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「超短時間雇用(週20時間未満)」が人手不足の救世主になる?短時間から始めるリスクの低い雇用モデル

この記事の内容
はじめに:なぜ今「週10時間」からの雇用が注目されているのか

これまで、企業の障害者雇用における最大の壁は「週20時間」という労働時間の制約でした。精神障害や難病、あるいは体力の消耗が激しい特性を持つ方々にとって、週20時間(1日4時間×週5日など)の壁は非常に高く、企業側にとっても「それだけの定型業務を毎日用意し続けられるか」という不安が、採用を躊躇させる一因となっていました。
しかし今、この「20時間の壁」が崩れ、障害者雇用のあり方が根本から変わろうとしています。
2024年法改正のインパクト:0.5カウント算定が生む新しい可能性
2024年4月より施行された改正法において、実務上の最注目トピックは「特定短時間労働者(週10時間以上20時間未満)」の雇用率算定への算入です。これまで、週20時間未満の雇用は法定雇用率に一切カウントされませんでしたが、改正後は1名につき「0.5カウント」として算定できるようになりました。
この変更は、単に「短い時間でもカウントされるから楽になる」という数字上のメリットに留まりません。
- 重度身体障害、精神障害、難病の方々など、短時間から就労を希望する層を正式な戦力として迎え入れやすくなった。
- 企業は、一人のフルタイム(1.0カウント)を確保する代わりに、二人の超短時間(0.5カウント×2=1.0カウント)を採用するという柔軟なポートフォリオを組めるようになった。 といった、戦略的な選択肢を企業に与えたのです。
企業の本音:フルタイム採用の「高いハードル」と「ミスマッチの恐怖」
多くの企業が障害者雇用で抱える悩みは、「週20時間、あるいはフルタイム(週40時間)で働ける人を探そうとすると、母集団が極端に狭まる」という点です。また、長時間労働を前提とした採用は、以下のようなリスクを伴います。
- ミスマッチの影響大: 長時間枠で採用した社員が業務に適応できなかった場合、現場に与える「負荷の空白」が大きく、代替要員の確保も困難。
- 定着の不安: 本人が無理をして長時間働いた結果、体調を崩して離職してしまう「無理な定着」の悪循環。
- 業務の捻出: 無理に「20時間分」の仕事を作ろうとして、本来不要な雑用をかき集めることになり、生産性が上がらない。
「超短時間雇用」は、これらのリスクを劇的に軽減する手段として、今まさに脚光を浴びています。
本記事の結論:超短時間雇用は、障害者雇用の「スモールスタート」であり、業務効率化の「触媒」である
結論から言えば、週10時間からの雇用は、企業にとって最もリスクの低い「障害者雇用のスモールスタート」です。
まずは短時間から始め、本人の適性を見極めながら、必要に応じて時間を延ばしていく(またはその短時間枠を維持する)。このアプローチは、採用の失敗を防ぐだけでなく、チーム内の「誰がやってもいいはずなのに、なぜか高給な既存社員が抱え込んでいる雑務」を洗い出し、再分配する絶好の機会になります。
超短時間雇用は、単なる「雇用率稼ぎ」ではなく、現場の人手不足を解消し、業務効率化を加速させる「触媒」となり得るのです。
1.「超短時間雇用」導入の3つのメリット:人手不足解消への最短ルート
なぜ、週20時間未満という極めて短い時間が、人手不足に悩む現場を救うのでしょうか。そこには3つの明確なメリットがあります。
メリット1:採用母集団の劇的な拡大。フルタイムでは出会えなかった優秀な層へ届く
「週40時間は無理だが、週15時間ならプロフェッショナルな仕事ができる」という人材は、市場に驚くほど眠っています。 例えば、高い事務スキルや専門知識を持ちながら、精神的な疲れやすさから長時間勤務を避けている方や、リハビリを兼ねて短時間から復帰を目指している若手層です。超短時間雇用を解禁することで、「長時間働けるかどうか」というフィルターで取りこぼしていた優秀な人材に、他社に先んじてアプローチすることが可能になります。
メリット2:現場の「細かな困りごと」を一掃。コア業務に専念できる環境作り
人手不足の正体は、往々にして「コア業務以外の付随作業」が社員の時間を奪っていることにあります。
- 「営業担当者が、自分で契約書のファイリングや郵送作業をしている」
- 「専門職が、備品管理やデータ入力に追われている」 これらを週10〜15時間の超短時間スタッフに任せることで、既存社員が「自分にしかできない仕事」に集中できる時間を創出できます。1日2時間、特定のルーチンワークが誰かに引き継がれるだけで、チーム全体の生産性は劇的に向上します。
メリット3:定着率の向上。体調管理と仕事を両立させる「持続可能な働き方」
障害者雇用において最も離職率が高いのは、入社直後の「無理な長時間勤務による体調悪化」です。 超短時間雇用は、本人が心身ともに余裕を持って働けるため、突発的な欠勤が減り、安定した就労が期待できます。「短時間でも確実に、高い精度で仕事を完遂してくれる」という積み重ねが、現場の信頼関係を強固にし、結果として長期的な定着へと繋がります。
2.超短時間雇用を成功させる「ワークシェアリング」の設計図

超短時間雇用を単なる「補助業務の追加」で終わらせないためには、既存の職務を分解し、再構成する「ワークシェアリング」の視点が不可欠です。一人の人間が全ての工程を担うのではなく、時間を切り分けて複数人でパズルを完成させるような設計図を描きます。
業務の切り出し:1日2〜3時間、週3回で完結するタスクの特定方法
「短い時間で何ができるのか」という問いに対し、まずは業務を「フロー」ではなく「パーツ」で捉え直します。切り出しの基準は「完結性」と「定型性」です。
- 完結性: 2〜3時間でその日の作業に一区切りがつくもの(例:午前中に届いた郵便物の開封と仕分け、その日の売上データの入力など)。
- 定型性: 手順がマニュアル化されており、判断に迷う場面が少ないもの。
- 特定方法のコツ: 既存社員の一日のスケジュールを30分単位で書き出し、その中で「本来は自分がやらなくても成立する定型作業」や「細切れに発生して集中力を削いでいる雑務」をピックアップします。
複数名でのシェアリング:1人分のフルタイム枠を、3人の超短時間枠で埋めるメリット
例えば、週40時間のフルタイム枠が一つある場合、そこに一人の社員(1.0カウント)を充てるのではなく、週10〜15時間の短時間社員(0.5カウント)を3名採用するという戦略です。
- リスク分散: 一人が体調不良で欠勤しても、残りの二人がカバーしたり、あるいは業務が止まる範囲を最小限に抑えたりすることができます。
- 集中力の活用: 精神障害などの特性を持つ方にとって、8時間集中し続けるのは困難でも、「3時間だけフルパワーで集中する」ことは得意な場合があります。結果として、フルタイム一人よりも、短時間複数名の方が総処理件数が上回ることも珍しくありません。
連携の仕組み:チャットツールや引き継ぎシートを活用した「非同期」のチーム運用
超短時間雇用では、複数の社員が入れ替わりで勤務するため、対面での引き継ぎ時間を最小限にする「非同期コミュニケーション」が鍵となります。
- 進捗の可視化: 「どこまで終わったか」を共有するスプレッドシートや、タスク管理ツール(Trello、Asanaなど)を導入し、ログインした瞬間に次の作業がわかるようにします。
- 「Q&A」の蓄積: 疑問点とその回答をチャットツール(Slack、Teamsなど)にログとして残し、後から入った人が検索して自己解決できる環境を整えます。
- 物理的な環境整備: 「誰が座っても同じように作業できる」よう、備品の配置をラベリングして固定し、マニュアルを常にデスクの決まった位置に配置するなどの「5S」を徹底します。
3.失敗しないための導入ステップ:募集から定着まで
超短時間雇用は「短い時間だから簡単」というわけではありません。むしろ、限られた時間の中でパフォーマンスを発揮してもらうためには、通常の採用以上に緻密な準備が必要です。募集から定着までの3つのステップを解説します。
ステップ1:ターゲット設定。学生、難病患者、精神障害、高齢障害者……誰に依頼するか
「週10時間から」という条件は、これまで就労を諦めていた多様な層への扉を開きます。切り出した業務の性質に合わせて、どの層にアプローチするかを明確にします。
- 精神障害・発達障害のある方: 「まずは短時間から社会復帰したい」「高い集中力を活かして特定の作業に没頭したい」という層。高い事務処理能力を持つ方も多く、正確性が求められる業務に適しています。
- 難病患者・身体障害のある方: 通院や体調管理のためにフルタイムが困難な方。経験豊富な社会人が、病気によってキャリアの中断を余儀なくされているケースも多く、これまでのスキルを活かせる可能性があります。
- 学生(特別支援学校など)や高齢障害者: 初めての就労経験として、あるいはこれまでの経験を活かした「軽作業」や「清掃」など、体力に合わせた働き方を求める層。
ターゲットを絞ることで、募集媒体の選定や、配慮すべきポイントがより具体的になります。
ステップ2:募集要項の工夫。時間帯の柔軟性と「具体的な作業内容」の明示
超短時間雇用を希望する方にとって、最も重要なのは「自分にできるかどうか」の判断基準が明確であることです。
- 時間帯のカスタマイズ: 「10時〜13時」と固定せず、「10時〜16時の間で、1日3時間から応相談」とするなど、通院やラッシュ回避ができる柔軟性を持たせます。
- 「作業内容」の徹底的な具体化: 「事務補助」という曖昧な表現ではなく、「顧客データのシステム入力(1日約100件)」「郵便物の開封と部署ごとの仕分け」「社内用弁当の注文集計」など、作業工程を分解して明示します。
- 職場環境の開示: 「静かな環境」「マニュアル完備」「チャットでの指示」など、どのような合理的配慮が標準で備わっているかを記載することで、応募のハードルを下げます。
ステップ3:オンボーディング。短時間だからこそ必要な「濃密なコミュニケーション」
滞在時間が短い超短時間社員は、社内の情報から取り残されやすく、孤立感を感じやすいというリスクがあります。
- 最初の1週間が勝負: 「短い時間だから見て覚えて」ではなく、最初の数回は必ず教育担当者がつき、作業の「意味」と「コツ」を伝えます。
- 「非同期」でも「孤独」にしない: チャットツールなどで、本人がいない時間帯のやり取りも見えるようにし、「チームの一員である」という実感を醸成します。
- こまめなフィードバック: 「今日は助かりました」「この入力が正確で、午後の業務がスムーズでした」といったポジティブなフィードバックを、勤務終了ごとにチャット等で送る。この小さな積み重ねが、短時間勤務者の高い定着率を生みます。
4.気になる「コスト」と「リスク」の管理術
超短時間雇用を検討する際、経営層や人事担当者が最も懸念するのは「一人あたりの労働時間が短いのに、採用や教育の手間ばかりかかるのではないか?」という投資対効果(ROI)の点です。ここでは、コストの構造とリスクのコントロール方法を整理します。
0.5カウントのコストパフォーマンス:採用費・教育費・社会保険料のバランス
超短時間雇用(週10時間以上20時間未満)は、フルタイム雇用と比較して、実はコスト面で非常に効率的な場合があります。
- 社会保険料の負担: 現行制度では、週20時間未満の労働者は基本的に厚生年金・健康保険の加入対象外となります(※企業規模等の条件による)。会社側にとっては、法定福利費の負担を抑えつつ雇用率をカウントできるという側面があります。
- 採用・教育費の考え方: 1.0カウント(週20時間以上)を一人採用するのと、0.5カウントを二人採用するのでは、確かに初期の採用・教育コストは二倍近くかかります。しかし、フルタイム人材のミスマッチによる早期離職(再採用コスト)のリスクを考えると、短時間で着実に定着してもらう方が、長期的には低コストで済むケースが多いのです。
- 納付金の節約: 雇用率未達成による「障害者雇用納付金」を支払い続けるコストと、超短時間雇用で0.5カウントずつ積み上げるコストを比較すると、後者の方が現場に実質的な「労働力」が残る分、圧倒的に生産的です。
リスク:管理工数の増大。複数人をマネジメントする現場の負担をどう減らすか
「10人のフルタイムより、20人の短時間スタッフを管理する方が大変だ」というのは現場の本音です。この工数増大を防ぐには、属人的なマネジメントからの脱却が必要です。
- 「セルフマネジメント」を促すツールの活用: 指示待ちの時間を減らすため、TODOリストや進捗管理表を徹底的にデジタル化し、「出勤したらまずこれを見る」という仕組みを構築します。
- マニュアルの動画化・視覚化: 何度も同じ説明をしなくて済むよう、スマートフォンの動画で撮影した作業手順や、写真付きのクイックガイドを用意します。これにより、教育担当者の拘束時間を最小限に抑えます。
- バディ制度の活用: 特定のマネージャーだけでなく、チームの複数人で少しずつサポートを分担することで、「特定の誰かがつきっきりになる」状態を回避します。
法的注意点:雇用保険の加入条件や、将来的な「時間延長」への合意形成
制度上の変更点や、将来的なトラブルを防ぐためのポイントにも注意が必要です。
- 雇用保険の適用拡大: 2028年度より、雇用保険の加入対象が「週20時間以上」から「週10時間以上」へと拡大される予定です。現時点では不要であっても、数年後には保険料負担が発生することを念頭に置いた予算組みが必要です。
- 時間延長への期待値コントロール: 採用時に「将来はフルタイムになれる」と過度な期待を持たせすぎない、あるいは逆に「ずっと短時間のままでいたい」という本人の希望を確認しておくことが重要です。時間の変更は労働条件の大きな変更にあたるため、あらかじめ「どのような条件が整えば時間を延ばす検討をするか」という基準を共有しておくとスムーズです。
5.事例紹介:超短時間雇用で「現場の残業」を20%削減したC社の挑戦

「週10時間や15時間の雇用で、本当に戦力になるのか?」という疑問に対する明確な答えが、ITサービス業を展開するC社の事例にあります。C社は、この超短時間雇用を「数合わせ」ではなく「業務プロセスの再構築」として活用しました。
状況:営業事務が細かな雑務に追われ、本来のサポート業務が停滞していた現場
C社の営業事務部門では、慢性的な長時間労働が課題となっていました。詳細を調査すると、本来の「営業数値の分析」や「複雑な見積書の作成」といったコア業務の合間に、以下のような「細かな雑務」が頻繁に割り込んでいることが判明しました。
- 大量の領収書の整理と経費精算システムへの入力
- 販促チラシの封入と発送作業
- 名刺情報のデータベース登録
これらは一つひとつは単純ですが、集中力を削ぎ、積み重なると数時間のロスを生んでいました。しかし、新しくフルタイム(週40時間)を雇うほどの業務量ではなく、派遣社員を呼ぶにもコストが見合わないという「中途半端な空白」が生じていたのです。
解決策:週15時間の精神障害のある社員2名を、午前・午後のシフトで採用
C社は、この「空白の雑務」をすべて切り出し、週15時間(1日3時間×週5日)で働く精神障害のある社員2名を新規採用しました。
- シフトの工夫: 1名は「10:00〜13:00」、もう1名は「14:00〜17:00」というシフトを組みました。午前・午後に一人ずつ配置することで、営業事務チームからの「突発的な依頼」にも、どちらかが必ず対応できる体制を整えました。
- 徹底したマニュアル化: 精神障害の特性(手順の明確化による安心感)を考慮し、すべての雑務をフローチャート化。作業の「開始」と「終了」をチャットで報告するだけのシンプルなルールを運用しました。
結果:定型業務が完全に切り離され、既存社員の満足度と雇用率を同時に達成
導入から3ヶ月後、C社の現場には劇的な変化が現れました。
- 残業代の削減: 営業事務社員の残業時間が平均20%減少。雑務から解放されたことでコア業務の密度が上がり、定時退社が当たり前の文化になりました。
- ミスの減少: 「ながら作業」がなくなったことで、複雑な見積書の作成ミスも激減しました。
- 雇用率の達成: 0.5カウント×2名を採用したことで、未達成だった法定雇用率をクリア。納付金の負担も解消されました。
既存社員からは「自分たちがやらなくていい仕事を、彼らがプロフェッショナルとして正確にこなしてくれるので、本当に助かっている」という感謝の声が上がり、障害者雇用に対するネガティブなイメージは完全に払拭されました。
6.まとめ|2025年以降、「働く」はもっと細分化される
2024年の法改正から始まった「超短時間雇用」の波は、2025年、2026年と進むにつれて、人手不足解消のスタンダードな手法となっていくでしょう。
総括:フルタイム至上主義からの脱却が、企業のレジリエンス(復元力)を高める
「一人の社員に、一つの職種のすべてを任せる」というフルタイム至上主義は、人材確保が困難な現代において、非常にリスクの高い戦略です。業務を細分化し、超短時間雇用という「小さなピース」を組み合わせて組織を構成することは、誰かが欠けたときの影響を最小限に抑え、多様な人材の力を引き出す、柔軟で強靭な(レジリエンスのある)組織作りそのものです。
結びに:短時間から始める、これからの時代の障害者雇用
超短時間雇用は、企業にとっては「リスクの低い投資」であり、障害のある方にとっては「社会と繋がる最初の一歩」です。
まずは週10時間、1日2時間から。現場の「困りごと」を誰かの「活躍の場」に変えていく。そんな小さな一歩が、人手不足という難題を解決し、企業の未来を切り拓く大きな力になるはずです。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。






