2025/10/05
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見えない障害と向き合う|「サボり」ではないSOSと周囲の適切な対応

はじめに|外見で判断できない「見えない壁」の正体

精神障害や難病を抱える方は、「つらいのに、外見は元気に見えるから理解されない」という深い苦悩を抱えています。そして、周囲もまた「どこまで手伝っていいか分からない」「声をかけたら失礼になるのでは」という戸惑いを感じています。

この「見えない障害」への支援は、個人の善意だけでは成立しません。「知識」と「適切なコミュニケーション」が鍵です。

周囲の誤解を解き、本人にとって本当に必要な「そっとしておく配慮」と「声をかける配慮」の使い分けを解説することで、誰もが働きやすい職場を創るヒントを提供します。


「見えない障害」のメカニズムと、誤解が生まれる背景

症状の波と「サボり」と誤解されるメカニズム

精神障害(うつ病、適応障害など)や難病(SLE、クローン病など)は、症状に「波」があり、昨日と今日で体調が劇的に違うのが最大の特徴です。

  • 内容: 症状の波は、個人の意志とは無関係に、体調や環境によって引き起こされる医学的な事実です。元気な日がある一方で、急な強い倦怠感や集中力の低下に見舞われる日があるため、「やる気を出せばできるはず」という無理解や偏見が生じやすいのが、この「見えない障害」の最大の課題です。この症状の変動こそが、「怠け」ではないことを示す明確なサインです。

外見に現れない「見えない疲労」のリアル

  • 内容: 強い倦怠感、激しい疲労感、集中力の欠如、思考力の低下などは、外見からは判断できない医学的な根拠がある疲労です。例えば、SLEによる慢性的な炎症や、うつ病による脳内の神経伝達物質の異常が、身体的なエネルギーを消耗させています。
  • 課題: 本人が配慮を求めても、「怠けているのでは」と疑われ、自己肯定感が低下する原因となります。この深刻な疲労が周囲にSOSとして伝わりにくいため、本人が「迷惑をかけてはいけない」と一人で無理をしてしまい、結果的に症状を悪化させるという悪循環を生みます。

SOSを見逃さない!「見えない疲労」の具体的なサイン

忙しい現場でこそ、日々の小さな変化を見逃さないことが、チームを守るリスクマネジメントとなります。

行動の変化に気づくチェックリスト(周囲向け)

同僚や上司は、以下の小さな変化を「業務遂行能力のわずかな低下」を示すSOSのサインとして捉えるべきです。

  • サイン1:業務上の変化:
    • 普段はしないミス(誤字脱字、計算間違い、データ入力のミスなど)が増える。
    • 報連相が滞る、出勤時間がギリギリになる(遅刻が増える前の兆候)
    • タスクの優先順位付けが困難になるなど、処理能力の低下が見られます。
  • サイン2:コミュニケーションの変化: これは、精神的なエネルギーの枯渇を示す非言語的な変化です。
    • 会議での発言が減る、雑談を避ける、目線が合わない、口数が少なくなる。
    • 休憩時間に一人で過ごすことが増える笑顔が減るといった変化は、精神的なエネルギーが枯渇し始めているサインかもしれません。

本人が実践する「セルフ・モニタリング」の重要性(本人向け)

自分の体調を客観的に記録する「セルフ・モニタリング」は、症状の波を乗りこなすための、あなた自身の最強の羅針盤です。

  • 内容: これは、自分の体調を感情論ではなく客観的に記録し、「調子の良い日」と「悪い日」のパターンを知るための戦略です。単なる体温や気分だけでなく、天気、睡眠時間、その日の業務内容(特にマルチタスクの量)、人間関係の負荷といった外部要因と体調を関連づけて記録します。
  • 活用の効果: この記録は、症状の悪化を防ぐ「予防薬」になります。
    1. トリガーの特定: データを見返すことで、「睡眠不足の後に必ず集中力が落ちる」「雨の日の午前中は特に体調が悪い」など、「症状のトリガー(引き金)」を科学的に特定できます。
    2. 予防的な行動: 体調の波が来る前に、「今日は無理せず休憩を多めに取る」「業務量を調整してもらう」「在宅勤務に切り替える」など、体調が悪化する前の予防的な行動が可能になります。
  • これは、症状の悪化を防ぎ、長期的な安定就労を可能にするための戦略的な自己管理術です。

適切なサポートの鍵|「そっとする」と「声をかける」の使い分け術

支援を成功させるには、状況に応じた適切なコミュニケーションが不可欠です。それは、相手の状態を「察する」マナーから始まります。

術1:「そっとしておく」配慮が求められる時

これは、社員の「集中力の防御壁」を築き、疲労の蓄積を防ぐための配慮です。

  • 状況: 集中力が求められる作業中、または本人が休息を求めているサインを出している(例:イヤホンをしている、席を外している)時。頻繁に話しかけたり、無意味な雑談をしたりすることを控えましょう。
  • 具体的な行動:
    • 情報の静音化: 業務の指示は口頭ではなくチャットに残すことを徹底します。
    • 環境の整備: ノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可したり、光や人の動きが少ない壁際の席を提供したりするなど、外部刺激を減らす環境を整えましょう。

術2:「声をかける」べき配慮が求められる時

これは、「孤立を防ぎ、問題の深刻化を食い止める」ための、チームのリスクマネジメントです。

  • 状況: 業務のミスが続いている、進捗報告が滞っている、あるいは休憩時間に一人でいるなど、孤立していると感じられる時が「声をかけるべきサイン」です。
  • 具体的な声かけ: 感情的な詮索(例:「どうしたの?無理してる?」)は避け、仕事上の協力としてアプローチしましょう。
    • アプローチ例: 「お疲れ様、今日のタスク、何か手伝えることはある?」「期限が近いタスクを一緒に確認しない?」といった、具体的な仕事の協力を申し出るアプローチが、相手に安心感を与え、問題を共有しやすくします。

まとめ|共感と知識が、誰もが働きやすい未来を創る

「見えない障害」への適切な対応は、個人の善意ではありません。それは、「知識」と「仕組み」に基づいた、チーム全体の生産性を高めるための戦略です。

同僚・上司の皆さまへ

「何をすればいいか分からない」という戸惑いは、今日で終わりにしましょう。

  • 「そっとする」環境整備: 業務の指示をチャットに残す、静かな環境を提供するなど、集中力の防御壁を築いてください。
  • 「声をかける」勇気: 感情的な詮索を避け、「今日のタスク、手伝えることはある?」というプロの視点で声をかけることが、問題の早期発見につながります。

障害を持つご本人へ

あなたの苦しみは「甘え」ではなく、環境のSOSです。あなたの「困りごとリスト」は、支援を求める際の最も強力な武器です。適切な支援と、自分らしい働き方を見つけるための「羅針盤」として活用してください。

共感と知識が、見えない壁を壊し、誰もが安心して能力を発揮できる未来を創ります。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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