する。
  • 「体」から「知」への職種変更: 現場でのハードな作業が難しくなったベテラン社員を、前述の「指導員(メンター)」や「データ入力・管理」といった、知識と経験を活かせるデスクワークへ配置転換する。

「期待し続けること」が最大の福利厚生:定年退職まで誇りを持てる環境作り

多くの障害者社員が抱く不安は、「年を取って動けなくなったら、自分はもうこの会社に必要ないのではないか」というものです。

  • 役割の再定義: 体力が落ちても、「あなたにはこの工程の知恵袋として残ってほしい」「新人の教育係としていてほしい」と、その年齢、その状態での期待を言葉にして伝え続けることが重要です。
  • 定年退職という成功体験: 「障害があっても、一つの会社で定年まで勤め上げた」という事実は、本人にとって大きな誇りとなり、その姿は後輩たちにとって何よりの希望となります。

愛知の製造業が培ってきた「人を大切にする文化」を、障害者雇用においても最後まで貫くこと。それこそが、究極の定着支援であり、企業の社会的価値を最も高める取り組みなのです。

4.「活躍」を支える人事評価と面談のアップデート

キャリアアップを絵に描いた餅にしないためには、日常の「人事評価」と「面談」という運用面でのアップデートが不可欠です。「配慮という名の放置」をやめ、適切に背中を押す仕組みを整えましょう。


目標設定(MBO)の個別最適化:本人の強みをどこに張るか

一律の目標設定ではなく、特性に応じた「尖らせるべき強み」にフォーカスした目標(MBO)を立てることが重要です。

  • 強みの最大化: ASD傾向の方なら「ミスの発生率を極限まで下げる」、ADHD傾向の方なら「改善提案を月に2件出す」など、本人が高いモチベーションで取り組める領域を目標に設定します。
  • 「挑戦」の織り込み: 本人が「少し背伸びをすれば届く」範囲の新しいタスクを必ず一つ加えます。これが「自分はまだ成長できる」という実感に繋がります。

家族や支援機関を巻き込んだ、長期的なキャリアビジョンの共有

精神・発達障害の方や、将来の自立を目指す方にとって、会社・本人・支援者の「三者」でビジョンを共有することは、安定した活躍に大きく寄与します。

  • ライフプランとの連動: 「3年後には一人暮らしをしたいから、給与をここまで上げるためにこのスキルを習得しよう」といった、生活面と仕事面の目標を合致させます。
  • 情報の共有: 定期的な面談に支援機関の担当者を同席させることで、会社側が気づけない本人の「将来の不安」を早期にキャッチし、キャリア形成の阻害要因を取り除けます。

評価者(現場管理職)への教育:バイアスを外し「一人のビジネスパーソン」として見る

評価を行う現場の管理職が、「障害者だからこの程度で十分」というアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を持っていては、真の活躍は生まれません。

  • フラットな視点: 障害による制約は「合理的配慮」で埋めつつ、仕事の成果に対しては一人のビジネスパーソンとして、厳しくも温かい視点でフィードバックを行うトレーニングが必要です。
  • フィードバックの質: 「頑張っているね」という抽象的な声かけではなく、「あなたのこの作業手順のおかげで、後工程の生産性が5%上がった」と、組織への貢献度を論理的に伝える教育を行います。

5.まとめ:障害者社員の成長は、組織全体の「多様性」の成熟度を物語る

障害者雇用において、昇進や昇給の話をすることは、かつてはタブー視されることさえありました。しかし、真のインクルージョン(包摂)とは、単に席を用意することではなく、その人が組織の中で一人のプロフェッショナルとして、どこまで高みに登れるかを共に模索することに他なりません。


結論:キャリアの階段を用意することが、最強の定着戦略である

「辞めないこと」を目的にした配慮は、時として本人の成長を止める「停滞」を招きます。一方で、「成長すること」を目的にしたキャリア設計は、本人に強い帰属意識と誇りを与えます。

  • 「必要とされている」実感:役割がアップデートされ、責任の範囲が広がることは、どんな福利厚生よりも本人のモチベーションを支えます。
  • 組織への好循環:障害者社員がリーダーとして活躍する姿は、周囲の社員に「個性を活かして働くこと」の真意を伝え、組織全体のレジリエンス(しなやかな強さ)を高めます。

メッセージ:障害があるからと限界を決めず、共に未来を創るパートナーへ

愛知の企業がこれまで築き上げてきた「ものづくり」や「サービス」の精神は、一人ひとりの可能性を信じ抜くことから始まっています。障害者雇用も同じです。

「障害があるから、この仕事は無理だろう」「昇進は負担だろう」と、周りが勝手に限界を決めてはいけません。適切な環境(合理的配慮)という「道具」さえあれば、彼らは驚くほどの成長を見せ、やがては貴社の未来を支えるかけがえのないパートナーへと進化します。

「ずっと平社員」ではなく、それぞれの特性を活かした「その人らしいリーダー」へ。そんな未来を創る挑戦を、今日から始めてみませんか。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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