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見えない障害「発達障害」をどうチームに説明する?本人・周囲双方が納得する「カミングアウト」の作法

この記事の内容
はじめに:カミングアウトの目的は「病名の共有」ではない

「新しく入るメンバーに発達障害があるのだが、チームにどう伝えればいいだろうか?」 現場のマネージャーや人事担当者が最も頭を悩ませる問題の一つが、この「伝え方」です。身体障害のように外見から配慮の必要性が分かりにくい発達障害は、周囲に何も伝えないままでは「やる気がない」「自分勝手だ」といった誤解を生みやすく、一方で伝え方を誤れば深刻な偏見やプライバシー侵害を招くリスクがあります。
ここで私たちが再認識すべきは、職場におけるカミングアウトの目的は「病名を明かすこと」ではなく、「全員がスムーズに働くための調整を行うこと」にあるという点です。
現場の迷い:どこまで話すべきか、本人のプライバシーをどう守るか
発達障害のカミングアウトにおいて、現場では常に2つのリスクの間で揺れ動いています。
- 情報の過小共有: 本人の希望を尊重して「何も言わない」という選択をした結果、ミスが続いた際に周囲から「なぜあの人だけ許されるのか」と不満が噴出し、本人が職場にいづらくなるリスク。
- 情報の過剰共有: 良かれと思って診断名を公表した結果、「あの人は発達障害だから、これ以上は無理だろう」といった無意識のラベリング(偏見)が発生し、本人のキャリアの可能性を狭めてしまうリスク。
どこまでが「配慮」で、どこからが「プライバシー」なのか。この境界線(ライン)が曖昧なことが、現場の不安を増幅させています。
最悪のシナリオ:不十分な説明が招く「あきらめ」と「孤立」
説明が不十分、あるいは不適切な形でなされた場合、チームは「あきらめ」のモードに入ります。「あの人は何を言っても無駄だ」「関わるとこちらが疲弊する」といった負の感情が蔓延すると、周囲は本人を業務から実質的に排除し、本人は孤立を深めます。
発達障害における「困りごと」は、本人の努力不足ではなく、周囲との環境のミスマッチから生じるものが大半です。説明の目的を履き違えると、このミスマッチを解消するどころか、さらに溝を深める結果となってしまいます。
本記事の結論:目指すべきは「特性の共有」ではなく「働くルールの合意」である
本記事が提案するカミングアウトの正解は、診断名や医学的分類を語ることではありません。
「何が得意で、何が苦手か」 「どんなバリア(障壁)があり、それをどう取り除くか」 「明日から、チームのメンバーに何を協力してほしいか」
こうした「働く上での具体的なルール」をチームの共通言語にすることこそが、本人と周囲の双方が納得できる唯一の道です。カミングアウトを「特別な発表」にするのではなく、「より良いチーム運営のための業務調整」として定義し直しましょう。
1.なぜ発達障害の説明は「難しい」と感じるのか?
なぜ発達障害の説明は、身体障害や他の疾患に比べてこれほどまでに難易度が高いのでしょうか。そこには「発達障害特有の性質」があります。
外見とのギャップ:高い能力と初歩的なミスの混在がもたらす「甘え」の誤解
発達障害の多くは「能力の凹凸(おうとつ)」が激しいのが特徴です。 非常に高度な専門知識を持っていたり、特定の分野で驚異的な集中力を発揮したりする一方で、メモを取るのを忘れる、期限を勘違いする、周囲の空気が読めないといった、一見「初歩的」に見えるミスを繰り返すことがあります。
このギャップを見た周囲は、「あんなに優秀なのに、なぜこんなことができないのか?」「わざとやっているのではないか」「甘えているだけではないか」という不信感を抱きやすくなります。この「能力のアンバランスさ」こそが、周囲の納得感を得にくくさせている正体です。
多様すぎる特性:ASD、ADHD、LD……ラベルだけでは「何をすればいいか」が見えない
「自閉スペクトラム症(ASD)です」「注意欠如・多動症(ADHD)です」といった診断名のラベルは、医学的な整理には役立ちますが、現場のマネジメントには不十分です。
同じADHDであっても、「衝動的に話し始めてしまう人」もいれば、「静かに忘れ物が多い人」もいます。診断名だけを伝えても、同僚たちは「で、結局どう接すればいいの?」という戸惑いから抜け出せません。ラベルを伝えることが、かえって誤ったステレオタイプ(偏見)を植え付けることにもなりかねないのです。
スティグマ(偏見)への恐怖:本人が「隠したい」と願う背景にあるもの
本人にとってカミングアウトは「弱みを握られる」「特別視される」という恐怖を伴う決断です。特に発達障害は、かつて「親の育て方」や「本人の性格」と混同されてきた歴史があり、いまだに誤解や偏見が根強く残っています。
本人が「隠したい」と願うのは、自己防衛の結果です。会社側には、その恐怖を汲み取った上で、情報を「弱点」としてではなく「攻略法」として扱う姿勢が求められます。
2.【戦略的カミングアウト】3つのステップと情報の切り分け

周囲に説明を行う前に、まずは情報の「交通整理」が必要です。本人のプライバシーを守りつつ、チームが納得する情報を届けるための戦略的な3ステップを解説します。
ステップ1:本人との事事前談「何を・誰に・どこまで」のライン引き
カミングアウトの主導権は、常に「本人」にあります。会社側が勝手に判断して公表することは、法的にも信頼関係の面でも絶対にあってはなりません。まずは本人とじっくり話し合い、情報の「公開範囲」を決定します。
- 誰に: チーム全員か、直属の上司と一部の同僚(バディ)のみか。
- 何を: 診断名まで出すのか、それとも「特性による苦手項目」だけに留めるのか。
- どのように: 本人が自分の口で話すのか、マネージャーが代行するのか。
この際、「すべて隠す」ことのデメリット(ミスをした際にフォローが得にくい等)と、「すべて話す」ことのリスクを対等に提示し、本人が納得できるラインを一緒に探ります。
ステップ2:情報の「翻訳」:病名や診断名を「業務上の特徴」に変換する
現場が必要としているのは、医学的な知識ではなく「一緒に仕事をする上での攻略本」です。そのため、診断名をそのまま伝えるのではなく、業務上の「現象」と「対策」に翻訳します。
- 翻訳の例(ADHD特性の場合):
- NG: 「彼はADHDなので、不注意や物忘れがあります」
- OK(翻訳後): 「彼は集中すると周りの声が聞こえなくなることがありますが、その分、没頭した時の作業スピードは抜群です。依頼事項は、口頭ではなく『チャット』で残していただけると、彼も確実にタスクを完遂できます」
- 翻訳の例(ASD特性の場合):
- NG: 「彼女はASDなので、空気が読めずコミュニケーションが苦手です」
- OK(翻訳後): 「彼女は『曖昧な指示』だと迷ってしまうことがありますが、手順が明確な業務は非常に正確です。『なる早で』ではなく『明日の15時まで』といった具体的な表現で伝えていただくことで、彼女の能力を最大化できます」
ステップ3:周囲へのメリット提示:チーム全体が楽になるための説明という視点
「配慮してください」というお願いだけで終わると、周囲は「自分たちが一方的に我慢させられる」と感じてしまいます。説明の最後には必ず、チーム全体にとってのメリット(Win-Winの構造)を添えるのが鉄則です。
- 利益の提示: 「彼が〇〇という配慮(テキストでの指示など)を得ることで、ケアレスミスが減り、結果として皆さんの『ダブルチェックの負担』も減らすことができます。これはチーム全体の生産性を上げるための新しいルールだと考えています」
- 「特別扱い」の払拭: 「特定の誰かを優遇する」のではなく、「誰もが能力を発揮しやすくするための、業務フローの最適化である」と位置づけることが、同僚の納得感を生みます。
3.【保存版】そのまま使える社内アナウンス・テンプレート
戦略が決まったら、次は具体的な「言葉」に落とし込みます。診断名を出す・出さないにかかわらず、ポイントは「本人の強み」→「具体的な仕事の進め方」→「周囲へのお願い」の順で構成することです。
パターンA:本人が同席して挨拶する場合(対面・オンライン)
本人が自分の言葉で伝えたい場合、上司は「前置き」と「補足」に徹し、本人が「弱みを見せる場」ではなく「協力体制を築く場」になるよう演出します。
【マネージャーの前置き】 「今日はお時間をいただきありがとうございます。新しく加わる〇〇さんの業務をチームで円滑に進めるために、〇〇さんから得意なことや、効率的に進めるための工夫について共有してもらいます」
【本人の挨拶例】 「〇〇です。私は複雑なデータの分析や集中して作業をすることが得意ですが、一方で、複数のことを同時に頼まれると混乱してしまうという特性があります。 そのため、タスクの優先順位を整理した状態で進めたいと考えています。急ぎの依頼がある際は、口頭ではなくチャットでいただけると、見落としなく正確に対応できます。早くチームの力になれるよう頑張りますので、よろしくお願いします」
パターンB:マネージャーが代行して説明する場合(書面・チャット)
本人が詳細を語ることを控える場合、あるいは全社的なチャットツール等で周知する場合は、より「業務上の運用ルール」としての色合いを強めます。
【チャット・メール送信例】 「本日より着任した〇〇さんの業務運用について共有します。 〇〇さんは、マニュアルに沿った正確な事務処理に非常に長けており、今後はチームの〇〇業務をメインで担当していただきます。 本人の特性を活かし、チームとしての生産性を最大化するため、以下の『進め方のルール』を共有します。
- 指示の出し方:口頭での指示は避け、必ずチャットまたはタスク管理ツールに残す。
- 相談のタイミング:集中作業中は15時〜16時の『相談タイム』に集約して声をかける。 これにより指示の抜け漏れを防ぎ、チーム全体の作業効率を高めていければと思います。ご協力をお願いします」
NG表現チェックリスト:良かれと思って逆効果になるフレーズ集
説明の際、何気なく使ってしまう言葉が、周囲の偏見を助長したり本人の自尊心を傷つけたりすることがあります。以下の表現は避けましょう。
- ×「〇〇さんは障害があるので、優しくしてあげてください」 → 職域における「対等なパートナー」という認識を損なわせ、同情(=上からの目線)を強いてしまいます。
- ×「発達障害ですが、見た目には分かりません」 → 「普通に見えるのにできない」という、同僚の不満(甘えの誤解)を加速させるリスクがあります。
- ×「彼にできないことは、みんなでカバーしましょう」 → 「誰かが損をする」という構図を強調してしまいます。代わりに「役割を分担する」という言葉を使いましょう。
- ×「(診断名を出しながら)〇〇障害の方は一般的に△△と言われていますが…」 → 個人の特性を見ず、教科書的な知識でラベリングすることは避けるべきです。あくまで「この人」の話をしましょう。
4.周囲の「戸惑い」を「協力」に変える、説明の4つの柱
アナウンスの形式がどうあれ、内容に以下の「4つの柱」が組み込まれているかどうかが、チームの納得感を左右します。単なる状況報告で終わらせず、周囲が「これなら一緒にやれる」と思える構成を意識しましょう。
①得意なことの明示:チームにとって「頼れる武器」を先に伝える
カミングアウトというと、つい「できないこと」の弁明から入りがちですが、それは逆効果です。まずは本人がチームにもたらす「貢献(メリット)」を強調します。
- プロとしての紹介: 「〇〇さんは、膨大なデータをミスなく分類するのが非常に速いです」「複雑なコードのバグを見つけることに特化した集中力を持っています」といった、戦力としての期待値を共有します。
- 理由: 最初に「武器」を提示することで、周囲の中に「彼(彼女)はチームに必要な存在だ」という認識が生まれます。この土台があって初めて、その後の「苦手」に対する配慮が、戦力を活かすための「投資」として受け入れられるようになります。
②具体的な困難:何に困り、どのような「バリア」があるか
次に、どのような場面でつまずきやすいのかを「環境」のせいにした視点で伝えます。
- 「バリア」という考え方: 「集中力が続かない」と本人の資質のせいにせず、「ざわついたオフィスでは音声情報の聞き取りが困難になる(バリアがある)」と伝えます。
- 具体性を持たせる: 「コミュニケーションが苦手」という抽象的な表現ではなく、「一度に3つ以上の指示を口頭で受けると、情報の整理が追いつかなくなる」など、どのようなシチュエーションで不具合が起きるのかを具体化します。
③お願いしたい配慮:同僚に「明日から何をすればいいか」を具体的に示す
周囲の「戸惑い」の正体は、接し方の正解が分からない不安です。これを解消するために、同僚が行うべき具体的なアクションを指定します。
- 行動の特定: 「気遣ってあげて」ではなく、「指示はチャットで出す」「締め切りは『金曜』ではなく『金曜の正午』と伝える」「急ぎの時はまず肩を叩いてから話しかける」といった、誰でも実行可能な動作に落とし込みます。
- 「配慮」を「効率化」へ: これらは障害のある社員のためだけでなく、チーム全体の「指示出しの曖昧さ」をなくす、プラスの習慣として提案します。
④フィードバックの方法:不満を溜め込まないための「伝え方のルール」の共有
ここが最も重要です。周囲が「配慮しなければ」と気を遣いすぎると、不満が内部に溜まってしまいます。それを防ぐための「風通しの仕組み」をあらかじめ宣言します。
- 「言っていい」という安心感: 「もし進め方で困ったことがあれば、遠慮なくマネージャーに伝えてください」「本人に直接伝える時は、感情的にならず『今の作業、〇〇が理由で困っています』と事実を伝えてください」というルールを共有します。
- 相互フィードバック: 「配慮は一方通行ではなく、チームを最適化するための試行錯誤である」という姿勢を示すことで、周囲の心理的負担を劇的に下げることができます。
5.カミングアウト後の「定点観測」とフォローアップ

カミングアウトは、チームとしての「新しいスタートライン」に過ぎません。説明した直後は周囲も気を配りますが、時間が経つにつれて配慮が形骸化したり、逆に新たな摩擦が生じたりするのはよくあることです。大切なのは、説明した後の「馴染み具合」を定期的にチェックすることです。
「言いっぱなし」にしない:1ヶ月後の周囲へのヒアリング項目
説明から1ヶ月ほど経過したタイミングで、周囲の社員に「実務上の困りごと」が出ていないかを確認します。この際、個別にヒアリングを行うことで、本人の前では言いにくい「小さなズレ」を吸い上げることができます。
- ヒアリングのポイント:
- 「指示の出し方(チャット化など)を変えてみて、自身の業務に支障は出ていないか?」
- 「説明していた特性以外で、接し方に迷う場面はなかったか?」
- 「ダブルチェックなどの負担が、想定以上に増えていないか?」 周囲の「実はちょっと困っている」を早めにキャッチすることが、大きな不満への発展を防ぐ防波堤になります。
本人の負担確認:説明したことでかえってプレッシャーになっていないか
カミングアウトをした本人は、「周りに配慮してもらっているのだから、絶対にミスをしてはいけない」と、過度なプレッシャーを感じている場合があります。
- メンタル面のフォロー: 「配慮を公表したことで、職場の居心地はどう変わったか?」「隠さなくて良くなった分、作業に集中できているか?」といった観点で面談を行います。
- 過剰な期待の調整: 周囲が気を遣いすぎて、本人に本来任せられるはずの業務まで取り上げてしまっていないか(過剰な配慮)も確認が必要です。
環境の再調整:配慮を「固定」せず、状況に応じて「更新」していく柔軟性
「一度決めた配慮のルール」を金科玉条のように守り続ける必要はありません。業務に慣れてくれば不要になる配慮もあれば、新しい業務に就くことで必要になる配慮もあります。
- ルールのブラッシュアップ: 「チャットでの指示は継続するが、緊急時のみ口頭でもOKにする」など、実態に合わせてルールを更新していきます。
- 「実験」というスタンス: 「まずはこの配慮で1ヶ月やってみよう」という実験的なスタンスをチームで共有しておくことで、変更や修正に対する心理的ハードルを下げることができます。
6.まとめ|カミングアウトは「共に働くための契約」である
発達障害のカミングアウトを、単なる「病名の公表」や「お願い」で終わらせてはいけません。それは、チーム全員が能力を発揮し、成果を出し続けるための「新しい働き方の契約」です。
総括:障害者雇用をきっかけに「全員が働きやすい言葉」を持つ
発達障害のある社員のために「指示を明確にする」「業務を可視化する」といった工夫は、実は新入社員や多忙なベテラン社員にとっても、極めて有効な改善策です。 カミングアウトを通じて「何に困っているか」「どうすれば助かるか」を言語化する文化が根付いたチームは、誰かが不調に陥った際にも柔軟に対応できる、非常に強靭で心理的安全性の高い組織へと進化します。
結びに:個人のプライバシーと組織の透明性を両立させるために
カミングアウトの正解は、企業によって、また個人によって千差万別です。 しかし、共通して言えるのは、「本人の尊厳(プライバシー)」と「チームの納得感(透明性)」は、対話によって必ず両立できるということです。
診断名というラベルに惑わされることなく、目の前の社員の「強み」と「特性」にフォーカスした言葉を選んでいきましょう。その丁寧な積み重ねが、多様な個性が共鳴し合う、理想的なチームビルディングへの第一歩となります。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







