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「自分たちばかり負担が増える」という不満にどう答える?チーム全体の心理的安全性を高める対話術

この記事の内容
はじめに:障害者雇用の成功は、同僚の「納得感」にかかっている

障害者雇用の成否を分けるのは、人事が立てた計画でも、本人のやる気だけでもありません。実は、最も重要な鍵を握っているのは、本人と隣り合わせで働く「同僚」たちの納得感です。
どれほど優れたスキルを持つ障害者を採用しても、周囲の社員が「自分たちばかりが損をしている」「彼らのフォローのせいで自分の仕事が終わらない」と感じてしまえば、チームの空気は一気に冷え込みます。この「現場の不満」を放置することは、組織の崩壊を招くだけでなく、障害のある社員本人を孤立させ、早期離職へと追い込む最大の要因となります。
現場のジレンマ:理想(多様性)と現実(多忙)の板挟みになるマネージャー
現代の職場は、どこも人手不足と生産性向上という強いプレッシャーにさらされています。現場のマネージャーにとって、障害者雇用は「社会的に正しいこと(多様性の推進)」だと理解していても、現実には以下のようなジレンマに直面します。
- 「会社から雇用率達成のために採用しろと言われたが、現場の工数は増える一方だ」
- 「障害のある社員に配慮しすぎると、他の社員から『甘すぎる』と突き上げを食らう」
- 「フォローに回っている優秀な社員ほど、疲弊して不満を募らせている」
こうした「理想と現実の板挟み」を解消できないまま、精神論や善意に頼った運用を続けてしまうことが、現場の「静かな怒り」を増幅させています。
「逆差別感」の正体:不満の矛先は障害者ではなく、実は「不透明な仕組み」にある
同僚たちから漏れる「なぜ彼(彼女)だけが優遇されるのか?」という不満は、一見すると障害者本人への攻撃のように見えます。しかし、その正体は「逆差別感」と呼ばれる、組織の仕組みに対する不信感です。
- 負担の偏り: 特定の社員だけにチェック業務やフォローが集中している。
- 評価の不透明さ: フォローをしている側の貢献が、評価や給与に一切反映されない。
- 情報の欠如: どのような配慮が必要で、どのような制限があるのかが共有されず、「サボっている」「自分勝手だ」と誤解される。
つまり、不満の本質は「障害者がいること」そのものではなく、「それによって生じた歪みを、会社が放置していること」に向けられているのです。
本記事の結論:必要なのは「個別の配慮」と「チームの公平性」を両立させるロジカルな対話術である
障害者雇用における「配慮」は、決して「甘やかし」ではありません。しかし、それを周囲に納得させるためには、感情論ではないロジカルな対話術と業務調整の仕組みが必要です。
「障害があるから助けてあげよう」という共感の強制を卒業し、「このチームで最大の成果を出すために、あえて役割を差別化している」という説明責任を果たすこと。この視点を持つことで、チームの心理的安全性が高まり、障害のある社員も、それを支える周囲の社員も、納得して高いパフォーマンスを発揮できるようになります。
1.なぜ「自分たちばかり」という不満が生まれるのか?
同僚たちの不満を解消するためには、まず彼らが「何に疲弊しているのか」を正確に理解する必要があります。不満の根源は大きく分けて3つあります。
業務のしわ寄せ:配慮によって生まれた「空白」を誰が埋めているのか
障害のある社員に「残業禁止」や「特定の苦手業務の免除」という合理的配慮を行うと、必然的にその分の業務は他の社員に回ります。 この「空白」が特定の個人に集中したり、全体の業務量が変わらないまま人員だけが増えた形(戦力化できていない状態)になったりすると、周囲は「自分が彼らの給料分まで働いている」という感覚に陥ります。
不可視な「精神的コスト」:指示の工夫やダブルチェックによる隠れた負担
数字に現れない「名もなき業務」も同僚を疲弊させます。
- 「相手が理解しやすいように、指示書を細かく書き直す」
- 「ミスの傾向を把握し、念入りにダブルチェックを行う」
- 「パニックにならないよう、常に顔色を伺いながら声をかける」 こうしたフォロー業務は、個人の生産性を確実に下げますが、多くの場合、上司からは「良い同僚として当然の振る舞い」と見なされ、評価の対象にすらならないことが不満を加速させます。
情報の非対称性:病名や特性を知らされない同僚が抱く「なぜ?」という不信感
プライバシー保護の観点から「詳細は言えませんが、配慮してください」という指示が出されることがありますが、これが逆効果になるケースもあります。 理由が分からないまま「彼だけ休憩が多い」「彼だけ電話に出なくていい」という事実だけを見ると、周囲はそれを「不当な優遇」だと解釈してしまいます。何を伝え、何を伏せるかのコントロールを誤ると、チーム内に見えない壁ができてしまいます。
2.同僚の「逆差別感」を解消する、マネージャーの説明責任(アカウンタビリティ)

現場の不満を抑えるために、マネージャーがやってしまいがちな失敗が「とにかくみんな仲良く、助け合おう」という精神論で押し切ることです。しかし、多忙な現場において必要なのは、感情への訴えかけではなく、「なぜこのような体制をとっているのか」という論理的な説明です。
「みんな平等」の罠:同じ基準で扱うことが、チームに歪みを生む理由
「全員同じルール、同じ業務量でなければ不公平だ」という考え方は、一見正義に見えますが、多様な人材が働く職場ではむしろ組織を硬直させます。
- 「平等(Equality)」と「公平(Equity)」の違い: 全員に同じ高さの踏み台を配るのが「平等」ですが、背の低い人(障害のある人)には高い踏み台を、背の高い人には不要な踏み台を調整して、全員が景色を見られるようにするのが「公平」です。
- 基準の画一化が招く弊害: 無理に同じ基準で競わせると、障害のある社員は「できない自分」に絶望し、周囲の社員は「カバーさせられている自分」に不満を持ちます。マネージャーは「このチームでは、個々の特性に合わせて『踏み台(配慮)』を調整することが、チーム全体の成果を最大化する手段である」と断言する必要があります。
「役割」と「貢献」の明確化:障害のある社員が担当する「チームへの価値」を言語化する
同僚の不満の多くは、「自分は彼の欠損(できないこと)を埋めているだけだ」という認識から生まれます。これを変えるには、障害のある社員が担っている「プラスの価値」を具体的に定義し、公にすることが不可欠です。
- 価値の再定義: 「彼は電話応対はしないが、その分、営業事務の入力作業を一手に出受けてくれている。それによって、あなたたちが本来の営業活動に専念できる時間を1日1時間増やしている」といった具体的な利益(Win-Winの構造)を伝えます。
- 「助ける対象」から「パートナー」へ: 誰かのフォローをしているという感覚を、「専門業務を分担し、役割を分担している」という認識にスライドさせることで、心理的な負担感は劇的に軽減されます。
相談の場を作る:不満を「毒」にせず「課題」として吐き出させる定期的な1on1
不満は、口に出せないまま蓄積されると、やがて「無関心」や「攻撃」という毒に変わります。マネージャーは、同僚たちが抱える「実はここが大変なんです」という本音を、安全に吐き出せる場を確保しなければなりません。
- 「愚痴」を「改善案」に変換する: 1on1などの場で不満が出た際、「わがままだ」と否定せずに「どこに負担を感じているのか」を深掘りします。
- 「ありがとう」をマネージャーが代弁する: 同僚がさりげなく行っている配慮(分かりやすいメモの作成など)をマネージャーが見逃さず、「君のあの配慮のおかげで、彼がミスなく作業できている。チームとして助かっている」と評価の対象であることを伝えます。自分の「見えない苦労」が認められていると感じるだけで、人の納得感は大きく変わるものです。
3.【実践】チーム全体の業務量調整と「不公平感」をなくすテクニック
マネージャーの言葉による説明(マインドセット)が整ったら、次は「仕組み」で解決する段階です。不公平感は、特定の個人にだけ「見えない負担」が蓄積されることで加速します。これを物理的に解消する3つのステップを解説します。
ステップ1:業務の「見える化」と「再分配」:特定の個人に負担を集中させないコツ
同僚の不満が爆発する最大の要因は、「自分の仕事だけでも忙しいのに、さらにフォロー業務が加わっている」という不透明な加重労働です。これを防ぐには、フォロー業務自体を「正式なタスク」として可視化する必要があります。
- タスクの「解体」と「棚卸し」: チーム全体の業務を細かく分解し、「誰が何をやり、誰がそれをチェックしているか」を一覧表にします。
- ローテーションの導入: 「障害のある社員の相談役(バディ)」を特定の個人に固定せず、数ヶ月単位で交代したり、業務ごとに担当を分けたりします。
- 工数の見積もり: フォローにかかる時間を「バッファ(予備時間)」ではなく、あらかじめ「業務時間」としてスケジュールに組み込みます。その分、その社員の他の目標数値を調整することで、実質的な公平性を担保します。
ステップ2:サンクスカードや賞賛の仕組み:サポート側の「貢献」にスポットライトを当てる
障害のある社員が高いパフォーマンスを出した際、その陰には必ず「適切な指示出し」や「環境調整」を行った同僚の存在があります。しかし、多くの場合、称賛されるのは本人だけで、サポート役はスルーされがちです。
- 「ピアボーナス」や「サンクスカード」の活用: 障害のある社員からサポート役へ、あるいはマネージャーからサポート役へ、感謝を可視化するツールを導入します。
- 評価項目への反映: 「周囲へのサポート」「マニュアルの整備」「適切なフィードバック」を、一般社員の評価項目として明確に位置づけます。「彼を助けることは、自分の評価(給与)に直結する仕事である」と認識させることで、心理的な納得感を高めます。
ステップ3:障害者雇用を「業務フロー改善」のチャンスに変える:無駄な会議や曖昧な指示の撤廃
障害者雇用を「お荷物」ではなく、チームを強くするための「劇薬」として活用する視点です。障害のある社員にとって働きやすい環境は、実は一般社員にとっても極めて生産性の高い環境です。
- 「暗黙の了解」を排除する: 抽象的な指示で混乱する社員のために、業務手順をフローチャート化したり、指示をテキスト化したりします。結果として、新人教育のスピードが上がり、一般社員の「言った・言わない」のミスも激減します。
- 会議の効率化: 集中力の維持が難しい社員のために、会議のアジェンダを事前に共有し、短時間で結論を出す文化を作ります。
- Win-Winの構造を作る: 「障害のある彼が入ったおかげで、マニュアルが完備され、自分たちの仕事も楽になった」という実感をチーム全員で共有すること。これが、不公平感を「連帯感」に変える究極のテクニックです。
4.心理的安全性を高める「魔法のフレーズ」と「避けるべき言葉」

現場で不満が渦巻いているとき、マネージャーが発する一言は、火に油を注ぐこともあれば、一瞬で場を鎮める鎮静剤になることもあります。心理的安全性を壊さず、チームの結束を高めるための具体的な言い回しを整理しましょう。
NG:「障害があるんだから理解してあげて」という、共感の強制
このフレーズは、現場で最も多用され、かつ最も同僚の心を離れさせる言葉です。
- なぜNGなのか: 余裕のない現場で「理解」や「優しさ」を強制することは、同僚にさらなる精神的な負荷を強いることになります。「自分だって辛いのに、なぜ一方的に譲歩しなければならないのか」という反発を招き、障害のある社員への憎悪を助長してしまいかねません。
- 潜むリスク: この言葉を使い続けると、周囲は「上司に相談しても『我慢しろ』と言われるだけだ」と諦め、対話を拒絶するようになります。
OK:「チームの〇〇を彼が担うことで、皆の△△という負担を減らしたい」という、利益の提示
プロフェッショナルな職場において、納得感を生むのは「同情」ではなく「共通の利益」です。
- 戦略的な言い換え: 「彼(障害者)を助けてほしい」ではなく、「彼というリソースをどう活用すれば、チーム全員が楽になれるか」という視点で語ります。
- 具体例: 「彼にデータ入力とファイリングを集中させることで、本来メイン業務である〇〇に皆が集中できる時間を増やしたい。そのための初期設定(マニュアル作成や指示出し)を君に手伝ってほしいんだ」
- ポイント: 同僚が払うコスト(フォロー)の先に、自分たちのメリット(業務軽減や目標達成)があることを明確に提示します。
コンフリクト対応:同僚から直接「不公平だ」と言われた時の切り返し方
もし、同僚から「自分ばかり負担が重くて不公平です」と直接訴えられたら、それはチームを立て直す最大のチャンスです。
- ステップ1:まずは全肯定する: 「そう感じさせてしまっていたんだね。確かに今の業務バランスは君に負担が偏っている。率直に話してくれてありがとう」と、相手の感情を100%受け止めます。ここで否定や論破をしてはいけません。
- ステップ2:事実を切り分ける: 「具体的に、どの作業のフォローが一番重荷になっているかな?」「1日のうち、何分くらいその対応に取られている?」と質問し、感情を「課題」へと分解します。
- ステップ3:再構築を約束する: 「今のやり方だと持続不可能だということが分かった。役割分担を再検討するか、彼への指示系統を整理して、君の負担を減らす方法を明日までに考えるよ」と、改善の意志を伝えます。
5.事例紹介:負担感を「相互支援」に変えたBチームの軌跡
「自分たちばかりが損をしている」という空気感は、一度広まると食い止めるのが困難です。しかし、適切な介入によって、その不満を「チームの改善力」へと転換させた事例があります。
状況:特定の社員にチェック業務が集中し、チームの雰囲気が悪化したケース
事務センターのBチームでは、精神障害のある新入社員を迎え入れました。その方の「丁寧だが、時折手順を飛ばしてしまう」という特性をカバーするため、隣席のベテラン社員・佐藤さん(仮名)がすべての成果物をダブルチェックすることになりました。
- 現場で起きたこと: 佐藤さんは自分の業務をこなしながら、1日に数十回も中断してチェックを求められ、自身の残業が急増。「なぜ私だけがこんなに負担を負わなければならないのか」と、チーム全体にトゲのある空気が漂い始めました。
- 負の連鎖: 佐藤さんの疲れを察した障害のある社員も、萎縮してミスを連発。さらにチェックの手間が増えるという最悪のループに陥っていました。
解決策:業務の「細分化」と、サポート役への「評価ポイント」付与の導入
マネージャーはこの状況を「佐藤さんの善意(共感)」の問題ではなく「業務設計(仕組み)」の欠陥だと捉え、以下の2つの手を打ちました。
- 業務の徹底的な細分化: 「最後に全部チェックする」のをやめ、作業工程を10ステップに分解。そのうちの「数値入力」や「ファイリング」など、障害のある社員が絶対にミスをしない単独工程を切り出しました。結果、佐藤さんのチェックが必要な箇所を「工程全体の2割」にまで圧縮しました。
- 「育成・サポート」を正式な評価対象に: 佐藤さんの個人目標から「入力件数」のノルマを減らし、代わりに「障害のある社員の自立支援・マニュアル整備」を最優先の評価項目に設定しました。 「彼は自分の仕事を邪魔する存在」から、「自分が育成し、自走させるべきプロジェクトの対象」へと意味付けを変えたのです。
結果: 1ヶ月後、切り出された専門業務で障害のある社員が驚異的なスピードを記録し、チーム全体の残業時間は導入前より減少。佐藤さんも「自分のサポートがチームの数字に直結している」と実感し、不満は「次はどの業務を任せようか」という前向きな提案へと変わりました。
6.まとめ|障害者雇用はチーム全体のマネジメントを磨くチャンス
「自分たちばかり負担が増える」という声は、現場が悲鳴を上げているサインであり、同時にマネジメントの改善ポイントを教えてくれる貴重なフィードバックでもあります。
総括:一部の犠牲の上に成り立つ雇用は続かない
障害者雇用を成功させるために、誰か一人が無理をしたり、我慢をしたりする構造は、長続きしません。大切なのは、「配慮が必要な社員」と「それを支える同僚」の両方が、自分の役割に納得し、メリットを感じられる状態を作ることです。
そのためには、マネージャーが逃げずに説明責任を果たし、不公平感を仕組みで解消する努力を続ける必要があります。
結びに:多様なチーム作りを模索するすべてのリーダーへ
「うちのチームは余裕がないから、障害者雇用は無理だ」 そう思われるかもしれません。しかし、今回見てきたように、障害のある社員を受け入れ、そのための「対話」や「業務改善」を行うプロセスは、実はチーム全体の無駄を省き、心理的安全性を高める最高のトレーニングになります。
一人の「困りごと」に向き合うことは、チーム全員の「働きやすさ」に繋がっています。目の前の不満を「対話」のきっかけに変え、誰もが納得感を持って働ける強いチームを、共に目指していきましょう。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







