2025/12/27
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【2024・2026年改正対応】障害者雇用の納付金・助成金の仕組み|雇用率引き上げの「コスト増」を賢く相殺する経営戦略

この記事の内容

はじめに:進む法定雇用率の引き上げ。経営への影響を正しく把握する

「また雇用率が上がるのか……」。多くの経営者や人事担当者が、溜息とともにこのニュースを受け止めているのではないでしょうか。

しかし、この法改正を単なる「コスト増」と捉えるか、それとも「助成金を活用した組織強化のチャンス」と捉えるかで、数年後の企業の財務状況と採用力には大きな差がつきます。


2024年4月「2.5%」、2026年7月「2.7%」への段階的シフト

日本の障害者雇用施策は、今まさに大きな転換期にあります。法定雇用率は2024年4月に「2.5%」へと引き上げられ、さらに2026年7月には「2.7%」へと段階的にアップすることが決まっています。

これは、かつてないスピードと上げ幅です。これまでの「数人雇えば済む」という段階から、「組織的な受け入れ体制を構築し、経営戦略に組み込まなければならない」フェーズへと突入したことを意味します。

対象企業の拡大:従業員「37.5人以上」の企業は他人事ではない

雇用率の引き上げに伴い、障害者を1人以上雇用する義務が生じる企業の範囲(対象となる従業員数)も広がります。

  • 2024年4月〜:従業員 40.0人以上 の企業
  • 2026年7月〜:従業員 37.5人以上 の企業

これまで「うちは中規模だからまだ関係ない」と考えていた企業も、法的な義務と、未達成時の経済的ペナルティのリスクに直面することになります。

本記事の結論:納付金を「罰金」で終わらせず、助成金を「投資」に変える

未達成のまま「障害者雇用納付金」を支払い続けることは、経営上、何のリターンも生み出さないキャッシュの流出です。いわば「守りのコスト」です。

しかし、国の助成金制度を戦略的に活用すれば、採用コストや教育のリソースを大幅に補填しながら、人手不足の解消や現場の業務効率化(職域開拓)を進めることが可能です。本稿では、法改正を「負担」で終わらせないための、具体的で「実利」のある経営シミュレーションを提示します。

1.「障害者雇用納付金」の仕組み:未達成がもたらす実質的なキャッシュアウト

「障害者雇用はお金がかかる」というイメージがありますが、実は「雇用しないこと」による経済的な損失も無視できません。まずは、未達成企業に課されるペナルティの正体を正しく理解しましょう。


1人未達成につき「月額5万円」の納付義務(常用雇用100人超の企業)

常用労働者が100人を超える企業において、法定雇用率に1人不足するごとに、年間で60万円(月額5万円)の「障害者雇用納付金」を支払う義務が生じます。

  • 例:3人不足している場合:年間で180万円の支払い。
  • 例:10人不足している場合:年間で600万円ものキャッシュが、何のリターンもなく社外へ流出します。

これは単なる事務的な数字ではなく、営業利益を直接的に削る大きなコストです。

納付金は損金算入できない?税務上の注意点

経営者にとってさらに厳しいのが、この納付金の税務上の扱いです。 障害者雇用納付金は、法人税法上の「損金(経費)」として認められません。つまり、「法人税を支払った後の利益から支払わなければならないお金」なのです。

100万円の納付金を支払うためには、実質的にそれ以上の利益を上げなければならない計算になります。この「見えない重み」が、経営における納付金支払いの最大のリスクといえます。

雇用率達成企業に支払われる「調整金・報奨金」のメリット

一方で、法定雇用率を超えて障害者を雇用している企業には、国から「ご褒美」としての給付金が支払われます。

  • 障害者雇用調整金(常用雇用100人超の企業): 定員を超えて雇用している障害者1人につき、月額2万9,000円が支給されます。
  • 障害者雇用報奨金(常用雇用100人以下の企業): 一定数を超えて雇用している場合、1人につき月額2万1,000円が支給されます。

つまり、未達成から達成へと転換するだけで、1人あたり年間60万円の「支出」が止まり、さらには「収入」へと転じる可能性があります。この差額こそが、障害者雇用に取り組むべき「実利的な理由」のひとつです。

2.コスト増を相殺する「3つの主要助成金」を使い倒す

「納付金を払うくらいなら雇用したいが、給与や教育にかかるコストが心配だ」という経営者の不安を解消するのが助成金制度です。これらは「知っているか、知らないか」だけで、初年度の収支が数百万円単位で変わります。


①特定求職者雇用開発助成金:採用時の給与負担を大幅に軽減

ハローワーク等の紹介により、障害者を継続して雇用する場合に受給できる、最も代表的な助成金(通称:特開金)です。

  • 支給額の目安: 対象者の障害種別や企業規模によりますが、中小企業が重度障害者等をフルタイムで雇用した場合、最大240万円(3年間合計)が支給されます。
  • 経営的メリット: 採用後1〜2年間の給与原資の多くを国が補助してくれる形になるため、本人が業務に慣れるまでの「育成期間」の赤字リスクを極めて低く抑えることができます。

②障害者雇用安定助成金:職場定着のための指導員コストを補填

障害者雇用で最もコストがかかるのは、実は「教える人の人件費」です。この助成金(中核人材育成コース等)は、社内に支援の専門知識を持つ人材を育成したり、外部のジョブコーチを招いたりする際の費用をサポートします。

  • 「教える側」への投資: 既存社員が「障害者職業生活相談員」などの資格を取得するための講習費用や、その間の賃金の一部が助成されます。現場の負担を「仕組み」で解決するための軍資金となります。

③障害者作業施設設置等助成金:設備改修や備品購入の「最大3/4」を助成

「車椅子用のスロープを作らなければならない」「視覚障害の方のために特殊なソフトが必要だ」といった、受け入れ環境の整備にかかる一時的な支出をカバーします。

  • 対象の広さ: 意外と知られていないのが、作業を効率化するための「専用の治具(じぐ)」や、パニックを防ぐための「防音パーテーション」なども対象になり得ることです。
  • 助成率: 対象経費の3/2(大企業は1/2)、最大で数千万円規模(施設設置の場合)の助成が受けられるケースもあり、初期投資の心理的障壁を劇的に下げてくれます。

これらの助成金は「申請しなければ1円ももらえない」ものです。まずは自社がどのステージの助成を受けられるか、ロードマップを引くことが重要です。

3.【2024年新設】「除外率」の引き下げと「短時間雇用」の算定変更

今回の法改正で最も注目すべきは、単なる「率」の引き上げだけではありません。算定ルールの変更により、これまで「障害者雇用はハードルが高い」と感じていた企業にとって、非常に有利な選択肢が増えたという側面があります。


除外率設定業種への影響:これまで免れていた企業も対策が急務に

建設業、運輸業、医療・介護など、業務の特性上、障害者の雇用が難しいとされる特定の業種には「除外率(雇用義務を一部免除する仕組み)」が適用されてきました。しかし、この除外率が2025年4月から一律10ポイント引き下げられます。

  • 影響: 「うちは除外率があるから大丈夫」と構えていた企業も、一気に「不足人数」が発生する可能性があります。早急に現時点での算定をやり直し、不足分のシミュレーションを行う必要があります。

週10時間以上20時間未満の「特定短時間労働者」が0.5人カウントへ

2024年4月から始まった画期的な変更が、「超短時間雇用」の算定化です。 これまでは週20時間以上の勤務でなければ「0.5人」としてカウントされませんでしたが、新制度では週10時間以上20時間未満の労働者も「0.5人」として算定できるようになりました。

  • : 週10時間(1日2時間を週5日、または週2日勤務など)の社員を2人雇えば、それだけで「1人分」の法定雇用率を達成できます。

短時間雇用の活用が、採用コストと教育リスクを最小化する

この制度改正は、企業にとって大きなリスクヘッジになります。

  • 採用のハードル低下: フルタイムの戦力を探すのは困難ですが、「週10時間の軽作業」であれば、マッチングの母集団は一気に広がります。
  • ミスマッチの防止: 最初は「週10時間」からスタートし、本人の体調やスキルに合わせて徐々に時間を延ばしていく(20時間超えれば1人カウントへ)といった、段階的な戦力化が可能です。

「いきなりフルタイムで雇って、パニックや体調不良が起きたらどうしよう」という経営者の不安に対し、この短時間算定は非常に現実的な解決策を提示してくれています。

4.「コスト」を「投資」に変えるためのシッセレーション

障害者雇用を検討する際、単年度の予算だけを見るのは危険です。経営判断として必要なのは、長期的な「キャッシュフローの推移」と、その投資が生み出す「付加価値」の可視化です。


納付金を払い続ける「10年間の総額」を計算してみる

「1人あたり月5万円」という数字は、単体では小さく見えるかもしれません。しかし、これを「10年間の固定費」として捉え直すと、驚くべき金額になります。

  • 1人不足の場合:年間60万円 × 10年 = 600万円
  • 5人不足の場合:年間300万円 × 10年 = 3,000万円

前述の通り、納付金は損金算入ができないため、この金額は「純利益」から削り取られる額です。3,000万円の利益を生むために必要な売上高を考えれば、納付金を払い続けることがいかに経営効率を下げているかが分かります。

助成金を活用した「雇用支援チーム」構築の損益分岐点

助成金を活用すれば、この「流出」を「社内リソースの蓄積」に変換できます。

  • 例:障害者2名を新規採用し、指導員1名を配置した場合
    • プラス面:特開金(最大240万円/人)+納付金120万円の免除。
    • マイナス面:新規雇用の賃金+指導員の手当。

初年度から2年目にかけて、助成金によって人件費の大部分がカバーされるため、実質的な「持ち出し」がほぼゼロ、あるいはプラスの状態で雇用体制を整えることが可能です。この期間に業務フローを確立できれば、助成期間終了後には「安定した戦力」が手元に残る計算になります。

障害者雇用による「生産性向上」がもたらす見えないリターン

最も大きなリターンは、実は決算書に直接表れない「業務の棚卸し効果」にあります。

障害のある方が働きやすい環境を作るために業務を切り出し、マニュアル化する過程で、それまで属人化していた「無駄な工程」や「曖昧な指示」が次々と浮き彫りになります。

  • コア業務への集中:定型的な付随業務を障害者雇用枠へ移行することで、既存社員がコア業務に割ける時間が10〜20%増加したという事例も少なくありません。
  • 離職率の低下:誰にとっても分かりやすい職場環境(ユニバーサルデザイン)が整うことで、若手社員や育児・介護中の社員の定着率も向上します。

5.実務上の落とし穴:助成金申請の「タイミング」と「複雑さ」

助成金は、ただ「雇えばもらえる」という性質のものではありません。非常に厳格な期日管理と、事前の環境整備が求められます。ここでつまづくと、本来受給できるはずの数百万円を逃すことになりかねません。


採用「前」に準備が必要な書類と認定手続き

多くの助成金において、最大の落とし穴は「採用してからでは間に合わない手続きがある」という点です。

  • 求人票の出し方: 例えば「障害者トライアル雇用助成金」を利用する場合、ハローワークに「トライアル雇用専用の求人」として出しておかなければ対象外となります。
  • キャリアアップ計画書: 正社員化を目指す「キャリアアップ助成金」を活用する場合、雇入れの前日までに「計画書」を労働局に提出し、受理されている必要があります。
  • 事前の内定禁止: 助成金によっては、ハローワーク等の紹介前に内定を出してしまっていると「雇用の困難性が低い」とみなされ、不支給となるケースがあります。

支給要件の変更をどう追いかけるか?

助成金制度は、毎年のように要件が変更されます。2025年4月からは「雇用管理事項報告書」の提出が不要になるなど、簡素化される部分もあれば、新たな支給コースが新設されることもあります。

  • 申請期限は「1日」の遅れも許されない: 支給申請期間は「対象期間終了から2ヶ月以内」などと決まっており、これを過ぎると一切受け取れません。
  • 不支給リスクの排除: 過去1年以内に会社都合の解雇(リストラ)を行っていると、多くの助成金が受給できなくなります。社内の人事異動や退職勧奨の状況も、申請に直結する重要なファクターです。

外部の専門家(社労士・コンサルタント)を活用するコスト対効果

助成金の手続きは極めて煩雑であり、人事担当者が本来の業務(採用や教育)に割くべき時間を奪ってしまうことが多々あります。

  • 成功報酬の相場: 支給額の15%〜25%程度が一般的ですが、納付金(年間60万円)の回避と、数百万の受給を確実にするための「保険料」と考えれば、十分に投資価値があります。
  • 戦略的アドバイス: 単なる代行だけでなく、「貴社の今の体制なら、この助成金とこの制度を組み合わせるのがベストです」というプロの提案を受けることが、実質的なキャッシュフローの最大化に繋がります。

6.まとめ|法改正を「負担」ではなく「組織変革」のチャンスに

2024年、2026年と続く法定雇用率の引き上げは、企業にとって避けられない経営課題です。しかし、ここまで見てきた通り、この変化は単なる「コストの増加」を意味するものではありません。


総括:正しい知識があれば、障害者雇用は「経営の安定」に寄与する

障害者雇用を「守りのコスト(納付金)」として放置するか、「攻めの投資(助成金と戦力化)」として活用するか。その差は、数年後のキャッシュフローだけでなく、組織の「レジリエンス(復元力)」に大きく影響します。

  • 経済的合理性: 納付金を払い続ける「10年で3,000万円」のリスクを、助成金を活用した「持ち出しほぼゼロ」の雇用体制に変換できます。
  • 人材不足への解: 週10時間からの「特定短時間雇用」を活用することで、労働力不足が深刻な現代において、新しい労働力層を確実に確保できます。
  • 組織のブラッシュアップ: 障害のある方が働ける環境を整えるプロセスは、結果として「全社員にとっての生産性向上」と「無駄な業務の排除」に直結します。

最後に:貴社専用の「コスト最適化・雇用シミュレーション」を作成します

「今のうちの従業員数だと、いつまでに何人雇う必要があるのか?」「具体的にどの助成金がいくらもらえるのか?」

法改正のスケジュールや複雑な算定ルールを前に、不安を感じる必要はありません。私たちは、貴社の最新の雇用データに基づいた「障害者雇用コスト最適化シミュレーション」の作成をサポートしています。

現在の「不足人数」によるキャッシュアウトを可視化し、それを最小化するための具体的な採用・助成金活用プランをご提案します。制度を味方につけ、誰もが力を発揮できる強い組織作りを、今から一緒に始めませんか。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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