2025/12/29
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離職を防ぐ「30分面談」の魔法|精神障害のある社員が長く活躍するための伴走術

この記事の内容

はじめに:なぜ障害者雇用において「面談」が命綱となるのか

「入社直後は元気に働いていたのに、数ヶ月でパタリと来なくなってしまった」。 障害者雇用の現場で繰り返されるこの悲劇は、決して「本人のやる気」の問題ではありません。実は、日々の小さな「困りごと」や「違和感」が積み重なり、ダムが決壊するように限界を超えてしまった結果なのです。


精神障害の離職原因1位は「職場の人間関係・配慮の不足」

厚生労働省の調査等を見ても、精神障害のある方の離職理由の多くは「仕事内容の不一致」以上に「職場での配慮やコミュニケーション不足」にあります。

彼らの多くは、周囲に迷惑をかけまいと「無理をして適応しようとする」傾向があります。「これくらいは自分で解決しなきゃ」「配慮をお願いするのは申し訳ない」と自分を追い込んでしまう。そのため、表面上は問題なくこなしているように見えても、内側では深刻な疲弊を抱えていることが少なくありません。

「異変」に気づいてからでは、もう遅い

遅刻や欠勤が増え、明らかに様子がおかしいと誰の目にもわかるほど「異変」が顕在化した時には、本人のメンタルはすでに「修復困難なレベル」に達していることがほとんどです。この段階から面談をしても、本人の心はすでに職場から離れてしまっています。

定着支援の本質は、火を消すことではなく、「火種を見つけて、大きくなる前に取り除くこと」。つまり、何も起きていない時にこそ対話が必要です。

本記事の結論:仕組みとしての「定点観測」が定着率を分ける

本人が「助けて」と言い出すのを待つのではなく、会社側がスケジュールとして定期的に状況を確認する「定点観測」の場を設ける。これが、離職を防ぐ唯一にして最強の方法です。

本稿では、多忙な現場マネージャーでも実践できる、効率的かつ効果的な「30分面談」のメソッドを具体的に解説します。

1.定着率を高める面談の鉄則:3つの「しない」

定期面談において、マネージャーが陥りがちな罠は「面談を業務の指導の場」にしてしまうことです。しかし、定着支援を目的とするならば、通常の1on1とは異なる「3つの鉄則」を守る必要があります。


1. 説教を「しない」:言い訳を封じると本音が見えなくなる

面談中に「ミスを繰り返さないようにして」「もっと主体的に動いて」といった説教(強い指導)が始まると、本人は「怒られないための回答」しかできなくなります。

  • 本音を引き出す: 本人が「実は最近、朝起きるのが辛くて……」と漏らしたとき、「気合が足りない」と一蹴すれば、二度と本当の体調不良は申告されません。
  • スタンス: 「どうすればあなたが働きやすくなるか」を一緒に考えるパートナーとしての姿勢を徹底します。

2. 解決を急が「ない」:まずは「聞いてもらえた」という安心感を

マネージャーは、課題を聞くとすぐに「じゃあこうしよう」と解決策を提示したくなります。しかし、精神的な不安を抱える方にとって、まずは「自分の苦しさが正確に伝わった」という実感が、解決策そのものよりも重要です。

  • 受容と共感: 「それは大変でしたね」「そう感じていたんですね」と、まずは受け止める。解決策の検討は、本人の心が落ち着いてからでも遅くありません。

3. 長時間をかけ「ない」:お互いに負担にならない「30分」の設計

「丁寧な面談をしよう」と1時間を超える面談を行うのは、お互いにとって逆効果です。

  • 疲労の防止: 精神障害や発達障害のある方にとって、1時間の対話は非常に神経を使う「激務」になります。疲労困憊してしまっては意味がありません。
  • 持続可能性: マネージャーにとっても、1時間確保するのは負担です。「30分で、決まった項目を確認するだけ」とルール化することで、忙しい時期でも欠かさず継続できるようになります。

「短時間で、否定せず、ただ聞く」。このシンプルな繰り返しが、強固な信頼の土台(心理的安全性)を築きます。

2.これだけは聞きたい!面談で使える「魔法の5項目」

「何を話せばいいかわからない」という不安を解消するために、面談の軸となる5つの項目を設定しましょう。これらを毎回定点観測することで、小さな変化にいち早く気づくことができます。


項目1:体調と睡眠のサイクル(セルフケアの確認)

精神障害や発達障害のある方にとって、体調のバロメーターは「睡眠」に現れます。

  • 確認内容: 「よく眠れていますか?」「朝、スッキリ起きられていますか?」
  • 狙い: 睡眠不足はメンタル悪化の予兆です。ここで「実は最近寝付けなくて…」という言葉が出たら、業務量を調整するなどの予防策を講じるサインとなります。

項目2:業務の量と質のミスマッチ(過重労働の防止)

本人が「大丈夫です」と言っていても、実際にはキャパシティを超えていることがよくあります。

  • 確認内容: 「今の仕事量で、心身に余裕はありますか?」「手順で迷っている業務はありませんか?」
  • 狙い: 余裕のなさを数値や具体例で聞き出すことで、本人がパンクする前にタスクの再配分(切り出しの調整)ができます。

項目3:合理的配慮の再調整(環境に変化はないか)

入社時に決めた配慮事項が、今の現場でも最適とは限りません。

  • 確認内容: 「今の席の周りの音や光はどうですか?」「指示の出し方で、もっとこうしてほしい、という希望はありますか?」
  • 狙い: 季節による光の入り方や、周囲のメンバーの入れ替わりによる環境変化に合わせた「配慮のアップデート」を行います。

項目4:人間関係のモヤモヤ(早期の火消し)

離職の引き金になる人間関係の悩みは、早めにキャッチする必要があります。

  • 確認内容: 「最近、チームの人とやり取りする中で、気になっていることはありますか?」
  • 狙い: 「ちょっと言い方がきつくて怖い」「誰に聞けばいいかわからず困った」といった小さなトゲを抜き、大きなトラブルに発展するのを防ぎます。

項目5:中長期的なキャリアの希望(モチベーション維持)

「自分は期待されている」と感じることが、仕事への定着意欲に直結します。

  • 確認内容: 「今後、やってみたい業務はありますか?」「身につけたいスキルはありますか?」
  • 狙い: 単純作業の繰り返しに飽きや虚無感を感じていないかを確認し、少しずつステップアップの機会を提示して意欲を維持します。

3.現場マネージャーが使いこなすべき「聴く技術」

面談の項目が準備できていても、相手が口を閉ざしてしまっては意味がありません。特に精神障害のある方は、相手の反応に敏感で「こんなことを言ったら迷惑かも」と自分を律しがちです。本音を引き出し、安心感を与えるための「聴く技術」を磨きましょう。


「オープン・クエスチョン」で本音を引き出すコツ

「はい」「いいえ」で答えられる質問(クローズド・クエスチョン)ばかりだと、面談は「尋問」のようになってしまいます。

  • 具体例: 「仕事は順調ですか?」ではなく、「今の仕事の進み具合はどう感じていますか?」と問いかけます。
  • メリット: 相手の言葉で語ってもらうことで、マネージャーが予想もしていなかった課題(例:実はマニュアルの3ページ目の手順が分かりにくい、など)が見えてくるようになります。

否定せずに「要約」して返すミラーリングの安心感

相手が話した内容をそのまま、あるいは短くまとめて返す技術を「ミラーリング(要約)」と呼びます。

  • 手法: 「作業が多すぎて焦ってしまうんですね」「上司の指示が人によって違うので、困っているということですね」と、相手の言葉を繰り返します。
  • 効果: 自分の言ったことが正確に理解されたと感じると、人は「この人は味方だ」という深い安心感を抱きます。アドバイスをするのは、このプロセスで十分に信頼を構築してからです。

表情や声のトーンから「非言語メッセージ」を読み取る

精神障害のある方は、言葉では「大丈夫です」と言っていても、体調や感情が「非言語(表情やしぐさ)」に漏れ出ていることが多々あります。

  • チェックポイント:
    • 視線が合わない、あるいは泳いでいる
    • 声が小さくなっている、または異様に早口
    • 顔色が悪い、あるいは表情が硬い
  • 対応: 「言葉では大丈夫と言っているけれど、少しお疲れのように見えますが、どうですか?」と、見たままの印象を優しく伝えてみてください。これがきっかけで、堰を切ったように本音が溢れ出すこともあります。

4.面談結果を「合理的配慮のアップデート」に繋げる

面談で最も大切なのは「話を聞いた後」の行動です。本人が勇気を出して伝えた困りごとが放置されれば、信頼関係は一気に崩れてしまいます。面談を実務の改善に直結させる仕組みを整えましょう。


面談は「やりっぱなし」にしないことが最重要

面談で出た課題に対し、「いつまでに」「誰が」「どう対応するか」を明確にします。

  • クイック・レスポンス: 「机にパーティションを置く」「マニュアルにフリガナを振る」といった小さな改善は、可能な限りすぐに行いましょう。
  • 経過報告: すぐに解決できない問題でも、「今、部長に相談しているよ」「来月の予算で検討するね」と進捗を伝えるだけで、本人は「無視されていない」と安心できます。

「配慮事項一覧」を更新し、チームで共有する仕組み

合理的配慮は固定されたものではなく、常に変化するものです。面談の結果を「合理的配慮・管理シート」へ反映し、現場の共通認識をアップデートしましょう。

  • 情報のアップデート: 「耳栓の使用を許可した」「指示は必ずテキストで送ることにした」など、決定事項を記録します。
  • チームへの周知: 本人のプライバシーに配慮しつつ、「チームとしてどのようなサポートをするか」を周囲のメンバーにも共有します。これにより、現場での「なぜあの人だけ?」という不公平感や誤解を防ぐことができます。

産業医やジョブコーチなど、外部専門家へ繋ぐタイミング

面談を通じて「これは社内だけでは解決できない」と感じる兆候があれば、速やかに専門家の力を借ります。

  • アラートの目安:
    • 睡眠や食事が全く取れていない
    • 業務と関係のない強い被害妄想や、希死念慮(死にたい気持ち)を口にする
    • 数週間にわたって体調が回復せず、遅刻・欠勤が続く
  • 連携のメリット: 産業医や、ハローワーク等に在籍する「ジョブコーチ」は、医学的・客観的な視点からアドバイスをくれます。マネージャーが一人で「抱え込まない」ことが、共倒れを防ぐ最大の防御策です。

5.事例:月1回の短時間面談で「離職率ゼロ」を実現したチーム

ある物流会社の事務部門では、かつて精神障害のある社員の離職率が50%を超えていました。現場マネージャーは「忙しくて個別のケアまで手が回らない」と嘆いていましたが、ある「仕組み」を導入してから2年間、離職者ゼロを継続しています。


「忙しくて面談できない」という言い訳をどう打破したか

当初、現場からは「毎月面談なんて無理だ」という反発がありました。そこで、このチームが取った戦略は「面談のルーチン化とサンクコストの排除」でした。

  • カレンダーの固定: 毎月第3水曜日の午後は「定着支援の日」と決め、あらかじめ半年分の予定を共有カレンダーに入れました。
  • 「ついで」の活用: 改まって会議室を予約するのではなく、作業の合間に「ちょっと15分、外の空気を吸いながら話そうか」と、散歩やコーヒー休憩を兼ねたリラックスした形式も許可しました。
  • 意識の変革: 「トラブルが起きてから数時間対応するより、月1回15分の予防の方が、結果として自分の時間が守られる」というメリットをマネージャー層に徹底したのです。

面談シートの導入で、上司のスキルに関わらず質が安定した話

「何を話せばいいかわからない」「相手を傷つけそうで怖い」という上司側の不安を解消したのが、1枚の「面談ナビゲーションシート」でした。

  • 標準化のメリット: シートには、前述した「魔法の5項目」がチェックリスト形式で並んでおり、上司はその項目に沿って質問するだけで済みます。これにより、上司のコミュニケーション能力に依存せず、必要な情報の吸い上げが可能になりました。
  • 「変化」の可視化: 前回、前々回のシートと比較することで、「最近、睡眠の項目が『○』から『△』に落ちているね」と、本人も気づかない微細な変化を数値的に指摘できるようになりました。

この「仕組み化」によって、属人的な「頑張り」に頼らない、持続可能な定着支援がチームの文化として根付いたのです。

6.まとめ|伴走とは、同じ歩幅で歩き続けること

障害者雇用の定着支援は、短距離走ではなくマラソンです。それも、本人が全力で走るのを後ろから急かすのではなく、横に並んで、時には速度を落としながら歩む「伴走」の姿勢が求められます。


総括:面談は「課題解決」ではなく「信頼構築」の場

定期面談の真の価値は、その場ですべての問題を解決することではありません。「何かあった時に、この人は必ず話を聞いてくれる」という確かな信頼のパイプを繋ぎ続けることにあります。

  • 心理的安全性の醸成: 毎月の対話を通じて「ここでは弱音を吐いても大丈夫だ」という安心感が育てば、本人は自ずとセルフケアの意識を高め、自律的に働けるようになります。
  • 組織の成長: 障害のある社員が働きやすい環境は、実は子育て中の社員や介護を抱える社員にとっても働きやすい環境です。面談を通じた改善の積み重ねは、貴社全体のエンゲージメント向上に直結します。

最後に:定着率を改善する「面談シート配布&メンター研修」のご案内

「面談が大事なのはわかったが、現場に浸透させる自信がない」 「精神障害のある社員への具体的な声掛けの仕方を、チーム全員で学びたい」

そのような企業様に向けて、私たちは現場ですぐに使える「魔法の30分面談シート」の配布と、管理職向けの「メンター(伴走者)育成研修」を提供しています。

離職を「本人の特性」のせいで片付けてしまう前に、まずは「仕組みとしての対話」を導入してみませんか。一人の離職を防ぐことは、新しい一人を採用する以上の価値とコスト削減を貴社にもたらします。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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