2025/12/30
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障害者雇用の「言い過ぎ」と「言わなすぎ」を防ぐ!適切なフィードバックの伝え方

この記事の内容

はじめに:指導の迷いは「配慮」と「甘やかし」の混同から始まる

障害者雇用の現場を預かるマネージャーが、日々最も神経を削るのが「指導の加減」です。「ミスを厳しく注意してメンタルを崩されたらどうしよう」という不安と、「いつまでも同じ間違いを許していては業務が回らない」という焦燥感。この板挟みに遭い、結局「何も言わない(言えない)」という選択をしてしまうケースが少なくありません。

しかし、この迷いの根源は、「合理的配慮」と「甘やかし」の境界線が曖昧であることにあります。ここを明確に定義できない限り、指導は常に「腫れ物に触るような」不安定なものになってしまいます。

現場マネージャーの苦悩:腫れ物に触るような対応が招く組織の不全

現場のリーダーが「言わなすぎ(過剰な遠慮)」に陥ると、職場には目に見えない歪みが生じ始めます。

周囲の不公平感: 「なぜあの人だけミスをしても叱られないのか」という不満が他の社員に蓄積し、チームの士気が低下します。

本人の停滞: 適切なフィードバックが得られない本人は、自分の課題に気づく機会を奪われ、スキルアップが止まってしまいます。

「戦力外」扱いの定着: 期待されないことで重要な仕事が振られなくなり、結果として「いてもいなくても同じ」という冷ややかな空気が職場に流れるようになります。

こうした「優しさという名の放置」は、組織にとっても本人にとっても、最も避けるべき事態です。

障害者雇用におけるフィードバックの目的は「排除」ではなく「定着」

そもそも、なぜ私たちは部下にフィードバックを行うのでしょうか。一般的な雇用であれば「成果への貢献」が主目的ですが、障害者雇用においてはもう一つの重要な側面があります。それは「職務への適応と定着」です。

障害のある社員は、自分の特性ゆえに「どこが標準からズレているか」を客観的に把握しにくい場合があります。フィードバックは、彼らにとっての「社会的な鏡」であり、職場というコミュニティで長く、安定して働き続けるためのガイドラインなのです。

「注意すること」を「攻撃」ではなく、相手をプロとして尊重し、共に長く働くための「誠実なサポート」であると再定義する必要があります。

本記事の結論:「基準」を明確にし、「伝え方」を型にするだけで指導は劇的に楽になる

指導の迷いを断ち切るために必要なのは、マネージャー個人の人格や我慢強さではありません。

「何を良しとするか」という成果基準の明確化

「どう伝えるか」というコミュニケーションの型化

この2点さえ押さえれば、指導は「感情的な衝突」から「建設的な課題解決」へと変わります。本記事では、精神障害・発達障害といった特性を考慮しつつも、組織としての規律を保つための具体的なメソッドを解説していきます。

1.なぜ「言い過ぎ」と「言わなすぎ」はどちらも危険なのか

指導のさじ加減を間違えることは、単に「気まずい」だけでは済まないリスクを孕んでいます。マネジメントにおける「両極端」が招くリスクを再確認しましょう。

【言い過ぎのリスク】二次障害の誘発と、心理的安全性の完全な喪失

精神障害や発達障害のある方は、過去に否定的な評価を積み重ねてきた経験から、自己肯定感が低くなっているケースが多々あります。

二次障害の引き金: 強い言葉での叱責は、うつ症状の悪化やパニックを引き起こし、そのまま休職・離職に直結するリスクがあります。

萎縮によるパフォーマンス低下: 「また怒られるのではないか」という恐怖心が脳のリソースを奪い、普段ならできるはずの判断ミスを誘発します。

【言わなすぎのリスク】「期待されていない」という疎外感と、周囲の不公平感の爆発

一方で、「言わなすぎ」もまた、本人のプライドを深く傷つけます。

プロ意識の欠如: 「自分は配慮されるべき存在だ」という甘えを生んでしまい、職業人としての自立を妨げます。

チームの崩壊: 現場の社員が「あの人のフォローはもう限界だ」と声を上げた時には、すでに手遅れ(人間関係の修復不可能)である場合がほとんどです。

2.「合理的配慮」と「わがまま(甘やかし)」の境界線をどこに引くか

マネージャーが最も自信を持って判断すべきポイントは、ここです。結論から言えば、「仕事の『やり方』は柔軟に変えるが、仕事の『基準(ゴール)』は変えない」のが鉄則です。

業務遂行に必須の「成果物」の基準は下げないのが鉄則

「障害があるから、資料の誤字脱字が多くても仕方ない」と諦めるのは、合理的配慮ではありません。それは単なる業務品質の低下です。

プロとしての要求: 顧客に出す資料、社内の正確なデータ入力など、業務として譲れないライン(合格点)は障害の有無に関わらず一定であるべきです。ここを下げてしまうと、その社員を「戦力」と呼ぶことはできなくなります。

「プロセス(やり方)」への配慮と、「ゴール(結果)」へのコミットメント

境界線を引くコツは、「ゴールに到達するための手段」を配慮の対象にすることです。

合理的配慮: 「正確な資料を作る(ゴール)」ために、「チェックリストを導入する」「ダブルチェックの時間を確保する(やり方)」ことを認める。

甘やかし: 「正確な資料を作るのは大変だから、間違っていてもいいよ」と免除する。

境界線を決めるキーワードは「就業規則」と「合意された配慮事項」

迷ったときは、入社時に結んだ「合理的配慮に関する合意書」や、社内の「就業規則」に立ち返りましょう。 「朝起きられないから遅刻を認めてほしい」という要望に対し、合意書に「時差出勤の活用」があればそれは配慮ですが、何の説明もなく遅れてくることを許容するのは、ルール違反の黙認(甘やかし)に当たります。

基準を個人の感情で動かさない。これが、公平な指導の第一歩です。

3.【実践術】関係性を崩さないフィードバックの3ステップ

精神・発達障害のある社員は、言葉の裏側にある「意図」を読み取るのが苦手だったり、逆に他人の感情を過剰にキャッチしてパニックになったりする傾向があります。そのため、フィードバックは感情論を排し、極めてロジカルな「型」に沿って行うのが最も安全で効果的です。


ステップ1:事実(Fact)のみを切り出す:感情を排除した現状の共有

指導の際、多くのマネージャーは「また間違えたの?」「最近だらけていないか?」といった主観的な評価から入りがちです。しかし、これは本人に「攻撃された」という防御本能を働かせてしまいます。

  • ビデオカメラに映る事実だけを伝える: 「今週、提出期限を1時間過ぎたことが2回ありました」「この入力フォームに、3箇所の入力漏れがありました」など、数字や状態として誰もが否定できない「事実」だけを提示します。
  • メリット: 事実から入ることで、本人の「人格」と「行動の結果」を切り離すことができます。本人は否定されたと感じにくく、冷静に現状を認識できるようになります。

ステップ2:「Iメッセージ」で影響を伝える:相手を責めずに、自分の困りごとを話す

事実を伝えた後は、その行動が周囲にどのような影響を与えているかを伝えます。ここで有効なのが「You(あなたは)」ではなく「I(私は)」を主語にする「Iメッセージ」です。

  • Youメッセージ(NG): 「あなたは期限を守らないから、みんなの仕事が遅れるんだ」
  • Iメッセージ(OK): 「期限を過ぎてしまうと、私は次の工程の調整に追われてしまうので、正直に言うと少し困っているんだ」
  • 効果: 「あなたが悪い」と裁くのではなく、「私はこう困っている」という「状態の共有」に留めることで、相手の反発心を抑えつつ、協力的な姿勢を引き出しやすくなります。

ステップ3:改善策の共創:指示ではなく「どうすればいいと思う?」という問いかけ

最後に、具体的な解決策を決めます。ここで一方的に「こうしなさい」と命令するのではなく、本人に考えさせることが、自律的な成長(戦力化)への近道です。

  • コーチング的アプローチ: 「どうすれば期限に間に合うようになるかな?」「何か入力漏れを防ぐための工夫、一緒に考えられないかな?」と問いかけます。
  • 「合理的配慮」の再調整: 本人の口から「アラームをセットします」「チェックリストを作ってほしいです」といった案が出るのを待ちます。本人が自分で決めた対策であれば、実行のハードルが下がり、成功体験に繋がりやすくなります。

4.障害特性に応じた「伝わる」コミュニケーションの工夫

フィードバックの「型」を覚えたら、次は相手の障害特性に合わせて「翻訳」作業を行いましょう。脳の情報の受け取り方は特性によって異なります。相手が最も受け取りやすい「言語」に変換して伝えることで、指導の成功率は飛躍的に高まります。


ASD(自閉スペクトラム症):「もっと頑張って」はNG。数値と期限で具体化する

ASDの特性を持つ方は、抽象的な表現や「空気を読む」ことを非常に苦手とします。マネージャーがよく使う励ましの言葉が、実は混乱の種になっていることがあります。

  • 「もっと頑張って」の罠: 本人からすれば「今も全力で頑張っているのに、具体的に何をプラスすればいいのか?」とパニックになります。「丁寧に」「適当に」「いい感じに」といった言葉も同様に機能しません。
  • 具体化の技術: 「頑張って」ではなく、「1時間に50件入力することを目指しましょう」と数値化します。また、「なるべく早く」ではなく「今日の16時まで」と期限を秒単位で明確にします。
  • プロトコルの提示: 「マナーに気をつけて」ではなく、「お客様には『お世話になっております』と一言添えてから本題に入ってください」と、具体的な行動手順(プロトコル)として提示するのが正解です。

ADHD(注意欠如・多動症):注意の前に「できたこと」を3つ伝えるサンドイッチ法

ADHDの特性を持つ方は、ワーキングメモリの課題からミスが目立ちやすく、これまでの人生で人一倍「叱られてきた」経験を持っています。そのため、注意に対して過剰に自己防御反応が出やすい傾向があります。

  • サンドイッチ法: 修正してほしい点(ネガティブな指摘)を、ポジティブな評価で挟み込みます。
    1. 肯定: 「今日の資料のグラフ、すごく見やすかったよ(できたこと1)」
    2. 指摘: 「ただ、ここの数字が1箇所だけ間違っていたから、次からは再確認してね」
    3. 期待: 「レイアウトのセンスは抜群(できたこと2)だし、スピードも速い(できたこと3)から、正確性が加われば最強だね」
  • 脳への報酬系を刺激する: ADHDの方は「褒められる」ことでドーパミンが出て、次の行動への意欲が湧きやすくなります。「叱る」ことよりも「正しい行動ができた瞬間に褒める」ほうが、行動修正の近道となります。

精神障害:調子の波を前提とし、「今はフィードバックを受け取れる状態か」を確認する

うつ病や適応障害などの精神障害がある方は、日によって(あるいは時間帯によって)認知の歪みが強くなったり、自己否定感に支配されたりする「波」があります。

  • 「心のシャッター」が開いているか: 厳しい指摘をする前に、必ず今のコンディションを確認しましょう。「今、少し仕事の進め方について相談(フィードバック)したいんだけど、聞ける余裕はあるかな?」とワンクッション置きます。
  • 不調時の対応: 本人の顔色が悪い、あるいは「今日は余裕がない」という返答があれば、無理にその場で伝えてはいけません。不調時に受ける指摘は「改善のアドバイス」ではなく「存在の否定」として脳に突き刺さってしまうからです。
  • 「課題」と「人格」の分離を強調: 「あなたの評価を下げるための話ではなく、よりスムーズに仕事ができるようになるための工夫を一緒に考えたいんだ」と、対話の目的を繰り返し言語化して伝えましょう。

5.マネージャーが知っておくべき「言い換え」クイックテンプレート

現場の忙しさの中で、つい口に出てしまいそうな「強い言葉」や「抽象的な問い詰め」。これらは障害のある社員の思考を停止させ、関係性を悪化させる最大の要因です。脳の特性を理解した「言い換え」をストックしておくことで、指導の質は劇的に変わります。


「やる気あるの?」→「今の作業で、どこが難しいと感じているかな?」

  • なぜ「やる気」はNGか: 精神・発達障害のある方は、人一倍頑張ろうとしているものの、脳の疲弊や特性による「フリーズ(思考停止)」で動けなくなっていることが多々あります。それを「やる気」という精神論で片付けると、本人は絶望してしまいます。
  • 言い換えの意図: 行動が止まっている「原因」にフォーカスします。「難しい」と感じているポイントを具体的に特定することで、マニュアルの修正や手順の簡略化といった、建設的な解決策に繋がります。

 「前も教えたよね」→「もう一度手順を確認しよう。どのステップが記憶に残りにくい?」

  • なぜ「前も」はNGか: ワーキングメモリ(脳のメモ帳)の働きが弱い特性がある場合、覚えたくても情報が定着しにくいことがあります。過去の失敗を引き合いに出されると、本人は罪悪感でパニックになり、さらに記憶力が低下する悪循環に陥ります。
  • 言い換えの意図: 「忘れること」を前提に、仕組み(メモやマニュアル)の不備を疑います。「記憶に残りにくいステップ」が分かれば、そこに付箋を貼る、写真を添えるといった具体的な「合理的配慮」のアップデートが可能になります。

「ミスが多いよ」→「正確性を高めるために、チェックリストの項目を増やしてみようか」

  • なぜ「ミスが多い」はNGか: 抽象的な指摘は、本人に「自分はダメな人間だ」という全人格的な否定として受け取られかねません。また、どこをどう直せばいいのかの道筋が見えません。
  • 言い換えの意図: 精神論ではなく、物理的な「ツール(仕組み)」による解決を提案します。「チェックリストを増やす」という具体的なアクションを提示することで、本人は「次はこれをやれば防げる」という前向きな見通しを持つことができます。

6.フィードバックを「仕組み」として定着させる方法

指導のさじ加減は、マネージャー個人の勘や経験だけに頼っていると、担当者が変わった瞬間に崩れてしまいます。大切なのは、誰が担当しても安定したクオリティで対話ができる「仕組み」を構築することです。


1on1ミーティングの定期開催:問題が小さいうちに摘み取る「早めの対話」

精神・発達障害のある社員は、小さな違和感や困りごとを自分から言い出せず、限界まで溜め込んで爆発させてしまうことがあります。

  • 「予約された対話」の価値: 「何かあったら言って」という受動的な姿勢ではなく、隔週15分でも良いので定期的な枠を確保します。
  • 早期発見・早期治療: 定期的な場があれば、「実はマニュアルのこの表現が少し気になっていて……」という、パニックの芽となる小さな混乱を早期に摘み取ることができます。問題が大きくなってから「注意」するのではなく、小さいうちに「調整」するのが戦力化のコツです。

フィードバック履歴の共有:言った・言わないを防ぐ「指導ログ」の活用

口頭だけのフィードバックは、記憶の特性によって「そんな風に言われた記憶がない」「違う意味だと思った」という齟齬を生みやすく、これが不信感の源になります。

  • 「指導ログ」の作成: 1on1や指導の後は、決めたことや指摘事項をクラウド上のドキュメントや共有シートに短くまとめます。
  • 事実の積み上げ: 「〇月〇日:入力ミスの件。チェックリストを項目追加することで合意」と記録しておくことで、感情的な対立を防ぎ、共通の事実に基づいて次のステップへ進むことができます。これは、将来的に「合理的配慮」の内容を更新する際の大切なエビデンスにもなります。

成功体験の言語化:叱るの3倍「褒める」ことが、注意を受け入れやすくする土壌を作る

人は「否定される場所」には居づらくなりますが、「認められる場所」では指摘を真摯に受け止めようとします。

  • 3:1の法則: 指摘(ネガティブ)を1つ伝えるなら、その前に「できていること(ポジティブ)」を3つ見つけて伝える意識を持ちましょう。
  • 「当たり前」を褒める: 「今日も時間通りに出勤できた」「期限内に提出できた」といった、他の社員なら当たり前だと思うことでも、障害特性ゆえに努力して達成している場合があります。そこを言語化して評価することで、信頼の貯金が貯まり、いざという時の厳しい指導も「自分のためのアドバイス」として受け入れられるようになります。

7.まとめ|適切な指導こそが、障害のある社員の「誇り」を守る

障害者雇用におけるフィードバックは、単なる業務指示ではありません。それは、本人が一人のプロフェッショナルとして社会に貢献し続けるための、伴走者からの「エール」です。


総括:プロとして扱うことが、真の意味での「尊重」である

「障害があるから言わなくてもいい」という態度は、一見優しいようでいて、本人の可能性を否定していることにも繋がります。適切な基準を提示し、できないことは仕組みで補い、それでも必要なことは型を使って伝える。

こうした誠実な向き合い方こそが、障害のある社員に「自分は期待されている」「自分はこのチームに必要とされている」という誇りを与えます。マネージャーの皆さんが「伝える勇気」を持つことが、組織の生産性を高め、本人の人生を豊かにする第一歩となります。

最後に:現場の指導力を底上げする「フィードバック研修」と伴走支援のご案内

「頭では分かったけれど、実際に対峙すると言葉が出てこない」「特定の社員との関係性がすでに悪化していて、どう切り出していいか分からない」

そのような現場の課題に対し、私たちはロールプレイングを中心とした「障害者雇用マネジメント研修」を提供しています。実際のケースを想定した言い換えの練習や、貴社専用の「指導ガイドライン」の策定支援を通じて、現場が自信を持って指導できる体制をサポートします。

ひとりで抱え込まず、まずはプロの知見を活用して、チーム全員が輝ける職場を目指しませんか。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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