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「見えない難病」SLEと働く|女性に多い原因不明の病気と、仕事・治療の両立戦略

この記事の内容
1. はじめに|「見えない難病」SLEがキャリアにもたらす壁

問題提起:外見と内面のギャップが離職を招く
課題:つらさが外見から分かりにくい難しさ
仕事において、周囲からの理解やサポートは長期就労に不可欠です。しかし、SLE(全身性エリテマトーデス)という病気は、この理解を得るうえで大きな壁に直面します。SLEの症状は、倦怠感や関節の痛み、微熱など、外見からはその「つらさ」が非常に分かりにくいのが特徴です。
元気そうに見えても、内面では強い疲労や痛みに耐えているという「外見と内面のギャップ」が、職場での誤解を生みやすいのです。「サボっているのではないか」「単なる怠けではないか」といった誤った認識から、必要な時に休息を取りづらくなり、結果として症状が悪化し、離職につながりやすいという深刻な現状があります。
記事の結論:過労を避ける合理的配慮こそが鍵
SLEは、紫外線やストレス、過労などによって症状が悪化したり、再燃したりするリスクがあります。そのため、仕事と治療を両立し、長期的なキャリアを維持するためには、体調を崩す前のリスクマネジメントが最も重要となります。
本記事の結論は、SLEの特性、特に「体調の波」と「疲労の蓄積」を正しく理解し、その上で「過労を避けるための合理的配慮」を仕組み化することこそが、長期就労の鍵となるということです。これは、単なる優遇ではなく、病状の悪化を防ぎ、能力を安定して発揮させるための戦略的な環境整備なのです。
SLE(全身性エリテマトーデス)の基本情報
全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)は、膠原病の一種に分類される病気です。
- 病気の性質: 免疫システムが自分自身の細胞や組織を攻撃してしまう自己免疫疾患です。皮膚、関節、腎臓、肺、神経など全身のさまざまな臓器に炎症や障害を引き起こします。
- 難病指定: SLEは、原因が不明で治療が難しい病気として、国の指定難病とされています。
- 発症時期: 後天性であり、誰もが発症する可能性があります。特に、20代から40代の女性に圧倒的に多く発症するという傾向があります。
2. SLEの基礎知識:誰に、なぜ起こるのか?
SLEの主な原因と発症傾向:女性のキャリアへの影響
SLE(全身性エリテマトーデス)は、後天性の病気であり、原因は未だに完全には解明されていません。しかし、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
- 複合的な関与: 遺伝的要因(病気になりやすい体質)と、環境要因(紫外線、感染症、大きなストレス、特定の薬剤など)が複合的に関与することで、免疫の異常が引き起こされると考えられています。
- 性別・年齢: SLEは、20代~40代の女性に圧倒的に多く発症する(約9割)という現実があります。この年代は、女性がキャリア形成や出産、育児といったライフイベントを迎える重要な時期と重なるため、SLEの発症は女性のキャリアプランや仕事の継続性に深刻な影響を及ぼします。
症状の多様性:「全身性」と「体調の波」が意味するもの
SLEが診断される際に重要なのは、その名の通り「全身性(Systemic)」であるという点です。
- 全身に及ぶ症状: 症状は、特定の部位に留まらず、全身の臓器(皮膚、関節、腎臓、中枢神経、心臓など)に及びます。代表的な症状としては、顔面に蝶が羽を広げたような赤い発疹(蝶形紅斑)や、関節炎、発熱などが挙げられます。
- 最大の特徴:「症状に波がある」: SLEの就労への影響を考える上で、これが最も重要な特徴です。
- 良い日と悪い日の差: 症状が落ち着いている「寛解期」には、健常者と変わらない生活が送れますが、病状が活動的になる「再燃期」には、強い倦怠感、高熱、関節の痛みなどが激しく現れます。
- 業務の見通しの難しさ: この体調の波が激しいことで、業務の見通しやスケジュール管理が難しくなり、職場での安定したパフォーマンス維持を困難にします。
治療の現状:ステロイド治療と副作用
SLEの治療は、異常な免疫活動を抑えることが中心となります。
- 治療の中心: ステロイド(副腎皮質ホルモン薬)や免疫抑制剤といった薬物が用いられます。これらの薬によって病状をコントロールし、臓器の障害を最小限に抑えることを目指します。
- 副作用の影響: これらの治療薬、特にステロイドは、病状を抑える効果が高い一方で、副作用が避けられない場合があります。
- 外見の変化: 長期服用により、顔貌の変化(ムーンフェイスなど)や体重増加などが生じ、これが当事者に精神的な負担をもたらし、出勤や対人コミュニケーションへの意欲に影響を与えることがあります。
- 感染症リスク: 免疫抑制作用があるため、風邪などの感染症リスクが高まります。体調管理に細心の注意が必要となり、結果として通院や急な休みが増える要因となります。
治療を継続し、症状の悪化を防ぎながら仕事と両立していくためには、副作用や体調の波を前提とした柔軟な働き方が不可欠です。
3. 就労への影響:「体調の波」と「疲労」のリアル(当事者インタビュー)

当事者の声:仕事中に感じる「見えない疲労」と痛み
SLEを持つ社員が就労を継続する上で、最も大きな障壁となるのは、周囲からは理解されにくい「見えない疲労」です。
Aさんの声:
「外見は元気に見えるので、周囲には病気のつらさが全く伝わりません。でも、内側では強い倦怠感(ファティーグ)や関節の痛み、微熱が常にあります。普通の疲れなら睡眠で回復しますが、SLEによるファティーグは休息だけでは回復しにくいのが特徴です。無理に出勤すると、その後の数日間、症状が重くなって寝込んでしまうことも珍しくありません。」
症状が活動的になる悪い日には、業務のパフォーマンスに深刻な影響が出ます。具体的には、PC作業の集中力、タイピング速度、新しいことを記憶する力など、すべての認知機能が低下する現実があります。このパフォーマンスの不安定さが、職場での評価や自己肯定感に影響を及ぼします。
職場で生まれる誤解とSOSのサイン
SLEの「見えない困難」は、職場で深刻な誤解を生み、結果的に症状の悪化を招きます。
誤解の構造
SLEを持つ社員は、「今日は調子が悪い」と正直に言い出しにくい誤解の構造の中にいます。
- 体調不良を隠して働き続けた結果、症状が悪化した経験を持つ方は少なくありません。
- 「サボり」や「怠け」と誤解されることを恐れるあまり、休息を求めるSOSを出せずに無理をしてしまう心理が働きます。この無理がストレスとなり、SLEの再燃リスクを高める悪循環に陥ります。
SOSのサイン
企業側が社員の異変に気づき、早期に介入するためには、病状悪化の予兆(SOSのサイン)を見逃さないことが重要です。具体的なサインとしては、以下の変化が挙げられます。
- 欠勤や遅刻の増加(特に午前中の出勤が不安定になる)
- 残業時間の急増(定時内に業務を終えられなくなる)
- 集中力の低下によるミスや報告漏れの増加
これらのサインは、「単なる勤怠不良」ではなく、病状が活動的になり、業務負荷が許容範囲を超えていることを示す重要な警告です。
専門職(難病指定医)との連携の重要性
社員の「見えない困難」に対して、企業が適切な合理的配慮を講じるためには、客観的な情報の裏付けが不可欠です。
- 意見書の活用: 企業が社員の症状を客観的に把握し、適切な業務調整や環境整備を行うために、難病指定医の診断書や意見書を活用することが重要です。
- 意見書に含めるべき情報: 意見書には、病状の活動性、予測される体調の波の頻度、「疲労の蓄積を避けるための労働時間の制限(残業の可否)」など、就労継続のために必須となる具体的な情報を含めてもらうことが望ましいです。
専門医との連携を通じて、企業は「個人の訴え」ではなく「医学的な根拠」に基づいて配慮を決定できるようになり、現場の誤解を防ぎながら、安全配慮義務を適切に果たすことが可能になります。
4. 企業に求める合理的配慮:リスクマネジメントとしての対応
SLEを持つ社員が長期的に安定して就労するためには、企業側のリスクマネジメントとして、症状の悪化を防ぐための合理的配慮が不可欠です。この配慮は、単なる優遇ではなく、能力を安定して発揮させるための戦略的な環境整備と捉えるべきです。
必須の配慮1:疲労を蓄積させない「時間調整と休息」
SLEの症状悪化の最大のトリガーは、過労とストレスです。そのため、疲労を蓄積させないための時間に関する配慮が最も重要となります。
- 過労の回避(残業の制限): 症状の悪化を防ぐため、残業は原則禁止とし、業務量自体を体力が許容できる範囲に見直す必要があります。業務が一時的に増えた場合も、残業を命じるのではなく、業務の優先順位を調整するか、他の社員へ振り分けるなどの対応が必要です。
- 通勤ストレスの回避: SLEでは、朝の体調が不安定になることが多いため、フレックスタイム制度や時差出勤を導入し、満員電車を避けることで、通勤による見えない疲労を最小限に抑えます。
- 休息環境の確保: 強い倦怠感(ファティーグ)は予期せず訪れます。これに備え、仮眠スペース(横になれる場所)の確保と、それを遠慮なく利用できるルール化が求められます。休憩時間とは別に、体調維持のための短時間の休息を許可することが、午後の業務集中力の維持に繋がります。
必須の配慮2:「環境調整」と「治療との両立サポート」
病状をコントロールし、安心して治療を続けられる環境を整えることは、長期定着の土台となります。
- 光線過敏症への対応: SLEの症状の一つに光線過敏症があります。紫外線を避けるため、窓際の席を避け、可能であれば遮光フィルムやUVカットフィルムを設置するなど、職場環境を調整します。
- 治療のための休暇: 治療や定期的な検査のために通院は不可欠です。特別休暇(有給の傷病休暇など)を年次有給休暇とは別に提供することや、時間単位有給を柔軟に利用できる仕組みは、治療とキャリアの両立を力強くサポートします。
必須の配慮3:業務内容の調整(ジョブ・カービング)
体調の波が大きい日に備え、業務内容も柔軟に調整できる仕組みが必要です。
- マルチタスクの制限と定型業務への集中: 症状の波が大きい日や、集中力が低下している可能性がある日に備え、突発的な業務や、高い判断を要するマルチタスクを制限します。
- ジョブ・カービングの導入: 安定して遂行できる定型業務を切り出し、それに集中させる「ジョブ・カービング」(業務の細分化と再設計)を導入します。これにより、体調が不安定な時でも一定の生産性を確保し、能力のムラを最小限に抑えることができます。
5. 障害者手帳とキャリアの選択肢

SLEと障害者手帳の関連性
全身性エリテマトーデス(SLE)は指定難病ですが、SLEの診断を受けただけでは、障害者手帳の交付対象にはなりません。手帳の交付は、病気そのものではなく、病気によって生じた機能障害の程度に基づいて判断されます。
- 身体障害者手帳の交付対象: SLEが進行し、臓器の機能低下(例:腎炎による腎機能障害、肺線維症による呼吸機能障害)や、関節の変形・運動機能の障害が重度に進んだ場合、その障害の部位や程度に応じて身体障害者手帳の交付対象となる可能性があります。特に、人工関節置換術を受けた場合や、特定の内部機能に永続的な障害が残った場合に該当します。
- 精神障害者保健福祉手帳の可能性: ステロイドなどの治療や病状の活動性により、うつ症状や不安症状、認知機能障害などが重度となり、日常生活や社会生活に大きな制限が生じている場合、精神障害者保健福祉手帳の交付対象となり得る可能性があります。
手帳を取得することで、障害者雇用枠での就職が可能となり、企業からより法的に保障された合理的配慮を受けやすくなるという大きなメリットがあります。
難病患者としての「就労支援」の活用
障害者手帳の有無にかかわらず、SLEのような難病を抱える方は、難病患者特有の就労支援サービスを活用できます。
- 難病患者就職サポーター: ハローワークに配置されている専門の相談員です。難病の特性を理解し、病状に配慮した求人の紹介、就職に関する相談、企業との橋渡し役を担ってくれます。
- 地域障害者職業センター: 難病患者向けに、職業評価や職業リハビリテーションプログラムを提供しています。病状の波を考慮した働き方や、職場復帰支援プログラム(リワーク)を通じて、安定就労に向けたスキルや体力回復をサポートします。
これらの支援機関を積極的に活用することで、病状に合わせた最適な就職活動戦略を立てることができます。
安定就労のための自己管理戦略(セルフモニタリング)
企業に「長く安心して働ける人材」だと信頼してもらうには、社員自身による主体的な自己管理(セルフモニタリング)が不可欠です。
- 症状の波の記録(セルフモニタリング): 自身の体調の良い日、悪い日、症状の内容、そして業務への影響を日々記録しましょう。この具体的な記録を基に、体調が悪化する予兆(例:微熱が続く、疲労感が休息で回復しない)を把握し、悪化する前に上司に相談することが極めて重要です。
- 主体的な情報開示と信頼獲得: 企業は「いつ体調を崩すかわからない」という不確実性を最も恐れます。服薬時間や通院のスケジュール、そして体調管理を徹底している姿勢を積極的に示すことで、企業からの信頼を獲得し、必要な配慮を円滑に引き出すことができます。
- 配慮の言語化: 「疲れている」という抽象的な表現ではなく、「午後からタイピング速度が30%低下するため、午前中に集中力を要するデータ入力を終わらせたい」など、具体的な業務への影響と対策を言語化して伝えることが、合理的配慮を勝ち取るための鍵となります。
6. まとめ|SLEへの理解が、企業の信頼を高める
記事の要約:理解があれば長期就労は可能
全身性エリテマトーデス(SLE)のような「見えない難病」を持つ社員の長期就労は、企業側の意識と仕組みの変革によって十分に実現可能です。
本記事を通じて再確認したように、SLEは「体調の波」と、外見からは判断できない「見えない疲労(ファティーグ)」が最大の特徴です。この不安定さに対する適切な「時間」と「環境」の配慮と理解さえあれば、長期就労は十分に可能です。
過労を避けること(残業制限、柔軟な時間調整)と、休息できる環境(仮眠スペースなど)を提供することは、単なる福祉的な対応ではありません。それは、治療とキャリアの両立を支援し、社員の企業への信頼度(エンゲージメント)を高める、最も重要なリスクマネジメントなのです。
読者へのメッセージ:共感と投資が優秀な人材を惹きつける
企業の経営層や人事担当者の皆様へ、SLEのような難病を持つ社員への配慮は、未来への賢明な投資です。
企業側は、「見えない困難」を理解し、柔軟な働き方(フレックス、在宅勤務、短時間勤務など)を提案することが、優秀な女性人材(SLEは20~40代の女性に多いため)の確保と定着につながる最も賢明な投資となります。
難病を持つ社員への配慮は、企業の社会的な信頼(SRE:Social Responsibility and Ethics)を高める効果もあります。多様な社員の困難に寄り添い、サポートする企業文化は、他の社員や外部からも高く評価され、結果的に企業ブランディングと競争力を強化する鍵となるのです。共感と仕組みへの投資こそが、企業の持続可能な成長を支えます。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







